第31話:歪曲知者、レアングス
レナは一瞬、わが目を疑った。
そして、手で目をこすると、
もう一度、ディスプレイに視線を送る。
<加減乗除>
1+1=?
間違いない。
先ほど見た時と同じ問題が、
そこにはある。
「な、なあ、
これって……」
「何かの引っかけ問題……、
とは考えられないわよね……」
レナ同様、プログとフェイティも、
映し出された問題に、目を丸くさせている。
「…………」
スカルドは声こそ発しなかったものの、
やはり想定外だったのだろう、
いつもよりも大きく目を見開きながら、
ディスプレイを凝視している。
1問目、2問目と難解な問題を、
目の当たりにしてきた4人は、
3問目も当然、難解な問題を予想していた。
……が、フタを開けてみれば、この問題である。
「とりあえず……、
2を押しちゃって大丈夫かしら?
アレコレ考えても仕方ないし」
「……ああ。
かまわねえよ」
困惑の空間を打ち破るかのように話すレナに、
スカルドが小さくうなずく。
どこをどう見ても、引っかけの要素はない。
レナは静かに、
しかし、やや緊張した様子で、
画面下の2のボタンに触れる。
カチッ。
レナがドアノブを回すと、扉は開いた。
答えは2で合っていた。
正解だった。
そう、正解だったのだが、
どこか腑に落ちない。
「ふだんも出るの? あんなサービス問題みたいなの」
「さあな。
少なくとも、俺は一度も見たことはねぇな」
「スカルドくんも見たことないの?」
「ああ。
まあ、問題は数千題あると言われているからな、
確かにああいった問題があっても、
おかしくはねぇが……」
「ま、こっちとしては、
頭を使わずに済んだんだ、
それはそれで良しとしようぜ」
「何言ってんのよ、あんたは最初から、
頭使ってなかったじゃないのよ」
「なっ、ちょっ!
俺だってコレでも一応は
「……うっせぇぞ。
ちょっとは静かにしろ」
「あらあら、楽しそうねぇ。
……でもスカルドくんの言う通りね、
次の階は学長の部屋ですし、
ここからはお口チャックね」
腑に落ちない問題について話していた4人だったが、
今が10階であることを再確認して、
その会話を止める。
「……よし、行くぞ。
お前ら、注意だけは怠るなよ」
落ちついたところで、スカルドが先陣を切り、
11階、学長のいる部屋への階段を、
上がり始める。
続いてフェイティ、プログ、最後にレナ。
4人ともわずかな足音もたてないよう、
慎重に、慎重に登っていく。
(クソ学長……。
これで……父上の……)
(ひとまず、学長の目的を聞かないといけないわね。
すんなり話してくれればいけど……)
(いざとなったら、
学長とやり合わないといけないだろうな。
学長1人なら何とかなるが、
警備員が何人もいたら、厄介だな)
(てか、学長の部屋に行けちゃう階段なのに、
あんなに簡単な問題を入れてていいのかしら?
確率の問題もあるでしょうけどあれじゃあ、
誰でも学長の部屋に行けちゃうじゃない)
それぞれが、それぞれの考えを巡らせながら、
11階に近づいていく。
程なくして、4人の目の前に、
鉄製の頑丈そうな扉が、姿を現す。
どうやら、ここが今回の最終目的地、
王立魔術専門学校学長の部屋のようだ。
扉が頑丈だからなのか、
はたまた学長が眠りについているからなのか、
扉の向こうからは、
何の音も聞こえてこなければ、
気配を感じることもできない。
(てか、どうやって開けるんだよ?
このドア、鍵のツマミがねえぞ)
必死に声を殺し、
プログがドアノブの部分を指さす。
5階と10階の階段出口のドアには、
ドアノブの所に、
ロック解除のツマミがあったのだが、
この扉には、そのツマミがない。
向こう側から鍵がロックされているようで、
こちら側から中に入ることができない。
「焦んなよ。
ここの鍵は俺が持
ゴゴゴゴゴゴゴ…………
「……ッ!」
突然の出来事に、
4人は慌てて身構える。
目の前の扉が開き始めたのだ。
スカルドが持っていた鍵を使ったわけでも、
強行突破をしたわけでもない。
勝手に扉が開いたのだ。
まるで4人を招き入れるかのように、
ゆっくりと、ドアが開いていく。
4人は直感的に理解していた。
扉を開けたのはおそらく学長であると。
そして、この行為がワナであると。
ドアが完全に開いたが、
4人は身構えたまま、動かない。
部屋の内部を少しだけ窺い知ることはできるが、
部屋に電気は点いていないため、
構造までは把握することができない。
息を殺し、存在をも殺すように、
4人は身構え続けるが、ドアが開いて以降、
薄暗い内部からの動きはない。
息を飲むことも許されない、
極限の緊張が、4人に容赦なく襲いかかる。
だが相変わらず、部屋の中からの反応はない。
ザッ。
先に動いたのはレナ達だった。
これ以上の探り合いは無意味――。
そう判断したスカルドが一歩、
部屋の中へと足を踏み入れたのだった。
その一歩を皮切りに、
まるで示し合わせていたかのように、
他の3人もゆっくりと部屋へ入り込む。
そして、4人は部屋中グルリと視線を送
「なッ……!!」
「オイオイ、何だこりゃ!!」
「これは……ッ!!」
レナとプログ、そしてフェイティが、
その(・・)光景を目の当たりにした瞬間、
言葉を失う。
王立魔術専門学校の最上階、
11階は1つのフロア、
“学長室”しかない、巨大な空間である。
部屋内は絢爛な装飾が施されていた。
学長が学内を監視するためなのか、
20数台のモニターが設置されている。
だが、レナ達が愕然としたのは、
装飾でも、モニターの数でもない。
部屋の壁に並べられた、高さ3メートルはある、
巨大な透明のカプセルが数台。
カプセル内を満たす液体が、
コポコポ……と音を立てている。
そのカプセルにそれぞれ、
なんと人が入っているではないか!
1台のカプセルに1人、
まるで眠っているかのように、
安らかな表情で閉じ込められているのだ。
その数、ざっと5~6名。
どうやら、この学校の学生のようだ。
レナはカプセルにおそるおそる近づき、
やや震える手でカプセルをコンコン、
とノックするように叩く。
だが、カプセル内の人からの反応はない。
「やれやれ、どこのネズミが、
学校内に紛れ込んだかと思ったら、
まさか君だったとはね、スカルド・ラウン君」
部屋中に響き聞き慣れない野太い男の声に、
レナを始め、4人は態勢を急いで整えながら、
声の聞こえた窓の方へ目を向ける。
そこには、夜の闇に溶け込んでしまうような、
漆黒のスーツに身を包む、
やや太めの体型をした男が、
窓から見えるセカルタの夜の街並みを眺めていた。
「残念だったわね。
ネズミはネズミでも、
頭が使えるネズミなのよ」
先ほどまでは、
やや動揺を隠せなかったレナだったが、
目の前に佇む敵を前に、
いつものレナに戻る。
その男は一切動じることなく、
引き続き窓の外へと視線を向けている。
レアングス・フィアーム。
そう、彼こそがこの王立魔術専門学校の学長である。
「貴様、いつから気付いていた?
セキュリティシステムは俺が落としたハズだが」
スカルドが、ただでさえ低い声色を、
さらに低くしながら、
レアングスを鋭く睨みつける。
20数台のモニターは真っ暗で、
何も映し出してはいない。
スカルドには一つ、
解せない部分があった。
セキュリティシステムは自らの手で切った。
途中の問題も、すべて一発で正解した。
唯一遭遇した警備員も、
それほど大きな騒ぎには発展させていない。
なのにレアングスは自分たちのことを、
待ち構えていた。
なぜ?
校長室にある掛け時計は、
12時半を示している。
12時半と言えば、いまや子どもでも、
普通に起きているような時間ではある。
それを考えると、レアングスが起きていても、
確かに何ら不思議ではない。
だが、それならなぜ、
先ほどのドアは勝手に開いたのだろうか?
単純にレアングスが起きていただけ、では、
この部分を説明するには不十分だ。
4人が11階のドアに辿り着く前までに、
レアングスは何かしらの方法で、
4人が学校内に潜入していることを知っていないと、
辻褄が合わない。
スカルドが狙っていたのは奇襲、
つまり不意打ちである。
場合によっては、
その根底が崩れてしまう、
それを危惧していた。
「やはりシステムを切っていたのは君でしたか。
……しかしいけませんね、君ほどの頭脳ならば、
私がいつから気付いていたかくらい、
すぐにわからないと」
レアングスは不敵な笑みを浮かべながら、
こちらを振り返る。
「貴様の下衆な考えなぞ、
知りたくもねえ。
どの学生が落ちこぼれるか知りたがる、
そんな下衆な貴様のことなんてな」
これが学長とその生徒の会話なのだろうか、
スカルドは相変わらず、
冷徹な視線を送り続ける。
「下衆な考えとは心外ですね。
それに、どの学生が簡単な問題を間違え、
どの学生が難解な問題を正解することを把握して、
学生の正しい力を見極めるのは、
学長である私の使命だと思いますが?」
身構えながら臨戦態勢を築く4人とは対照的に、
スーツのポケットに手をつっこみ、
悠然とレアングスは構えている。
その言葉を聞き、
スカルドはしばらく言葉を発さずにいたが、
「なるほどな、俺が迂闊だったか」
その一言だけ呟くと、ふと身構えていた姿勢を解く。
「え? オイ、どういうことだよ?」
スカルドだけでなく、
他の3人も疑問に思っていたにも関わらず、
自己完結してしまったスカルドの様子を横目に見つつ、
プログは困惑の表情を浮かべる。
「もしかして2問目にあったEX問題ですっけ?
あの問題だけは正解した場合に、
情報がレアングスさんに届く仕組みだったのかしら?」
今まで言葉を発していなかったフェイティが、
スカルドの代わり、とばかりに声をあげる。
「ええ、その通りですよ。
学長たるもの、どの学生が優秀なのかを、
知っておく必要がありますからね」
「……その優秀な学生を集めて、
こんなクソみたいなことをしているってのか?」
淡々と答えるレアングスに吐き捨てながら、
スカルドはチラリと、
カプセルの方へ視線を向ける。
カプセル内の少年少女は相変わらず、
目を閉じて静かに液体の中で揺れている。
「とんでもない。
せっかくの優秀な学生を、
こんな粗末な扱いにはしませんよ。
スカルド君、
それは君が一番知っているでしょう?」
「オイ、粗末な扱いとかやめろよ、
人をモノみたいに言うんじゃねえよ」
レアングスから発せられる言葉に、
怒りを放つ冷酷な目つきをしながら、
プログが低い声で噛みつく。
今の言葉が腹立たしかったようだ。
「ならばその優秀な学生を、
ファースターにでも送り込むつもりか?
かつて貴様が、俺の父上をそうしたように」
スカルドは、静かに言う。
それは、一番聞きたかった、
スカルドがレアングスに一番聞きたかった質問だった。
「……やはり知っていましたか。
そうです、かつて君の父、
ジニー・ラウンのように、
優秀な学生はファースターへ送り込むのですよ!
ファースターの繁栄のためにね、ハーッハッハ!!」
まるで自己陶酔するかのように、
大きく両手を広げると、
高らかに笑い声をあげる。
広い校長室内に、レアングスの高い、
不気味な笑い声がこだまする。
「ってことは、
ここ最近起こっていた行方不明事件ってのは……」
「ああそうさ、
すべて私が引き起こしていることだ」
プログの言葉に、こともなげにレアングスが言い放つ。
「ファースター繁栄って……。
あなたはセカルタの人間でしょう!?
どうしてスカルドくんのお父様をファースターに……」
「セカルタの人間だって?
冗談を言ってもらっては困りますね。
私は
「ファースターの、
いえ、シャックの人間、
とでも言いたいのかしら?」
レナの言葉が、レアングスの言葉をかき消す。
気が付くと、レナも先ほどまでの臨戦態勢を解き、
コツコツと前へ出ていた。
「まさかとは思っていたけど、どうやらマジみたいね。
列車専門とはいえ、
シャックも謎の行方不明事件を起こしている。
いつからシャックの一員なのかは知らないけど、
今やシャックの根城と化している、
ファースターに加担しようとしている時点で、
あんたがシャックの人間、
てのは、容易に想像できるわね」
「お前……名は?」
「レナよ」
「そうか、お前がレナか。
クライド様から名前は聞いている。
なるほど、確かにネズミはネズミでも、
考えるネズミだったな」
レアングスはフッと息をつきながら小さく笑う。
正体を見破られたにも関わらず、
その様子からは、なぜか余裕すら感じられる。
あたかも、想定内であったかのように。
「テメエもシャックだったのか。
ちょうどいい、クライドはどこに行きやがった!」
「あなたがプログですか。
いけませんね、
この場に知性のない者は不要ですよ」
「なんだと……!」
「待って、プログ。
……優秀な学生じゃないとすると、
ここの学生さん達は何?
こんなことをして、どういうつもりなの?」
今にも飛びかかろうとするプログを、
手で制しながら、
フェイティはカプセルの方を指さす。
ファースターに連れて行くための、
優秀な学生ではないとするならば、
今ここに閉じ込められている、5~6名の学生は、
一体何なのか?
「ああ、彼らは……実験体ですよ」
「実験体……だと?」
嫌な予感を覚えたプログは、眉をひそめる。
「そうです。
優秀な学生とは真逆な存在、
残念ながら出来の悪い学生には、
我々の進める研究の実験体になってもらっています」
「研究だと?
テメエ、何のけんき
「研究の実験って……。
あなた、人の命を何だと思っているの!?」
嫌な予感そのままの返答がレアングスから発せられ、
思わずフェイティが大きな声をあげる。
その目はフェイティにしては珍しく、
憤怒の意思を宿った、強い眼差しだ。
あまりの声の大きさに、
理由を聞き出そうとしたプログの声が、
レアングスの耳に届くことはなかった。
「何をおっしゃっているんですか?
私は落ちこぼれの学生達に、
命の意味を授けただけじゃないですか。
自らの体を使い、我々の実験を成功に導くという、
素晴らしい使命をね!!
まあ、もっとも――」
だが、そんなフェイティを嘲笑うかのように、
レアングスは再び両手を広げ、
不気味で、冷淡な笑みを浮かべる。
「優秀であったはずのジニーは最後、実験体として、
有能なモルモットになっていたようですがね」
その様子はもはや異常を通り越して、狂気だった。
「こんのクソ野郎がッ……!」
いますぐにでも斬りかかりたい、
怒りを必死に噛み殺しながら、
プログは吐き捨てる。
もはや話し合いの余地などない。
目の前にいる狂気に対して、
誰しもが怒りの感情しかなかった。
「さてスカルド君。
最後にもう一度、お聞きしましょう。
私達に協力する気はありませんか?
その問いに答えるために今日、
ここまで来たのでしょう?」
「……え?」
その言葉にレナは、スカルドへ視線を向ける。
口元を隠すスカルドの表情を、
窺い知ることはできない。
「彼には以前、私の研究に参加しないかと、
打診していたのですよ。
この学校の創立史上、
最も優秀な能力を持つ彼にね」
コツコツ……と、
わざとらしく黒の革靴から乾いた音を鳴らしながら、
レアングスはレナ達に向かって歩み寄ってくる。
「創立……史上……」
「最も優秀?」
「え? さっきはお父様が、
一番優秀だったって言ってなかったっけ?
それに、協力を打診されているとかって話……」
一切聞いてないんだけどどういうこと?
そう言いかけたレナは、
寸でのところで言葉を飲み込んだ。
敵を目の前にして仲間への疑念を持つほど、
自殺行為なものはない。
一度崩れてしまった関係は、
一長一短で回復できるほど簡単なものではない。
だからこそ、レナは言葉を飲み込み、
スカルドの言葉を待った。
最初は怪しいと思いながらも、
父の仇という、
できれば語りなくなかったであろう動機まで、
詳細に語ってくれた仲間、
スカルド・ラウンの言葉を。
「おやおや、まさか君たち、
スカルド君のことを知らなかったのか?
彼は父、ジニーの持っていた最年少卒業記録、
18歳6カ月という記録をはるかに超え、
13歳2か月で卒業しようとしている、
天才少年なのだよ!」
そんなレナの思いをまるで心理学者のように見透かし、
さらに嘲笑うかのように、
レアングスは笑う。
一方、スカルドはまだ口を開かない。
鋭い目つきをしたまま、
ただただじっと黙っている。
「君たちはスカルド君にウソをつかれていたわけだ。
そんなことすら見抜けない君たちに、
未来なんてあるわ
「哀れだな、レアングス」
静かに、冷然と、スカルドは口を開いた。
「何?」
「敵を挑発して動揺させる、
敵を仲間に引き込もうとする、
やたらと喋りたがる。
どれもやり方が姑息なんだよ」
「姑息だと?
この私が姑息だと?」
「ああ、姑息だよ、天下の学長がザマねぇな。
そんなことをしないと、
貴様は俺達に勝てないのか?
俺は父上を超えたなど微塵も思っていないし、
貴様にもまだ、
力は及んでいないと思っていたが……。
どうやら、俺の思い違いだったわ。
レアングス、貴様なぞ超える価値もねえ」
口元を隠す法衣を軽く手で下げ、
ニヤリと蔑みの笑みを向けると、
どこから取り出したか、
スカルドは丸いチューインガムを口に含む。
「……そうか、残念だよ。
判断のみならず、自らの力量をも誤るとは。
ならばスカルド君、
君もここの出来損ないの学生達同様、
実験体となってもらおう。
他の3人も同様にな。
この部屋の秘密を知った以上、
生かしてこの部屋を出すわけにはいかなくてね」
レアングスは笑っていた。
余裕から生まれた笑みなのか、
それとも侮辱された怒りを、
必死に抑えるための笑みなのか――。
そして右手を高く突き上げ、
パチン、と指を鳴らす。
チンという、この場に似つかわしくない機械音と共に、
先ほど上がってきた階段の横にあった、
エレベーターが開く。
そして、開いた扉の向こうから、
レアングス同様に黒いスーツを着た、
屈強な男が姿を現す。
黒いサングラスをかけ、無表情を貫き、
そして、それぞれ両手には、
格闘用のグローブをはめている。
さしずめ、学長のシークレットサービス、
といったところか。
「さすがに1VS4では分が悪いのでね」
「構わないわ、
こっちもそれくらい、想定済みよ」
前のレアングス、背後のシークレットサービス、
交互に目を送りながら、
レナは2つの剣に手をかける。
どのみちすんなり帰してもらえるとは、
思っていない。
「手短に答えろ、
お前らは近、中、遠距離、
それぞれどの戦闘スタイルだ?」
レアングスから視線を外すことなく、
スカルドは小さな声でレナに訊ねる。
それはスカルドにとって、
何よりも最初に確認するべき重要な情報だった。
魔術を駆使し、遠距離に特化している、
近距離の敵に弱いスカルドにとっては。
「……あたしは近から中、
ほかの2人は近距離タイプよ」
目的・意図をすぐに理解したレナは、
素早くスカルドに返す。
相手はすでに臨戦態勢に入っている。
もはや、たった一瞬の隙も許されない。
「そしたらプログとフェイティはそれぞれ、
あの2人を相手しろ」
「あのシークレットサービスを、ってことか?」
「何か考えがあるのね、わかったわ」
「それとレナ、お前はフリーに動きつつ、
学長の魔術の邪魔できるようなら、極力頼む。
後方支援とあとの指示は、俺がやる」
「なかなかハードル高いわね。
いいじゃない、やってやるわよ」
超短時間の作戦会議を終えた4人は、
反発する磁石のように、素早く散らばる。
そして、準備OKとばかりに、
プログ、フェイティ、スカルドは言う。
「さて、久々にキレたぜ。
レアングス、テメエだけは絶対に許さねえッ!!」
「レアングスさん、たとえあなたが立派な身分だったとしても、
少々、お遊びが過ぎたようね。
牢屋の中で、自分の行いを永久に悔いなさいッ」
「あんたには聞きたいことが、山ほどあんのよ。
悪いけど、最初から全力でいかせてもらうわ」
「……遺言はそれだけですね?
では、行きますよッ!」
訪れたその時を待ち望んでいたかのように、
レアングスは高々と右手を突き上げ、
何やらブツブツ呟き始めた。
同時に、まるで堰を切ったように、
2人のシークレットサービスが、
プログとフェイティに迫っていく!
「父上の仇! 行くぞ、クソ学長ッ!!」
スカルドの叫びを皮切りに、
レナ、プログ、フェイティも、
一斉に突撃する。
2人の“天才”魔術師による、
“知”と“力”の戦いの火蓋が、切られた。




