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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第2章 エリフ大陸編
32/219

第28話:少年スカルドの頭脳

「は?」



レナとプログ、そしてフェイティの時間が、

一瞬止まる。



「法則の問題か……」



一方でスカルドは、

画面から視線を逸らすことなく、

ポツリと呟いている。


レナ達は現在、王立魔術専門学校の1階にいる。

レナ達の目的は、この学校の最上階にいると思われる、

学長の所に行くことだ。


そして、そのために目の前にあるドアを開けて、

その先にある階段を登りたいのだ。


決して、なぞなぞを解きに来たわけではない。



「ねえ、これってまさか……」



恐る恐るスカルドに訊ねるレナには、

以前にも似たような経験があった。


目の前にドアと、妙な問題。



「お前らも少しは考えろよ、

 この問題を解かないと、次の階に進めねえぞ」


「ハァ、やっぱりか……」



スカルドの口から、

予想通りの言葉が発せられ、

大きなため息がでる。


そう、上の階へと続く階段に立ちはだかる、

このドアを開けるには、

ディスプレイに映し出される問題を、

解かなければいけない。


ちなみにレナが感じた、

似たような経験とは、

ファースター地下水道である。


あの時も、2つの問題を同時に解かなければ、

ドアを開けることはできなかった。

その時とまったく同じ状況が、

目の前で起こっているのである。


ただ、唯一違う点は、

こちらは時間制限がないということくらいだ。

ファースター地下水道では、

考える時間がたった2分しかなかったが、

こちらの画面には、時間の表記が特にない。



「M→C→T→R→D→?→H→S→M→B→D→Wって……。

 なんだこりゃ?」



謎解きがべらぼうに苦手なプログは、

早くも頭を搔きながら、表情を曇らせている。



「法則ってことは、何かの並びなのかしら?

 M、C、T……」



騒ぐプログの横でフェイティは早速、

ディスプレイとにらめっこを始め、

思考回路を動かし始める。



「Mは13、Cは3、Tは20、と……。

 アルファベット順は、

 関係ないのかしらね」



フェイティ同様、レナも頭脳をフル回転させる。


レナが最初に考えたのは、

映し出されているアルファベットの、

登場する順番である。

Aから数えてMは13番目、

Cは3番目、Tは20番目に登場す



「なんだ、そういうことか」



その言葉だけ残し、

スカルドはディスプレイの下部にある、

26文字のアルファベットのうち、

“S”のキーに触れる。



「え、ちょっと!」



まだRは18番目~、

くらいしか考えていなかったレナは、

スカルドのあまりの行動の速さに、驚きを隠せない。



カチッ。



何かが解除されたような、

機械音が小さく、

しかし、しっかりレナ達の耳に届く。



「お、おい、まさか」



スカルドの自信満々な行動と、

小さく聞こえた機械音。

プログは恐る恐る、

ドアノブを右に回して押してみる。


キィィィィ。


ドアは開いていた。

スカルドの入力した答えによって、

ドアのロックが解除されたのだ。


ということは。



「さぁ、サッサと行くぞ」



スカルドは、何事もなかったかのように、

ドアの奥にある、

上へ続く階段へと進んでいく。


「ちょっと待った!

 あんた今の問題、知ってたの!?」


「あ? 何言ってんだよ、

 知るわけねえだろ。

 解除用の問題は日によって違うし、

 問題数は数千題あると言われてるんだぞ?

 そんなモン、いちいち覚えてねえよ」


「え、じゃあお前、今の問題……」


「あんな短時間で、スカルドくんは解いたの?」


「あんなモン、ただの思いつきだ」


「……」



フェイティこそいつもの表情だが、

レナとプログは、

大きく開いた口が塞がらない。


プログはもちろんのこと、

レナでさえ、まだ答えの糸口すら、

つかめていなかったのに、

スカルドはあっさりと、

答えを導き出してしまったのである。

その時間、たった1分。


本人は思いつきと言っていたが、

それだけで済むような問題ではない。



「スカルドくん、すごいわね!

 ちなみにあの答えは、なぜSだったの?」



ただ1人、フェイティはすぐに目を輝かせながら、

スカルドの後を追って階段を登っていく。



「そ、そうよ!

 なんであの答えがSなのよッ!」



フェイティの言葉で、

ふと我に戻ったレナが、

なぜかふてくされ気味に、

スカルドを駆け足で追いかける。



「お前ら、干支は知っているよな?」



まるで授業に向かう先生のように、

ゆっくりと階段を上がりながら話すスカルド。



「干支ってネズミとか、

 牛とかってヤツか?」



最後尾からプログが、

スカルドの言葉に反応する。



「あ、そういうことか」



と、スカルドの言葉を待たずして、

レナがしてやられた、

とばかりに左手を頭に置く。



「どういうことかしら?」



答えを導き出すことができないフェイティは、

頭に?マークを並べている。



「ネズミはmouseでM、牛はcattleもしくはcowでC、

 虎はtigerでT、ウサギはrabbitだからR、龍はdragonになってD。

 そうすると、問題のヘビは……」


「snakeだから、Sってワケね。

 なるほど、干支の並びを英語にしたのね。

 さすがにBBAの頭じゃ、

 そこまで解らなかったわ」



解説するレナの言葉で、

ようやく理解したフェイティは、

最後の問いに笑顔で答える。


実際の世界にも、

様々な国で“干支”の概念があるように、

この世界、グロース・ファイスにも、

“干支”は存在する。


つまり、映し出された12文字のアルファベットは、

それぞれ干支を英語にした時の、

頭文字に対応していたのだ。


問題は6番目、つまりヘビを英語にした時の、

頭文字を答えよ、ということだったようだ。

言われてみれば、すぐに気が付く。


だが。



「オイオイ、そんなの、

 すぐに思いつかねえだろ、

 普通……」



スカルドを除く3人の思いを、

プログが代表してポツリと呟く。



「俺とて、すぐに思い浮かんだワケじゃねえよ。

 発想を少し変えただけだ」


「発想を変える?」


「お前らがどう考えたかは知らんが、

 俺はまず、アルファベットが12個あることに着目した。

 そこから12に関わるものを考えた。

 最初は12星座かと思ったがそれだと並びが合わないし、

 どの星座から当てはめればいいのかが、

 あまりにも不透明すぎる。

 それで、次に思い浮かんだのが、

 たまたま干支だった、というだけだ」



先頭を歩くスカルドは、

後ろを振り向くこともなく、

淡々と話しながら、階段を進んでいく。



「あーなるほど、

 先にアルファベットじゃなくて、

 12個ってトコに注目したのね。

 まだ、そこまでは考えてなかったわ」



そう言うレナは、

心なしか悔しそうな表情を浮かべている。


人の脳は、なかなか複雑にできている。

一度、問題を見る視点を固定させてしまうと、

違う視点からもう一度、

見直してみるということが、

しにくくなっている。


レナやプログ、フェイティが、

アルファベットの文字に、

問題の視点を固定する一方で、

スカルドは真っ先に、

アルファベットの文字数に着眼したのだ。

その着眼の違いにより、スカルドは、

すぐに答えを導き出すことができたというわけだ。

もっとも、それにしても干支という答えに、

辿り着くまでの時間の短さが、

異常すぎるということに変わりはないのだが。



「ん? ちょっと待て、

 ってことはもしかして、

 これから上の階に行く時って……」


「無論、今の仕掛けがあるぞ」



頭の中に嫌な予感がよぎった、

プログの発した言葉を、

スカルドはこともなげに跳ね返す。



「うげ……マジかよ。

 ってか、防犯カメラのシステムを止められるのなら、

 今のシステムも、

 止めちゃえばいいんじゃねえのかよ?」


「無理だな。

 あの扉はオートロックだ。

 システムを止めたら、

 扉自体を開けられなくなる」



「ですよね~……」



スカルドの言葉にげんなりするプログ。

この様子だと、

問題を解く時の戦力としては、

あまり期待できなさそうだ。



「安心しろ、この階段は1階から5階まで、

 一気に登れるようになっている。

 5階からの階段も同じだ、

 10階まですぐに行ける。

 最後に、10階から11階までの階段があるが、

 さっきの仕掛けは、

 その階段の切れ目の部分にしかねえよ」



プログの表情を見かねたのか、

スカルドは静かに、

階段の仕組みを説明し始める。



「ということは、最上階に行くまでには、

 あと2回、さっきのような問題を、

 解けばいいって事かしら?」


「そういうことだ」



フェイティの問いに、

スカルドは小さくうなずく。


つまり、先ほどの問題は、

1階から5階まで一気に行ける階段に続く扉を、

開けるための仕掛けだったということだ。

スカルドの話が本当ならば、

残りの仕掛けは5階から10階までの階段に続く扉と、

10階から最上階までの階段への扉の2つ、

ということになる。



「なるほどね、あと2問か。

 上等じゃない、次は絶対、

 あたしが解いてみせるわ」



先ほどの仕掛けがまだあることを知り、

レナはなぜか、

妙な闘争心を燃やしている。



「いや、別にいいじゃねぇかよ、

 扉は開いたんだし」


「よくないわよ!

 あーゆーのは絶対に解きたいのよ、

 あたしはッ」


「あ、そう」



まるで駄々をこねる子どもを、

宥めるのに失敗したかのように、

プログは顔を引きつらせながら、

小さくため息をつく。


先ほどの問題を、

スカルドに瞬殺されたことが、

レナは相当、悔しいらしい。



「お前ら、うるさいぞ」



おそらく会話が聞こえているであろう、

妙な闘争心の張本人、

スカルドがややキレ気味に、

冷たく言い放つ。


今一度確認しておくが、

ここは真夜中の学校である。

ヒソヒソ話ですら、

筒抜け状態になるほど静かなのだ。



「ハイハイ、すいませんでしたねッ」


「ったく……」



口を尖らせながら、

レナはブーブー文句を言っている。


「あらあら、2人とも仲が良いわねえ」



そんな2人の様子を、

まるで1人だけ、別の次元にいるかのように、

フェイティは微笑ましく見守っている。



「お前の目は節穴か?

 それよりも、5階についたぞ。

 いいか、ここからは無駄口を叩くんじゃねえぞ」



年上のフェイティにも、

容赦ない言葉を浴びせながら、

階段を昇り終えたスカルドの足が、

目の前に現れた扉の前で止まる。



「わかっているわよ。

 時間も惜しいし、サッサと行くわよ」



レナはそう言うと、

スカルドの横を通り過ぎ、

ドアノブに手をかけ、扉を開ける。


ガチャ。


今度はすんなり扉が開いた。

どうやら、階段側から扉を開けるには、

問題を解く必要はないようだ。

先ほどのようなディスプレイも見当たらない。



「さて、と。

 10階に続く階段ってのは、

 近くにあるのかしら?」



今にも消え入りそうな小さな声で、

レナはそう言いながら、

あたりを見渡す。



「近くにはねえよ。

 10階への階段は、

 右スクールの一番端にある」



キョロキョロ見渡すレナの目の前を、

わざとらしく通り過ぎるスカルド。


レナがスカルドに視線を送った時には、

すでに右スクールへ向けて、

歩き出していた。



「右スクールの端って……。

 ここと真逆じゃねえか。

 どうやって行くんだよッ」



スカルドの歩くスピードは異常に速い。

プログはそう聞きながら、

慌ててスカルドのあとを追いかける。



「やむをえないが、

 ここはホールを突っ切って、

 右スクールに行くしかねえ」



止まるような素振りを一切見せず、

スカルドはただただ歩き続ける。



「ホールを突っ切るって、大丈夫なの?」



そう訊ねる、レナの表情は冴えない。


レナ達は現在、

左スクール5階の端にいる。

スカルドいわく、

5階から10階までの階段は右スクールの端で、

ちょうど真逆に位置する。

左スクールから右スクールに行くためには、

中央部分のホールを、

通らなければいけないのは理解できるのだが、

警備員がいる可能性と話していた以上、

なるべく避けたい場所だったハズだ。



「やむをえない、と言ったハズだ。

 それに、1階から最上階に、

 一度もホールを通らずに行ける方法はない。

 唯一、1回で済む方法が、

 このルートなんだよ。

 これでも、リスクは最低限に抑えている」



顔色一つ変えることなく、

しかし、口元は相変わらずモゴモゴさせながら、

スカルドは冷静に話す。



(リスクねえ……。

ま、いざとなれば、

ホールの階段を使って1階に降りられるし、

コイツの研究室から脱出できるか……)



スカルドの話を聞きながら、

レナは同時に、

思考回路を動かし始める。


万が一、スカルドに裏切られた時の想定をしていたのだ。

仮に、ホールに行ったときに、

ワナにハメられたとしても、

ホールには全ての階層に行ける、

螺旋階段がある。

階段を埋め尽くすほどの警備員がいるとは考えにくいし、

その螺旋階段を降れば、

1階までは行くことができる。

そして、1階に着けば先ほど侵入した、

スカルドの研究室のドアから、脱出ができる。



幸い、研究室のドアに、

セキュリティがかけられている様子は、

見受けられなかった。


仮にセキュリティがかかったとしても、

最悪窓を割れば脱出することは可能



「待て」


「! っと。

 ごめんごめん」



思案を巡らせていたレナは、

スカルドが立ち止まっていることに気付かず、

思わずぶつかってしまう。



「チッ、警備員がいやがる」



スカルドは、軽く舌打ちしながら、

そう吐き捨てる。


レナ達は、右スクールを抜け、

右スクールとホールを繋ぐ、

連絡通路まで辿り着いていた。


ホールは、中央から吹き抜け、螺旋階段、

そして学生たちが歩くスペースといった造りで、

ちょうどドーナツ状のフロアとなっている。


連絡通路からこっそり様子を窺ったスカルドは、

その螺旋階段付近に立っている、

警備員の姿に気付いたのだった。

こちらには気付いていないようだが、

このまま気付かれないように、

ホールを抜けるのは難しそうだ。



「よりによって階段の所に……ったく、厄介ね。

 さて、どうしたものかしら」



スカルドの背後から様子を覗いたレナは、

ふう、と息をつくと、

この状況を打破して最上階を目指すために、

そして、最悪の想定を考えた、

緊急脱出方法を確保するために、

ふたたび脳を動かし始める。





場所は変わり、

セカルタ市街地にあるホテル。

アルトとローザが待機している所である。

そのホテルの薄暗いロビーに、

明らかに場違いな、

頭から布を被った、怪しい人の影。



「あ、あの……どちら様で?」



明らかに様子がおかしい存在に、

フロントに座る従業員の女性は、

緊張からか、口元が若干震えている。



「このホテルで、

 女性2人と、男性1人の3人組を見なかったか?

 女性は金髪のロングと、銀髪のショートだ」



怪しい人影から低い、男の声が発せられる。



「さ、3人組?

 そ、その方々かどうかはわかりませんが、

 似たような方達なら」


「どこにいる?

 ホテル内か?」


「さ、先ほど、

 ホテルをで、出て行かれましたが」


「……」



(よし、計画通りだな)



「感謝する」


「あ、は、はひッ」



冷や汗をかきながら、

声を裏返らせる従業員に礼を述べると、

その男はホテルのロビーをあとにする。

そして、レナ達のいる、

王立魔術専門学校へ足を向け、

急ぎ足で歩き始めた。



「……」



そして、その怪しい姿の男を、

ロビーの影からずっと確認していた、

アルトとローザ。


部屋で待機していた2人は、

何気なく窓から外を眺めていたのだが、

偶然、怪しい人の影がホテルに向かって、

歩いてくるのを目にした。

嫌な予感を覚えた2人は、

部屋を飛び出し、ロビーの影から、

男の様子をずっと窺っていたのだった。



「アルト、行きましょう!」


「うん、行こうッ!」



互いに大きくうなずき合う2人。

2人の間に、それ以上の言葉は必要なかった。


アルトとローザは、

勢いよくホテルから飛び出し、

その男の後を、急いで追いかけていった。

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