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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第2章 エリフ大陸編
24/219

第20話:寒暖の地、エリフ大陸

「うっ……。

 こっちは、かなり涼しいわね……」



バンダン水路からようやく出ることができ、

エリフ大陸の地に立ったレナが、

思わず体をブルッと震わせる。


「今は……もう夕方か。

 エリフ大陸はワームピル大陸よりも。

 寒暖の差が激しいからな。

 夕方にでもなれば、このくらいの気温にはなるさ。

 んーっと! ようやくエリフ大陸に戻れたぜー!」



やや赤みを帯びながら西に向かって沈もうと進む太陽の光を受け、

続けて出てきたプログ。

ローザの持つ時計を見ながら、

体全体を使って大きく伸びをしている。



レナ達の降り立った第2大陸、エリフ大陸は、

1日、そして1年の中で、

それほど寒暖差がないワームピル大陸に比べて、

寒暖差が激しい大陸で知られている。

大陸全域に当てはまるわけではないが、

最も寒暖差が激しい地区では、

最高気温と最低気温が約40℃近く、

1日で変化することもある。

そのため、夕方になると、

数時間のうちで急激に気温が下がってくるのだ。


レナ達が、ワームピル大陸からバンダン水路を経由し、

エリフ大陸に辿り着くまで、

約3時間程度要したが、

たった3時間だけでも、

気温の下がり幅は相当なものである。

現に、プログ以外の3人は、

予想外の涼しさ(というより寒さ)に、

体を小刻みに震わせている。


レナ達の前からファルターが消え、

かなりの時間が経過していた。


念のため、と思い、レナは辺りを見渡してみたが、

ファルターはおろか、人の気配すらない。


まあ、仕方ないわね、

予測していた結末に、

ふう、と一つ、

レナは小さなため息をつく。


「これは……早いところ、

 アックスという町に行った方が良さそうですね」


「そうだな。

 エリフ大陸の人間でも、

 早朝と夜の移動をする奴はほとんどいないからな、

 冷え込む前に、サッサとアックスに行っちまおうぜ。

 ここからはそれほど遠くないからな」



一方、おそらくファースター城内では、

経験したことがないであろうローザを連れて、

プログは歩き出す。

レナがその後に続き、そして寒いからか、

はたまた別の理由か、

体を震わせ、特に言葉を発しようとしないアルトも、

1番後方よりローザとプログの後を歩いていく。



「しっかしアレね、まさかあの魔物、

 核の球体を攻撃すればよかったとはねぇ。

 背中は関係なかったのね」



歩き始めてしばらくして、

思い返したように、不意にレナが1人で呟く。



「ああ、そういえば背中じゃなかったな」


「そうですね。

 あの球体、どう見ても、

 背中には見えませんでしたし……」



レナのその言葉を聞き、

前を歩いていたプログとローザが、

レナの方を振り返る。


確かに、レナがコウザを倒した時は、

コウザの背中に攻撃して倒した。

だが、今回のサンプル一号は、

核の球体を攻撃して倒している。

あの核の球体が、

サンプル一号にとっての背中だったとは考えにくい。



「もしかしたら、あの魔物は、

 そのコウザという人とは、

 関係がないのかもしれませんね」


「えー、そうかなあ?

 あたしは何かしらの関係あると思ったんだけどなぁ。

 攻撃しても傷がつかないって似ていたし……」


「でも、さっきの魔物は……」


「うーん、そうなのよね、

 背中じゃないしね。

 関係ないのかなあ……」



ローザとレナは、

頭を悩ませながら歩いている。


と、ここで。



「もしかしたら、逆じゃねえか?」



顎に手を当て、難しい顔を作りながら、

しばらく1人で考え事をしていたプログがポツリと呟く。



「逆?」


「背中が攻撃対象ってことじゃなくて、

 核が攻撃対象なんじゃねえか?」



向き直るレナとローザを見て、

今まで作っていた難しい顔をほぐしながら、

プログは話を続ける。



「レナ、お前がコウザと戦った時、

 服は着てたよな?」


「ンなの当たり前じゃないの、

 あたしがそんな変態と戦うワケな


「まあ待て。

 ってことは、コウザの背中には、

 さっきみたいな核があった、

 って考えることができないか?」



逸れそうになる話を、

プログが強引に引き戻す。



「背中に核?」


「そうだ。

 服を着ていたなら、背中に何があったかなんて、

 確認することができないだろ?」


「あーなるほど。

 確かにその可能性はあるわね。

 もしそれなら、今回のとも、

 色々と一致するわね」



一本取られた、とばかりに、

レナは頭を手でさする。


レナがコウザの背中を攻撃した時、

特別目にとまったり、

気になるようなモノはついていなかった。

だから、レナは弱点が背中にあると考えていた。


だが、プログの言うように、

もしコウザの来ていた服の下に、

今回のような核が付いていたとしたら?

そうなれば、コウザの場合は、

偶然背中が弱点であっただけであり、

本当の弱点は背中に付いていた核、

ということになる。



「まあ、もしかしたら違うかもしれないが、

 少なくとも次に戦う時に、

 1つの道標にはなるだろ?」


「そうですね、

 そしたら、次からはまず、

 核を探すのが先決ですね。

 それだけでも、

 だいぶ戦いやすくはなります」


「できることならあんな相手、

 もう2度と会いたくないはないけどね。

 ……まあ、そんなワケにもいかないんでしょうけど」



そう言いながら、レナはおもむろに空を見上げる。


サンプル一号はファルターが生み出した魔物だ。

それはつまり、ファルターが、

いや、シャックが、

“攻撃を受けても傷一つつかない体になる核”を、

生み出すことができるということに繋がる。


どういう手法でそんな芸当ができるのかは不明だが、

何にしろ、シャックはこれからも、

その芸当を持つ魔物を、

続々と生み出していくに違いない。

実際にコウザ、そしてサンプル一号が、

レナ達の前に立ち塞がっているわけなのだから。


だがここで、レナの脳裏に残る、クライドの言葉。



『我々の目的、それは世界を、人々を救うためだ』



間違いなく、クライドはそう話していた。

仮に、クライドがその言葉の通り、

世界を、人々を救うためにシャックを組織していると考えてみる。


だとすると、魔物を生み出していくことと、

クライドの言った“世界を救う”という、

まるで神々の戯言のようなテーマには繋がらない。


傷一つつかない魔物がいたる所に棲息する世界が、

救われた世界?

そんなバカな。


そんなので、どう考えても世界を救えているハズがない。

ならばその魔物を使って何かをやっつけて、

世界を救うということ?

そもそも、そんな回りくどいことをしなければいけないほど、

この世界は救えない世界なのだろうか?

いや、そもそもこの世界は、

誰かに救われなければならないほど、

危機に瀕しているのか?


レナはルインで過ごした間は、

少なくとも平穏な日々の連続だった。

親方がいて、町のみんながいて。

そんな平穏な日々の連続のどこに、

救わなければいけない事情が潜んでいるのか?

ますますシャック、いや、

クライド、ファルターの考えていることが掴めない。


そして、どうしても、これ以上の思考は働かない。




「おいレナ、どうした?」


「!!」



不思議に思ったプログの声で、

思考の止まっていたレナが、ふと我に返る。



「大丈夫か?

 あっちの世界に行ってたか?」


「な、なんでもないわよ。

 それより、あのファルターって結局誰なのよ?

 人のことをお子ちゃまお子ちゃまってうっさいのよ、

 あの年増女!」



心配するプログをよそに、話題を変えたかったのか、

まるで子供が急にかんしゃくを起こしたかのように、

レナがキーキーしながらプログを問い詰める。



「は? いや、だから俺は知ら


「ないわけないでしょ!

 どう見てもあの年増女、

 あんたのこと知ってたでしょ!」


「確かに、プログのことを知っていましたよね。

 誰なんですか?」



まるで浮気を見つけて激怒しているかのようなレナの横で、

こちらは対照的に、静かな表情でローザが訊ねる。


レナはともかく、

ローザまでに問い詰められては、

プログも逃げ道がない。



「ハァ……。

 アイツは元々、

 一緒にハンターで組んでいたヤツなんだよ」


手で頭を押さえ、ため息以上の何かを吐き出すように、

プログが大きくため息をつく。


ハンターは、受けた依頼が一人で行うのが、

難しいと判断した場合は、

他のハンターと手を組み、

依頼を一緒に行う場合がある。

報酬が高くなればなるほど、

達成が困難な依頼のため、

こういった手を組むといったことは、

しばしばあり得ることである。


「ふぅん、戦友ってワケね。

 ……ま、あんなのと組んでいたら、あんたも大変だ


「でもあの人、

 永遠の愛とか何とか言っていましたけど……」



純粋なローザの言葉が、

防御力0のプログのハートに、

グサリと突き刺さる。



「ろ、ローザ……」



一応空気を読んで、

それ以上聞かないことにしよ、

と思っていたレナだったが、

ローザの無邪気な言葉に、思わず腰が砕けてしまう。


一方のプログはというと、

更に気温が寒くなってきた中で1人、

汗を大量にかいている。

もちろん、冷たいやつである。



「あ、いや、その……。

 ……わかったよ。

 アイツは元々、俺のペアでもあったし、

 少しの間、付き合っていたんだよ」


「付き合っていた!?

 ということは、2人は恋人同士だったんですか!?」



すっかりテンションが落ち、

げんなりした表情で話すプログに、

さらに追い打ちをかけるような、

逆にテンションが上がったローザの目の輝きである。



「ろ、ローザ……

 恋人って言っても、今は敵よ?」


「そ、そうだぞ!

 付き合ったのはほんの少しだけだし、

 すぐにアイツがヤバい研究をしているってことに気付いて、

 ペアも解消して、すぐに別れたんだよッ!」


「でも、一度はお付き合いされてたんですよね!?

 もしかして、今でも……」


「ない! それはない!!」


「ほ、ほら、プログもこう言っているんだし、ね?」



そんなローザのテンションを、

プログ、そしてなぜかレナも加わり、

必死に下げようとしている。



「そうなんですか……。

 じゃあ、もうプログはファルターのことは、

 好きではないんですね?」


「ああ、あんなヤツ、もうコリゴリだわ……」


「そうですか、

 なんか、ちょっと残念です……」



レナとプログの活躍(?)により、

ローザはようやく元のテンションに戻るが、

若干口を尖らせている。


しかし、その手の話になった途端のローザの変化っぷりも、

なかなかなものである。



「さてと、

 とか言っといて、

 本当はあの年増女と繋がっていたりしたら、

 ただじゃすまさないわよ?」



ローザが落ち着いたのを確認して、

レナはプログを軽く睨む。

とは言っても、本当に疑っているわけではない。

とりあえず念のために、と心で呟きながら、である。



「オイオイ、冗談じゃねえぞ、

 あんなのと繋がるなんて、

 むしろこっちから願い下げだっつーの」



両手を広げ、肩をすくめるお決まりのポーズをとりながら、

再び大きなため息をつく。



「それもそうね。

 しっかし、あんなムカつく女とねえ……」


「まあ、色々と大人の事情ってモンがあったのよ、

 色々とな……」



頭の中でファルターの顔と言葉を思い返しながら、

苦虫を噛みつぶしたような渋い表情を浮かべるレナに、

どこか遠い目をしながらプログが答えている。


ひとまず、ファルターの件については、

一件落着(?)になったようだ。



「ひとまず、アックスの町へ急ぎましょう、

 結構太陽も沈んできましたし」



ひと段落したところで、

普段通りに戻ったローザがそう話すと、

珍しく先頭を切って歩いていく。

心なしか、先ほどよりも明らかに足取りが軽くなっている。



「……きっとローザはコイバナ好きね」



そんなローザの後を追いながら、

レナは小さな声でプログに再び話しかける。

もちろん、ローザに聞こえないように、である



「だな。しかもありゃ、相当な強者だぞ」


「これからは色々と気をつけないと、

 変な地雷を踏みそうね」


「俺はもうゴメンだぞ、

 あんなに傷をえぐられるのは」


「そりゃ、あんたの自業自得でしょ」


「待て待て待て待て、俺は悪くねえだろ!

 そもそもお前が急に話題を変えてくるから、

 話がほじくり返されたんだろうが!」


「そりゃ、あそこまでお互い知り合いです、っぷりを発揮されたら、

 誰だって気になるでしょーよ。

 てか、あたしだって、

 そこそこ空気読んだつもりだったんですけど」


「だからと言ってなあ……」



ローザの聞こえない所で、

レナとプログはしょーもない会話を続けながら、

2人は並ぶようにして歩いていく。



「……」



そんな3人の会話に一度も入ることはなく、

最後方からただただうつむき加減で歩くアルト。

落ち込んでいるのか、はたまた何かを考えているのか――。

3人から少し距離を取り、元気なくトボトボ歩いている。

まるで、自分がそこにいないかのように。


西に向かう太陽は、徐々にその姿を隠し、

かわりに暗闇の世界に4人をいざなおうとしている。

結局、アックスの町に着くまで、

アルトが3人の会話に加わることはなかった。





エリフ大陸の最東端に位置する町、アックス。

海を挟んで向こうのサーティアとよく似ているこの町も、

農業が盛んな町である。

ただ、サーティアと違って早朝は気温がぐっと低いため、

アックスの人々が1日で農業を始める時間はやや遅く、

また終わる時間も早い。


レナ達が着いたのは太陽が完全に沈む直前、

午後6時くらいだったのだが、

その時間には、すでに外に出ている町民はほとんどおらず、

家庭で夕飯の準備を行っていた。



「ふう、ようやく故郷に戻ってこれたぜー」


「う~、さむっ!!

 たったこれだけの時間で、

 こんなに冷え込むの!?」



いつ以来かは不明だが、

久々に帰ってきて感慨にふけっているプログの横で、

レナがいかにも寒そうに、

手をこすり合わせながら白い息を手に当てている。


無理もない、バンダン水路からここまで約1時間で、

何と気温が約10℃近く下がったのである。

もはや涼しいを軽く通り越して、

寒すぎるレベルである。



「まあ、この時間ならしょうがねえだろ。

 それにこれからまだ気温が下がるぞ?」


「と、とりあえず、

 早く宿屋さんに……。

 さ、寒くて……」



子どもの頃からこの気候に慣れているプログは、

何ともけろっとした表情をしているが、

気温の変化など微塵も感じることのない、

ファースター城の中でずっと暮らしてきたローザは、

あまりの寒さに、発する単語が少なくなっている。



「賛成……。

 プログ、宿ってどこよ?」


「宿か?

 宿ならここをまっすぐ行った、

 突き当りの所にあるが……」



今歩いている道の奥の方を指さしながら、

プログが答える。

なるほど、確かに道の突き当たりには、

他に比べて大きく、

そして扉の上にベッドが描かれている建物がある。



「突き当たりね、サッサと行きましょ」


「あーわりい、

 お前ら、先に行っててくんねえか?」



よしきた、とばかりに、

瞬時に宿屋へ向かおうとしたレナの足を、

プログの言葉が引き止める。



「え、何でですか?」


「わりい、ちょっと先生に挨拶しとこうと思ってな」



ゴメン、とばかりに片手を立てながら、

プログは足早にその場を去ろうとする。



「先生? 何の?」



そのプログの足を、今度はレナが止める。



「俺に勉強と武術、両方教えてくれた先生だよ」


「へえ、プログの先生!

 ぜひお会いしてみたいですね!」


「そうね、あの戦い方を教えた人なら、

 ちょっと興味あるわね」



さっきまで早く宿屋に行こうと言っていた姿はどこへやら、

レナとローザが一斉に騒ぎ出す。



「おいおい、お前らは別に会う必要はねえだろ。

 すぐに戻るから、おとなしく宿屋へ行


「いいじゃないですか、せっかくですし」


「そうよ! それに、

 仲間の知り合いを知っておくのも、

 旅では必要なことでしょ?」


「うんうん、そうですよ!」



旅では必要って、お前ら旅に出たことねえだろ、

プログはそうツッコみたかったが、そんな余裕はない。

こうなってしまっては、この2人は強敵だ。

プログ1人で太刀打ちできるものではない。



「ハァ……ったく。

 おいアルト、こいつら何とかしてくれよ」



もちろん、このまま一人で、

太刀打ちできないことを知っているプログは、

アルトに助けを求める。……が。



「……え?

 ああ、ごめん。いいんじゃない?」


「……」



バンダン水路を出てから、

一度も会話に参加していないアルトが、

今の会話を聞いているハズがない。


しかも、特に意味のない適当な相槌が、

助けどころか、火に油を注いでしまったようだ。



「よし、じゃあ決まりね、

 さ、プログ、案内して、ホラホラッ!」



他人の秘密を知ったかのように、

これ見よがしとニヤニヤした表情を浮かべながら、

レナがグイグイと、両手でプログの背中を押していく。



「ちょっ、おい、

 わかった、わかったから押すな!!」



押されることを予期していなかったプログは、

危うく前に倒れそうになるのを必死に堪えながら、

観念したかのように歩き出す。

こうして4人は、更に気温が下がる中、

宿屋とはまったく違う方向へ歩き出していった。





歩き始めてそれほど経たないうちに、

とある一軒家の前で、プログの足が止まる。

他の民家の大きさとほとんど変わらない、

どこにでもあるような、普通の家である。

窓からは部屋からの灯りを見ることができ、

人のシルエットのようなものが2つ、確認できる。

どうやら、プログの先生とやらの他に、誰かいるようだ。



「ここ?」


「ああ、そうだ」



レナからの問いに、

心なしか乗り気でない表情を浮かべながら、

プログが答える。



「プログの先生ですよね……。

 一体どんな凄い人なのでしょうね」


「弟子のプログがあれだけ凄いんだし、

 先生はもっと凄腕の人よね、きっと。

 見るからにデキる!みたいな人じゃない!?」


「そうですよね!

 きっと凄い存在感というか、

 オーラがある人なのでしょうね!」



そんなプログの表情とは対照的に、

レナとローザは相変わらずキャッキャしながら、

なぜか嬉しそうな表情をしている。

2人とも、一体どんな人を想像しているのだろうか。



(ハァ……こうなるからイヤだったんだよなぁ……

しかも、先生も先生だしなあ……後がめんどくさいぜ……)



心の中でも、そして実際にも、

寒さの中、まるで綿飴でもあるかのような、

白く、大きなため息をプログがついている。



「早速、入ってみましょ」


「ハイハイわかりましたよ……」



心がこもっていない返事、

というものを絵に描いたような、

全く抑揚のない返事をレナに返しながら、

プログがおもむろに、玄関のドアをコンコン、と叩く。



しばらくすると。



「はい? どちら様です――」



玄関の扉が少しだけ開き、

中からそんな言葉と共に、顔だけをチラッと出す女性。

波打つようなウェーブ髪を肩にかかるくらいまで伸ばした、

今でいうウェービーボブに、

玄関の灯りによって更に綺麗に見える銀髪が映える女性。

年齢はレナやアルト、プログよりもかなり上の印象で、

見た感じ、30歳から30歳前半くらいか。


そんな女性がどちら様ですか、と言い終わる前に、

プログを見た瞬間、その言葉が止まる。

目が徐々に大きく見開いていき、

思わず手で口を押さえながら、

ただ一点、プログを見つめ続けている。

そう、まるで感動の再会を果たしているかのように。


そんな表情を見たからだろうか、

プログは頭を搔き始める。

そして、なんだか恥ずかしそうな表情で、

ようやく言葉を切りだす。



「先生、お久しぶ


「クサッ!!

 めちゃくちゃクサい!!!

 ちょっと、クサすぎるわよ、プログちゃん!!!!」


「……」 「……」 「……」 「……」


完全に忘れていた。

4人は思った、

「慣れというものは、実に恐ろしいものである」と。

今話より、第二章がはじまります。

今後も引き続き、よろしくお願いします~

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