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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
215/219

第211話:黒と白の世界で

「……っ!」



彼女が立っているのは、果たしてどこなのだろうか。

その答えは彼女にしか、分からない。



「通信、か」



その中で一切の感情がない、

機械的な言葉に続いて、

彼女は黒の中で通信機を取り出した。



「……ナウベルよ。

 どうしたの?」



一切の光が介入しない、

常闇の中で4番隊隊長であるナウベルは、

すぐ隣にいなければ聞き取れないような、

いつもにも増してささやかな声で言う。


時刻は、16時。

世間一般で言えば、

この時間は夕方に該当する時間であり、

周りが真っ暗であるという事態は、

自然の中においては絶対に発生しない。


ゆえに、ナウベルは今、

おそらく何らかの閉鎖的空間にいる、

という事は間違いないのだが、

それが世界の、どの場所に位置しているのかは、

本人であるナウベル以外には、まったく分からない。



「……私? どこでもいいでしょ。

 あなたが任務を遂行するうえでは、

 まったく関係ない話ですもの」



おそらく、通信相手にも、

現在位置の事を聞かれたのだろう。

だが、彼女はその問いに答えることを、拒絶した。



「安心して。

 あなたを監視したりとか、

 そのような無粋なことをしている訳じゃないわ。

 ……そう、私はそれでも別に構わないわよ。

 信用するかしないかは、あなた次第だもの。

 私はただ、真実を伝えているだけだから」



光という属性が存在しない、

目の前に広がるただ一面の黒の中で、

ナウベルの声だけが、

勝手に独り歩きをしていく。



「それで、何の用かしら?

 まさか私の居場所を聞くだけの為に、

 連絡をよこしてきた訳じゃないでしょう?

 ……そう、到着したのね。

 分かったわ。

 おそらく、あと少しで『彼女達』も到着する予定よ。

 そしたら例の件、しっかり遂行して。

 ……何言っているの、ダメに決まっているでしょう?

 騎士総長様からも“殺してはいけない”と、

 何度も言われているでしょう?」



察するに、同じ7隊長の誰かと、

会話をしているようで、

何やら物騒な単語も飛び出す、

会話の中で。



「……それもダメ」



ほんのわずかに、語気を強めたナウベルは。



「いい? もう一度だけ言うけれど、

 勝手な行動は慎んでちょうだい。

 『彼女達』が到着する前に他の一般人を殺してしまったら、

 作戦に支障が出てしまうの。

 そしたらあなたのお目当ての人だって、

 会うことができなくなってしまうかもしれない、

 それでもいいの?」



最後は明らかに、会話冒頭のそれとは違った、

静かながらも強い口調で、ナウベルは、

通信機の相手を諭す。


まるでこれ以上の反論はさせない、

とばかりに。


ナウベルがそう言い切った直後から、

黒い空間が再び、怖いくらいの静寂に包まれる。


かと、思いきや。



「……そう、分かってくれるならいいの」



ものの数秒もしないうちに、

ナウベルの声が再び、空間に放たれた。



「あなたも冷静になれば、

 それくらいはすぐ理解できるのだから、

 慎重な行動を忘れずに、お願いするわ」



おそらく通信相手が折れたのだろう、

ナウベルの口調はすぐに、柔和なものへと変化して。


そして。



「いい?

 時が来ればあなたの望み通り、

 何をしても構わないわ。

 だから、今はまだ、少しだけ我慢して。

 それじゃあね」



ナウベルにしては珍しく、

まるで逃げるようにして口早に言葉を詰め込んで、

通信機の電源を切った。


それ以上は相手に、何を言わせない、

言わせたくないかのように。



「ふう……ホント、

 あの子は手が焼けるんだから」



さも保護者のような、

そんなセリフを口にするナウベルは。



「ここまで言っておけば、

 おそらくあの子も勝手に動くことはないはず」



すべて思考はお見通しとでも言いたげに、

そう締めくくった。


それは果たして、

自分の言葉に絶対の重みがあるという、

自信の表れなのか、

はたまた相手の思考をすべて読み切っているという、

確固たる証拠ゆえのものか。

あるいはそれとは別の、何かの思考の結晶か。


その答えも無論、

ナウベルにしか分からない。



「…………」



当然、ナウベルがその答えを口にすることはなく。

その、代わりに。



「恨みの極み、か」



ふと、ナウベルがそんなことを口にした。

そして、続けて。



「……憐れね」



閉鎖空間の暗闇ゆえ、

その表情は分からないが、

それでも。



「願い、思い、追い続けた結果、

 いきつく先が憤怒と怨恨で塗りつぶされた修羅だと知った時――」



そこまで言って、はじめて。



「果たして何を思うのかしらね」



フッ、っと。

ナウベルは少しだけ、笑った。


それは快楽というよりは、哀愁にも近い言い回しで。


事実を知り尽くした者が、

真実を必死に追い求めようとする無知なものを、

蔑むかのように。


どこにいるかも、

どこへ向かっているかも、

本人以外まったく分からない、

その空間で。



「ま、これも人間という生き物の性、

 なのかしらね」



少しだけ羨ましそうにナウベルはそう言って、

再び笑った。





ディフィード大陸は1年のうち、

どの日付、時間を切り取ったとしても、

大地に雪がないという瞬間が、絶対に存在しない。


自らの足で踏みしめる、

その場所は決して、土ではない。


だが、かといって透き通る白銀の雪、

という訳でもない。


人の足によって踏みつぶされた白銀の積雪は、

その圧によって柔らかさを失い、

また、靴という人工物によってその形、

そして純白な色彩を明らかに変えられてしまう。


人によっては、ただ踏まれただけで、

色なんか変わりゃしない、

多少模様や汚れがついたところで、

同じ白色じゃないか、というかもしれない。


そして、それはおそらく、

間違ってはいない。


ただ、“間違ってはない”だけであって、

それは決して、正解ではない。


世界には750万もの、

人が見分けることのできる色が存在すると言われている。

白銀と、白。

750万の中ではその2つだって当然、差異がある。


だが、その違いは科学的な根拠に基づく、

無機質的な理由だけではない。


見上げればどこまでも、

まるでどこかに閉じ込められたかのように広がる、

グレーがかった厚雲から何の意図もなく、

ただ完成の法則に従いユラユラと、

舞い降りる自然の雪。


その、自然のままの“白”と、

人間によって踏みつぶされ、

自然体から人工体へと、

姿を変えられてしまった雪が表現する、

変わり果てた“白”。


両者の白に違いが、あるか、ないか。


その答えは、断然。



「あんまり、綺麗じゃないよね……」



自分が踏みしめた雪の姿を見たアルトは、

ポツリと呟いた。


他の人が、どう思うかは分からない。

でも少なくともアルトにとっては。



「何か……」



同じ白のはずなのに。



(黒いなあ……)



そう、感じられて。



(――――)



少しだけ考えた、そののちに。



(悲しいな……)



自分でもなぜ、そう結論付けたのか、

よく理解はできなかったが、

それでもアルトは、そう思えてしまった。


クライドに命を狙われている、

元ファースター王女のローザを匿う場所を探すために、

ディフィード大陸へと渡った、

アルト、フェィティ、蒼音、そしてローザの4人。


絶対的な王君である総帥ドルジーハの独裁により、

閉鎖的な大陸と化している、ディフィード大陸。


その状況を打破するべく存在するのが、

酒好きのリーダー、フロウが束ねる反政府組織、

暗黒物質の剣である。


その暗黒物質の剣にローザを預け、

アルト、フェイティ、蒼音の3人は、

フロウの指示通りシックディスの村にいた、

協力者であるスーシアのもとを訪ねた。


そして、そのスーシアから、

新たな指示を受けた3人は。



「ええと、確かにルブラントって町に、

 行けばいいのよね?」


「はい、確かにスーシアさんは、

 そう仰っていました。

 結構距離は、あるみたいですけれど……」


「BBA、さすがに歩くの疲れてきちゃったわ~」


「そう、ですね……。

 雪が降っていないのが、唯一の救いですね」



シックディスの村からさらに東の方角へ位置するという、

ルブラントという町を目指して三たび、雪道の中にいた。


その、目的は。



「ええと、今度はガンチさん、

 って人に会えばいいんだっけ?」


「そうね、スーシアちゃんはそう言っていた気がするわ。

 ディフィード大陸にきて、

 どんどん知り合いが増えてくわね♪」


「うーん、知り合いというか、なんというか」



そんなご近所感覚なモノでもないと思うのだけれどと、

アルトは相変わらずのフェイティに対し、

心の中でこっそりとツッコんでみる。


シックディスで暗黒物質の剣のメンバーでもあるスーシアから、

アルト達に託された指令、それは新たな地で、

新たな人物に会うことであった――。


『僕たちはガンチさん、って人に会えばいいの?』


『はい。

 このシックディスから東に向かって半日程度歩いたところに、

 ルブラントという町があります。

 そこにガンチという、70歳近いおじいさんがいます。

 その人に会って、

 “フロウからゴーサインが出たので準備をお願いします”、

 と伝えてほしいのです』 


『あら、そのガンツさんというおじいさんも、

 暗黒物質の剣のメンバーなのかしら?』


『はい。ガンツはフロウと共に、

 暗黒物質の剣創設からメンバーという、

 いわば最古参です』


『そうなんだ。

 でも、その伝言だけでいいの?

 僕たち、もし質問されても、

 何にも答えられないけど……』


『大丈夫です。

 その言葉だけ、しっかり伝えてもらえれば、

 ガンツは理解してくれますので』


『そう、なんだ。

 それならいいけど』


『申し訳ありません。

 本来ならば私が行って直接、

 ガンツに伝えなければならないところ……』


『スーシアさんが気にすることじゃないよ、

 それにそもそも僕たちが、

 何かできることはないか、って聞いたんだし』


『ですが……』


『大丈夫よ、スーシアちゃん。

 BBA達に任せておきなさいって!

 こう見えて3人とも、

 腕っぷしには自信があるんだから♪』


『皆さん……ありがとうござます。

 このお礼は必ず……』



そう言って出てきた、3人ではあったのだが。



「こうもたびたび、町を巡り巡っていると……」



なんだかたらい回しを喰らっているような気分だよなあと、

アルトはどうしても感じてしまっている。


いや、分かっている。


決して、そうではないと。


自分たちがディフィード大陸にある、

それぞれの街を訪問しているのには、

すべてしっかりとした理由がある。


意味がないわけでは、ない。

誰かに望まれて、動いている。

それは、もちろん分かっている。



(とはいえ、ここまで移動ばっかりだと……)



なんだかなあ、と。

アルトはぼんやりと、考える。


現在、雪は降っていない。

そのうえ身体を貫くかのような、

冷たい風もほとんど吹いていない。

アルト達がこの大陸に来てから、

それは初めての出来事だ。


それまでは絶えることのない吹雪に、

常に晒されていた。

果たして今いる土地柄なのだろうか、

それともたまたま、雪や風が止んだのか。


それはアルトの知りうるところではないが、

だが、少なくとも今は、

先へ進むための阻害要因でしかない雪と風は、

まったくない。


それは、とても喜ばしい事である。

だが、それがかえって。



(なんだかなあ……)



再びアルトはぼんやりと、

考えに耽ってしまう。


今までは、その猛然たる吹雪に負かされることのないよう、

気をしっかり持ちながら歩を進めていた。

それゆえ、余計なことを考える暇など、一切なかった。


前に進むために、生きるために。

ただそれだけを考えて、アルトは移動していた。


だがそのような、

いわゆる“死に物狂い”という要素がない、

吹雪という強敵を失っている、今は。



(これからガンチさん、って人に会うとして……。

その先はどうすればいいんだろうか)



今よりも先の、漠然とした不安の事を考える、

それだけの余裕が生まれてしまっている。


それはある種、アルトにとっては新たなる敵といってもいいくらいに、

要らない所業でもあった。


それはふだんなら、良い事なのかもしれない。

筋道を立て、先に起こりうる事柄を予測するという事は、

行動を移す際において、欠かすことのできない行程である。


だが、自分たちがしていることが、

果たして有益なことなのかどうかがまったく見通せない、

暗中模索の中で動いている、今においては。



(そういえば、それから何の指示も受けてないし……。

それに万が一、ガンチさんがいなかったら、

僕たちはどうしたらいいんだろ……?)



先のことを考えることは、

むしろ逆効果となってしまう。

見知らぬ土地で、

この先に、何が待ち受けているのかも分からず、

他人に言われるがままに行動をしている今では。


考えるという行為は、雑念を生み出す敵となる。


それならば、あえて厳しい状況に置かれ、

先のことを考えず、ただがむしゃらに今を生きる方が。



(もしガンチさんに会って、

キルフォーに僕たちが戻ったら、

フロウはやっぱり、戦を始めるのかな……?)



考える葦ではなく、

考える余裕のない葦となった方が。


ある意味では、よかったのかもしれない。



(その時、僕は……)



吹雪を願いたいわけではない。

なければ、いいに越したことはない。

でも、それでも。


ふとアルトは、その場に立ち止まり。

後ろを振り返って、



(考える時間なんて、要らなかったな……)



己の足跡で白銀からわずかに黒ずんだ、

くたびれた雪に視線を送り、そして。



(はあ……)



靄がかかり、漠然とした不安と焦燥を脳内に秘めて、

アルトは思った以上に動かない自らの足を奮い立たせ、

次なる目的地へと急いだ。

次回投稿予定→4/26 15:00頃


またまた更新が遅れ、すみません。。。

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