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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
211/219

第207話:列車の憂鬱

「はあ……気が思いでやンス…」



ウォンズ大陸の王都であるサーチャード行きの列車の中、

イグノは実感が心底こもった、

ため息をついている。


その理由は、明確であって。



「海底洞窟、行きたくないでやンス……。

 というより、そもそもサーチャードに行きたくないでやンス……」



それに、尽きているようである。



「ったく、いつまでもうっさいわねー。

 もう決めたことなんだから、

 いい加減に腹くくりなさいよねッ」



都合、列車に乗り込んでから、

この言葉をすでに23回(レナ調べ)聞いている。


吐き捨てるようにレナが言えば、



「まったくその通りだぜ。

 つかお前、そんな貧弱な精神でよく、

 7隊長なんかやってたな……」



プログは半ば呆れ気味な表情をしているし、



「……」



スカルドに至っては、

もはや騒音とみなしているのだろう、

腕と足を組んで目を閉じたまま微動だにしない。


たとえば百歩譲って、

列車がすでに半日くらい走っていての23回ならば、

怒りの沸点に若干の余裕はあったのだろうが、

列車はセカルタ駅を発射してから、

まだ1時間くらいしか経過してない。

1時間で23回となればおよそ3分に1回、

このネガティブなセリフを聞き続けていることになる。


旅のお供のBGMにしてはあまりにもうるさく、

それでいてこちらまで気が滅入ってしまいそうな、

そんな言葉である。


そもそもイグノを除く3名は、

けっしてネガティブな感情でサーチャード、

および海底洞窟を目指しているわけではない。


どちらかといえば、ポジティブに。


船旅よりも(わずかではあるが)安全にディフィード大陸へ、

渡れる可能性のある場所へ行くという、

モチベーションを高く保ちながら、

列車に乗り込んでいるのだ。


ゆえに。



「頼むから、少し黙っててくんない?

 聞いてるこっちが不快になるだけだから」



いつまでもネガティブキャンペーンを展開している、

元3番隊長に対してレナ達の感情が、

“怒”の一緒に染め上がってしまうのも、

至極当然な話ではあった。



「はあぁぁぁぁ……」



それでもなお、

ため息をつくことを止めないイグノに対し、



「次ネガティブな行動とったら、

 あんただけファースター行きの列車に乗せて、

 強制送還させるから、覚悟しときなさいよ」



吐き捨てるように言う、怒り心頭なレナの横で。



「しっかしアレだな、

 実際問題としてこの列車でどこまで行くよ?」



この不毛なやり取りを見かねて話題転換、

とばかりにプログが切り出す。



「イグノの話が正しければ、

 海底洞窟にもっとも近い駅は、

 王都サーチャード駅ってことになるが……」


「ファースターの奴らに警戒されている以上、

 その友好国であるサーチャードで降りるのは、

 得策とは言えないだろうな」


「とはいえ、そのひとつ前のイナブン駅じゃあ、

 王都サーチャードですら徒歩で1日以上、

 軽くかかる距離になるぜ?

 そこからさらに海底洞窟まで徒歩となると……」


「1日半近く歩き続ける計算になる。

 それはそれでリスクがあることになるだろうな」


「……お前さん、ンなに冷静に分析してんのさ。

 現実的に考えて、どっちかの選択しかねえんじゃねえの?」


「さあ、どうだろうな」


「いやいや、呆けてる場合かっつーの。

 そろそろマジで考えとかねーと、

 そのうち着いちまうぞ?」



カーッ! と、頭を乱暴にかきむしるプログは、

それまで天才少年へとむけていた視線を、

車窓の外へとむけてしまう。


列車は今、エリフ大陸を走っている。

場所にしてトーテンの町、

乗ったものを死へといざなう、

あの魔術列車ギルティートレインと対峙した町を、

少し過ぎたあたりを、定刻通り順調に進んでいる。


このまま予定通りに進んだとすると、

およそ3時間後には先ほどプログが口にした、

イナブン駅に到着することとなる。


イナブンとは、ウォンズ大陸南西に位置する、

砂漠の中にポツンと位置する、

いわばオアシスのような町である。


ちなみに、

イナブン駅から次の駅であるサーチャード駅までは、

およそ2時間半程度で到着できる。


つまり、今からおよそ5時間半後には、

王都サーチャード駅へ到着してしまう計算になる。


いまだ降車場所を決めかねているレナ達にとって、

5時間半とは決して、悠長に構えていられるような、

長い時間とは認識できない。


ましてや、ファースターと古くから親交があり、

どちらかといえばレナ達に、

アウェーの状況といっていいところなのだから、

なおのことだ。


ただでさえリスクある決断を下している中で、

さらなるリスクの加重を回避するために、

一体どこで、今乗る列車に別れを告げればよいか。


その結論を、出す必要がある。

その必要性を認識しているからこそ。



「呑気に構えている場合じゃねえぞ?

 そろそろ本腰入れて決めとこうぜ」



車窓から視線を切ったプログは、

それまでよりもわずかに引き締まった表情で言う。



「……ま、実際プログの言うとおり、

 そろそろ、作戦を練っておかないといけないわね」



その提案に、レナも素直に同意した。

今、この列車に乗っているのは、

ただの“始まり”に過ぎない。

“始まり”あるところには、必ず“終わり”が存在する。

その“終わり”を、どこに置くのか。


自分たちが、その“終わり”を自由に指定することができるうちに。

つまり何者かがレナ達の行動に介入してくる前に、

それは結論付けておかなければいけないものだった。



「……状況を整理するぞ」



その中で、さすがに呆けることをやめたスカルドが、

俄かに口を開き、



「まず俺たちは絶対的な条件として、

 この列車でウォンズ大陸まで行かなければいけない、

 それはいいな?」


「まあ、そうでしょうね。

 実際問題、それしかウォンズ大陸には行けないし」


「そしてウォンズ大陸に存在する駅は3つ。

 ガーフィー駅、イナブン駅、そして終点であるサーチャード駅」


「実質、選択肢としてはその3つになるということか……」


「いや、違うな」



プログの言葉に対し、スカルドは首を小さく横に振る。


「ガーフィー駅からイナブン駅の間には、

 標高4000メートルレベルの連峰が、

 まるで2つの駅を分断するように連なっている。

 そこを歩いていくのは、ほぼ不可能。

 仮に歩いていくとしたら、

 山越えの重装備の準備をしたうえで、

 5日はかかると思ったほうがいい」


「あらら。

 さすがにそれは無理ね。

 ただでさえ海底洞窟でどれほど時間がかかるかわからないのに、

 5日もそこにかける時間はないわ」


「ってなると、選択肢は2つってワケか」


「いや、それも違うな」


スカルドは再び、

プログの言葉に対してNOを突き付けた。



「確かに駅単位で言えば、

 イナブン駅かサーチャード駅、どちらかの選択となるだろう」

 だが実はもう一つだけ、選択肢がある」


「あー……」



なんとなく、レナは分かった気がした。

駅という人が集まる場所以外で、

降車のタイミングとして考えられる場所。


「イナブン駅とサーチャード駅の間で飛び降りるか、

 って選択肢ね」


「そうだ」



対してスカルドの返答は、

じつに呆気ないものであったが、

逆にそれがレナにとっては、

妙な説得感を覚えるものとなった。


さもそれが、当たり前であるかのように。

当然、それを想定していたかのように。


少年の返答は、ごくごく自然の流れによるものであった。



「いやいやいやいやお前ら、正気でやンスか!?」



だが、それに噛みついたのはイグノ。

冗談でやンスよね、とでも言いたげに、



「列車から飛び降りるって、

 お前ら列車が時速何キロで走っているか、

 分かって言っているでやンスか!?」


「セカルタ駅始発、サーチャード駅行きの列車における、

 最高瞬間時速は114km/h。

 トーテン駅とガーフィー駅間にある、

 エリフ大陸とウォンズ大陸を結ぶヴァラス橋の時に発生する。

 それくらいは当然、頭に入っているが?」


「ガチな返答をするなでやンス!!」


「ガチも何も、それが真実だ」



イグノにしては珍しく、真っ当なツッコミが入ったのだが、

スカルドは一切気に掛けることもなく、



「さらに今、俺とレナで話していた、

 イナブン駅とサーチャード駅間での、

 最高瞬間速度はおよそ88km/h。

 徒歩では山を越えなければいけない故長期日程を要するが、

 駅間で計8つのトンネルを突き進む列車を使えば、

 直線距離で行けばそれほど遠い距離ではなく、

 ゆえに最高速度もそれほど高く設定されていない」


「めちゃくちゃ細けぇ……。

 お前、よくそこまで知ってんな……」


感心、というよりは若干引き気味にプログがポツリと、

何やら口から漏らしているが、

スカルドは気にかけることをしない。



「加えて8つあるトンネルの、

 最後を抜けてからサーチャード駅間に絞って言えば、

 最高瞬間速度は58km/h。

 多少の危険は伴うが、

 それでも走行中に降車することは、

 決して不可能な速さではない。

 ちなみに――」


「いい! もういいでヤンス!!」



知識の波状攻撃に耐えきれなかったのだろう。

イグノは堪らず、声を張り上げる。



「時速何キロとか、

 ンな豆知識なんて、どうでもいいでヤンス!!」


「貴様が納得しないから、

 俺が理論立てて説明したまでだ。

 だが、その様子だとまだ納得しないようだな。

 王都サーチャードから……」


「あーあーあーあー!

 もう納得したでやンス!

 納得納得、超納得でヤンス!!」



スカルドの正確無比、理路整然さに心が折れたのだろう、

イグノは喚くように叫びながら、あっさりと白旗を上げた。


おもちゃと買ってもらえない子どものように、

ほほを膨らませる姿を見る限り、

どうにも納得しているようには見えないが、



「ま、別にいっか」



今のうちに話を進めないとそれはそれで面倒、

と考えたレナは、



「となれば、実質選択肢はスカルドが言った、

 イナブン駅、サーチャード駅、

 その間の走行中の3つに絞ってよさそうね」


「ま、走行中に飛び降りるとか明らかにあぶねぇだろうが、

 ほかに場所がない以上、しょうがねえわな。

 俺は異論ないぜ」



素早く進めた話題に対してプログも空気を読んだか、

すぐさま同意を滑り込ませた。


またイグノがギャーギャー言い出す前に、

とにかく先に、いきたかった。



「俺個人の意見を言わせてもらうなら、

 まずサーチャード駅での降車は選択肢のなかでも、

 もっとも選ぶべきではないものだ」


「まあ、実際そうよね。

 言うなれば敵のど真ん中だし、

 わざわざそこで降りるメリットないもの」


「その返答は同じ認識、ということでいいな?

 ……おいプログ、お前もそれでいいか?」


「ああ、別に構わんぜ。

 さすがにそれくらい俺にも分かるわ。

 サーチャード駅なんて危険すぎるしな」


「次にイナブン駅。

 王都サーチャードと連峰で分断されている地である分、

 サーチャード駅よりは確実に危険度は落ちるが、

 もしクライドがレナ達の動きを警戒しているとしたら、

 イナブン駅も、決して安全な場所ではないだろう」



果たしてレナの意図を汲んでくれたのだろうか、

スカルドはスラスラと、

まるで用意していた原稿を読むかのように、

言葉を並べていく。


対するレナも、



「ま、そうでしょうね。

 っていうよりぶっちゃけ、

 エリフ大陸以外じゃ、

 どこの駅で降りたとしても、

 多少なりとも危険は伴うでしょうね」



会話の中に余計な因子は入り込ませまいと、

間髪入れずにスカルドの意見に同調していく。



「残る一つの選択肢は……」


「途中で飛び降りる、ってヤツよね。

 ま、それはそれで危険なにおいプンプンだけど」



スカルドがすべてを言う前に、

レナは苦笑いを浮かべながら言う。


サーチャード駅、およびイナブン駅での降車は、

今は敵と認識してもよいであろう、

サーチャード関係者に見つかる危険が格段に高い。

それに比べて、駅間の途中での強行降車という選択肢は、

降車の場所を間違わなければ、サーチャード関係者、

というよりクライドの息のかかった者に見つかる可能性は、

駅よりも低くなる。


その部分においては、

わずかに安全とも言えるかもしれない。


だが、人の危険性は薄くても。



「言うても時速60キロ近くの列車から飛び降りるって、

 ソコソコあぶねぇけどな、

 下手すりゃ骨折レベルのケガだって、

 十分あり得るぜ」



まさにそれよね、とレナは、

プログの意見に同調せずにはいられない。


スカルドの言った、時速58キロ。


その前に言っていた時速110キロだの80キロだの、

そこから比べれば遅く感じるかもしれないが、

それでも決して、遅い速さではない。

走る列車から生身の人間が、

クッション性皆無の地面に飛び降りるとしたら。


その衝撃は、ただ単に高いところから降りる、

程度の所業ではない。

よって。



「ま、それはそれで危ないわね」



結局、その結論しか出ないのである。

人の危険はないが、

身体の危険が、そこにはある。


それは避けることのできない予見であって。

その行為をすること、

すなわち確実に訪れる事象である。


しかも、


(プログやイグノはともかくとして、

スカルドはまだまだ子ども体型だし、

あたしも一応、女性だし……)



骨格がある程度屈強であろうプログやイグノに比べて、

スカルドや自分は、決して頑丈ではない。


その中で、飛び降りるという選択肢が、

正しいのか否か。


さらに加えて。



(というよりそもそも論として、

駅じゃないからといって、

サーチャードの関係者が絶対にいない、

なんて保証もないし……)



飛び降りた場所に偶然兵士が、

という可能性だってゼロではない。

偶然そこに兵士がいましたハイ残念、

という程度の話では、済まされない。


考えれば考えるほど、

まるで源泉のように湧き出てくる、

ありとあらゆるリスク。


他の2つの選択肢もとりたくないが、

かといって残りの1つも、

圧倒的に優れているわけではない、

というより五十歩百歩。



「うーん……」



レナの苦悩は、そこからしばらく続いた。

次回投稿予定→2/23 15:00頃

次回はまるそーだの私情により、3週間後の更新となります。

最近、更新が遅れ気味ですみません。。

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