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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
209/219

第205話:それは、海底洞窟

「……やはりか」



レナが言葉を発する前、

すでにスカルドはその言葉を口にしていた。



「あれ、もしかして予想していたでやンスか?」


「当然だ。

 元7隊長であるお前が世界地図にも載らない、

 そのような隠された場所を知っていて、

 しかもそれが人工的に作り出されたものだとしたら、

 ファースター関連の人物が作ったと考えるのが自然だろうが」



まあ、そうよねと、

レナもスカルド同様、

その事実にそれほどの驚きはなかった。


ウォンズ大陸とディフィード大陸を繋ぐ、

秘密裏の海底洞窟。

それを作り出したのが、

ワームピル大陸の王都ファースターを統べる騎士総長。


その事実を突き付けられたところで、

今のレナ達には刺して衝撃度の高いものではなかった。


とはいえ。



「ちょっと待った。

 色々とツッコみどころがあるんだが、

 そもそもクライドは、

 何の目的でその洞窟を作ったんだ?

 ウォンズ大陸とディフィード大陸を繋ぐ洞窟なんて、

 意図がさっぱり分かんねえぞ?」



衝撃度が高くないからといって、

なんら疑問点がない、ということではない。

プログは、いち早く声を張り上げる。



「それだけじゃない。

 クライドの野郎がそれを作ったのは分かったが、

 それってウォンズ大陸の人たちは知ってんのか?

 いくらファースターとサーチャードが、

 古くから親交のある都市同士とはいえ、

 そんなバカでかい洞窟を作るんだったらさすがにサーチャードに、

 許可の一つや二つくらいとっておかねえと、

 いい顔はしないんじゃねえか?」


(まあ、実際そうよね。

ディフィード大陸側に許可を取る行為は、

ほぼ無意味に等しいけれど、

ウォンズ大陸側にはせめて、

許可や申請の類を通しておかないと、

国家としての信頼度が下がるもの)


口にこそ出さなかったものの、

一気に疑問点を吐き出したプログの提起について、

レナもほぼ、異論はなかった。


目的、そして許可。

その二つはレナもすぐに、

違和感を覚えた部分だった。


たとえば、AさんとBさんがいたとする。

この2人は友達同士でふだんから隠し事などなしに、

腹を割ってなんでも話し合えるほどの親密な仲である。

その中である日、AさんがBさんに対し、

何の相談もなくいきなり、

Bさんの家に勝手に入り込んだと言ったら。

当然、Bさんはいい表情をしない。

何せ自分のプライベートな部分に、

本人の許可なしに平然と入り込んできたのだ、

それはいい気分がするはずもないだろう。


規模は違えど、今回の件はそれとほぼ同様だ。

許可をとっているというのなら、

何ら問題はない。

だが、もしそれを取っていないとするならば。


それは国家間での信頼関係を根本から崩しかねない、

重大な懸案事項へと変貌することとなる――。



「……とりえず、

 一つずつ問いに答えるでやンス」



その中でイグノは、一切の表情を変えることのないまま、



「まず許可の件でやンスけど、

 王都サーチャードには、ちゃんと許可は取っているでやンス。

 サーチャードとファースターは古くから、

 親交の深い都市同士でやンスからね、

 それほど大きな施設を作るとしたら当然、

 事前に申し合わせはしているでやンス」


「まあ、そうだろうな。

 それほどの大規模な人工物を作るとなれば、

 どれほど秘密裏に進めようとしてもよほど怠慢な国家でない限り、

 いずれは見つかるだろうからな。

 ファースターの騎士総長もそこまでバカじゃない、

 といったところだろう」


「ちなみに、ディフィード大陸側でやンスけど……」


「無論、許可などとっていないだろ?

 今まで孤独の大陸を貫いてきた歴史背景がある中で、

 洞窟を通させてくれ、などと言ったところで、

 拒否されるのは目に見えているからな」


「……スカルドの言う通りでやンス。

 ディフィード大陸側には許可どころか、

 一切連絡もしていなかったでやンス」


「当然だな。

 何かしらの一報を入れれば、

 ディフィード大陸に警戒心が生まれる。

 変に警戒心を持たれるくらいなら黙って作ってしまえ、

 そのような考えだったんだろうな。

 フン、お偉いさんの割に随分と姑息な考え方だな」



おおかた予想通りとでも言いたげに、

スカルドはガムを口の中でモゴモゴさせながら、

涼しげな様子で言う。


まあ、それはそうよねと、

しっかり許可だけは取っていた事について、

レナもそう感じつつ、

さてそしたら次へと考えていたところ、



「次に、その海底洞窟を作った目的でやンスけど」



レナが言わずとも、

イグノは再び、口を開いた。



「ズバリ一言で言ってしまえば、

 スパイ行為をするためでやンス」


「……スパイ行為?」



ピクッ、とレナの眉が少しだけ動く。



「そうでやンス。

 ディフィード大陸が外界を遮断した場所である以上、

 ディフィード大陸に関する、

 一切の情報は入ってこないでやンス」


「ま、そうだわな。

 俺やレナは一度だけディフィード大陸へ行ったことがあるが、

 普通じゃあ、なかなか行ける場所でもねえし」


「どうしても情報が欲しければ、

 直接足を運んで情報収集するしかないでやンス。

 でも、大陸で繋がっている場所がないディフィード大陸へ行くには、

 船を使うしか方法が無いでやンス」


「ただ、船で行くとなると危険がいっぱい――ってことかしら?」



そうでやンスと、

レナの言葉にイグノは小さくうなずき、



「船で行くとなれば、

 船旅という基礎リスクに加えて、

 無許可でディフィード大陸の管轄地へ入ることになるでやンス。

 そうなれば……」


「果たして、どんな攻撃や仕打ちを喰らうか。

 とりあえずボコボコにされるのは間違いないわな」



そうでやンスと、

プログの言葉にイグノは再び小さくうなずくと、



「船で行こうとすれは、

 数知れないほど、危険が潜んでいるでやンス」


「……だから別の方法でディフィード大陸へ行く方法を考え、

 その考えの果てに思いついたのが、

 海底洞窟を完成させる、という事か。

 フン、方法がなかったとはいえ、

 随分と大胆なことをしたモンだ。

 騎士総長とかいうヤツは、

 よほどバレない自信があったか、

 はたまたただの怖いもの知らずの馬鹿か、だな」


「そう言うなでやンスよ、スカルド。

 騎士総――、もとい、クライドはそれくらいなら、

 平気で実行に移すやつでやンスよ」



苦笑いの中にも、

わずかながらに、どこか誇らしげな表情を見せるイグノ。

それは元上司の成した業についての、

満足感から導き出されたものだろうか。


レナには、何とも判断がつかなかった。



「しっかしアレだな、

 スカルドの言うとおり、

 クライドの野郎も随分と思い切ったことをしたな。

 それこそドルジーハにバレたら、

 ソッコーでぶっ壊される気がするけど」


「もっともな意見ね。

 クライドがドルジーハの人物像を、

 どこまで把握しているか知らないけれど、

 もしその海底洞窟を見つけられたりでもしたら――」


それこそ宣戦布告とかしてきそうと、

レナは割と本気で思える。


ディフィード大陸の王都キルフォー。

そのキルフォーを統べる総帥ドルジーハ。

他の者を一切受け付けず、

己の主義を一切曲げようとしない、

耳を傾けようとしない、歪んだ頑固。


その歪な人間性を、

レナは嫌という程思い知らされている。

だからこそ、確証をもって言えること。



「たぶんドルジーハのヤツ、

 ノーモーションで戦争とか吹っかけてくるわよ?」


「俺もそう思うわ。

 俺とレナがドルジーハに会いに行った時もあの野郎、

 他大陸からの干渉は徹底排除で、

 敵意むき出しな感じだったしな。

 もしコッソリ抜け道的なモンを作られていたと知った日にゃ、

 なりふり構わず排他的主義を振りかざしてきそうだぞ?」



続いて発したプログの言葉についても、

レナはほとんど同意をすることができた。


徹底的に、排他を貫く。

その信念をゆく者がとるであろう選択。


そこにはおそらく、

いや、間違いなく調和という単語は存在しない。

自己防衛。

たぶんその単語しか、存在しないだろう。


そう考えうるほどにアイツには、

ドルジーハには実行動があるのだから。



「――あくまでも仮定の話だが」



と、ここでそれまでしばらく口を閉ざしていたスカルドが、

おもむろに口を開き、



「もしかしたらクライドは、

 それが狙いだったのかもしれないな」



その言葉だけ、ポツリと呟く。



「……どういうことよ?」



まるで水に飢えた子どものようにレナはすぐさま、

その言葉を掬い上げた。


ドルジーハが好戦的な態度をとることが、

クライドの狙い。

その推察は、

決して聞き流しレベルで済ませてはいけない、

非常に重大な事項である。


しかもそれがスカルドという、

セカルタが生んだ天才少年が発した言葉だとしたら、

なおさらだ。

決して思い付きで、発したわけではないだろう、

その仮定。


ああそうかもね、という言葉だけで、

流すわけにはいかなかった。



「レナ、もう一度確認しておくが――」



少女の問いに対し、

スカルドはそう前置きしたうえで、



「執政代理であるレイはクライドが、

 ディフィード大陸に対して軍事行動も辞さない考えだと、

 確かに言ったな?」


「え、ええ。

 レイが言っていたからたぶん、

 間違いない情報だと思うわ」


「そうか。

 ……おい、道化。

 クライドがその海底洞窟とやらを繋げたのは、

 いつくらいの話だ?」


「確認でやンスけど、

 道化って俺の事でやンスか?」


「お前以外に誰がいる。

 サッサと俺の質問に答えろ」


「……無茶苦茶でやンスね。

 まぁそれはともかく、

 俺も正確な時期は覚えてないでやンスけど、

 割と最近の話……ここ2、3か月くらいだったと思うでやンス。

 もっとも、計画自体は1年近く前から、

 持ち上がっていたでやンスけど」


「計画で1年前か、明らかに急いでいるな。

 ……あれほど長い洞窟なら、もう少し……。

 それをたった1年……」



それまでまるで脅迫の如く、

レナやイグノに質問を投げつけていたスカルドだったが、

今度は一転して、自分の世界へと入り込んでしまう。



「……あの、天才少年くん?

 あたしの質問はどこぞへ?」



クライドの狙いとはどういう事かという、

自分のとても重要な質問をもしや完全無視されたのではと、

一応レナは今一度、質問の存在を示しておく。


天才少年であるスカルドに、

状況の推察をしていただくのは悪い事ではないのだが、

でもレナにも気になり、聞いておきたいことがある。



「フン、慌てるな。

 急いては事を仕損じるぞ」



レナの主張の甲斐(?)もあり、

どうやらスカルドは質問を覚えてくれていたようで、



「……。

 あくまでも、俺の仮定ではあるが――」


そう言ってスカルドはペッ、

と口に含んでいたガムを忌々しそうに吐き捨て、



「クライドは首脳会議の結果を問わず、

 ハナからキルフォーに対して、

 軍事行動を起こすつもりだったかもしれんぞ」


「……マジ?」


「確証はない。

 だが、有り得なくはない」



怪訝な表情を隠さないレナに対し、

いたって冷静な表情でスカルドは再び、

とんこつ味のガムを口に放り込むと、



「10数キロメートルの海底洞窟を作るとなれば、

 国を挙げた一大プロジェクトとなるはずで、

 そこには膨大な労働力と予算が必要になる」


「まあ、そうなるわよね。

 人とカネ、

 どちらが不足しててもダメでしょうし」


「そうだ。

 そして莫大な人とカネが動く以上、

 決して失敗は許されない」


「そうでしょうね。

 一度でも失敗したら、

 その損失額は計り知れないものになるし」


「計り知れないどころか、

 下手をすれば国家の根幹を揺るがしかねない、

 それくらい巨大な構築物だと、俺は踏んでいる。

 ……にも関わらず、だ」


「あー……」



そこまで聞いて、

レナもようやく、“違和感”に気づいた。



「それにしては、

 期間が短すぎるのでは、ってワケね」


「そうだ。

 それほど大掛かりなプロジェクトを、

 たった一年で済ませるなんて、

 明らかに不自然だと思わないか?」


「言われてみれば……」



そんな気がしなくもないわね、とレナは考える。


国を挙げたプロジェクトにおいて、

構想から完成までにどのくらいの期間を要するのか、

レナはその正確な日数を知らない。


だが少なくとも、

たった1年ですべてを終わらせることができる、

そのような簡単なものではないことくらいは、

すぐに判別できる。

事業骨子の作成に始まり、

計画の概要から予算の算出、

人手の確保や資金調達。


それらの必要行程を考えただけでも、

真っ当に事業を進めようとするならば、

1年などあっという間に過ぎてしまうはずである。


ましてや、ある意味“敵”と認識できるであろう、

ディフィード大陸の王都キルフォーに気づかれることなく、

秘密裏に事を進めようとするならば、

通常の所要期間よりもさらに長い期間を要することを、

覚悟しなければならないだろう。


にもかかわらず、クライドはたった1年で、

その海底洞窟に関するすべてを、完成させた。


もしイグノが言ったことがすべて真実だったとしたら。


その計画、行程は間違いなく、

急ピッチで進められたことになる。


それを知ったうえで。



「確かに、違和感はあるわね……」



レナがそのような疑念を持つのに、

それほど時間はかからなかった。


クライドは明らかに、

その海底洞窟の完成を急がせた。


その、真意は――。



「ディフィード大陸へ軍事行動も辞さない構えと、

 そこへ通じる海底洞窟……」



その事実を、組み合わせて。



「まさか……必然なのかしら?」



一言、レナはポツリと、

絞り出すように呟いた。


次回投稿予定→1/18 15:00頃

今年の更新は今回が最後になります。今年もありがとうございました。

なお、来年1発目は3週間後になります、間隔があいてしまってすみません。。

それでは皆様、よいお年を。

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