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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
206/219

第202話:列車の中にて

「……という訳で、

 なんやかんやあって俺達は今、

 列車に乗っていて、

 もうそろそろエリフ大陸に、

 別れを告げようとしているわけだが


「待った待った、ちょっと待った」



なぜかは良く分からんが、

タコ足配線で乱雑としたコードを強引に束ねるように、

とりあえず話をまとめようとしたプログに対し、

レナはすかさず横やりを入れる。



「なに、その適当な話のまとめ。

 てか、なんやかんやじゃ、

 話が一つも見えてこないじゃない。

 それにエリフ大陸に別れを告げるとか、

 ものすごい大事なことをサラッと流してるし」


「あん? 別にいいじゃねーか。

 全員納得してこうなったんだから、

 別に諸々サラッと流したところで……」


「ちょっと待つでやンス!

 全員とか言っているでやンスけど、

 俺がいつ、今の行き先に納得したでやンスか!?」



快調に線路をひた走る列車の中、

今度はイグノがしびれを切らしたように、

声をあげる。



「アルトム達と合流するために、

 ウォンズ大陸を経由してディフィード大陸で向かうなんて、

 無茶にも程があるでやンス!

 しかもウォンズ大陸王都のサーチャードまで列車で行くって、

 正気の沙汰とは思えないでやンス!!」



どこかの血管が破裂するんじゃと思うくらいに、

顔を真っ赤にしてイグノは大声を張り上げるが、



「ご丁寧な説明ありがとさん。

 おかげで俺が説明する手間が省けたわ」


「あんたも少しは役に立つわね」



元ハンターと二刀流の金髪少女の2人は、

いたって涼しい顔で、平然としている。



「っていうか」



いや、それだけにとどまらず、



「そもそもサーチャード大陸から、

 ディフィード大陸へ行くことのできる抜け道がある、

 って話してたの、他でもないあんたじゃないの」



教科書通りのカウンターパンチとばかりに、

レナは表情一つ変えずに言う。




レナ、プログ、イグノ、そしてスカルド。

4人は今、列車の中にいる。


乗車したのは、エリフ大陸の王都セカルタ。

そして、降車予定は――ウォンズ大陸の王都、

サーチャードである。


この世界、グロース・ファイスには、

4つの大陸が存在する。


1年を通して比較的温暖な気候が特徴の、

ファースターを王都に置くワームピル大陸。


1日の寒暖差が激しい特性を持つ、

セカルタに王都を構えるエリフ大陸。


1年中雪に覆われて厳しい寒さが襲う、

キルフォーを首都とするディフィード大陸。


そして、サーチャードが王都のウォンズ大陸。

エリフ大陸の北に位置するウォンズ大陸は、

1年のほぼすべてが気温30度を超えるという、

ディフィード大陸とは真逆の性格を持っており、

大陸の半分近くの面積を砂漠が埋めるという典型的な高温地域だ。


だが、かといって圧倒的な水分不足であるかと言われると、

その答えはNOとなる。


ウォンズ大陸のもう一つの特徴、

それはスコールである。


1日に必ず1回、と言い切っていいほど、

ウォンズ大陸には恐ろしいほど頻繁にスコールが降る。


しかも、その降雨量は、

他大陸の人が考える、

想像をはるかに超えている。


まるで“滝のような”という表現を絵に描いたような、

人が立てば数秒程度で全身ずぶ濡れになってしまうレベルの、

おびただしい量の雨が、

短い時で1~2分、

長い時でも10分程度の時間に集中して降る、

それが、ウォンズ大陸という場所である。


エリフ大陸やディフィード大陸とはまた性格の違う、

そんな“数奇”な場所である大陸をめがけて、

レナ達は列車の旅を進んでいる。



「確かに抜け道があるとは言ったでやンスけど、

 それが最適とは一言も言ってないでやンスよ!」



レナのカウンターパンチに対し、

イグノはまるでおやつを没収された子どものように、

ふくれっ面を見せているが、



「ハイハイ、ソウデスネ~」



心底面倒そうに、

カックカクの言葉でレナは、

その主張を適当にあしらう。



レナ、アルト、プログ、ローザ、フェイティ、スカルド、蒼音。

彼女ら個々が旅を始めるに当たり、

当初に成し得たかった目的は、7人すべて違うものだった。


レナは、国に追われて命を狙われる偽りの王女ローザを助けるために。

アルトは、幼くして生き別れた母、ヴェールを探すために。

プログは、過去の“少女”に託された、ある約束を果たすために。

ローザは、自分が何者であるかを知るために。

フェイティは、突如行方不明となった最愛の息子、セントレーを見つけるために。

スカルドは、家庭の、自分の未来を奪った者達への復讐を遂げるために。

蒼音は、意志を持つことのできない自分を変えるために。


それぞれが、違う決意を持っていた。

でも今は、7人の進むベクトルがすべて重なっている。


そのベクトルが重なる要因を作った、

重要なキーワードが、“クライド”。


クライドはローザの命を狙う存在であり、

ヴェールの情報を匂わせた事もあり、

過去の因縁のカギを握っており、

偽りの王女と言うレッテルを貼り、

セントレーという言葉に反応した7隊長の一人であるナナズキの上司であり、

復讐の相手であるファースター政府の最高責任者であり、

意志について考えるきっかけをつくった魔物の生成者、ファルターの同志でもある。


7つの別地点から、別方向へ伸びていたベクトルは、

様々な軌道を描きながらもクライドという、

強大な“点”の出現により、

ベクトルが現在、同じ方向へと確かに進んでいる。


その過程の中で、7人はエリフ大陸の王都、

セカルタにて一堂に会し、

そして熟考の結果、別行動をとることを決断した。


ローザを護るため、

アルト、フェイティ、蒼音、そしてローザ本人は、

はるか遠方のディフィード大陸へと渡ることを選択した。


残されたレナ、プログ、スカルドの3人。


その中でレナは一人、

クライドが自ら首領であると宣言した列車専門の犯罪集団、

シャックの手がかりを探るためにエリフ大陸に残ることを選び、

一方のプログとスカルドは2人でワームピル大陸へ渡り、

クライドが3国首脳会議に出席するため、

王都ファースターを不在にした隙に王都の様子を探り、情報を集めた。


途中、予期せぬ出会いもあった。


レナは7隊長の職を解かれた元3番隊隊長イグノと再び相まみえ、

プログとスカルドは7番隊隊長、リョウベラーと初めて顔を合わせた。


そしてその出会いは吉と凶、相対する効果を生む。


かつての部下から襲撃を受けていたイグノを、

(あえて)助けたレナと、

表の社会から存在を殺し秘密裏に活動していたなか、

リョウベラーとの遭遇により、

強制的にその存在を把握されてしまった、プログとスカルド。


その結果。


レナはイグノを用心棒兼情報源として仲間に引き込むことに成功し、

プログとスカルドは情報収集こそできたものの、

秘密裏に動くというミッションが、完全なる失敗に終わった。


別行動による、メリットとデメリット。

その双方を享受することとなった3人と1人は、

その後再合流し、情報共有を行いながら次なる道を模索した。


次はどこで、いつ、何をすることがベストなのか。



その中でレナがポツリと呟いた、

アルト達と合流するという、一つの案。


先にディフィード大陸へと渡る、

アルト達の後を追う。


その中でイグノの口から飛び出したのが、

新たな道の可能性だった――。




『ディフィード大陸に渡る、でやンスか?』


『選択の一つとしては、考えられるものよね。

 ……予定通りなら、あと数日くらいで、

 3国首脳会議を終えたクライドが、

 王都ファースターへと戻るはず』


『まあ、アイツがファースターに戻るとなると、

 少なくとも俺達が王都ファースター、

 いや、ワームピル大陸に渡るのは、

 かなりリスクある行動になってくるわけだな』


『……それだけじゃない。

 おそらくクライドとかいう野郎は、

 俺達がエリフ大陸にいることに気づいている。

 となれば、セカルタ政府に対して、

 何らかのアクションを起こす可能性は高い。

 そうなると――』


『エリフ大陸も安全な場所とは限らない、

 でやンスか……』


はぁ、と。

レナとプログ、そしてスカルドの言葉に、

イグノは小さくため息をつきながら言う。


『ま、どこへ行っても危険なのには変わりないけど、

 少なくともあたし達の行動範囲は、

 これからめちゃくちゃ小さくなるわね、

 ホントに面倒くさい事ばっかり』



そう言って自虐気味に笑う、

レナ自身も実際、

その危険性を看過することはできない。



3国首脳会議を提案したのは他でもない、

クライド本人だ。

そこにはきっと、

自らの目的を果たすうえで、

何らかの意図、意味があるはず。


だからこそ、己の発案である首脳会議を終えたあとに、

次なる行動を起こすという可能性は、

もはや必然レベルに近いくらいに高い。


また、直接に対面こそしていないものの、

クライドはおそらくレナ達がエリフ大陸を拠点に、

活動していることを、すでに気づいているだろう。


そうとなれば、ファースターに戻ってから、

エリフ大陸や王都セカルタ、

あるいは現セカルタ政府の最高責任者であるレイに対して、

何らかのアクションを起こす可能性がある。


故にレナ達がこのままエリフ大陸に留まる事が、

決してベストな選択とは言えない。


そのうえ無論の話ではあるが、

クライドの戻った王都ファースターが属する、

ワームピル大陸など、行けるはずもない。


それはまるで徐々に逃げ道を奪い追い詰めていく、

崩れ落ちる崖のように。

レナ達のとれる選択肢が、

自分達の知らないところでなくなっていく感覚。


それはたまたま起きたものか、

はたまた敵の思う壺なのか。

それを紐解く明確な要素はない。


だが、事実として突き付けられている以上、



『少なくともここからは、

 移動しないとマズイわね』



その結論だけは、動くことがない。

制約の中でも自由に動ける、

ある意味“至福”の期間は、終わった。

これからは、また見える敵と見えない敵と戦う、

その日々に、戻ることになる――。



『しっかしアレだな、

 実際問題としてここからどうするよ?

 レナの言うように、

 このままここに居続けることは危険だし、

 早いとこ行き先決めて動いていかねぇと、

 クライドの野郎、何してくるかわかんねぇぜ?』



そんな中、プログはどうにも浮かない表情で、

深くため息をつく。

とにもかくにも、話はそこからであり、

それを決めない限り、何も先には進まない。



『でも、かといって動ける選択肢は、

少ないのが現状よね』



同じく眉間にシワを寄せた表情で、

レナはそう切り出し、



『ワームピル大陸とエリフ大陸、

 2つの大陸を選択肢から外すとなると、

 あと行けそうな場所は、ざっくり言えば3つ。

 ウォンズ大陸、ディフィード大陸、

 そして七星の里、この3つと考えていいと思うの』


『確かに七星の里も選択の一つっちゃ一つか。

 まあ、蒼音ちゃんがいない状況で、

 行ったところでほぼなんの意味もないだろうが……』


『正解。プログの言うとおり、

 この中で蒼音の生まれ故郷である七星の里は、

 今行ったところで、何の効果もないわ。

 となると、現実的に行先はウォンズ大陸とディフィード大陸、

 2つに絞られるワケ。

 とりあえずここまではスカルドもイグノも、

 納得しているって事でOKかしら?』


『俺に異論はない。

 ワームピルとエリフ、

 両大陸とも全域が危険という訳ではないだろうが、

 少しでもリスクの降りかかる可能性があるのならば、

 離れた場所に身を置くのがベストだろう。

 それに俺が七星の里に行ったことがない以上、

 行ったことのあるお前らの方が情報は正しいだろうからな』


『……同じく、俺もOKでやンス。

 たしか、七星の里にはクライドも、

 それほど兵力をつぎ込んではいなかったでやンスし、

 行ったところであんまり意味がないと思うでやンス』


『それでもシキールとアーツは八雲森林にいたけどね。

 ま、それはどうでもいいとして、

 そうなると、残るは2つの選択肢だけど――』



そこで一旦、レナは言葉に詰まり、

そして、



『ぶっちゃけ、

 どっちも危険度は変わんないのよね……』



再び表情が曇ることになる。


先ほどから行き先の大陸ばかりに考えが偏っている、

その事にレナももちろん気づいてはいるのだが、


(行った先の大陸でやること、やれることはいくらでもあるし、

まずはどこに行くべきかについて考えた方がいいわよね……)


その想いに基づき、まずは行き先について、

考えてみる事にしている。


ウォンズ大陸と、ディフィード大陸。

選ばれたこの2つ大陸はそれぞれ、

行き先として決定するにおいて、

互いより“より良い”メリットと、

“より悪い”デメリットが存在する。


ウォンズ大陸はディフィード大陸に比べ、

レナ達の顔が知られている割合が圧倒的に低いという、

大陸内を動き回るには最適なメリットがある。

顔が知られていない以上、

どのように動いても怪しまれることはない。


だが、その一方で、

ウォンズ大陸の王都サーチャードは、

ワームピル大陸の王都ファースターと、

古くから親交の深い関係で結ばれている背景があり、

もしウォンズ大陸で捕まるようなことがあれば即、

王都ファースターへ強制送還されるという、

致命的なデメリットもある。


かたやディフィード大陸は、

今まで単独での繁栄を選んできた事実があり、

仮に捕まるようなことがあったとしても、

いきなりファースターへ連れ戻されることはなく、

失敗すなわち終了という、

ある種博打的な一発勝負を避けるメリットがある。


しかし、レナとプログはディフィード大陸を統べる、

総帥ドルジーハに顔を知られてしまっているという、

決定的なデメリットがあり、大陸内での移動、

特に王都キルフォーにおいて制約が出来てしまっている。


長所と短所。


どちらを選んでも、

ノーリスクノーリターンは、ない。

それはベストの選択ではなく、ベターでしかない。



『うーん……」



だが、選ばなくては、いけない。

どっちに進んでも負け戦、

とまではいわないが、

それでも明るい未来と道は開けている、

などという晴れ渡ったものでは決してない、

先の見えない曇りがかった、2つの道。


さて、マジでどうしたものかしらと、

レナが眉間にシワ寄せ思案にくれていると、



『……オイ』



意識の横側からふと、

スカルドのぶっきらぼうな声が飛び込んでくる。


ん、どしたの? と、

レナがスカルドの方へと顔を向けると、


『行先で悩むのは悪いアプローチではないが、

 リスクとリターンがどちらもほぼ変わらないのなら、

 俺はディフィード大陸に行くべきだと思うが?』



天才少年はミソ味のガムを口に含みながら、

まるで獲物を狙う鷹のような鋭い眼光を、

年上のレナへと返した。


次回投稿予定→12/1 15:00頃

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