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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
205/219

第201話:ナナズキの過去

『お忙しいところ、また、

 長旅でお疲れのところ、大変失礼致しました。

 騎士総長様の貴重なお時間を阻害しましたこと、

 罰ならいくらでも受けます』


『いや、気にしなくていい。

 ナナズキ、君にも迷いがあって、

 どうしてもそれを解決したくてここへ来たのだろう?

 それについて私がどうこう言うつもりはないよ』


『騎士総長様……!

 ありがとうございます!

 このご恩、今後決して忘れはしません……!』


『ずいぶんと大げさだな。

 そこまで畏まる必要はない。

 ……期待しているぞ』


『はい……! 

 それでは失礼いたします――』





そう、本来ならば、

ここでクライドとの会話が、

回想が、ナナズキの迷いが終わるはずだった。

勢いよく頭を垂れたナナズキがそのまま、

騎士総長様の部屋を退出すれば、

ナナズキの迷いの事象はすべて消失する、

そのはずだった。


だが、回想には、まだ続きがあった――。





『待て、ナナズキ』


『はい?』


『ちょうどいい。

 ……そろそろ、頃合いだろう』


『? 騎士総長様、どうされましたか?』


『いや、なんでもない。

 ちょうどいいからナナズキ、

 私の質問に一つ、答えてくれないか?』


『? はい、わかりました』


『君は今までに何度か、

 レナと顔を合わせているな?』


『!』


『私はレナとその仲間を捕え、

 このファースター城へ連れて帰ってくることを、

 任務として与えていた、そうだな?』


『そ、それは……!』


『勘違いしないでほしいが、

 仮に顔を合わせていたからといって、

 任務を果たしていないなどと非難するつもりは毛頭ないし、

 無論、懲罰などを与えるつもりもない。

 だから、正直に答えてほしい。

 すでに彼女と、面識があるか否か、をな』


『……。

 騎士総長様のご指摘の通り……です』


『やはり、か。

 まあもっとも、お前ほどの能力があれば、

 一度くらいはすでに足取りを掴んで、

 顔を合わせているとは思っていたが』


『も、申し訳ございません!

 騎士総長様を欺くつもりは……!』


『慌てるな、ナナズキ。

 さっきも言っただろう、

 それについて問いただすつもりはない、と』


『……ッ!』


『それよりも、

 私が聞きたいのは別の事だ』


『何の……ことでしょうか?』


『彼女と会った時に、

 何か感じるものはあったか?』


『え……。

 感じるもの、ですか?』


『そうだ。

 言葉やしぐさ、雰囲気。

 ……何なら戦ってみての感触でもいい。

 何か、君なりに感じるものはあったか?』


『えっと……申し訳ございません、

 少し話の本質がみえづらくて、

 その、理解が……』


『すまん、少し抽象的だったな。

 ならば、難しく考えなくていい、

 彼女と……レナと会ってみて、

 どのような印象を持ったか、教えてくれないか』


『印象、ですか。

 印象……印象……うーん……』


『……いや、もしなかったのなら、

 無理に探し出せとは言わないさ。

 特に何もなかったのであればなかった、でいい』


『そうですね……。

 これといって強くは印象には残っていませんが、

 あ、でも……』


『どうした? 何かあったか?』


『印象、というよりは何というかこう、

 言葉では表現しにくいのですが、

 私と似ているのかな、とは感じたかもしれません』


『……どういうことだ?』


『申し訳ありません、具体的に何が、

 というものはないのですが、

 でも何か、佇まいというか雰囲気というか、

 フィーリング? のようなもので似たものを感じた、

 ような気はしました』


『ふむ……』


『あ、でも!

 決して彼女の考えに賛同するとか、

 行動を共にしたいとか、

 そのように考えが変わったわけでは……!』


『分かっている。

 私もそこを疑うつもりはない。

 そのような考えがないからこそ、

 今、この場で話してくれたのだろう?』


『は、はい!』


『なるほどフィーリング、か。

 やはり、お前とレナは、

 何か通ずるモノがあるというのか……?

 いや、でも直接に関係している訳でもないのに、

 そのような事が果たして、有り得るのか……?』


『? 騎士総長様?

 どうされましたか?』


『あ、いや、なんでもない。

 こちらの話だ。

 それよりもナナズキ、ちょうどいい機会だ、

 君に一つ、話しておきたいことがある』


『? 何でしょうか?』


『良く聞いてほしい。

 これから伝えることは君の今後の活動において、

 非常に重要な意味を持つものだ』


『?』


『だからこそ、話を聞く前に一つだけ約束してほしい。

 これから君に伝えることは、

 敵にはもちろんのこと、

 他の7隊長達には、絶対に口外しないでもらいたい』


『え……?』


『たとえ私やお前がどのような状況になったとしても、

 今から伝えることは決して、他人に話してはならない。

 それを約束してほしい』


『他の7隊長ということは、

 ナウベルにも、という事ですか?』


『もちろんだ。彼女に対しても禁止だ』


『……分かりました。

 どのような内容であれ、騎士総長様以外には、

 決して口外しないことを約束します』


『ありがとう、助かる。

 といっても他の者に話したところで、

 ほとんど理解はしてもらえない事ではあるのだが、な』


『? それはどういう……?』


『ナナズキ。

 私から君に伝えたいことは他でもない、

 君の過去に関することだ』


『! 私の……!!』


『そうだ。今までお前の事を思い、

 あえて語らずにいたが、

 お前も成長し、強くなった。

 もう、伝えてもいいだろう』


『騎士総長様……!!

 まさか、私の過去をご存じで!?』


『ああ。過去どころか、

 君が生まれてから、

 今、7隊長を務めている、

 この瞬間まで、私はすべてを知っている』


『お、教えてください!!

 私は一体……!!』


『慌てるな、ナナズキ。

 この程度で……話の冒頭部分程度で、

 それほど動揺するなど、

 7隊長としてあってはならない姿だぞ』


『も、申し訳ありません。

 ですが……!!』


『気持ちは分かるが急くな、ナナズキよ。

 そのような心構えでは、

 せっかく話したところで、

 すべてを受け入れる準備ができないではないか』


『……、確かに仰る通りです、

 取り乱してしまいまして、申し訳ございませんでした』


『分かってくれたのなら、よい。

 別に私とて、出し惜しみをしているわけではないからな。

 それはさておいて……そしたら、落ち着いて聞いてほしい。

 たとえどのような事実が待ち受けていたとしても、

 決して心を動揺させるな、ナナズキよ』


『は、はい』


『……決して、私はウソなどつかない。

 これから私が話すことは、すべて真実だ。

 それを絶対に、忘れてはならんぞ』


『……』


『端的に言おう、

 ナナズキ、実はお前は――』





(…………)



それ以降のことは、ほとんど覚えていない。

物語の核心を告げたのちのクライド騎士総長様は、

何やら補足説明などを行っていた気もするが、

その内容はほとんど、記憶に刻まれていない。



(――――ッ)



放心状態。

喜ぶことも、怒ることも、

悲しむことも、楽しむことも、ない。


そこにあったのは、無の感情。


人間が表現しうる、ありとあらゆる感情の、

どこにも属することのない、ゼロの思考。


その瞬間、

少女の、ナナズキの思考は確実に止まっていた。


それほどまでに、

その史実は彼女にとって、青天の霹靂だった。



「……何、それ」



無を突き破り、そう呟きながら彼女は鼻で笑った。


一体、誰に対して笑ったのか。



「意味、わかんないんだけど」



もう一度、彼女は皮肉な様子で笑む。

だが、おそらくその所作は、

誰かに向けて見せた行為ではない。


自分自身。



「……そんなの、信じられるわけないじゃない」



自分が、自分に対して、笑う。


それは、面白いとか、楽しいとか、

そのような感情から誘発されたものではない。



「信じられる……わけ……」



どこにも行き場のない、

不安定で、不釣合いで、

まるで数多の感情と言う名の色が、

マーブル状に混ざり合ったかのような、

不確定な心情。



「ない、じゃない……」



絞り出すように零れ落ちた、その言葉。



「なによ、それ……」



そして再びその言葉を発した、

その顔には先ほど見せた笑みは、どこにもない。


信じられない。

信じられるはずがない。

信じたくもない。


信じられることも、信じたくも、なかった。



「――――ッ」



確かに、知りたいことではあった。

疑問には、感じていた。

でもまさか、このような形で、

それを知ることになる、とは。


しかも、ナナズキ本人が、

いや、この世界、グロース・ファイスに生きる、

すべての人が想像し得ない、

恐ろしく、それでいて悲しい史実を合わせて。



「――確かに、知りたかったけど……」



思いを反芻するように、

ナナズキはポツリと呟く。

先ほど発したものと、

ほぼ同じ言葉をなぞり合わせて。



「疑問には思っていたけど……」



まるで小学生が一度引いた線を、

鉛筆で再びなぞるように。

彼女は呟いた。


そして、それは。



「でも、こんなの……」



そう易々と、

受け入れられるはずがなかった。


辺りは、だいぶ薄暗くなってきた。

王都ファースターがあるワームピル大陸は、

年間を通して温暖な気候が特徴の地域であり、

1日の寒暖差が激しいエリフ大陸とは違い、

太陽が大地に沈みかけているこの時間でも、

それほど気温が落ちることはない。


陽は徐々に、

地平線へとその姿を消しつつある。


だが、まだ夜は来ない。



「――――」



王都ファースターに戻るつもりは、ない。

レナ達を追い、

そしてシャックの真相を突き止めるという、

2つの任務を遂行するためには、

今日中に列車でエリフ大陸へ渡る必要がある。


だが、少女が進める歩みは、

いまだ目的地を決していない。


うつろに。

まるで自らの心の中とシンクロしているかのように。

ナナズキの視点は、定まることがない。


クライドの、騎士総長様が語った、

ナナズキに関する真実はそれほど、

彼女にとっては受け入れられず、

また、すぐに納得できるような“代物”ではなかった。


だが。



「………まあ、でも」



その中で唯一、たった一つだけ。



「そういうことだったのね」



空っぽの思考を何とか動かして呟いた少女にとって、

すんなり受け入れられる部分はあった。


それは、自分自身に関する事ではなく、

クライドがナナズキの真実に関する話をする際、

いわば導入部分的意味合いで語った、

レナに関する情報。



「だから、似たような雰囲気があったのね……」



ふとナナズキは、すでに半分以上、

地平へと姿を消した夕陽に視線を送る。

それほど眩い輝きを放っていないはずの、

その夕陽がなぜだろう、少しばかり眩しく見える。



「……」



1対の剣を振りかざし、炎を自在に操る、

長い金髪をなびかせて颯爽と戦う少女、レナ。

一方で、同じく炎を操るものの、

ツインテールの青髪で杖を武器として戦うナナズキ。

加えて敵同士である以上、無論だが思想も違う。


わずかに共通点はあるものの、

けれどもほとんどの項目で、

似通った特徴の見られない2人。


だが、それでもナナズキが、

敵であるレナが似ていると納得した、

その理由、その事実は。



「まさかレナも(・・・)、記憶喪失だったとはね」



自らと同じく、幼い頃の記憶がない、という事。


たった、それだけの事だった。





「へっ……くしょいッ!!!!」


エリフ大陸の王都である、

セカルタ駅から出発した15両編成の列車の中、

8号車にある個室型車両にて、

レナはおっさんもビックリな、

豪快なクシャミを発する。



「相変らずうるせえなあ……。

 もう少し音量下げれねえのかよ」



すかさずプログが嫌悪感たっぷりに、

騒音の張本人に対してクレームを入れるが、

当の本人は一切、意に介さない。



「別にいいじゃないの、

 減るモンじゃないんだし」


「アホか、増えるモンでもねえっつーの。

 だいだいお前アレだろ、

 わざとデカいくしゃみしてんだろ。

 毎回毎回うるさくてしょうがねえよ」



プログは圧力(?)に負けず、

クレームの言葉を続けてきたが、



「そりゃあ、

 くしゃみは体外の異物を、

 外に放出するための生理的行動だし、

 しっかり盛大にやらないと放出しきれないじゃない」


「いやいや、そもそも俺が言ってんのは、

 そういう問題じ


「それだけではない。

 くしゃみには、体温を上げる機能もある。

 鼻腔の中の体温が下がった時に知覚神経が脳に対して、

 体を震わせて体温を上げろという指令を出す。

 その指令に対して、くしゃみを起こさせる。

 これがもう一つの、くしゃみの機能だ」


「オイ、スカルド!

 てめえ確信犯的に言葉をわざと被せてくるんじ


「へぇ、それは知らなかったわ。

 あたしもまだまだ、勉強不足ね」


「お前ら、年長者を何だと思


「俺はどっちも知らなかったでやンス……」


「……イグノ、あんたホントにダメね。

 異物を対外放出するためくらいは分かるでしょうよ」


「俺は理科が苦手だったでやンス。

 テストで30点以上を取ったことがないでやンス」


「……あのー、皆


「フン、元7隊長の実情が知れるな。

 こんなのでも人の上に立つことができるとはな」


「そこは適材適所、と考えて欲しいでやンス。

 勉強はダメでも、騎士隊としての実力はあったでやンス、

 ……たぶん」


「フン、どうだか」


「まあまあ、とりあえずしばらくは行動を共にするんだし、

 いくらイグノが筋金入りのアホだったとしても、

 活躍の場は多少あるでしょうし、

 スカルドもあんまり尖らないで行きましょ」


「レナ、全然フォローになってないでやンス……」



スカルド、さらにはイグノまで会話に加わり、

規律正しくレールの上を走る、

今まさに乗車中の列車とは真逆で、

くしゃみがうるさいという話の本質から、

一気に脱線してしまった。



無論、レナ自身に悪気はないし、自覚もない。

ただ一つ、確実なのは別にくしゃみが大きくて何が悪い、

と考えている事だけである。

でなければ、プログに注意された後、

こんなに早々に話が脱線するはずがない。


だからこそ。



「……もう、いいや」



レナ、スカルド、

そしてイグノにまで話の腰を、

細い小枝のようにポキッと折られたプログの、

最後の一言が何とも切ない。



「はぁ~。

 でもくしゃみをしたって事は、

 どこかであたしの噂でも、

 してる人がいるのかしら?

 ……なーんてね、そんなワケないか」



車窓から見える斜陽を眺めて、

レナはいたずらっぽく笑う。


自分の境遇と同じ記憶喪失の少女が、

別の大陸で言及していることも知らずに。


次回投稿予定→11/17 15:00頃

更新の時間が遅れまして、すみませんでした。。。

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