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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
204/219

第200話:揺れる夕日の中で

「……」



少女は、歩いていた。


東、西、南、北。

どの方角に行くかどうか、

決めている訳でもなく。

明確な意志を持つことなく、茫々と彷徨い歩く。



「…………」



まるで金がない乞食が、

本日の寝床をフラフラと探しているかのように。

あるいは、行く先を失った亡霊がユラユラと、

その魂の居所を求めるかのように。


沈みゆく太陽を背にして、

少女は、歩いていた。


風は、吹いていない。

ゆえに、彼女のトレードマークである、

青髪のツインテールも、

一切なびくこともない。


先ほどまで滞在していた王都ファースターは、

すでにはるか遠く、

居城が辛うじて可視できるくらいの場所まで、遠ざかってしまった。


だが、それでも。



「………………」



彼女は、荒野の中を歩いていた。

指令など、受けていない。


絶対的な忠誠を誓っている騎士総長からも、

中間管理職としていつも指示をくれるナウベルからも。

別に、このあたりを歩いてほしいなどと、

指示を受けた訳ではない。


だが、それでも彼女の足が、

とまることはない。


ファースターが誇る騎士隊。

その5番隊隊長であるナナズキ。



(どうして……、)



こんなのばっかりなんだろう、と。

ナナズキは自問する。


「私って、なんで要らんことばっかり、

 いっつも知ってしまうのかしらね」



そう言ったナナズキは、

まるで“そうするしかない”とばかりに、

自嘲気味に笑う。


今回だけは、ない。



(ちょっと前のフェイティの件もそうだし、

なんたって私だけ、

どうでもいい情報ばっかり耳に入っちゃうのかしら)



それは少し前に、

敵であるフェイティがファースターで、

偶然単独行動をしていた時にリスク覚悟で引き留め、

ファースター政府と列車専門の犯罪集団、

シャックの件について、話を聞き出そうとした時。

その時にもあった、

自分にとっては必要としていなかった情報。

フェイティ、そして彼女の息子に関する情報。


すなわち、これからレナ達一味を捕えるという、

大事な任務を阻害しかねない情報が、

耳に入ることになった。


そして、今回も。


……いや、厳密に言えば、

今回、は。

今回ばっかり、は。



「ホント、要らなかった……」



ポツリ、と。

まるで命を燃やし尽くしたセミが、

必死にしがみついていた木から零れ落ちるかのように、

ナナズキの口から出た、その言葉。


だが、その言葉の真意は決して、

元々解決したかった問題を、指すわけではない。



(まさか、私自身について、

あんな事を知らされるなんて……)



それこそがナナズキを今の、

ただ荒野を虚ろい歩く、

空虚な所作を作り出した、

真実の根源。



「こんなことになるなら、

 騎士総長様の部屋になんて、

 行くんじゃなかったわ……」



それは彼女から出た、

紛れもない本心。


すべてはあの瞬間から。


敵対しているレナ達から、

自らが本拠としているファースター城が、

シャックの根城となっていると、

少し前に聞かされた、その時から。


すべては、始まった。


ファースター城が、シャックの根城。

レナから聞かされた、その幻想。


信じてなど、いなかった。

そんなことは絶対、あり得るはずがない、と。

なぜなら列車専門の犯罪集団、シャックを、

ナナズキも敵として追うよう、

クライドに指示されていたから。

謎の犯罪集団を追い、殲滅させる。

それがレナ達を追うと同時に受けていた、

もう一つの任務。


そのもう一つの目的の答えが、

まさか己の本拠地にある。


信じろ、と言われてそのまま信じるほど、

ナナズキもバカではない。


コイツら、何を言っているの?


乗った者をもれなく死へといざなう、

恐怖の魔術列車、ギルティートレイン。


その入り口、レナ達と始めて会話を交わした時から、

休戦協定を結び、協力して魔術列車を脱出する、

その時まで。

その想いだけ一筋に、持ち続けていた。


それはあまりにも率直な、

贔屓目なしの、感想。


……のはずだった。


ところが。


ギルティートレインを脱出し、

レナ達と別れたのち、

まさかなー程度の、

一応参考程度に聞いておくか程度に、

シャックとの関係性をナウベルに訊ねた、

その時から。


それまで強固に積まれていた概念が、

わずかに揺らぎ始めた。


否定はしながらも、

明らかにその話題について多くを語りたがらない、

ナウベルの素っ気ない態度。


こちらから話を振ったところで、

『あなたには関係のない話よ』だの、

『いいから任務に戻りなさい』だの。


元来より、ナウベルはそれほど口数が多くない、

ということは知っている。

故に、それほど多くの言葉を発しようとしない、

という前提は、ナナズキとて捨てていない。

だが、シャックの話をする時のナウベルのそれ(・・)は、

明らかに前提とは乖離するもの。

ナナズキとて7隊長の一人、

それくらいの違和感は、容易に感じ取れる。


語らないのではなく、語りたくない。

ナウベルの素っ気なさには、

圧倒的に後者の雰囲気が漂っている、

少なくともナナズキには、そう捉えることができた。


そこに加えて、

レナやフェイティから絶え間なく聞かされる、

シャックとファースターの繋がりに関する事案。


それはもはや、

気にせず任務を続行しよう、とする方が無理な話だった。


敵であるレナ達と、味方であるナウベル。

どちらの立場を、是とするか。


その結論が見いだせず、

少女が迷いの路頭に立ちすくんで考え抜いた結果、

行き着いた行動。

それが、クライド。


中間管理職ポジションにいるナウベルを超え、

騎士隊組織のトップである騎士総長、クライドへ、

直接、真偽を確かめるものだった。


それはある意味、自らの称号、

7隊長という栄誉を賭ける想いで踏み切った、

最恐の強硬策。

一歩間違えれば、

一つクライドと、会話のボタンを掛け違えれば、

今の立場をはく奪されるかもしれない、

それほどの大きな、賭け。


それは第三者から見れば、笑われるかもしれない。

そんなことせずに、

何も考えずに黙って任務につけばいいのにと、

多くの人々から嘲笑される行動だったのかもしれない。


だが、それでもナナズキは、

愚者ととられかねない英断を下し、

3国首脳会議を終え、ファースターへと戻ったクライドの元へ、

クライドの自室へと、単身乗り込んでいったのだ――。



『ナナズキか、どうした?

 君はまだ、任務の途中だったと思うんだが』


『あ……はい、その……!』


『?』


『き、騎士総長様!

 遠路はるばる戻られてお疲れのところ、

 また、突然ご訪問してしまったご無礼を、

 どうかお許しください!

 じ、実は……!』


『? どうした?

 やけに慌てて、何かあったのか?』


『あ、いえ……!

 決して、緊急を要する事ではないのですが、

 その、一つどうしてもお伺いしたいことがございまして……!』


『お伺い? 私にか?』


『は、はい!

 どうしても騎士総長様に直接、お聞きしたくて……』


『分かった、まずは話を聞こう』


『あ、ありがとうございます!!

 お聞きしたいのは、その……、

 シャックの件、に関する事なのですが』


『……シャックがどうした?』


『実は妙な、噂を耳にしまして』


『妙な噂? どういうことだ?』


『はい、実はいまだ本拠地が掴めていない、

 シャックの根城が……』


『…………』


『その……あくまで噂程度なのですが』


『もしやファースター城が根城なのではないか、という事か?』


『!!!!』


『その表情を見る限り、図星か。

 ……私の耳にも、その噂は届いている』


『も、もちろん私は、

 すべてを信じている訳ではありません!

 王が病床に伏している今、

 誇り高きクライド騎士総長様が束ねる、

 このファースター城がシャックの根城になっているなどと、

 たとえ噂であったとしても決して……!』


『慌てるな、ナナズキ。

 君が感じている事はよく分かる。

 いくら噂とはいえ、

 それを先入観という愚者が持つ偏見により、

 噂という範疇で切り捨てることをせず、

 まずはすべてを疑ってみる。

 その行動こそが、7隊長として本来あるべき姿。

 ゆえにナナズキ、君がその疑念を持ってくれた事、

 上司として嬉しく思うぞ』


『騎士総長様……』


『君が確認したいことは分かった。

 ならばナナズキ、一つ問いに答えてほしい。

 その噂を耳にしたうえで、君は何をしたい?』


『!』


『私はナウベルを通じて、

 ナナズキを始め、他の7隊長にアプローチは違えど、

 レナ・フアンネおよびその一味を捕える事と、

 シャックの根城を突き止める任務を与えている。

 その事はもちろん、忘れてはいないな?』


『は、はい! もちろんです!

 一片たりとも忘れる事など……!!』


『ハハハ、そう固くなるな。

 私が聞きたいのは、

 その噂を耳にしたなか、

 与えた任務に対して君の向き合い方が、

 変わるか、変わらないか。

 それを聞かせてほしい』


『……正直に、申し上げてよろしいでしょうか』


『無論だ』


『分からないんです……。

 変わってしまうのか、それとも変わらないのかが……』


『ほう……』


『もちろん、ファースターに対する、

 そして騎士総長様に対する忠誠心は、

 一切揺るぐことはありません、

 それに与えられた任務も、完璧に遂行したい、

 その想いも、一切の曇りはありません。

 ですが、いくら根拠のない噂とはいえ、

 バカバカしい、気にするなという言葉だけで、

 すべてを切り捨てることが、今の私には出来ないんです』


『……』


『火のない所に煙は立たない、とも言いますし、

 万が一、万が一の事を考えると……。

 申し訳ありません、私が未熟だから……』


『それは違うぞ、ナナズキ』


『え?』


『確かに、任務を完璧にこなすことは大事だ。

 また、それを遂行する上で、

 迷いを捨てることは重要ではある』


『はい……』


『だが、それだけの理由で、

 その部分に優れているというだけで、

 私は君を7隊長に選んだわけではないぞ』


『!』


『意志を殺し、仕事を確実に進める事。

 響きは良く聞こえるかもしれないが、

 じつはそれはただの、指示待ち人間に過ぎない。

 指示待ち人間というのは“指示”があって初めて、

 自らの存在価値を証明することができる。

 だがそれは逆を言えば、いつまでも“指示”がなければ、

 その者の存在価値は、未来永劫ゼロとなる。

 それはプレーヤーとしては優秀かもしれないが、

 マネージャーとしては一切不適格、と言わざるを得ない。

 私の言っていることが分かるか?』


『はい、何となくは……』


『ナナズキを始め、他の7隊長に、

 私が求めているのはプレーヤーの素質ではない』


『あくまでもマネージャーとして、という事でしょうか』


『いや、違う。

 両方の資質を期待している』


『両……方、ですか?』


『時には騎士隊の上に立つものとして、

 物事や世界を客観的に見て適切な騎士隊の運営を行い、

 また、時には自ら陣頭に立ち、

 他の追随を許さぬほどの戦力として猛威を振るう。

 それこそが、私が7隊長に求める者であり、

 また、その求めに応えられる者だと考えている』


『騎士総長様……』


『無論ナナズキ、お前だって例外ではない。

 私が期待する高みへ登ってきてくれる、

 稀有な存在だからこそ、私は7隊長に任命したのだ。

 もしそうでなければ私の見る目は節穴だった、

 という事になってしまう。

 それだけは、出来れば避けたいものなのだが』


『騎士総長様、私は……!』


『人は、誰しも迷う事がある。

 それは誰もが目の当たりにする、

 先に進むうえで障害となる大きな壁と言っていいだろう。

 だが、肝心なのは、

 その迷いという壁から逃げるのか、

 それとも向き合うか、だ。


『逃げるか、向き合うか……』


『迷いと向き合い、そしてそれを乗り越えて先へ進むとき、

 その進む強さは、頑強な剣のように強くなる。

 そしてその剣が7本そろえば、

 我らがファースターに今まで以上の繁栄をもたらす礎を、

 共に作れると私は信じている』


『……騎士総長様ッ!!』


『迷うときは迷っていいんだ、ナナズキよ。

 なぜならそれは、お前が7隊長として、

 民衆や部下を導く、

 いわば太陽のような存在になる、

 大事な一つの過程なのだからな』


『……やはり、騎士総長様にお話ししてよかったです。

 先ほどまで迷いを持った自分を恥じておりましたが、

 騎士総長様のお言葉で、迷いはなくなりました。

 5番隊隊長、ナナズキ。

 これからもファースターのために、

 そして騎士総長様のために、

 常に命を賭す覚悟で全力を捧げます!!』


『……そうか、期待しているぞ――』





「……いや、それは良かったのよ」



途中まで回想を終えたナナズキの口から、

最初に出てきた言葉はそれだった。


心に迷いを持ち、苦渋の決断で、

疑惑の渦中となってしまっていたクライド騎士総長のもとへ直接、

直談判を強行。


その訴えに対し騎士総長は、

決して否定することなく寛容な態度で、

まるで両手を大きく広げ、我が子を抱くかのように、

ナナズキを暖かく迎え入れてくれた。

そして悩める自分に対し、進むべき道を示し、

そして、背中を押してくれた。


バカだった。

少しでも疑ってしまっていた自分が、バカだった。

騎士総長の、まるで父親のような親身さに触れて。


その瞬間から、疑惑に対する迷いはすでに、

ナナズキの、ありとあらゆる体の中から完全に消去されていた。


もう、立ち止まることはない。

やはり、自分が信じるべきは、ファースターであり、

尊敬するクライド騎士総長。

どれほど周りに何かを言われようとも、

騎士総長様の事を、信じて前へと突き進む。


その点に関しての、迷いはなくなっていた。


その点“だけ”に関しては。



(けど、そっからが問題なのよね……)



心の中で言って、

まるで夕陽が西へと沈みはじめ、

徐々に辺りが仄暗くなっている、

今の状況と共鳴するかのように、

ナナズキの表情も、徐々に暗くなり始める。


そう、迷いが晴れたはずのナナズキが、

行くアテもなく放浪する理由。

それは先ほど途中で遮った回想の、続きにあった――。


次回投稿予定→11/3 15:00頃

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