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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
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第190話:選択

「間違いないのね?」



耳にした言葉が確実かどうか、

レナは今一度、スカルドへと問いかける。



「同じことを言わせんな、

 確かに聞いていただろうが」



だが、そう吐き捨てた天才少年は、

明らかにイラついていた。

これ以上聞くんじゃねえ。

少年の瞳からはそのようなオーラが、

プンプン臭ってきている。


だが、それでもレナはラストチャンスとばかりに、



「念のためもう一度確認、と思っただけよ。

 デリケートな問題だから、

 それくらい念入りに確認しても、

 全然やぶさかではないでしょ?」



もう一回だけ、追いすがってみる。

だが、



「デリケートなのはお前らだけだ、

 俺にとってはさほど重要な話じゃない」



天才少年から返ってきたのはやはり、

どうにも素っ気ない、

まるで他人事とばかりに突き放す言葉。



「あっそ。

 まあ、そこまで言うなら別にいいけど」



そこまで言われてレナは、

ようやく諦めることにした。


これ以上、目の前の少年を刺激して、

先ほど聞いた言葉をひっくり返されても困る。


まるで腫れ物を扱うかのように、

レナはスカルドにこれ以上、触れない事にした。


それくらいに、

スカルドに対して忖度するくらいに、

少年が発した言葉は、重要な意味を持つものだった。



『安心しろ。

 お前らの行動を聞いたところで、

 別に標的を変えるつもりはない。

 俺は今まで通り、

 まずはファースターの連中を追うつもりだ』



2度目の確認こそとれなかったものの、

ファースター政府とセカルタ政府への復讐を誓うスカルドは、

確かに、そう話した。


今まで通りにファースター政府を狙う。

それはつまり、今後しばらくは、

セカルタ政府を、

執政代理のレイを狙わない事を意味する。


レイに感謝してもしきれない、

かつてレナ達が王立魔術専門学校の謎を解いたという、

“借り”だけではあまりに手に余る、

“返し”と言う名の恩恵を受けているレナ達にとって、

それは近々でもっとも頭を悩ませたであろう問題を、

ひとまず先延ばしできるという、

あまりに大きすぎる確約だった。


これでようやくレナ達は、

今後の事について気兼ねなく話し合うことができる。



「さて、そしたら次はあたし達の、

 今後の動きについて考えましょ」



ゆえにレナが迅速にそのような話を切り出したのも、

ごくごく自然な事であった。



「しっかしアレだな、

 実際問題として取れる行動はそれほど多くないと、

 俺は思うんだが」


「まあ、そうでやンスね。

 レイっちが政府として動いている以上、

 俺らはあんまり表立った行動はできないでやンス」



だが、それは決して、前途洋洋なものではない。

レナ以外の野郎衆が口々にしている通り、

レナ達が進める道は、

例えば希望を述べられるほど多くはない。


セカルタの執政であるレイが国として、

公式に行動を起こすと宣言している以上、

肩書を何ら持っていないレナ達は、

迂闊にそれを邪魔する行動をとることは厳禁である。


縁の下の力持ち。

今のレナ達にできるのは、

表社会ではなく裏社会にて、

世界をコッソリ、人知れず変えていくことしか、

許されていない。


表から姿を消して、世界を動かす。

言葉にすることは簡単だが、

それは人々が思っている以上に、至難の業である。


まあ実際、状況は甘くないわよねなどと、

レナはぼんやり考えていると、


「まあ、賢い選択かどうかはともかくとして、

 今の俺達に取れる行動はおそらく4つだと、

 俺は考えるんだが」



不意にプログが、口を開く。



「4つ、でやンスか?

 意外と多いでやンスね」


「勘違いするなって。

 俺が言ってんのはあくまでも“取れる行動”であって、

 “取るべき行動”じゃない。

 なかには議論せずとも明らかな愚策だってある」


「この際、愚策でもなんでもいいわ、

 すべての選択肢はテーブルに乗っけるべきだし、

 あんたが愚策と思ってるのが妙策の可能性だってあるし。

 まあ、何となく想像はつくけど、

 とりあえず聞かせてもらおうかしら?」



レナ達の今後を考える以上、

ここで議論は徹底的に尽くしておくべき。

まるで雲を掴むような状態で、

まだ考えがまとまっていないレナは、

ひとまずプログに発言のボールを渡してみる事にした。



「まず1つ目の選択肢はワームピル大陸へ行き、

 王都ファースターへ赴く。

 そんでケンカを吹っかけようとしているクライドのとこへ、

 直接殴り込みに行く」


「ええ!?

 いきなりファースターに行くでやンスか!?

 いくらなんでも危険すぎるんじゃ……!」



まあ、さすがにそれは無謀すぎるわねと、

騒ぐイグノの横でレナは想定通りとばかりに、

冷静にその選択肢を受け入れる。



「続いて2つ目はエリフ大陸にとどまり、

 レイが何とかクライドを説得するため頑張ってくれるのを、

 静かに見守る」


「それなら安全っちゃ安全でやンスけど、

 なんかおもっきし他力本願で、

 釈然としないでやンスねえ……」


まあ、イグノの言うとおりあんまりいい気分はしないわねと、

元3番隊隊長の横で、少女は思う。



「3つ目はウォンズ大陸へ渡り、

 王都サーチャードを目指す。

 そしてリオーネ陛下に謁見し、

 何とかクライドを止めるように俺達で説得する」


「これもまあ、思い切った選択でやンスねえ……。

 ワームピル大陸へ行くよりは安全かもしれないでやンスが、

 サーチャードは昔からファースターと同盟国だし、

 危険な事には変わりない気がするでやンス……」



これもイグノの言うように、

少なくともサーチャードが味方じゃない以上安全じゃないし、

説得できる保証もない、かなりリスキーな道ねと、

言葉として口にすることはしないが、

レナは心の中でそう思う。



「そして、最後の選択肢はディフィード大陸だ。

 俺達もアルト達と合流して今のドルジーハ政権を倒し、

 ディフィード大陸の門戸を、世界に開くことだ」


「……まともな選択肢が一つもないでやンスね、

 これもまた途方もない話でやンス……」


「……」



イチイチ反応しなきゃ死んじゃう病気なんですかと、

レナは半ば呆れ気味に、

阿呆の元3番隊隊長の様子をうかがっているが、

実際、どれも言っていることは、

それほど的外れではなかった。


ゆえに、真正面からツッコミという名の、

キツイお灸を据えるのはやめておいた。


プログが今、苦し紛れに絞り出した4つの選択肢。

それはレナが予想していたものとおおよそ、

似たものではあった。


実現可能性を度外視するならば、

この世界、グロース・ファイスに4つの大陸が存在する以上、

レナ達が選ぶ道はその4つの大陸いずれかに行くことと、

ほぼほぼ限定されるものになる。


更に言えば国の最高責任者であるクライドやレイ、リオーネ、

加えてドルジーハは、原則として王都にいると考えられる以上、

たとえばワームピルで言うファイタルや、

セカルタでいるトーテンなど王都とは程遠い、

いわゆる田舎町に赴いたところで、

事態は何ら快方へ向かうことはない。


4つの大陸に、4つの王都。

レナ達が取れるべき行動はその点において、

意外と多いものではなかった。


まるで、五里霧中かと心に刻んで意気込んで入った霧の中が、

意外と霧の中は視界が良好であったかのように。


選択肢は、意外とはっきり見えるものではあった。


ゆえに、



「ま、まずファースター行きってのは、

 真っ先にNGでいいわね」



プログと同じ思いを共有していたレナは、

すんなり話に入っていくことができた。



「やっぱレナもそう思うか」


「そりゃそうでしょ、

 いきなりクライドに対して特攻とか、

 さすがに無策すぎるでしょ」


「そうでやンス!!

 文武共に高い水準をお持ちのクライド騎士総長に、

 真正面からぶつかっていくとか、

 自殺行為にもほどがあるでやンス!!」


「慌てるなよアヒル口君。

 俺はあくまでも可能性を羅列しただけで、

 ファースターへ行くのがベスト、

 なんて考えちゃいねえよ。

 ま、レナとイグノもこれだけ反対している事だし、

 少なくともファースターへ行く、

 って選択肢はナシだな」



プログはチラリと、

スカルドの方へと視線を送るが、

スカルドの五体はピクリとも動かない。


あー、ファースターには行かないのをそれとなく確認したのねと、

レナはすぐにその意図を汲み取ったが、

肝心の天才少年様は静かに目を閉じたまま、

一切の言葉を発しようとしない。


俺のことは気にせず議論を続けろなのか、

はたまた、

チッ、ファースターに行かねえのかよと考えているのか。


エスパーでない以上、

レナにその判断を下す能力はない。


とりあえずレナは、

ここはとにかく話をするべきと、

議論を進める事にした。



「ファースターの選択肢が消えたところで、

 残る道は3つなワケだけど。

 ちなみにイグノはどう思う?」


「エリフ大陸に止まるか、

 ウォンズ大陸に渡るか、

 ディフィード大陸へ渡るか、でやンスか……。

 あくまでも俺の個人的意見でいいでやンスか?」


「別にいいわよ、

 いちおーあんたの意見も参考にしたいし」


「個人的な感想を言うなら、

 エリフ大陸でセカルタにとどまるって選択は、

 あまり好きじゃないでやンスね。

 執政代理のレイっちに、

 全部を丸投げしているみたいで、

 義理人情的に心が苦しいでやンス」



ついこの前知り合ったばっかりなのに義理人情と、

いったいどの口が言ってんだかと、

レナは一瞬、斜に構えた事を考えてみるが、

まあでもあながち間違いではないかな、とも思う。


イグノはともかくとしても、

レナやプログにとって執政代理であるレイは、

もはや知り合い、顔見知りという範疇を、

ゆうに超えた間柄である。


何か困っていることがあれば、

出来る限りの力になりたい。

少なくともそれくらいは思える関係性にある。


だからこそ先ほどイグノが言ったように、

エリフ大陸に留まるだけという選択肢。

その選択肢はある意味ファースターへ行くという道より、

レナの中ではもっとも有り得ない選択かもしれない。


静かに、事の成り行きを見守る。

それは、レイへの恩義を多大に感じている少女にとっては、

絶対に認めたくないものだった。


ワームピル大陸へ行く道とエリフ大陸に留まる選択は、

説得するのに十分な理由を根拠に、排除した。


となると、残り選択肢は。



「ウォンズ大陸へ渡るか、

 ディフィード大陸へ行くか、か……。

 どっちも危険な事には変わりないわね」



ため息しか出てこない、を体現するかのように、

はぁ、とレナは顔をしかめながらため息を漏らす。


ウォンズ大陸と、ディフィード大陸。

先ほど自分の口から零れ落ちたように、

この2大陸へ渡る選択肢は、

どちらも大きなリスクがある。


「ウォンズ大陸の王都サーチャードは古来から、

 ファースターと親交が深い都市だ。

 もしかしたら俺達がお尋ね者だって情報も、

 すでに掴んでいる可能性は、十分にあるわな」


「もしそうだとしたら、

 ウォンズ大陸に行ったとしたらわざわざ、

 捕まりに行くようなものでやンスね……。

 俺も他の7隊長の連中から追われている身でやンスし……」


「でも、かといってディフィード大陸も、

 まったく安全じゃないわよ。

 あの石頭総帥、ドルジーハがいるんだから。

 特にあたしとプログなんか、

 一度ドルジーハと面会して退場処分喰らってるし、

 万が一ディフィード大陸の王都、

 キルフォーに密入国しているのがバレたら

 それこそ捕まるどころじゃ済まないわよ?」


「加えて言えば、俺とレナはセカルタからの使者として、

 ドルジーハに面会している。

 もし俺らが密入国として見つかっちまったら、

 レイにも迷惑がかかっちまうな……」


「サーチャードのリオーネ陛下に謁見して、

 うまく話をまとめられれば、

 クライドを説得できるチャンスが広がるかもだし、

 ディフィード大陸でフロウ達と合流して、

 ドルジーハを倒せばキルフォーの門戸が開かれ、

 クライドの思惑を外すことが出来るかもだけれど……」



どうにか、

2つの選択肢をとることによるメリットを羅列してみたものの、

レナはそこまでいって言葉に詰まってしまう。


どちらの選択肢も、

マイナスの領域で、甲乙つけがたいものである。

その理由は、どちらにせよメリットと同等、

いや、それ以上に気になるデメリットがあるからだ。


だが、とはいえ選択肢はこの2つしかない。


ウォンズ大陸と、ディフィード大陸。

何か行動を起こすなら、

既存の縛られた道に新風を起こすには、

レナ達は、動かなければならない。



「どうしたものかしらねえ……」



どちらも、危険な賭けであることは間違いない。


だが、それでもどちらかの道は、

進まなければならない。


レナも、分かっている。

クライドの思惑を成し遂げさせないためには、

待ち受けている困難を、

確実に乗り越えなければならない事を。


どんな困難であるかは、まだ分からない。


お尋ね者として再び追われるかもしれないし、

7隊長と戦うことがあるかもしれない。

また、過酷な長旅を強いられるかもしれないし、

あるいは人間の嫌な側面、

エゴを見せつけられるかもしれない。


でも、それでもレナ達は、

それに真正面から向き合っていかなければならない。

ファースターの騎士総長様が、

クライドが企む軍事衝突を、

たった数人の力だけで阻止しようと考えるならば。


それは、分かっている。


だからこそ、決断しなければならない。


ウォンズ大陸に行ってリオーネを説得するか、

ディフィード大陸へ行ってドルジーハを倒すか。


その中で。



「アルト達、

 今頃どうしているかしら……」



レナは不意にポツリと漏らした言葉。

それは選択肢の1つである、

ディフィード大陸へ先に発った少年達に対する、

半ば願いにも似た憂慮の言葉であった。


次回投稿予定→6/16 15:00頃

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