表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
193/219

第189話:復讐の炎はどこへ向かう

「俺の考えを聞かせろ、だと?

 何のためにだ?」



プログからの言葉に対し、

明らかに警戒レベルをあげているスカルド。

その瞳は、仲間を見るようなそれではない。

まるで初見の相手を敵か味方かを見極めるかのような、

どこか冷めた目つきで、天才少年は元ハンターを見る。


だが、その冷めた視線を受けても、

プログはブレることなく、



「何のためにもなにも、

 お前さんの目的は復讐だろ?

 3国首脳会議の内容を踏まえて、

 その目的を果たすためにどう動くのか、

 その考えを知りたくてさ」



自分の言う事に絶対の自信を持つかのように。

プログは何の詰まりもなくサラリと言う。

決して、物怖じすることは、ない。



「……お前たちには、

 関係のない話だろう」

 


スカルドは再び、

そう突き放すが、



「いや、関係大アリだ」




プログは平然と天才少年へと食い下がり、

そして続ける。



「今までは最終目的は違えど、

 行動過程が同じだったから、

 お前さんは俺達についてきた。

 だが、今回の件で風向きは変わってくる。

 まだ具体的な行動こそ決めてはいないが、

 俺やレナ、イグノはこれから、

 クライドが軍事衝突を起こすのを阻止するために、

 動くことになる」


「…………」


「そのためにクライドを目指す可能性もあるが、

 クライドのいる場所とは別の所へ、

 行く可能性だってもちろんある。

 そうなればスカルドが望む、

 ファースター政府への復讐という目的に達する過程から、

 俺達の道は外れることだってある」


「無論、そういう可能性もあるだろうな」


「そうなればスカルドは、

 俺達の行く道など関係なしに、

 単独行動をするようになるだろ?」


「まあ、そうだろうな。

 お前らの進む道と俺の考える道が違うなら、

 必然的に俺は一人で行動をする」


「だろ?

 けど、俺達はそういう考えで動くつもりはない。

 今まで一緒にいたのに、

 急に自分達と違う行動をするかもしれないヤツがいるなら、

 その言動も踏まえて、慎重に行動を決定する必要がある」


「慎重に行動を決定する?

 お前ら、俺の邪魔をするつもりか?」


「そういうことじゃねぇさ。

 ただ、スカルドがこういう行動をする、

 ってのを踏まえてから意思決定しないと、

 互いに都合が悪い事が発生するかもしれないだろ?

 変にニアミスが起きるとか、

 それこそどちらかの邪魔になってしまうとか、な」


「…………」


「俺らは別にスカルドと、

 事を荒立てようとしているワケじゃない。

 むしろ状況を把握している者同士、

 うまいことやっていかなきゃと、

 俺個人的には考えている。

 だから、表現悪く言えば、

 “我が道を行く”が基本スタイルのお前さんの行動を、

 しっかり把握したうえで俺らも、

 次の行動を考えておきたいのさ」


「だから、まだ何も決めていない状態で、

 俺の考えを先に聞かせろ、ってか」


「ま、そういうことだ」



プログはついに最後まで、

臆することなく締めくくった。


レナはその間、

終始事の様子を見守る傍観者の立場に徹してきたが、

プログが言葉を締めたのちに、



「ま、確かにプログの言う通りね。

 ここから先はあんたと、

 行く道が変わってくる可能性は十分にあるんだから、

 まずはスカルド、あんたはどうするつもりなのか、

 教えてほしいところね」



改めて、プログの言葉に賛同した。


クライドが率いるファースター政府が、

強硬な態度をとることを表明したなか、

ここから先、レナ達がどのような選択をするのかは、

確かに重要な案件である。


だが、それと同じくらい重大なのが、

スカルドが、クライドの姿勢を把握したうえで、

どのような行動を起こすか、だ。


ただ、レナの心中はプログが言葉として発した意味、

そのものだけではおさまらない。


クライドが今までにない特殊な行動を歩み始めたことで、

はたしてスカルドが今後、

復習の標的を変えることがあるのか。


レナにとってはその部分が、

もっとも重要だった。


言うなれば、スカルドにとってのパンドラの箱のような話題に、

手をかけようとする、それくらいに核心に迫るものに、

レナの心中は触れようとしていた。


プログとイグノを含めたレナ達と、スカルド。

互いに今まで目指してきた人物は、

確かに同じクライドではあった。

だが、クライドに対する目的は、

まったく異なるものである。


レナ達は、というよりレナは、

命を狙われているローザが、

この世界で安全に生きていくことができるために。

あるいは、世界を救うなどと言う、

クライドの真意を確かめるために、クライドを追っている。


一方のスカルドはズバリ一言、復讐のためである。

スカルドの両親を死に追いやった、

ファースター、セカルタ両政府に対して、

復讐を果たすために。

少年はそれを生きる糧として今まで道を進んできた。


目的は違いつつも最終目的人物が同じだったということで、

レナ達とスカルドは、今まで共に行動をした。

それは仲間というよりは、同盟に近い関係だった。


だが、クライドがディフィード大陸の王都、

キルフォーに対して強気な姿勢をとることを決めた事により、

世界を取り巻く状況が劇的に変化しつつある今、

その同盟関係も、変化せざるを得ない可能性がある。


その可能性とはズバリ、標的の変更だ。


例えば、である。

ここでスカルドが、

戦争を起こそうとしているクライドを、

無理して追いかけることを是とせず、

復讐の標的をもう一つの相手であるセカルタ政府へ、

向けたとしたら。


ここでレナ達が、

しっかり認識しておかなければいけないのは、

スカルドという少年が、

ファースター政府だけを復讐の対象としているワケではない、

という事である。


数年前に父がファースターへと誘拐され、

何とか助け出してくれと、

スカルドの母が懇願していたにもかかわらず、

その要請を拒否し続けた、セカルタ政府。


スカルドの復讐の炎は、

ファースター政府だけではなく、

セカルタ政府も焼き尽くす目的にある。


要請を拒否するという愚行。

決して、そのような愚行を行ったのは、

今、執政代理を務めているレイの所業ではない。


だが、少年スカルドにとっては、

誰が拒否の判断を下したとか、

誰が関係ないとか、

そんなものなど一切関係ない。


父が、見殺しにされた。

その事実が突き付けられたその時から、

心に灯った復讐の火は、

今まで絶えることなく続いている。


直接父を死に追いやったファースター政府と、

間接的にその死に加担したセカルタ政府。

スカルドはその両方を、憎んでいる。


いまだセカルタ城に一切入城しようとしないのが、

その最たる例である。


(今まではたまたま、

クライドを追いかけることを優先していただけで、

セカルタ政府に対する恨みが消えているワケじゃない。

クライドを追うことが困難と判断すれば、

レイに狙いを定めることだって十分にあり得る……)



それはいずれ、訪れることではあった。


だが、もしそうなれば、

レナ達も黙って少年の行動を見過ごすことはできない。


スカルドにとっては、

レイは復讐を果たすべき敵かもしれない。

だが、レナ達にとっては違う。

レイはローザを匿ってくれただけでなく、

船や列車の手配に始まり、

面会の優先や宿泊の手配など、

ありとあらゆる面でサポートしてくれる、

今や心強く、それでいて敬服する施政者である。


それだけではない。

本来敵、とまではいかないが、

それでも決して同盟国でもなんでもない、

ファースターの元要人であるイグノに対しても、

色眼鏡をかけることなく、分け隔てることなく接して――。



(……?)



と、ここでレナはある事に気づいた。



「そういえばスカルド」


「なんだ?」


「スカルドってファースター政府に対して、

 復讐しようと考えているんでしょ?」


「……だからどうした」


「イグノに対して、

 復讐しようとかは考えなかったの?」


「レナ!?」



考えてみれば、妙な事ではあった。


すでにクビになっているとはいえ、

イグノはファースター騎士隊の中で選ばれた7人、

7隊長のうちの元3番隊隊長である。


風貌や言動こそ、

まるで鼻たれ小僧のおバカさんのように映るが、

背負っていた肩書は、

いわばファースター政府関係者の中でも、

エリート中のエリートである。


となれば当然、

スカルドの復讐対象者としてリストアップされていても、

何らおかしくはない。



なのにスカルドは昨日合流して以降、

イグノに対して敵意といった雰囲気を、

塵一つも見せていない。



「一応こんなんでも元ファースター関係者なんだし、

 てっきり粛清相手になるのかなーとか思ったんだけど」


「レナ!?

 澄ました顔してなんてエグい事を言っているでやンスか!!」



突然の死刑宣告未遂な事を告げられ、

戦々恐々としだすイグノに目もくれず、

レナは天才少年様へと訊ねてみる。


だが、



「フンッ」



その問いを、スカルドは軽く鼻であしらうように、



「ファースターをクビになった男なんざ、

 復讐する価値もねェよ」


「あら、そうなの?」


「俺の目的はあくまで政府に対する復讐だ。

 オマエみたいな小物にはそもそも興味もないし、

 クビになったとなれば、なおさら興味ねェ」


「へえ、意外。

 関係する人なら誰でも~的スタンスなのかと思っていたわ」


「勘違いするな。

 俺が狙うのは政府の中心人物だけだ。

 7隊長レベルなど話が聞ければ、

 後始末など、どうでもいい」



いちいち表現にトゲのある言い方ではあるが、

要するにイグノを殺すつもりは、

まったくないらしい。



「よかったわね、イグノ。

 殺されずにすんで」



明らかに何かを企むかのような、

ニヤついた表情でレナはポン、

とイグノの肩に手を置くが、



「なんでやンスかねえ、

 別の意味で殺された気がするでやンスよ、

 その、社会的に」



言葉の暴力に心をへし折られたのか、

どこか遠くを見つめるイグノの表情は、

何とももの悲しげなものである。


自分の予期せぬところで、

いきなりの殺人予告をされただけでなく、

その価値すらないとの烙印を、

己の意思関係なく押されるという、

不条理に不条理を重ねられた、この惨状。

ボケでもなんでもなく、

ただただ本音が零れ落ちたと思われる、

イグノの悲痛なる言葉。


だが、残念男の哀愁などどこ吹く風と、

レナはそれ以上の言葉をかけることなく、



「まあ、イグノが殺されずに済んだところで話を戻すけど」



まるで挨拶を交わすレベルの、

サラリとした感じで、

なかなかに物騒なセリフを挟んだのちに、



「スカルドはこれから、どうするの?」



改めてこの場でもっとも重要な、

そしてレナ達にとっても、

もっとも重要な天才少年のこれからの行動について言及した。


クライドの話を受けて果たして、

少年はこれから、どうするのか。

どこへいこうとしているのか。

誰を、ターゲットとしているのか。


今まで通り、クライドを復讐の標的とするのか。

あるいは――。


レイ、なのか。


もし、答えがレイだとしたら。


レナ達にとてつもない恩恵をもたらしてくれている、

セカルタの執政代理にスカルドが、

直接牙を剥くような事を起こそうとしていたならば。


だとしたらレナは、止めなければならない。

目の前にいる少年を。

今まで仲間として共に行動をしてきた、

復讐心を燃やす、12歳の少年を。


それはつまり、

今まで仲間だった関係の終結を意味する――。



「…………」



レナとて、そんなことは望んでいない。

だが、もし。

もし、沈黙を続ける少年が次に語るであろう、

自らの行動によって、

レイに危険が及ぶことがあれば――。



「………………」



ゆえに、少女は待つ。

少年が次に発する言葉を。


己の行動について、

少年が何を考え、そして、

何を言うのか。


それは、今後のレナ達の行動を占う上で、

まずは一つの分岐点となるもの。


少年の言葉次第で、

3人の、レナとプログ、そしてイグノの、

今後が変わる。

レナのその空気を察してか、

元ハンターも元3番隊隊長も、

言葉を発することをしない。


次の発言権のすべてを少年に、

スカルドへと譲渡した。



「そうだな……」



休校状態で4人以外誰も居ないであろう、

王立魔術専門学校の一室で。


一秒の流れが数秒にも数十秒にも感じそうな、

軽度の負荷が全身にかかっているかのような雰囲気の中で。


少年はわずかに、

考える素振りを見せたがすぐさま、

そのジェスチャーを解くと、



「……いや、お前たちの行動を先に聞かせろ」



レナ達が望んだ答えとは180°、

いや、そこを超えて270°くらい違う、

何とも的外れな解答が返ってきた。


いやいやそうじゃなくてと、

本来聞き出したかったものが聞けずに、

レナはすぐさま、

解答のズレを修正しようと促そうとしたが、

その言葉にかぶせるようにスカルドは続けて、



「安心しろ。

 お前らの行動を聞いたところで、

 別に標的を変えるつもりはない。

 俺は今まで通り、

 まずはファースターの連中を追うつもりだ」



その言葉を用意していましたとばかりに、

解答の軌道を、自らの手で直した。


次回投稿予定→6/9 15:00頃

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ