第17話:棄てられた被害者
「ん?」
レナがふと、うしろを振り返る。
そこに広がるのは、
はるか遠くにポツンと見える、
サーティアの村。
他に目新しいものはない。
「? どうかしましたか?」
「いや、何か変な声が聞こえたような……」
ローザの問いかけに、
首をかしげながらレナが答える。
「空耳じゃねえのか?
俺は別に、何も聞こえなかったぜ?」
一番うしろを歩いていたプログが、
頭のうしろに両手を回して組み、
真っ青に澄み渡った青空を見上げながら、
まるで呑気に散歩しているかのような、
そんな調子のまま、答える。
レナ達がサーティアを抜けて、
ちょうど30分くらい経過した時の、
不思議な出来事である。
「そう、まあ別にいいんだけど」
あたりに魔物がいるわけでもないし、
きっとただの空耳ね、
レナはそう心の中で呟く。
「でも、僕びっくりしたよ、
あのファースター騎士隊の隊長って言うくらいだから、
どんな凄い人なんだろう、って思っていたけど……」
「あ、それ、あたしも思った。
まさか、あんなヘッポコだったとはね、ププッ」
アルトが期待外れ、
とばかりに小さくため息をつけば、
レナは笑いを堪えるのに必死だ。
もちろん、その対象になっているのは、
あの男である。
「ヘ、ヘッポコ……」
元々の立場上、
引きつる苦笑いしかできず、
何とも微妙な表情をしながら、
ローザがレナ達の話を聞いている。
「しかしアレだな、
アイツは置いといたとしても、
騎士隊の隊長クラスを、
追っ手として差し向けられているとしたら、
かなり厄介だな」
さっきまでのお散歩モードから変わり、
プログが表情を引き締めながら話す。
「確か、隊って7つあるんだっけ?」
「そうですよ。
それぞれに隊長がいて、
どの人物も王国トップクラスの、
実力の持ち主なんです。
それに7人とも、
それぞれ違う武器を扱うのも特徴ですね。
軍のことは、私も詳しくは知りませんが……」
アルトの問いに、
首をかしげながら頭に手を置き、
記憶の片隅から引っ張り出そうとするローザ。
「ああ、そうらしいな。
牢屋にいた時に兵士がチラッと話していたんだが、
イグノの霊符も珍しいが、あとは針とか、
クロスボウを使うヤツもいるらしいな」
「針? クロスボウ?
随分と戦闘に不向きなモノを使っているのね。
イグノと言い、ファースターの隊長は、
変わり者ばっかりなのかしら?」
ローザ同様、記憶を引っ張り出ながら話すプログに、
レナがやれやれ、といった表情で肩をすくめる。
ちなみにクロスボウというのは、
銃のように引き金を引く弓の一種である。
通常の弓より飛距離は優れているのだが、
矢の軌道が不安定になるため、
この世界で扱うものはほとんどいない。
「まあ、それでも隊長になれるってことは、
相当な力の持ち主って事だろ。
そんなヤツらが、
これから俺達を狙ってくるって考えると……」
「まあ、そういうことになるわね。
あーあ、それだったら、
いっそのことイグノと戦って、
7隊長の実力がどれほどかってのを、
見ておけばよかったわね」
「そんな、わざわざ戦う必要ないでしょ……
そもそも、僕たちが勝てるかどうかも、
わかんないんだし……」
本気か冗談かわからない、そんなレナの言葉に、
毎度のことのように、
アルトの中の弱気が顔を出す。
「まあ、魔物以外にもこれからは、
気を付けないといけないって事よ」
「そうですね。
それに、誰が来たところで、
私たちは止まるわけには行きませんものね」
そんな弱気なアルトとは対照的に、
プログの言葉に力強くうなずき、
口元を引き締めながら前を向くローザ。
「そうそう、その意気よ!
ほら、アルトもローザの前向きな所、
少しは見習わないと、ホイ!」
そんなローザにレナは笑顔を見せ、
同時にアルトの背中を両手でパンッ、と叩く。
「うう……すいません……」
さっきの弱気の登場により、
ただでさえ少し下を向いていたアルトが、
レナの攻撃(?)によって、
さらに小さくなってしまう。
「オイオイ、あんまり考え過ぎんなって、
4人いれば何とかなるさ、
前向きに行こうぜ? な?」
そんなションボリモードのアルトと肩を組み、
白い歯を見せながら、ニンマリと笑うプログ。
「プログ……」
アルトが顔をゆっくりと上げながら、
プログを見る。
「なに、焦るこたぁねえよ。
ゆっくりでも頑張りゃいいんだよ。
お前のいいトコだぜ? そーゆートコ」
レナとローザに聞こえないくらいの小さな声で、
プログがアルトにそう呟く。
おそらくアルトへの、
プログなりの気遣いなのだろう。
前を歩くレナとローザには、
プログの言葉は聞こえていない。
「……そうだね。
ありがとう、プログ」
そんなプログの気遣いに救われたか、
アルトの表情がようやく、少しだけ緩んだ。
レナ達がサーティアの村を出て、
1時間程度経過しただろうか。
「うらぁッ!」
プログの威勢のいい叫び声とともに、
放った短剣が、
ワイルボアの胴体に突き刺さる。
と、同時に、
パァン、という乾いた銃声。
口を真一文字に結び、
ワイルボアを睨みつけるアルトが放った弾丸は、
短剣とほぼ同じ位置に命中する。
「ウオォォォォ!!」
2連撃を胴体に受け、
聞くからに苦しそうな悲鳴と、
苦悶の表情を浮かべながら、
ワイルボアがアルトをめがけて突
「エナジーアローッ!!」
両手を広げ、ローザの高らかな声を合図に、
光の矢が、プログとアルト同様、
ワイルボアの胴体を貫くと、
ワイルボアの動きがピタッと止まる。
「レナッ!!」
ローザはそう言うと、
その場に素早くしゃがみ込む。
そして、その背後に待ち構えていたのは。
「どーもですっと、双炎ッ!!」
レナの叫びに呼応し、
2つの剣から繰り出された炎が、
息も絶え絶えのワイルボアに直撃し、
一瞬にして弾け飛ぶ。
短剣、弾丸、気術、魔術の四連撃を受けたワイルボアは、
最後の炎によって、
跡形もなく消え去った。
「ふう。
ま、こんなもんね」
二つの剣をしまい、
まるでお掃除完了、とばかりに、
手をパンパンと叩きながらレナが話す。
「徐々に、連携もイイ感じになって来ているんじゃねえか?」
ワイルボアが消え去ったことにより、
地面に無造作に落ちていた短剣を拾うプログ。
「そうだね、
なんだか無駄が、
少なくなってきた気がするよ」
「私もそう思います。
魔物と戦うのも、
少し楽になってきました!」
プログの言葉に、アルトとローザも続く。
確かに、ダート王洞での戦闘、
及びクライド戦では、
せっかく数的優位があるにもかかわらず、
個人個人で戦っていた印象があった。
ただ、サーティアを出てからは、
今からバンダン水路という未知の領域に、
足を踏み入れなければいけないということから、
なるべく効率の良い戦い方をすることにより、
体力の消費を抑えようと、
考えるようになったのだ。
その結果が、今の戦いである。
「なんかこう、
協力し合っているって感じがしますね!」
「なに、まだまだこれからだぜ?
もっと効率的な方法をだな……」
3人が声を弾ませながら話している。
「パーティーらしい……か」
レナは1人、そう呟くと、
再び先頭を歩き出す。
今までマレクと暮らして、
ルインを離れることがなかったレナにとって、
みんなと協力して魔物を倒すという概念は、
一切なかった。
ルインにいた頃は、
そもそも魔物に遭遇すること自体が少なかったが、
それでも魔物に遭遇した時は、
すべて1人で倒してきたし、
今回もアルトに出会うまでは、1人で倒してきた。
今まではそれが当たり前だったし、
別にそれ以上、
誰かが必要と考えることもなかった。
だが、アルトが増えたことにより
治癒術、そして銃による後方支援が加わり、
プログが増えたことにより、
速さで魔物を翻弄することができるようになった。
そして、ローザが増えたことにより、
気術による後方支援が、より強力になっている。
3人がいるおかげで、
どれほど魔物との戦闘が楽になったか。
そして何より、仲間と一緒にいるだけで、
どれほど気持ちが、
落ち着くことができただろうか。
レナは、ふと後ろを振り返る。
相変わらず、アルト、ローザ、プログは3人で、
笑顔で話しながら歩いている。
レナにとっては、もう見慣れた光景だ。
(まあ、こういうのも悪くないわね)
レナは心の中でそう呟き、
視線を上空へと向ける。
青空に浮かぶ太陽は、今日も世界を、
そしてレナ達を優しく、
力強く照らしている。
その昔、エリフ大陸の最東端にある町、
アックスでは、
町の生活排水を、
海に流すことを計画していた。
町から歩いて30分ほどで、
海が広がっているという町の立地を、
最大限に生かすためである。
王都のセカルタもそれを承認し、
さっそく排水用の施設が、
建設されていくこととなった。
しかし、アックスが施設の建設を始めて間もなく、
エリフ大陸の最東端から、
およそ1キロ先に見えるワームピル大陸でも、
同じような排水施設を建築する動きが、
見られるようになった。
ワームピルの王都、ファースターが、
セカルタに負けじと、
ワームピル大陸最西端にある村、
サーティアの生活排水を、
アックス同様、海に流すことを決め、
急いで建設を始めたのである。
ここに、アックスとサーティアの排水施設建設を介して、
セカルタとファースターの、
見えない抗争がはじまったのである。
相手よりも少しでも良い施設を作ろうと、
どちらか一方が取り入れた技術を、
もう一方はそれをさらに改良した形で取り入れる。
そしてそれを見て、
一方は更に改良を加え……
こうして互いの大陸には、
一つの町、
そして一つの村のための排水施設とは、
到底思えないほどの立派な施設が、
それぞれ出来上がったのである。
アックスとサーティアは、
長い間その施設を使い、
生活排水を処理していた。
最新の技術を結集した施設だけあって、
稼働中は特に問題が起きるわけでもなく、
このままずっと使われるもの、
誰もがそう思っていた。
だが、時代が流れるにつれ、
老朽化が進んだのと同時に、
街から施設までの距離が離れており、
効率が悪いという意見が、
あとを絶たなくなった。
そして、稼働を介してから数十年ほどで、
互いの技術の結集した排水施設は、
その活動を停止し、
特に解体されることもなく、
放置されることとなった。
そして、互いの施設は、
盗賊やハンターによって荒らされ、
廃墟と化していく。
そして時は流れる。
サーティアを出発して、約1時間。
レナ達はワームピル大陸の最西端、
そして、“棄てられた被害者 バンダン水路”に到着した。
集合住宅のような建物の、
いたるところに雑草が生えており、
無数のコケが建物に貼りついている。
また、入口の門はすっかり錆びれ、
割れた窓ガラスが無数に散乱し、
下手に歩けば、
すぐにでも怪我してしまいそうだ。
そして何より……
「うっ、くさ……」
入口に近づいたレナが、
思わず顔をしかめて顔を背ける。
そう、生活排水を扱っていたのに加え、
長い間管理をされていたわけでもなく、
放置され続けていたため、
近づくだけで、強烈な異臭がするのだ。
「うっ……」
アルトも思わず、えずいてしまい、
口を手で押さえる。
「これは……想像以上ですね……」
「だから言っただろ?
あんまりおススメはしないって」
あまりのひどさに、
頭がクラクラしてしまっているローザに、
プログがやれやれと言った表情で、肩をすくめる。
「ローザ、大丈夫?」
自分の鼻をつまみながら、
レナがローザの顔を覗き込む。
「だ、大丈夫です……セカルタに行くためですもの、
これくらい、我慢しなくては……」
やや顔をしかめながらも、
ローザは健気に前を向く。
もとより、これしかエリフ大陸に、
そして、セカルタに渡る方法はないのだ。
ならば、覚悟を決めていくしかない。
たとえ、それが王女として、
生活していたのと正反対の環境であっても。
「よし、それじゃ行こうか」
なぜか1人だけ平気そうな様子をしているプログが、
壊れた(というより腐った)門をくぐり、
中へ入っていく。
「うう……
外でもこんなクサいのに、中は……」
「そこまでよ、アルト。
それ以上は言わないで、
心が折れるわ」
えずいたことにより、
若干涙目になっているアルトの言葉を制しながら、
レナもプログに続いて、
建物の中に入っていく。
「さあ、私たちも頑張りましょう」
そう話しかけながらローザ、
そしてアルトも中に入っていく。
バンダン水路は、海の水中に、
生活排水を流す仕組みになっている。
そのため、地上から海を眺めても、
一見、何もないように見える。
しかし、海中には生活排水を海に流すための、
筒状のトンネルのようなものが張り巡らされている。
そのトンネルを生活排水が通り、
最終的に海に放出する、という仕組みだ。
レナ達が建物の中にあった階段を、
しばらく降っていくと、
直径25メートルくらいある巨大なトンネルの、
作業用らしき通路に辿り着いた。
筒状トンネルの、円の中心をずっと通るように、
奥に真っすぐ作られている作業用通路を、
4人は進んでいく。
「なるほどね、天井と横から、
この通路を支えているのね」
相変わらず手で鼻をつまみながら、
レナは目をキョロキョロさせる。
あたりを見渡してみると、
天井から巨大な鎖で通路を支えていたり、
横からは数メートル間隔でコンクリートを使い、
幅約10メートル程の通路を支えている様子がわかる。
「これ……。
下に落ちたら……」
「やめときな、アルト。
下を見たら、吐き気どころじゃすまないぜ」
通路から身を乗り出して、
下を覗こうとしたアルトを、
プログが止める。
そう、通路の下の部分を、
かつて生活排水が流れていたのだ。
もちろん今は使われていないため、
排水が流れていることはない。
だが、破棄された直前まで流れていた生活排水は、
出口を封鎖されたことによって行き場を失い、
その結果、排水路の中に閉じ込められているのだ。
その状態で、長い間放置されていたのである。
その様子は、もはやヘドロすらかわいく思えてしまうくらい、
汚く、そして臭いがひどい。
「あーあ、こんな所に長いこといたら、
髪がとんでもないことになっちゃうわ……
ここを出たら、早く洗わないと……」
自分で相当気に入っているのだろう、
腰まで伸びる金髪を手で触りながら、
レナがブツブツ独り言を呟いている。
「まあ、そうだな。
セカルタに行く前に、アックスって町があるから、
そこに寄ってからのほうがいいかもな」
先頭を歩くプログが、
そう言いながらチラッと後ろを振り向く。
「へえ、プログってエリフ大陸のこと、
よく知っているんだね」
レナとローザの女子コンビを挟み、
1番後ろを歩くアルトが、
まるで何でも知っている大人を見る子どものように、
目を大きくしながら話す。
「そりゃまあ、俺は元々、
エリフ大陸の人間だからな」
プログが坦々と、
さも当然のようにアルトに答える。
「え、プログって、
エリフ大陸から来てたの!?」
「あれ? 俺言ってなかったっけ?」
「まあ、あたしは何となく気付いていたけど……
サーティアの時も、やたらエリフ大陸に詳しかったし。
確かに、密入国したとは言ってたけど、
エリフ大陸出身とは、言ってなかったわね」
「私も知りませんでした……」
「そうか。
なんか、わりいな」
当然、知っていると思って答えたプログだったが、
確かに今までファースターの牢屋で、
レナ達に出会ってから今に至るまで、
プログの口から“エリフ大陸の出身”という言葉は、
一度も出ていない。
今までのやり取りで、
レナのように何となく気付くとは思うのだが、
どうやらアルトとローザは、
そこまで考えが及んでいなかったようだ。
「ってことは、エリフ大陸からワームピル大陸に行く時に、
もしかしてここを使ったのかしら?」
「まあ、そういうことだ」
「そっか、だからプログは、
ここの通路を知っていたんだね」
「確かに、プログだけ、
慣れているような雰囲気がありましたね」
「いやいや、この臭いは何回通っても、
慣れるもんじゃないぞ……」
「確かに、この臭いはそう簡単に慣
「おっと、そこまでだ」
アルトの口をプログが手で押さえ、
急ブレーキをかけたように、立ち止まる。
その理由は……
「うわ、何ですか、アレ……」
目の前から放たれる、あまりの異臭に、
鼻を押さえて、思わず後ずさりするローザ。
4人の視線に飛び込んできたのは、
まるで通路、そして手すりに、
ヘドロがへばりついているかのようなスライム状の魔物、
ブラックスライムが、いたる所でグニョグニョと、
気味悪い動きをしながら待ち構えている姿だった。
しかも数が多くて、もはや数えることはできない。
「う……気持ち悪……」
「チッ、コイツは少々厄介だな」
もうここに来て何度目だろうか、
アルトがえずいているのをよそに、
軽く舌打ちしながら、
プログが懐から短剣を取り出す。
プログの場合、他の3人とは違い、
遠距離に特化した攻撃をすることができない。
短剣を投げて攻撃することもできるが、
プログは短剣を2本しか持っていない。
そのため、3体目以降の、
他のブラックスライムに攻撃するためには、
投げた短剣を回収しなければならないため、
ブラックスライムの近くまで、
行かなければならない。
少し距離を取っている今でさえ、
思わず目をつぶりたくなってしまう程の、
悪臭のひどさである。
できることなら近づきたくはない――。
プログの言う“厄介”とは、
そういう意味があったのだ。
「床は……コンクリートだから、
まあ大丈夫よね、
みんな、ちょっと下がってて」
と、ここで、
何やら一人でブツブツ呟いていたレナが、
他の3人を自分より後方へ下がらせる。
「え?」
やや戸惑いながらも、
3人はレナの後ろに下がる。
と同時に、レナは背中から長剣を引き抜き、
剣先を下に向け、意識を集中させる。
……が、いつもなら登場するハズの約700℃の炎が、
なぜか今回は現れない。
それに、心なしか、
いつもよりさらに、
腰を低く落として構えている。
「あんなのに近づくなんて、
まっぴら御免ね。
……喰らえ、疾風炎ッ!!」
しかし、レナは構わず、
炎を纏っていない長剣を、
思いきり振り上げる。
すると、剣先から、握りこぶし一つくらいの、
小さな光が通路のど真ん中を素早く飛んでいく。
その光は、待ち受けるブラックスライムの一番後方まで行くと、
音もなく、静かにフッ、と消え去った。
特に何も起こらない。
レナ以外の3人が???と、頭の中で思っていると……
バゥンバゥンバゥンバゥン……!!
トンネル中に響き渡る強烈な爆破音と共に、
先ほど光が通った線を中心として、
次々に炎が姿を現しては、
近くにいるブラックスライムを焼き尽くしていく。
たった数秒で十数回の炎が、
レナ達の目の前で爆発を巻き起こす。
そして、最後の炎が姿を消した時には、
レナ達の目の前に、ブラックスライムの姿は、
1匹として残っていなかった。
「ま、こんなモンかしらね」
まるで鞘に刀を納める侍のように、
キンッ、と背中の鞘に長剣をしまい、
レナはアルト達の方へ向き直る。
「毎度毎度のことながら、
とんでもない威力をお持ちで」
肩をすくめながらプログが参りました、
とばかりに話す。
「悪いわね、あんたの見せ場、
作ることができなくて」
プログの言葉にニヤッと笑みを浮かべ、
手を振りながら、再び歩き出すレナ。
「んや、今回ばっかりは、
作っていただかなくて結構ですわ」
一度は手に取った短剣を、
再びしまいながら、
プログも続いて歩き出す。
「見せ場って……」
「私たちの見せ場は……」
レナの繰り出した炎に唖然としたまま、
2人のやり取りを聞いていた、
残されたアルトとローザ。
「いらないよね?」
「なくていいですよね?」
お互い顔を見合わせ、
見事なまでにタイミングを被らせてそう言うと、
2人もレナとプログの後を追う。
エリフ大陸を目指す、レナ達の“ドブ巡り”は、
まだまだ続いていく。




