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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
189/219

第185話:首脳会議の終わりに

『結局のところ、

 レイ執政代理のエリフ大陸と、

 リオーネ陛下のウォンズ大陸でも、

 シャックに関しては特に収穫はなし、という訳か……』


『そうですわね。

 誠に遺憾ではございますが』


『ふむ……』


『どうかされましたか?

 クライド騎士総長』


『……レイ執政代理よ、

 我々は長年、シャックの所業に苦しめられてきている』


『? ええ、そうですね』


『その勢いはとどまることを知らない。

 にも関わらず、我々はいっこうに、

 その手がかりを掴むことができていない』


『……そう、ですね』


『ワームピル大陸、エリフ大陸、ウォンズ大陸。

 この3大陸は定期的に首脳会議を開催し、

 密に情報交換を行い、また手がかりなどを共有してきたと、

 私は自負している。

 だがそれでもシャックの本拠を、

 突き止めることができていない』


『……クライド騎士総長、

 貴殿は何を、仰りたいのしょうか』


『率直に言おう、レイ執政代理よ。

 もしやシャックは、

 かの大陸から来ているのではなかろうか?』


『……! 彼の国とは、もしや……』


『ディフィード大陸、の事で?』


『その通りだ、リオーネ陛下。

 3大陸が血眼になっても見つからない。

 ならば選択肢の一つとして、

 デイフィード大陸が浮かぶのは当然と、

 私はそう思うのだが』


『あらまあ……確かに選択肢としては、

 あり得るでしょうけれども……』


『シャックの問題だけではない。

 先に私がお二方に聞いた、

 ローザ王女の失踪事件。

 世界は広いとはいえ、

 2週間もの間、王女の情報がまったくない、

 というのも妙だ。

 となれば、あるいはローザ王女も、

 デイフィード大陸にいるのでは? と考えている』


『しかしクライド騎士総長、

 デイフィード大陸は現在、

 我々3つの王都、どれとも関係のないうえに、

 陸路でつながってすらいない、

 完全に孤立した大陸です。

 そのような大陸から、

 犯罪集団がわざわざこちらへ来たり、

 あるいはローザ王女が渡っている、

 というのは少々考えにくいかと……』


『分かっている、レイ執政代理。

 あくまでも可能性の話だ。

 だが、“考えにくい”案件ではあっても、

 “まったく考えられない”案件ではない、

 そうだろう?』


『それはそうですが……』


『シャックの活動は、

 市民の恒久的平和の脅威となる。

 可能性が少しでもあるならば、

 それを潰していくのが我々首脳の役目であろう?』


『……』


『……わたくしはその考えに賛成ですわ。

 施政者たる者、市民の安全を最優先に考えるのは、

 当然のことですから』


『ありがとう、リオーネ陛下。

 レイ執政代理、貴殿はどうだろうか?』


『……いえ、異論はありません。

 ですが完全に決めつけるのは、

 時期尚早かと』


『分かっているよ、

 貴殿の理解に感謝する。

 無論、私も推測だけで決めるなどという、

 愚者の行動に準じるつもりはない』


『そこまで仰るのであれば、

 クライド騎士総長はその可能性を潰す方法を、

 すでにお考えになられているのかしら?』


『ああ、もちろんだ。

 まず、ディフィード大陸を統べる、

 ドルジーハ総帥へ書簡を送ろうと思う』


『書簡、ですか。

 その内容は?』


『もしかしてシャック殲滅やローザ王女捜索に対する協力要請、

 といったものかしら?』


『それも考えたのだが、

 協力の要請程度では真実を突き止める、

 最短の道にはならない』


『では、一体どのような内容を?』


『……最終通告をしようと思う』


『最終通告?』


『ああ。

 シャックに関する情報があれば直ちに情報公開する事、

 ローザ王女を保護しているのならば直ちにこちらへ引き渡す事。

 この2点の最終通告を、書簡で通達する』


『いきなり最終通告とは、

 これまた随分と物騒ですわね……。

 わたくしは少々、やり過ぎな気がしますが』


『リオーネ陛下の言うことも、もっともだ。

 だが相手の素性が分からない以上、

 あまり行程を踏むのは得策ではないと私は考えている。

 下手にこちらの腹を探られたくはないからな』


『はあ……そういうものでしょうか。

 わたくし、まだまだ若輩で、

 その辺りは良く分かりませんわ』


『話を元に戻しましょう。

 それでクライド騎士総長、

 何かしらの返答が戻ってきた場合はいいとしても、

 もし返答がなかった時は、

 どうされるおつもりでしょうか?

 こちらが相手の素性が分からないという事は、

 相手側もこちらの素性を知らないことになる。

 そのような相手から書簡が届いても、

 すぐに返答が戻ってくるとは考えにくいと思いますが』


『……回答期限は3週間程度にする。

 猶予はある程度設けるつもりだ』


『もし、その3週間を過ぎた場合は?』


『……その時は最終通告を無視したとみなし、

 次の行動へ移す』


『と、言いますと?』


『……軍を動かすことも辞さない』


『!!』


『あらまあ……随分と物騒な』


『一度言って無視されるのなら、

 二度、三度言っても、結果は同じ。

 ならば行動は早く起こすべきであろう』


『クライド騎士総長!

 それはあまりに早計すぎます!

 そんなことをすれば、

 相手に要らぬ刺激を与えることになりかねません!』


『だからこその3週間の猶予だ。

 それだけの時間があれば、

 相手側も十分行動を吟味することができる、

 そうであろう、レイ執政代理?』


『それは……確かにそうですが!

 いや、仮にそうだとしても!』


『レイ執政代理よ、

 貴殿の気持ちは分からなくもない。

 私も出来ればこのような方法を取るべきでない、

 と思っている。

 だが、だとするならば他に何か、

 有用な方法があるだろうか?』


『!』


『こうして会議をしている間にも、

 シャックは活動を行っている。

 市民達にも当然、被害が出ている。

 その被害を最小限に食い止めるために、

 また可及的速やかにシャックを殲滅するために、

 何か方法があるだろうか?』


『そ、それは……しかし!』


『執政代理、それにリオーネ陛下よ。

 貴殿らはまだ若い。

 高い志や理想を持つことは大事な事だ。

 だが、それだけでは治世の務めを果たす事はできない。

 自国民の安寧を目指すのならば、 

 辛い決断を下すことも、

 時に施政者は重要なのだ』


『ですがッ……!!』


『……クライド騎士総長、

 貴方の仰りたいことは分かりました。

 そして、貴方が市民の方々の事を想い、

 そのような決断に至ったことも』


『! リオーネ陛下!?』


『ですがもう少し、

 わたくし達に考えさせていただいてもよろしいかしら?

 久々にお顔を拝見して、

 いきなり最後通告、拒否すれば軍を動かす。

 それを受け入れて欲しいと言われましても、

 わたくし達もさすがに、気持ちの整理がつきませんわ』


『当然だ、リオーネ陛下。

 なにも私も、この場ですべてを受け入れろ、

 などという乱暴な事は言わんよ。

 この件に関しては一度自国へ持ち帰っていただき、

 熟考を重ねていただきたい。

 そしてもし理解していただけるようなら、

 私と行動を共にしてほしい』


『……つまり、考えに賛同するならば共に戦おう、

 という事でしょうか?』


『そういう事だ、レイ執政代理』


『もし、賛同できなかった場合は?』


『その時は残念だが、

 共に行動することを断念する事になる』


『……最後通告を取りやめるという、

 選択肢はないのですね』


『それはない。

 貴殿らから賛同を得ようが得られまいが、

 最後通告は行うつもりだ』


『つまり王都キルフォーに対して、

 最後通告を行うのはすでに決定事項。

 何らかの返答があれば対応するが、

 もし拒否された場合、ファースターは軍を動かす

 また、クライド騎士総長の意見に賛同するならば、

 共に軍を動かし、反対するならば黙認しろ、

 そのような解釈でよろしいのかしら?』


『大体は、そんな感じに思ってくれていい。

 横暴なやり方かもしれないが、

 この世界、グロース・ファイスに真の平和をもたらすには、

 それが最善、最短の道であると、私は確信している』


『分かりました。

 一度サーチャードへ持ち帰って、

 城の者とも相談してみますわ』


『迅速な理解、感謝するよリオーネ陛下。

 レイ執政代理も、それでよろしいかな?』


『……分かりました。

 少しの間、時間をいただきたい』


『フフフ、

 賢明な判断と、快い返答を期待していますよ』


『――ッ』





「……話は、以上だ。

 会議が終了して、本日で2日目。

 まだ、クライド騎士総長へ連絡などはしていない……」



どこか疲れ切った表情で、レイはそう締めくくった。

まだ現実を完全には、

消化しきれないかのように。

首脳会議で投げられた賽を、

受け取ることができないかのように。


執政代理の顔色は、

疲労と曇りが混ざり合うかのような、

負を帯びた様相を呈していた。



「自分がシャックの頭であることは黙っておいて、

 都合の悪い事は全部デイフィード大陸のせい、

 だから王都キルフォーとドンパチやるってか、

 究極レベルに胸クソ悪いな」



吐き捨てるようにプログがそう言えば、



「あの騎士総長が……そんな……、

 そんなことを言ったでやンスか……。

 誰よりも平和を望んでいた騎士総長が……」



イグノは信じられない、と言った様子で、

それ以上の言葉を失う。


クライドが発した、“軍を動かす”という言葉。

それだけで、プログとイグノにも、

その単語の真意が理解できた。


それは決して、

軍を連れて大陸へと赴くなどという、

単純な意味には収まらない。

その意味を超えた、

その先で起こりうる、

もっと暴力的で、破壊的な意味をも、

きっと包み込んでいる。


武力衝突。


クライドの言葉はきっと、

そこまで含みを持つものに違いない。


そして、それは当然レナも分かっている。



「……ムカつくわね」



チッ、と。

腹底に溜まったイライラを吐き出すように舌打ちをして、



「あたし達が持っていったレイの書簡にすら、

 拒否反応を示したあの石頭ドルジーハが、

 最終通告をして“ハイ分かりました”なんて、

 素直に返事をするわけないじゃないッ」



ムカつくわね、と。

再びその言葉を、その場に吐き捨てた。


実際に王都キルフォーの総帥、

ドルジーハに面会したレナだからこそ、

未来は明確に見えていた、見えてしまっていた。



「そもそも今まで何の話もしなかった相手に対して、

 いきなり最後通告突き付けるとか、

 明らかに手順すっ飛ばし過ぎでしょッ……!」



クライドが提案した、

総帥ドルジーハに向けて送る、

シャックと王女ローザに関する最後通告。


シャック、そしてローザに関する情報提供。

了承して情報提供をするならそれでよし、

もし拒否、あるいは無視するようなら、

進軍も辞さない。


ただそれだけであったとしても、

相手の感情は決して快いものではないだろう。


手紙が来たらいきなり情報を開示しろ、

さもなくば武力行使。

たとえ普段、温厚な人だったとしても、

眉をひそめてしまう、それほどの所業だろう。


だが、事態はそれ以上にもっと深刻だ。


なぜなら相手が、

今までどの大陸とも交流を持とうとしなかった、

ディフィード大陸の王都、キルフォーだからである。


例えば名も知らない人から突如手紙が届き、

開けてみたら内容が脅迫まがいのものだった、

となれば、誰だって警戒するに決まっている。


クライドとドルジーハはおそらく、

面識など無いはずであって、

やろうとしていることは一緒である。

どのように事態が転んだとしても、

うまくいくはずがない。


加えて、王都キルフォーを統治する総帥、ドルジーハ。

かつて面会を果たしているレナは、

その石頭っぷりを、嫌というほど知っている。


他人の意見を受け入れず、己が信じる道を突き進む。

そう言えば聞こえはいいが何のことはない、

ただ自分勝手なだけである。

己の保身を優先し、

民が飢えることを何とも思わない。

ドルジーハはそのような男である。


実際、レナ達が関係構築を願ったレイの書簡を手に、

ドルジーハと面会した際、

ファースター、および世界の現況を懇切丁寧に説明し、

その上で書簡を渡そうとしたら、

こう吐き捨てられた。



『我々は自分たちの力で生きる。

 我々はどこの国の援助も要らん』



交流の道を自ら閉ざした、キルフォーの総帥。

国益を無視し、

閉鎖的かつ独善的な国づくりを選んだ総帥。


そのドルジーハがクライドの、

一方的かつ攻撃的な書簡を、

もし目にしたとしたら。


ハイ分かりました素直に従いましょう。

そんな希望に満ちた言葉が出てくる可能性など、

宇宙人と遭遇するより低い。

むしろただでさえ他大陸に対して攻撃的な姿勢に、

さらに磨きがかかる可能性の方が高い。


その策は、あまりにも愚策。

それが分からないクライドでは、決してないはず。


そのような行動をとれば、相手がどうなるかなど、

いとも容易く想像できるはず。


にも関わらず、クライドがとった決断は、愚策。



「まさか――」



騎士総長クライドと、総帥ドルジーハ。

双方と顔を合わせたことがあるレナが、

思考という線で2人を結びつけた時に、

導き出した答え。



「まさかクライドのヤツ、

 ワザと戦争を起こそうとしている……?」



その答えはポロリと、

恨めしそうに顔をしかめるレナから、

その場に沁み渡るように零れ落ちた。


次回投稿予定→5/5 15:00頃

来週はまるそーだの私情により休載となります、

すみません。

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