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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
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第183話:セカルタ城にて

「お疲れ様です!

 ようこそお越しくださいました!

 レイ執政代理がお待ちです、中へどうぞ!!」



レナ達の姿を見るなり、

セカルタ城を護る門番は、

背筋をシャチホコのごとく反り上げて声を張り上げる。



「しっかしアレだな、

 ホントに顔パス同然の状態だな。

 こっちとしてはありがたい限りなんだが」



その門番に対してお疲れさん、と声をかけながら、

プログがしみじみしながら言う。


先日アックスにてレナが受信した、

通信機の相手は、

エリフ大陸の王都セカルタで執政代理を務めるレイだった。

唐突に何事かとレナが思っている中、

“レナさん達に話しておきたいことがある”という事で、

レナ達は急遽アックスからセカルタへと、

戻ってきたのである。


エリフ大陸の王都、セカルタ。

そのセカルタで実質上トップの地位にいる、

執政代理のレイ。


本来、レイに面会するとなれば、

軽く見積もっても数か月待ち状態と言われている中で、

レナ達は特例で希望すればいつでも、

レイに面会することが許されている。


フェイティの元教え子とか、

王立魔術専門学校の事件を解決したとか、

ローザと行動を共にしているとか、

おそらく理由は複数あるのだが、

いずれにせよ、

レナ達の行動に対して多大な恩義を感じているようで、

そのおかげでレナ達も、ほとんどフリーパス状態で、

お城の中に入ることができている。


「ま、最初はとんだ頭でっかちだと思っていたけど、

 実際は真逆だったわね」



城の中へと入ったレナが何の気なしにボヤいている横で。



「うおー!

 これがセカルタ城でやンスか!!

 すごいでやンス! 

 ファースター城とは全然違うでやンスッ!!」



まるで都会へ旅行に来た田舎の子どものように、

イグノは輝いた目を、

あちらこちらにキョロキョロさせている。

ファースターが誇る騎士隊の3番隊隊長だったイグノは、

どうやらセカルタ城内へ入ったことがなかったようで、



「兵士はファースター城よりも多いでやンスねぇ。

 身に着けている鎧も全然違うし。

 これは興味深いでやンスねぇ……!」



周りの視線を気にしない、

大音量MAXの声で、ギャーギャー騒いでいる。



「あんたねえ、

 ちょっとは静かにしていなさいよ……」



もはや見ているこっちが恥ずかしくなる、

そのくらいのはしゃぎっぷりに、

レナはわずかながらも、殺意を抱かずにはいられない。


当たり前なのだが、

ここへは観光しに来たのではない。

レイがわざわざ直接、

連絡をよこしてきて“話がある”となれば、

世間話程度のモノではない、

何か重要な話があると思って然るべきである。


にも関わらず、この男は。



「へぇーッ、へぇー!!」



観光にでも来たつもりなのだろうか、

とにかくうるさいこと、うるさいこと……。


例え自分じゃなくとも、

怒の感情がフツフツと沸き立ってきても、

何らおかしくはない、とレナは心底思う。


だが、それでも今のところレナ以外に、

殺意を抱く者がいないのは、

あの天才少年様が、この場にいないからだろう。


ちなみにスカルドは案の定というか、

セカルタ城に赴く直前に、

俺は絶対に城には入らん、

話はお前らだけで聞いて後で報告しろという、

おおよそ最年少とは思えぬ台詞を残し、

一方的に姿をくらました。


相変らず身勝手ねと思う気持ち半分、

復讐相手だししょうがないかと思う気持ち半分、

といった感じに、

まあいつもの事だし別にいっかと、

レナは特に気にすることもなかった。


相変わらず田舎者さ全開のイグノに、

殺意を募らせながら城の中をどんどん進んでいくと、



「お疲れ様です。

 中でレイ執政代理がお待ちです、

 さあ、どうぞ」



もはや芸術の域ともいえる敬礼ポーズを決めるセカルタ兵が、

謁見室への扉をゆっくりと開く。


その先には。



「久しぶり……というほどでもないか。

 急に呼び出して悪かったね」



そこにはセカルタを統べる執政代理、レイの姿が。



「ううん、全然。

 むしろ忙しい時だと思うのに、

 連絡くれてどーもですっと」



その姿を見て、

レナはどこか、妙な安心感を覚えていた。


いや、別にレイが好きだとか、

そのような類の感情ではない。

どちらかといえば何かこう、

実家に帰ってきたかのような、

心が落ち着くことのできる、

安住の地へ戻ってきたかのような、

暖かい感覚に似ていた。


ここは、大丈夫。

そんな気持ちに、自然となる事ができていた。



「――――っと?」



……と、

レイはすぐさま、その存在に気づき。



「そちらの男性は……、

 初めてお目にかかるかな?」


「あ、ど、どうもでやンス!

 じ、自分はい、イグノと申すますでやンス!!」



訊ねられたイグノは、

先ほどまでの観光気分はどこへやら、

マンガのキャラクターも顔負けレベルに、

顔面中に汗を滴らせ、カミカミしながら言う。


プログが呆れ気味に、



「……オイオイ、

 さっきまでの威勢はどこへ行ったんだよ」



隣でブツブツ言っているが、

完全にテンパっているイグノにはまったく聞こえないようで、



「お、お会いできて嬉し……、

 あ、いや、光栄と思いますです、やンス!!」


「……何語を喋ってんのよ、さっきから」



その様子に、

レナも思わずツッコまずにはいられない。

敬語もへったくれもありゃしない、

誠に残念な口調である。



「ハハハ。

 そこまで固くならないでいいよ、

 別に俺も無理して敬語で、

 話してほしいとは思わないからさ」



だが、たかがそれくらいで機嫌を損ねるほど、

度量の狭いレイではない。


イグノの残念な口調に対しても軽く笑い、

さして問題にもしなかった。


だが、



「えーと……。

 ちょっと言いづらいんだけど、

 このイグノは元ファースター騎士隊の、

 7隊長の一人だったの」


「元ファースター騎士隊の……?」



続けてレナが、

バツが悪そうにイグノの素性を明かした瞬間、

レイの表情から笑顔がわずかに強張る。



「そう。

 ちょっとワケあって、

 7隊長をクビになったところを、

 あたしが仲間として迎え入れたの」



やっぱりこんな雰囲気になるわよねと、

腹をくくっていたとはいえ、

レナは複雑な心境でそう付け加える。



イグノの素性を明かすか、否か。


それはこのセカルタ城に入る前からの、

懸案事項ではあった――。





『そういやレナさんよ』


『何よ、プログ?

 そんなに改まって』


『これからセカルタのお偉いさんであるレイに、

 俺たち面会するわけなんだが……』


『……分かっているわよ、

 イグノの件でしょ?』


『ご明察。

 察しが良くてホントに助かるぜ』


『え、え? どういう事でやンスか?』


『あんたがいるから話がややこしくなっている、

 ってハナシよ』


『何ソレひどい!

 俺はのけ者でやンスか!?』


『そういう事じゃねーよ。

 お前さんの元3番隊隊長って肩書が、

 都合の悪い事を引き起こしているのさ、なあレナ?』


『そっ。

 敵対はしていないとはいえ、

 ファースターとセカルタは、

 互いにライバル関係にあると考えていい。

 ってなるとセカルタの最高施政者であるレイに対して、

 元がついているとはいえ、

 かつてファースターの要職に就いていたあんたを、

 面会させるのが果たしていいのかどうか、

 って事よ、分かる?』


『……俺がスパイじゃないかとか、

 変に疑われる可能性がある、

 って事でやンスか』


『そういう事さ。

 いくらレイとはいえ、

 国交のない相手の元要人がいきなり訪ねてきたとなれば、

 手放しで歓迎、ってワケにはいかねぇだろ』


『じゃあ、俺もスカルド同様、

 面会が終わるまで外で待っていた方がいいでやンスか?』


『いや、それがそう単純な話でもないのよね……。

 正直今のうちにレイにアンタの事を話しておくことで、

 メリットも何点かあるし……』


『? メリットなんてあるでやンスか?』


『まあね。ここじゃ言わないけど』


『……俺は別にどっちでもいいでやンスよ、

 どのみち俺に選択権はないでやンスから』


『だとよ、レナ、どうする?』


『うーん、そうね――』





それがセカルタ城へと入る前の、

レナ、プログ、そしてイグノの会話。


迷わなかった、と言えばウソになる。

事実、プログから決断を促された時、

すぐに結論を出すことはできず、

ちょっと考えさせてと、猶予を求めた。


他の選択肢も、考えてみた。


たとえばスカルドがそうしたように、

イグノもセカルタ城に入れないようにするとか。


だが、まだ完全にイグノを、

信用したワケではないこの状況の中、

自分の目の届く場所から外すことは、

やはり本意ではなく、この案は自ら却下した。


やはりイグノを、

レイに謁見させるしかない。


問題は正体を晒すか、否か。


レイにイグノの正体を晒せば、

大小はあれど間違いなく、懐疑的な見方をされる。

だが、かといってイグノの正体を黙っていて、

もし後からレイに、その事実を知られることになったら。


いくらレイであっても、

いい気分には決してならないだろう。


嬉しいサプライズなどを除き、

自分に隠し事をされていて、

気分がいい想いをするものなど、いるはずがない。


それがファースターに仕える者だったという、

ある意味国家の関係性に及ぶ重大事項なら、

なおのことである。


言うか、言わないか。

どっちを選択しても、ハイリスクの賭け――。


そのような経緯を経て出た結論が、

レイに対して包み隠さず、

イグノの素性をさらけ出す事だった。


切れ者のレイの事だ、

イグノと面会すればどうせ遅かれ早かれ、

正体に気づくことになるだろう。


だったら先に素性を明かしておき、

隠すつもりなどないという意志を示しておく。



「このイグノは7隊長をクビになって、

 今はあたしの用心棒として行動を共にしているの。

 すぐに信じて、とは言わないわ。

 もしこの場にそぐわないなら、

 すぐに出て行ってもらうから、

 そうでしょ、イグノ?」



なおも表情を強張らせているレイに対し、

レナはイグノへほら、あんたからもと、

肘で軽くつつく。



「え、あ、お、おう!

 そ、そうでやンスね。

 もしまだ俺が居ちゃまずいようなら、

 城の外で待っているでやンス。

 何なら門番に見張ってもらってても、

 俺は構わないでやンスよ!」



冒頭しどろもどろになりながらも、

まるで発表会に挑む子どものように、

イグノは大声でそう言い切る。


さすがのイグノも、

自分が信用されていない、

ということは分かっているようだった。



「…………」



レイはなおも難しい表情のまま、

中心に立つイグノ――というより、

焦点を絞ることなく、

3人を高座から俯瞰的に眺めていたが、


やがて。


「……分かった」



ポツリと、一言そう切り出し、



「レナさん達がそこまで言うのなら、

 こちらがとやかく言う問題じゃない。

 信用させてもらうよ、イグノ君」



わずかに笑みを浮かべて、

レイは言い切った。

レナ達の言葉に信を委ねるかのように。


すべてを聞かずとも、

レナ達という、顔パスに免じるかのように。


「すまないわね、

 また一つ、

 要らない情報を耳に入れちゃって」


「気にしないでくれ。

 俺とて執政代理に身を置いている以上、

 このような事は十分にあり得る事さ」


申し訳なさそうに告げるレナに対し、

レイは笑って言う。



「それに考え方を変えれば、

 今までまったく掴むことのできなかった、

 ファースターに関する情報を知るチャンスを得た、

 とも考えられる。

 俺にとってもそれは望んでいるものだしね」


「レイ……ホント、申し訳ないわね」


「だから気にしなくていいさ。

 ……そういう事だから、

 決して裏切るような事はしないでくれよ?

 イグノ君」


「分かっているでやンスよ。

 というより裏切ろうにも、

 裏切った後に戻る場所がそもそも俺には、

 もうないでやンスから」



レイから釘を刺される格好となったイグノ。

時間が経って緊張が解けたのか、

特に言葉に詰まることなく、



「もし俺が裏切るようなことがあったら……。

 その時は躊躇なく、殺してもらっていいでやンスよ。

 それくらい、絶対に裏切らないと言い切れるでやンスから」



唐突に物騒な言葉を持ち出したが、

それでもイグノはいつものアホ面とは違う、

いたって神妙な面持ちで、レイに答えた。


まるでそれが言葉で表現できる、

最大限の誓いとでも言いたげに。


絶対に、裏切らない。

ただその言葉を、

誠心誠意、精一杯伝えるかのように。


まったく殺すとか物騒ね、

と言いかけたレナだったが、

唐突に生まれた妙な緊張感に押され、

その言葉を飲み込まざるを得なかった。



「……君の心意気、しかと受け取った。

 変に疑って悪かった」



レイはイグノに対しておもむろに頭を下げ、



「今からの話をイグノ君、

 君にもぜひ聞いててもらいたい」



意を決したかのように、

レイは話を本丸へと移行させた。



「そうね、そろそろ本題に入らないと、ね」



レナもその流れに同調した。

この場に人が集まったのは、

自己紹介がメインではない。

レイがこれから話すことそれこそが、

レナ達がここまで来た最大の理由なのだから。



しかも他でもないレイから直接、

呼び寄せられたとするならば。

その重要性と緊急性は明らかだ。


好奇とも、高揚とも分からぬ、

複雑な思いを身にまとい、



「それで、話って何かしら?」



レナは執政代理へと、発言のボールを投げた。

一体、レイは何を、

自分達に聞かせようとしているのか。



「……端的に言おう。

 とはいえ、非常に言いづらい事なのだが……」



受け取ったレイは、

何か苦虫を噛み潰すような表情を浮かべ、

わずかに言葉を詰まらせた、そののちに。



「近々、戦争が起きるかもしれない」



レナ達へ再び、豪速球で投げ返した。


次回投稿予定→4/7 15:00頃

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