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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
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第177話:思考の枝葉

スカルドには、自信があった。



(ローザがエリフ大陸出身であることは、

まずあり得ないだろうな)



断定の度合いが、違った。



(アイツの事はそれほど知らないが、

だがそれでも、もしローザがエリフ大陸出身だとしたら、

プログはそんなに行動を共にしていないどころか、

まったく行動を共にしていない事になる)



スカルドが再び着目したのは、

プログがファースター駅にて発した、この言葉。



『レナとアルトとは結構行動を共にしてるけど、

 ローザとは俺自身もそれほど、

 行動を共にはしてねぇし、

 あんまり話す機会もなかったんだわ』



プログとローザは一緒に行動を、

あまりしていない。

要約するとそういうことになる。


だが、その言葉はスカルドにとって、

違和感でしかなかった。



(レナとアルトとプログ。

この3人は同じお尋ね者とされている。

となれば、元々は3人一緒に行動していた可能性が高い。

そして逃亡目的でエリフ大陸へ渡ることを計画し、

おそらく、その3人はその過程でバンダン水路を使った。

今なお行動を共にしていることを考えれば、

これは充分にあり得る仮定だろう)



スカルドはすぐさま、推理の論を組み上げる。

少年にとってこのくらいの作業は造作もないことである。


そのうえで。



(それほど多くの時間を3人は過ごしているにも関わらず。

レナやアルトはローザと“結構行動を共にして”、

かつプログは“それほど行動を共にしていない”。

そんな状況が生まれるとしたら――)



スカルドは僅かに顔をあげ、

目の前を歩くプログの大きな背中に視線を送ると、



(可能性としてあり得るのはただ一つだけ。

レナとアルト、そしてローザが先に知り合い、

後からプログがそこへ合流した、というパターンだけだ)



例えば途中で誰かが長期離脱をしたとか、

突如として行方をくらましたとか、

よほど予測不能な動きをされない限りは、

組み上げた理論に当てはまる事象は、それしか存在しない。


プログの言う“それほど”が、

どの程度の期間を指しているのか、

その詳細を把握することは、

スカルドにはできない。

だがそれでも、

“結構行動を共にしている”レナやアルトと、

明確な差異をつけている以上、

例えば1日別行動しましたとか、

その程度のものではない事は確かである。


ところが、このたった一つしかないパターンを、

真実の根幹として据えた場合、

とある可能性が、完全消滅することになる。


それが、



(ローザと3人はエリフ大陸へ渡った後に出会った、

という可能性が0になる)



という事だった。


ローザがエリフ大陸育ちで、

バンダン水路を渡った後に3人と知り合ったとしたら、

レナとアルトとローザが出会った後に知り合うはずのプログが、

レナやアルトと共にバンダン水路を渡ったという、

矛盾が生じることになる。


当然、知り合う前に行動を共にすることなど、

夢でもない限り、あり得るはずがない。

それはスカルドの考える現実の理論上では、

絶対に相容れるものでなかった。


矛盾が生じる、二つの事項。

その矛盾を解消するには二つの事項の、

少なくともいずれかを辻褄があうよう、

改変させる必要がある。



(ローザがエリフ大陸出身ではないか、

あるいは……)



一つの可能性は、ローザがエリフ大陸出身である事の否定。

そしてもう一つの可能性は。



(プログの言うそれほど行動をともにしていない、

というのが嘘か)



プログが言った言葉の否定。


だが、スカルドの思考は、そこで終わらなかった。



(それともう一つ……)



スカルドが残した、もう一つの可能性。



(ローザがエリフ大陸出身でなく、

さらにプログが嘘をついているか、だな)



それは、両方の否定。


正と正の関係、すなわちローザがエリフ大陸出身で、

かつプログとの行動が少ない。

この関係は成立しない。

一方で、正と誤、あるいは誤と正の関係。

これは事実として成立する。


だが、数学の証明で使われる正と誤の関係性では、

もう一つパターンがある。


それが、誤と誤。


ローザがエリフ大陸出身でもなければ、

プログがローザと行動をほとんどしていないというのも嘘。


あくまで仮定の話だが、

これも理論上は成立する仮定である。


そして、理論上成立する仮定を、

セカルタが生んだ天才少年が見逃すはずはない。



(エリフ出身か否かと、プログの言葉の真偽。

この二つを見極めることさえできれば、

真実へ近づくことができるな)



スカルドには、確証があった。


この二つの疑問が解くことができれば、

プログ達がなぜ、エリフ大陸へと渡る必要があったのか。

また、そのためになぜ、

バンダン水路の秘密の吊り橋を使ったのか。



(それだけじゃない。

もしかしたらプログが知っているであろう、

王女に関する情報をなぜ隠したのか、

その疑問を解決する手がかりになるかもしれねぇ)



それは、スカルドがファースター駅にいた時、

プログに対して抱いた疑念。


もしやプログは、現在行方不明となっている、

ファースター王女に関する情報を隠し持っているのではないか。


もしその疑問が、プログやレナ、アルト、

そしてローザの関係や行動の真意を見極める、

手がかりになるとしたら。


考えようは、いくらでもある。


王女が行方不明。

ファースター市民に対する情報統制。

レナとアルト、プログが指名手配犯。

ローザという存在に関する謎。

そして、ファースター駅にてプログが見せた、

何かを隠しているかのような振る舞い、しぐさ。



(――――ッ)



これらの事が今、同時に起きている。

まるで示し合わせているかのように――。


まるで――。



(……いや、早計だな)



だが、まるで無線通信が突如途絶えたかのように、

スカルドはそれ以降の思考を切断した。


まだ早い。


壮大で破壊的な、

その仮説をぶち上げるには、まだ早すぎる。



(完全な理論が組み上がるまでに、

仮説をたてるのは得策ではないな)



自らの肉体からふるい落とすかのように、

首を一、二度横に振り、スカルドはそう結論付けた。


不確定要素が多い中での、

相手を色眼鏡で見るという行動。

スカルドはその行動が愚であると判断した。


だが、それは決して、

疑うことがよくないという、

倫理観に基づいたものではない。


下手な先入観を持つことにより、

物事の本質を捉えにくくすることを避けるために。

己の目的を達するために、

不要なフィルタをかけることがないように。


それは相手のためではなく、

自分のためで。

友人への信頼、という精神ではなく、

何者にも染まらない警察や裁判官の意志、という精神で。


天才少年の意志に、一切の揺らぎ、歪みはない。



(その辺については、もう少し調査が必要だな。

誤った理論で無関係の人を巻き込むことだけは、

絶対に避けなければならない……)



慌てず、でも着実に。

少年が今、生きる意味を突き進むために。



(俺の目的はファースター、セカルタ政府への復讐……)



今一度、少年はその思いを自らの中で反芻する。

そして、その真っ直ぐ突き進む思考とは対照的な、

歪んだ感情むき出しの眼で。



(当然、ファースターの王女とて、

例外ではないのだからな)



少年は静かに、心の中で憎しみの炎を、

絶え間なく燃やし続ける。





「これでよし、と。

 これでとりあえずは、プログ達の到着待ちね」



接続が切断された通信機を手に、

レナは何となしに呟く。


プログとスカルドは今から、

ワームピル大陸からバンダン水路を経由して、

エリフ大陸へ戻ってくることになっている。


その所要時間は、およそ2日。

本音を言えば少しでも早く合流できれば、

というところである。


だが、レナも鬼ではない。

船旅での肉体的疲労ももちろんだが、

いつ捕まるかもしれないという、

精神的な疲労は、レナが計るものよりも、

おそらくずっと重いものであろう。


みんなと離散して以降、

レナは夜にまとまった睡眠を毎日取ることができているが、

プログとスカルドはきっと、

まともに睡眠をとれていないに違いない。


こちらへ戻ってくる道中、

幾度かの休息、あるいは仮眠を考慮しての、

全行程2日ということなのであれば。


そこに対してとやかく言うことを、

レナはしたいとはまったく思わなかった。


それよりも、



「あと2日か……。

 何をしておこうかしら……」



レナとしてはむしろ、

こっちの方が問題であった。


今から、2日間。

己がどのような行動をとるべきか。



(今まで通り、列車に乗ってシャックを待つ、ってのもねぇ……)



それは本来、

レナがこのエリフ大陸に残った理由、目的。


いわばこのミッションがあるからこそ、

レナは一人で、この大陸で行動することを決めたもの。


だが、今のレナは、その行動をとることに、

大いなるためらいを覚えていた。



(超絶非効率、というか効果ゼロなのよね……)



原因は、それに尽きていた。


ここ数日、レナは1日の大半を、

列車マニアと思われても不思議なくらいに、

列車の中で過ごしてきた。

理由は、列車専門の犯罪集団、シャックに関わる、

何らかの情報を得るため、

あるいは、そのシャック本体の一味に遭遇するために、である


見慣れた光景、風景に飽くことなく、

またお世辞にもすわり心地のいいとはいえない、

木製の固い座席にお尻に鈍痛を抱えるのを我慢しつつも、

それでもレナは列車に乗り続けていた。


だが、結果はゼロ。

何もなかった。


アルト達やプログ達と別れてから今に至るまで、

レナは“本来の目的”という意味では、

何の成果も得られていない。


世間をあれだけ騒がせているにも関わらず、

ここ数日はまるで山の中にひっそりと存在する湖のように、

ひっそりと静まり返っている、シャックの蛮行。


もしやどこかから、

シャックの関係者に見張られているんじゃないかと、

そう思わせるくらい、

レナの周りでは、何も起きない。



(やっぱり、頭であるクライドが会議をしているから、

具体的な動きを取らないのかしら?

下っ端が下手に動いて、

万が一捕まり、真実を白状されたらマズイだろうし……)



それも可能性としてはあるかと、

ぼんやり思いつつ、



(シャックが出てこないってのは、

街の人からしたら幸せなことなんだろうけど……。

その中でシャックとの遭遇を願っているあたしって、

何かすごい性格悪い感じがして嫌だわぁ……)



はあ、と一つ、大きなため息が出てしまう。


人々の平穏を、

斜めな視点からしか見ることのできない、

自らの置かれている境遇に、

若干の嫌気が差していた、


その中で。



「あの~」



その様子一部始終を横で眺めていたイグノが、

忖度たっぷり、といった感じの声を発する。



「ん? 何?」


「さっきの通信ってプログでやンスか?」


「そうよ。

 これからプログ達と合流しようと思って」


「プログ達、ってことは、

 他にも誰かいるでやンスか?

 アルトムとか?」


「アルトはいないわ。

 プログと一緒にいるのはスカルドよ」


「スカルド?」


「あれ、あんた会ったことなかったっけ?

 基本仏頂面の、可愛げのない天才少年様よ」


「! ああ、あの魔術学校に通ってたやつでやンスか」



仏頂面の可愛げない天才少年。

我ながらなかなかにひどい例えをしたものだと思う一方、

それですぐに誰の事か把握できたイグノも大概なものよね、

とレナはぼんやり思いながらも、



「そっ。

 プログとスカルドの2人が今、行動を共にしているの」



懐に握りしめていた通信機をしまいながら、

少女は言う。



「ふーん。

 それはまた何で


「ストップ。

 残念ながらそれ以上は、まだシークレットよ」



明らかに理由を聞いてきたであろうイグノの問いを、

レナは途中で遮断した。


まだ、そこまでの信用を、

イグノには置いていない。


主と用心棒の関係とはいえ、

イグノは元々、ファースターが誇る7隊長の、

一端を担っていた人物である。


もしかしたら、まだ敵であるクライド、

そして他の7隊長と繋がりがあるかもしれない――。


レナは、用心に用心を重ねて、

あえてそれ以上の言葉を伏せた。



「……まあ、無理して教えてもらえなくても、

 俺は構わないでやンスけど。

 それにスカルドについてはまだよく知らないけど、

 プログについては牢屋にいた頃から、

 大体分かっているでやンスから」



おそらく、自らの立場をしっかりわきまえているのだろう、

その様子を察したか、元3番隊隊長のイグノも、

それ以上に踏み込んでくることをしなかった。


物わかりが早くて助かるわと、

レナは内心、ふうと胸をなでおろして、



(……あれ?)



ふと新たに胸に何かが、つっかえた。


そういえば。

一度は気になっていたものの、

時が流れるにつれて徐々に興味が薄れていき、

つい先ほどまでは、もはや脳の忘却能力で、

完全に思考から外されていた、


疑問が今、ふとイグノの言葉でよみがえった。


本人からはきっと聞き出すことのできないであろう、

その疑問。



「イグノさぁ」



気がつけば、レナは言葉を発していた。



「? 何でやンスか?」


「いい機会だし、

 一個、聞きたいんだけど……」



自らも頭の中を整理しながら、

まるで探り探りといった口調で話すと、

レナはイグノへ、その疑問を投げかけてみた。


「プログって、

 ホントに密入国の罪で捕まって、

 ファースター城の牢屋にいたの?」


次回投稿予定→2/17 15:00頃

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