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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
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第176話:真実に迫る頭脳

常人ならば、何の引っかかりもなく、

ただただ右から左へ受け流すであろうもの。


だが、森羅万象、

すべてのものが魔術という学問の糧になり得ると考える、

セカルタが生んだ天才少年にとっては、

ほんの些細なものでも。


たとえばそれが、

ほんの数ミリ程度のささくれであったとしても。


自らが少しでも違和感を覚えた要素は、

それがもれなくすべてが疑問となる。



(よくよく考えてみれば、妙な話だ)


エリフ大陸へ移動するため、

列車ではなくわざわざ、

バンダン水路という劣悪な環境下を通った。

その事実をスルーすることは、

少年にとって許せるものではなかった。



(コイツはなぜ、

そんなクソみたいな環境下を使ったんだ?)



目の前を歩く年上のコイツであるプログに、

己の思考を見抜かれないよう、

ピタッと背中のすぐ後ろに貼りつくようにして歩きながら、

スカルドは思う。



(物好きで使ったのか?

いや、ただの物好きだけで、

あのような腐蝕した場を行くはずがない。

だとすれば何か理由があって、その吊り橋を使ったはず。

使った、ではなく、

使わざるを得なかった理由が、必ずあるはずだ)


プログが決して口にしなかった、

彼らがバンダン水路を使った理由、真実。


だが天才少年は、

その圧倒的な知能を駆使して、

プログの思考の中身を強引に、

まさにこじ開けようと試みていた。



(使わざるを得なかったというのは、

コイツ等が追われているというのと、

何か関係しているのだろうか?)



ちなみにスカルドは、

プログやレナ、そしてアルトがなぜ、

ファースター政府に追われているか、

その理由を教えられていない。


別にスカルドも、

その理由を聞こうとしなかった。

なぜなら興味がなかったから。


自らの目的である、

ファースターおよびセカルタ政府への復讐と、

魔術を究める以外で、

疑問というささくれを感じなければ、

それらはすべて水の流れの如く、

サラサラと流していってしまう。


レナ達がお尋ね者であるという問題も、

当初のスカルドにとっては、

いわば本当にどうでもいい事だった。


だが、今となっては。



(アイツらが政府に追われるような、

大罪人には見えないが……)



その理由は完全に、

スカルドの疑問の追及対象となっていた。


そして、ひとたび追及対象となってしまえば。



(そういえばお尋ね者と貼りだされていたが、

何をしでかしたかまでは、書いていなかったな。

お尋ね者と貼りだしているにもかかわらず、

罪名が書かれていなかったという事は、

殺人レベルの重大犯罪を犯したわけではないと考えられるか。

殺人レベルの重罪だったら、

注意喚起のために普通書いてあるはず……)



スカルドは“知”という武器を最大限行使して、

真実という頂点へと、じわじわと押し迫っていく。

その勢いは、一度加速をしてしまえば、

停止をすることを知らない。



(例えば……万引きとかか?

いや、万引き程度ならあれほど大々的になることはない……。

詐欺とかか?

……いや、レナはともかくとして、

優男面のアルトと口うるせェプログが、

人を騙すようなことが出来るとも考えにくい。

詐欺の線もおそらく薄いだろう。

後は……クソ、他は有り得そうなものばかりで、

絞り切れないな……)



十八番の理詰めにより、

少年は膨大な、

それこそ数十、数百とも枝分かれしそうな樹形図から、

まるで枝鋏でゴッソリ切り落とすかのように、

捨てるべき選択肢を排除していく。


だが、天才少年の頭脳を以てしても、

選択の排除には限界がある。


多少の罪状は切り落とすことができたものの、

それでもこれだ、と断定するには、

あまりにも情報が少なすぎる。



(……まあいい。

罪状は何にしろ、

バンダン水路にある、

吊り橋を使った事実は変わりない)



ここではこれ以上の真実に、

たどり着くことは不可能。


とりあえず確認するだけで、ここは収束――。

自らの中でクロージングをしようとしたスカルドが、



(列車を使わず、表舞台からコソコソ隠れて、

エリフ大陸に渡って……)



最後に何気なく考えた、その瞬間。



(……ん?)



不意に収束しようとした思考が、ほどけた。

何かが、少年の中で引っかかる。



(列車を使わず……表舞台からコソコソ隠れて……エリフ大陸に……)



渡る?

そこでスカルドの、

一度は消えかけた懐疑心に、再び火が灯った。



(待て、そもそもコイツらはなぜ、

エリフ大陸へ渡る必要があったんだ?

プログはともかくとして、

レナやアルトはワームピル大陸出身だったはず。

罪を犯したとはいえ、軽度の罪ごときで、

多少なりとも土地勘のある大陸を捨てて、

そんなにいともたやすく、

他大陸へ渡る事なんて、するか?)



有り得なくはないがそれは最善ではない、

とスカルドはすぐに言い切ることができた。


罪を犯し、追っ手から逃れるために、

他大陸へと逃亡する。


一見、それほど行動としては真っ当なモノに映るが、

スカルドは、そうは考えなかった。


旅人や放浪者でもない限り、

他大陸よりも自らが生まれ育った大陸の方が、

間違いなく土地勘がある。

これは誰もが知っている、当然の事実である。


例えば罪を犯したとする。

どこかに隠れようと考えた時、

知らない未見の場所と、

隅から隅まで知り尽くしている場所、

果たしてどちらの方を選ぶだろうか。


(追跡はたとえ他大陸であっても、

どこまでも追いかけてくる。

ならば多少近くであっても、

自分が知り尽くしていて、

隠れ場所もすぐに数か所思い浮かべられる方が、

断然見つかる可能性は低い。

俺が犯罪者なら後者を、迷わず選ぶだろうな)


スカルドの意志は、明確だった。

そして明確がゆえに、

判断も早い。


(にも関わらず、わざわざ大陸を渡ったという事は、

おそらく軽度の罪ではない。

たかだか万引きや傷害レベルで、

そこまで大げさに動くことはしないだろうからな)



天才少年の頭脳は、そう結論付けた。

一度は止まった少年の推理は再び動き出し、

真理へ少しずつではあるが、

しかしそれでも確実に、近づいていく。


そして、一つの結論を見出したことで、

思考の湖は更なる波紋を起こさせる。



(それほど軽くない罪で、

かつあれほど大々的に尋ね人と描かれていながら、

プログ達はまだ、余裕で逃げ回ることができている。

よほどファースターの警察が腑抜けであれば話は別だが、

もしそうでないならば、

おそらく指名手配として流布されたのが、

それほど昔のことではない、比較的最近という事か……)



一つの波紋がもう一つ、

そしてまた一つ、

違う視点から見える真理への謎を、

スカルドへの脳へと送り届けていく。



(それにしてもこの短期間でこれほど多く、

尋ね人の案内を見たという事は、

流布されてから一気に、

ワームピル大陸全体に回ったことになるな。

それほど軽くない罪だと思っていたが、

政府にとってはかなり重大な罪なのか?)



じわじわと。

まるで植物が土に根をはるように。


スカルドは頭脳のすべてを駆使して、

限りなく0に等しかった真理に対する知識の扉を、

1、2、3と広げていく。



(他大陸へ渡るための手段は、

俺とプログ同様貨物部分に隠れて、

エリフ大陸へ渡るという選択肢も、

きっとあったに違いない。

でも、それは避けた。

使わなかったのか、使えなかったのか……)



一歩、一歩、着実に。



(いずれにせよ、政府直轄の列車を避けたという事は、

絶対に見つかりたくないという、

相当なリスクマネジメントがあった、

と考えていいだろうな)



プログが何気なく発した、

バンダン水路の秘密の吊り橋を使ったことがある、という言葉。


たったそれだけで、

スカルドは、ここまで理論を組み上げた。

天才少年の頭脳に、一切の妥協はない。


まるで人の頭をかち割り、

脳天から思考を覗き見るように。

スカルドは不可視なモノを、

己の頭脳一本で可視化させようとしていた。



(……?)



そして、その理論の組み上げは、

まだ終わっていなかった。

天才少年の頭脳は、更なる波紋を生み出す。



(そういえば、ローザとフェイティの指名手配は、

一度も見ていないな。

アイツらはレナやアルト、プログが犯した罪に、

直接は関わっていないのか?)



スカルドは三たび、考える。



プログと共にワームピル大陸へ渡り今に至るまで、

ファイタルではレナとプログの、

そしてファースターでは2人に加えてアルトの、

指名手配されている絵を目の当たりにしている。


さしずめファイタルにアルトの指名手配がなかった理由は、

地元であり、王女誘拐に関する情報統制という側面が関係するのだろう、

と考えることができたのだが、

スカルドがレナ達と出会った時、

すでにレナ達と行動を共にしていたローザやフェイティは、

今まで一度も指名手配されている様子が確認できていない。


アルト同様、地元だからという同情心によってか? とも思ったが、



(いや、そもそもあのBBAはエリフ大陸出身と言っていたはず。

その理論は当てはまらない)



周知の事実から、

その可能性は即座に否定することができた。


そして、同時に。



(となれば、だ。

エリフ地大陸出身なのに行動を共にしているという事は、

おそらくバンダン水路の吊り橋を渡った後に、

プログ達と知り合ったか、

あるいは予め大陸を渡った後として、

後から合流を考えていたか、だな。

そうすればダイレクトに犯罪にも関わることもないし、

事実の辻褄が合う)



そこまでの仮定を、導き出すことに成功した。

フェイティはプログ達が犯した何らかの罪には、

直接関わってはいない。


犯罪者の共謀者として、

いまだ指名手配の舞台に顔を見せていないか、

あるいは純粋に無関係で偶然出会ったか。


そこから絞り込むことは、

天才少年の頭脳でもさすがに絞り込むことはできないが、

だが、少年としてはそれでよかった。


自らが納得する理論立てができる仮定ならば。

そこから先の真実に今、急いでたどり着く必要はない――。


スカルドはどこまでも、冷静に思考を進めていた。

あくまで理路整然に。



(さて、ローザとかいう女は……)



だが、そこまで来て。



(……ん?)



流れるように進んでいた、

スカルドの思考が、プツンと切れた。


フェイティの時同様に、

粛々と可能性を絞り込もうとした、

その頭脳が突如停止された。


この場合は往々にして、

スカルドの思考が今とは別の、

新たな疑問を探し出したことを意味することが多い。



(そういえば……)



はたして今回も、

前例に違わぬものとなった。


そして、その疑問が。



(アイツはそもそも、どこの出身なんだ?)



再び少年を、

本来の目的へと近づけるものとなった。


スカルドはローザが、

ファースターの元王女であることを知らない。

レナやアルト、プログらが、

スカルドの目的がファースター、セカルタ政府への復讐、

ということを聞いた時点で、

“元”であるとはいえ、

ファースター王族と密接に関わりがあった、

ローザの身分は明かさないでおこうと決めた事が、

その理由である。

ローザがファースターの元王女であると、

もしスカルドが知ろうものならば、

両親を殺されたスカルドが絶対に放っておくはずがない――。


取り返しがつかないことになる前に。

リスクマネジメントの一環として、

3人はスカルドへ真実を伝えない事を決めた。


だが、



(出身地だけではない……。

アイツはどの段階でレナ達と知り合ったんだ?

さして気にしていなかった俺も悪いが、

よくよく考えてみれば、

あの女と蒼音とかいう女の2人は、

ほとんど素性を知らない……)



その中でも、

蒼音は、スカルドがレナ達と知り合った後に現れた人物ゆえ、

今の推理には直接関係する人物ではない。


だが、ローザは?


今まで決してあたることのなかったスポットが。

自らの目的には何ら関係ないと、

視界から完全に盲目化していた、

彼女の存在を。



(ファースター駅の時にも色々と情報は得られたが……。

そろそろローザと蒼音のことも、

念のため洗っておいた方がいいかもしれんな)



7番隊隊長であるリョウベラーと遭遇した、ファースター駅。

彼が去ったのちスカルドはプログに対し、

王女について問いただした。


プログからは明確な返答を得ることはなかったが、

だが逆にそれがスカルドにとっては、

さらなる疑問の追及に足を進ませたことは間違いない。


自らの目的を果たすために、

必要な真実。

少年は、今まで夜が更けた田舎町のように、

何も見えることのなかった事実を、

明確に可視化しようとしていた。


そして、ひとたび思考の標的となれば、

天才少年の頭脳は一瞬にして、

自らの思考の棚に収納していた、

情報を探索し始めることができる。



(そういえばプログの奴、

ローザと最近知り合ったとか言っていたな。

だとするならばローザもエリフ大陸出身なのか?)



少年がまず引っ張り出したのは、

ファースター駅でリョウベラーが去った後にプログへ問いかけた、

王女の行方不明について何か知らないか、というもの。


あの時プログは、何も知らないと言っていた。

加えてスカルドが、レナやアルト、

そしてローザについても問いただしてみたが、

その時プログが口にしたのは。



『レナとアルトとは結構行動を共にしてるけど、

 ローザとは俺自身もそれほど、

 行動を共にはしてねぇし、

 あんまり話す機会もなかったんだわ』



その言葉だった。

ローザとはあまり行動を共にしていない。


となればローザもフェイティ同様、

エリフ大陸の出身の可能性は


(いや、違うな)


ない、と。

スカルドはそう明確に否定した。


次回投稿予定→2/10 15:00頃

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