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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
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第173話:噂をされたら②

「ぶぇっくしょいッ!!」



街に絶対1人はいると思しき、

やたらとデカいくしゃみをする男。


果たしてその豪快な爆音を発したのは。



「ういぃぃぃ……誰かが噂をしてるってかぁ??」



正体は、王都ファースターにいるプログだった。

なぜか満足そうな表情を浮かべる元ハンターの、


その隣で、



「ったくうるせぇ奴だな。

 お尋ね者の身で、

 居場所をバラすバカがどこにいる」



それはそれはたいそう不機嫌な様子で、

スカルドは軽く舌打ちをしている。



「わりいわりい、

 昔っからくしゃみだけはやたらデカくてね。

 先生にもよく注意されてはいたんだが、

 なかなか治んなくてな」


「……ガキかお前は」



悪びれる様子を見せないプログに対し、

どうやらスカルドは心底腹が立っているようだ。

だが、プログはそんな少年の怒りの感情には一切触れずに、



「まあ、そうカッカしなさんなって。

 とりあえずこれで一通り、

 出来る範囲内での情報収集は終わったわけだが……」



話を本題へうつした。

2人にとってくしゃみの事などわりとどうでもいい話であって、

真に議論すべきなのには断然、こっちの方なのである。



現在、王都ファースターにいる、

プログとスカルドの2人。


プログが王女誘拐の罪でお尋ね者とされているのに加え、

クライドいわく、

今や列車専門の犯罪集団シャックの根城と化している、

ファースター城のお膝元とも言うべき場所に、

わざわざ2人が来たのにはもちろん、理由がある。


調査。


この2文字だけで、

彼らの目的が端的に表現できる。


この国の事実上のトップである騎士総長クライドは今、

ファースター、セカルタ、

そしてサーチャードの3国首脳会議に出席するため、

エリフ大陸の王都セカルタに赴いており、

王都ファースターを留守にしている。


その隙に、今のファースターがどのような状況となっているのか、

あるいはファースターに関わる情報が何か得られないか、

それを調べるために、この地に足を踏み入れた。


途中7隊長の一人で、

7番隊隊長のリョウベラーに見つかるというアクシデントに見舞われ、

クライドに気づかれず任務を、

というミッションは失敗に終わったが、

だがそれでも、何とか現状把握と情報収集の実施という、

最低限の任務は、何とか果たせそうなところまで来ていた。



「ファースター駅から脱出して約5時間、

 聞き込みを開始して約1時間、か。

 そろそろ潮時だな」


「ああ。

 これ以上この場に留まれば、今以上に人が増え、

 厄介なことになりかねない。

 ここいらで退くのが妥当だろう」



朝11時を指す街の時計に、

視線を送りながら呟いたプログの言葉に、

スカルドも小さくうなずく。


ファースター駅にて遭遇した、

7番隊隊長リョウベラーから逃れた2人は駅を抜けた後、

人目につかない木の陰に隠れてそれぞれ2時間ずつ、仮眠をとった。


元々は駅を抜けたらすぐに収集活動を行おうとした2人だったが、

午前6時を回った程度では、

あまりにも市民が外に出ていなさすぎた。


いやいやこんなに人が少なかったら逆に怪しまれるじゃねぇかと、

作戦変更を余儀なくされた2人。

そこで導き出したのが、

とにもかくにも少し休もう、という結論。


アルトの故郷であるファイタルから列車の旅を経て、

車庫、そしてファースター駅まで歩き、

そして、リョウベラーから逃げる。

この一連の流れに要したのが、およそ1日弱。

その間、プログ達は一睡もしていない。


それを考慮してか、

スカルドの提案で、

1人は仮眠、1人は見張りといった具合に、

交代で休息を取っていたのだ。


だが、木の陰に隠れて寝ていたのだから、

もちろん布団などない。

地べたに体を横にする、

ただそれだけの行動である。

自然の光や風、外気に野晒しという状態。


もし今、デイフィード大陸にいるアルト達が、

プログ達とまったく同じ行動を取ったなら、

仮眠どころか、永眠しかねないだろう。


だが、幸いなことにプログ達は今、

4大陸の中でもっとも、

気候が温暖といわれるワームピル大陸にいる。


そのため外で仮眠、などという荒業も、

やろうと思えばできる環境下にある。


事実、2人が休憩していた時間の気温は18℃。

日向ぼっこをするには最適な気温である。


そんな中、しっかりと仮眠をとることに成功した2人は、

その後一時間だけという制約の元、

街を行きかう市民の中で、

慎重に相手を選んで聞き込みを行ったり、

小路で立ち止まり、もれなく世間話を繰り出している、

おばちゃん達の会話などを聞き耳立てたりなど、

本来の任務である情報収集へと勤しんでいた。


そして約束通り一時間を経過して、現在へと至る。


プログ達がわざわざ一時間という制限を設けたのは、

ただ何となくというわけではない。


午前11時ともなれば、

(一部の人間を除いて)それはもはや立派な、昼の時間帯である。

朝方はまばらだった市民の数も、

この時間帯にでもなれば、

あちらこちらでごったがえしているような状態になる。



「お前がお尋ね者の身だからな、

 お前のせいで俺まで捕まるのは御免だ」


「わりい、俺は顔が知られちまっているからな。

 聞き込みもお前が頼りだったし、

 そこは素直に感謝するぜ」


「フンッ。

 あの程度の人数、聞き込みにもならねえわ」



プログの礼に対し、

スカルドは突き放すように言う。


朝方から昼に差し掛かれば差し掛かるほど、

人々の往来は多くなる。

そして往来が多くなればその分、

情報を得られやすくなるというメリットが、

確かに発生する。

だが、そのメリットと比例の関係を結ぶかのように、

人々が多く集まれば集まるほど、

お尋ね者とされているプログが、

市民の人たちに勘付かれるデメリットが生じる。


情報は欲しい。

だが、捕まってしまっては、すべて終わり。

メリットを最大限に得て、

かつデメリットを最小限に留める。


その均衡を探った結果が、昼に差し掛かる少し前の、

1時間という設定だった。


そして、繰り返すがプログは、

現在絶賛逃走中の身である。

逃亡犯が市民に声をかけるなど、

私を捕まえてください、と自ら言いに行くようなものだ。


よって聞き込みの分野については、

相方であるスカルドがもれなくすべて、

請け負っていたのだ。


ほぼ無口で、

口を開いたとしても、

出てくる言葉は基本憎まれ口の、

セカルタが生んだ天才少年、スカルド。


あんなに暴言吐きまくりのコイツで本当に大丈夫なのかと、

自分のことは棚にあげておきながら、

プログは内心、ヒヤヒヤしながら様子を見守っていたのだが。



「いやー、いつもの調子ならどうしたものかと思ってたが、

 言葉遣いもバッチリ、

 雰囲気もいつもの陰湿な感じじゃなかったし、

 スカルドもやるときゃ、

 節度ってモンをわきまえられるんだなぁ」



まるで成長した弟に感心する兄であるかのように、

元ハンターは冗談じみた表情でウンウンと大きくうなずく。


が、



「……陰湿とはまた随分な褒め言葉だな。

 あとで新しい魔術の実験台に、

 貴様がなってもらってもいいんだぞ?」



このテの冗談が一切通じないスカルドは、

いたって真面目に、というより、

おおよそ年上には使わないであろう、

殺気に満ちた目でプログを睨み付けている。


察するに、やはりこちらが本来の性格であり、

やむを得ず人と接する際に出す表情は、仮の姿らしい。



「ヘイヘイ冗談ですって。

 怖い怖い」



まったく何ですぐにこうなっちゃうかねえと、

プログは苦笑いを浮かべながら軽くあしらいつつ、



「さて、と。

 冗談はこれくらいにして、

 とりあえず街の外に出るか」


「ああ。

 街にいると厄介ごとに巻き込まれる可能性が高くなる。

 話をまとめるのは外でもできる。

 今はとにかく、サッサとズラかるぞ」


「ズラかるぞって……。

 お前、その言葉よく使うよな……」


「うるせェな。

 口を動かす余裕があるなら、

 足を動かせ、行くぞ」



スカルドはスタスタと、

逃げるようにその場を立ち去る。

プログも後をついていく。


スカルドの言葉は相変らず悪いが、

だがそれでも言っている事には同意できる。

故に、少なくとも情報収集という、

何者にも勝らぬ任務を終えた今、

この場に留まる必要は、一切ない。


それに、スカルドはともかくとして、

プログは文字通り、

なるべく人目につかぬよう逃げる必要性が、大いにある。


天才少年様に引っ張られるようにして、

まるでネズミが天敵から尻尾を巻いて逃げるように、

元ハンターの青年は隠れるようにして、

王都ファースターから退いていく。





王都から退却することを決めて早足で移動し続ける事、

およそ30分。



「ま、とりあえずここら辺までくれば安心か?」



すでに米粒程度にしか可視化できなくなった、

ワームピル大陸の王都に視線を送り、

プログはふう、と一つ息をつく。


続けて、



「確実に安全とは言えないが、

 まあここまで来れば問題ないだろう」



スカルドは息一つ乱れぬまま、

涼しげな顔で言う。



(いやいやいや、コイツも早足でずっと歩き続けてたってのに、

何で一切呼吸が乱れてねぇんだよ……)



通常“文”が優れていれば“武”が劣るモンじゃねえのかよと、

プログは少年の意外な体力に驚いてしまっていたが、



「……とりあえず、このあたりで少しまとめてみるか」



それを言葉にして声に出すと、

元ハンターとして活躍していた自分が何だか負かされている、

そんな気がしたので特には触れないでおいた。


いや、そもそも論として、

今、すべき議論はそこではない。


まずは、得たものを基にして、

情報、あるいは事実を精査する、

それこそが今、彼らが求め、

求められているもの。



「えーと……。

 とりあえず分かったことを羅列してみると……だ」



まずは、とプログが前置きしたうえで、



「ファースター市民のほとんどが、

 王女が行方不明になっていることを知らない、

 そしてそれに関する告示もされていない……」


「加えてクライドがやはり実質国のトップとして動いている事、

 そして王女を含めて陛下や妃などといった王族関連の情報が、

 市民レベルにはまったく降りてきていない、という事」


「更に言えば、クライドの野郎が実は城からあまり出ない、

 ってことも分かったな。

 俺としてはこれが一番驚いたっちゃ驚いたが」


「おおかた、具体的な動きは部下に任せて、

 自らは総指揮として本営に残る、

 といったところだろう。

 さほど驚くことではねェ。

 ……ただ一つ、

 7隊長がすべての真実を知っているわけではない、

 という部分が気にはなるが」



セカルタが生んだ天才少年もやはりその部分に、

まるで喉に小骨が刺さっているかのように、

どうにも引っかかりを感じているようだ。



「そう、そこなんだよなあ。

 クライドがファースター城内で、

 7隊長に対して何らかの指示を飛ばしている、

 ってのは推測できるんだが、

 その指示の中にシャックに関するモノも、

 果たして含まれているのか、ってところだよな」


「5番隊隊長のナナズキ、とか言ったか。

 アイツはクライドが、

 シャックのボスであることは知らなかった。

 一人がそうだから全員も、と考えるのは安易すぎるが――」



そこでスカルドはわずかに言葉に詰まったが、

だがすぐに、



「だがそれでも、ナナズキ一人だけ知らない状況は、

 万が一それが本人にバレた時が面倒なことになる、

 という事を踏まえれば、

 7隊長全員がシャックに関する事実を知らない、

 という可能性もすぐには捨てられないだろうな」



まるで乳児のベッド内並みに雑多に散らかる情報の数々を、

一つ一つ丁寧に整理していく。


これ以上事実という明確な収穫が得られない以上、

過去に蓄積された情報と、

今得た情報を融合させ、

新たな仮定、可能性を生み出す。


それが今、2人に必要なモノ、指針である。



「ということは、クライドがシャックに関する情報というのを隠して、

 指示を飛ばしている可能性がある、ということかい天才少年君?」


「いや、その線は薄いだろう。

 7隊長もそこまでバカじゃない。

 具体的な行動をクライドが指示すれば、

 誰か一人くらいは、

 任務に対して疑心暗鬼になるヤツが、

 確実に出てくるハズだ。

 何かこの任務おかしくないか? とかな。

 クライドというヤツがどういうヤツかは知らんが、

 少なくともファースターの事実上トップである奴が、

 そのようなリスクが高すぎる行動をとるとは考えにくい」


「いやいや、その線が薄かったら、

 俺ら完全に手詰まりだぞ?

 確かにナナズキが嘘ついている、

 って可能性も捨てきれないけど、

 それでも――」


「いや、お前の言うとおり、

 あの女はおそらく本当に、

 シャックに関する情報を知らなかっただろう」


「じゃあ一体、どういうことだよ?

 やっぱりシャックに関わる任務を、

 7隊長へ与えていない、ってことか?」


「それが分からねえから、

 今、考えているんだろうが」



最後は僅かに怒気を含んだ声で、

スカルドは吐き捨てた。


話は、どうにも平行線のまま。


推測の域を出ないとはいえ、

いっこうに結論が見えてこない。


進んでも進んでも、

まったく出口が見えてこないトンネルを手探りで進むかのように。

まさに今日の早朝に経験した、

あのファースター駅前のトンネルを想起させるかのように、

2人の指針は、定まらない。


そんな中。



(ここいらで、他のチームに連絡を取ってみた方がいいか……?)



自力での解決を諦め、他力へその望みを、

委託しようとした、その時だった。


ピーッ、ピーッ!!



「ッ!!」



まるでプログの心を、

完璧に見透かしていたかのように。

そして重苦しい現状を切り裂くかのように、

プログのポケットの奥から、

通信機の甲高い音色が乱暴に響き渡った。


次回投稿予定→1/20 15:00頃

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