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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
171/219

第167話:BBA、舞う

「貫け! ブレイクショットッ!!」



パァン、と。

アルトの掛け声と同時に、

気術によって仄かな明るさを帯びた、

右手に持つ小型の銀銃から、弾丸が放たれる。

だがそれは、ただの銃弾ではない。


込められた気術によってまるでレーザーを照射するかのように、

一筋の光を纏いながら、

前方5、6メートルにまで迫っていた狼の魔物、

ブラッドウルフの脳天に直撃する。


気術と銃弾による攻撃を受け、

脳天が破壊された魔物は、

声にならぬ喚き声をあげ、その場でもがき苦しむ。


瞬間、アルトは叫んだ。



「蒼音、あとはお願い!」


「了解です……さあ、大地へと還りなさい!

 石動流十神術その壱、烈火ッ!!」



パシパシッ! と。

今まで自らを護衛してくれた、

対を成す二つのヨーヨーをその手に戻した瞬間、

蒼音は両手を開きながら高らかに言い放った。


轟! という爆音と共に、

たちまち両手から発せられた握りこぶしよりもやや大き目な炎塊が、

魔物をめがけて弾丸ミサイルの如く飛び、

喘ぐ瀕死の魔物の息を、完全に停止させる。


プスプス……と、

やや焦げ臭い匂いを辺りに残し、

炎が消えた跡には、

もはや魔物の無残にも白骨化した姿しか、

残されていなかった。



「えっと、これでほとんどは倒した、よね」


「ええ、おそらくは……」



今しがた討伐した魔物のほか、

ざっと数えて5、6体のブラッドウルフの屍が転がる周辺を、

アルトと蒼音が何とも言えない表情で見渡していると、



「お疲れ様~、

 こっちはすべて片付いたわよ~」


どこぞの天然系女子の言葉遣いと聞き間違うほどの、

緊張感のない間延びした声を飛ばしながら、

フェイティが小走りに2人の元へと駆け寄る。


ディフィード大陸の王都、キルフォーから、

フロウの依頼でシックディスの村へ向かう事となっているアルト達。

だがその道中、

どうやら魔物の縄張りに入ってしまったようで、

10体近くものブラッドウルフに、

周りを囲まれてしまった。


だが、3人はそれぞれアルトと蒼音、

そしてフェイティ単体に分かれ、

何とかこれらの魔物群たちを、

ほぼ掃討することに成功していた。


ただ、一匹を除いては。



「さて、と。

 問題はアイツ、なんだよね……」



はあぁ、と深くため息をついて、

アルトが顔を向けた、

その視線の先には。



「ウウウウウ……」



アルト達が立つ場所から距離にして、

およそ10数メートル。


この魔物群の最後の生き残りであるブラッドウルフが、

低いうめき声を喉で鳴らしながら、

まるで動きを監視しているかのように、

じっと3人を見つめ、微動だにしないでいる。


決して、襲ってくることはない。

だが、それが逆に不気味さを増す。


「監視、されているのかな……」


そこから動くなと目だけで訴える、

まるで熟年のスナイパーのように、

鋭い眼光でアルト達を引き続き睨み続ける魔物。


例えば今からアルト達が、

あの魔物を倒そうと考えたならば、

たぶん、ではあるが討伐することができるだろう。


こちらが3人に対して、相手はたった1体。


数的有利はもちろんのこと、

百戦錬磨のフェイティと、

戦う巫女さん、蒼音がこちらにはいる。


おそらくそれほど難易度の高いミッションではない。


だが、それでも。

アルトは迂闊に、足を前に踏み出すことをしない。

その理由は、



「少しでも動いたら仲間、呼ぶ気がするなあ……」



確証こそないものの、

アルトはそう考えずにはいられなかったからだ。


仲間がすべて倒され、多勢に無勢。

いくら魔物に知性が皆無といっても、

本能で危機を察知し、

一目散に逃げ出すのが普通だろう。


だが、目の前の魔物は、違う。


たとえ孤独になった今も、

一切の動揺を表に出さず、

堂々と敵の前に立ち続けている。


お前たちが動けば、こちらは仲間を呼ぶ――。


聞こえるはずのない魔物の声なのだが、

その姿があたかもそう言っているかのように。

少年は、そう捉えざるを得ない。


魔物に近づくことが、できない。


ならば何か飛び道具を使って、

遠距離攻撃を仕掛ければ良い。

それこそ少年の武器に銃という便利なモノがあるはず。

それを使えば。



……と、少し前のアルトも考えていたのだが、



「ここで銃を撃ったら、

発砲する時の爆発音がした時点で、

逃げられて仲間を呼ばれちゃうよなぁ」


銃の発砲システムという、

如何ともし難い物理的な理由で、

その選択肢は排除されてしまっていた。


近づくことは当然の事として、

さらに一定以上の音を出すことも、

決して許されない。



(困ったな……)



小型の銃と拳による攻撃を主体とするアルトにとっては、

つまるところ、完全に策がない。

いわゆる、詰んだ状況だ。

まるで家の鍵を忘れて扉の前で立ち尽くす子どものように、

アルトが途方に暮れていると、



「さてさて、ここはひとつ、

 BBAの出番かしらね」



まるで困ったところに駆け付けたヒーローのように、

フェイティがアルトの隣へとやってきた。


その表情は、

どこから来ているかさっぱり分からぬ、

自信に満ち溢れている。



「……フェイティ?」


「迂闊に近づいたら逃げられちゃうし、

 極力音も出してはいけない。

 ならばこのBBAにお任せあれ♪」



統率のないリズムを刻んで歌うようにフェイティは言う。



(……いやいやいや)



そんなはずはない、とアルトは単純に思う。


フェイティと言えば、

自らの身長よりも長い、

刃先が斧になっている長槍ハルバードを操る、

どちらかと言えば近距離型攻撃の使い手だ。

相手に近づけば近づくほど、

その実力を見せつけることができ、

逆に相手から遠ざかれば遠ざかるほど、

普段の力を出しづらくなる。


加えて、フェイティは魔術も気術も使わない。

つまり生粋のファイターに分類される人物である。


そのBBAが今、

私の出番ねと意気込んでいる状況、

それは本来の能力を発揮できるそれとは、

あまりにも程遠い。

というより、はっきりいってゼロに等しい。


何せここから魔物に向かって近づけば、

すぐに警戒されて逃げられてしまうのだ。


仮に猛ダッシュをして近づいたとしても、

ここから魔物までの距離、10数メートルを縮めるには、

どれほどの韋駄天であっても2、3秒はかかるだろう。

2,3秒さえあれば、魔物は容易に、

この場から立ち去ることができる。


そのような中で。



「どうやってここから相手を倒すの?」



アルトの口からこぼれた疑問は、

誰しもが感じる、もっともなものだ。


おそらく今いる3人の中で、

もっとも攻撃スタイルが適さないといってもいいフェイティが、

なぜこれほど自信満々に、鼻息を荒くできるのか、

アルトには心底理解できない。


だが、



「まあまあ、見ててくださいな」



どこか楽しげに言葉を弾ませるBBAの表情が、

それでも変わることはなかった。



「フェイティ、何を――」



するのと言うアルトの隣で、

フェイティは半歩、前へと足を踏みだす。

瞬間、先ほどまでの緩く、

それでフワフワとした表情が、フッと消え去る。


魔物は相変らず、3人を警戒したままで、

その場から動かない。



「さて、と。

 そろそろ静かに、眠ってもらおうかしら♪」



言葉のそれとは裏腹に、

表面上こそ微笑んでいるものの、

その瞳は一切、笑っていないフェイティは、

左手に持つハルバードを手慣れた様子で、

クルリと回すと刃先を大地へと向け、

そのままコツン、と地に刃をつける。



「行くわよ、これがBBAの疾風雷光♪」



言って、フェイティは両手でハルバードを握ったまま、

思いきり大地を蹴りあげ、跳躍した。



「え――」



今まで見たこともない、

思いも寄らぬワイルドな行動に思わず息を呑むアルトと蒼音を横に、



「よいしょっと」



およそ5~60センチほど跳躍した後、

慣性の法則によって落下するフェイティは、

大地にではなく、ハルバードの刃先、

斧の形状となっている部分へと着地した。


魔物は、まだ動かない。


グニャリ。


フェイティが着地した反動で、それまで微塵の歪みのない、

一直線の形状を呈していた鉄製と思しきハルバードが、

高熱に耐えられずひしゃげてしまったかのような、

まるでコンニャクを無理やり立たせたように、

くの字へと歪曲する。



「疾風、発射♪」



そして淑女がそう言った瞬間、

歪曲したハルバードが元の形状に戻ろうとする反動、

言うなれば棒高跳びのような原理を使い、

まるでロケットが発射されるかのように、

フェイティ、そして両手でしっかり握られたハルバードは、

ディフィード大陸の空へと飛び立った。


その高さ、1、2メートル、3メートル……。



「え……ッ!?」



アルトは思わず、自分の目を疑った。


4、5、6、7、8メートル……。


その高度は、まだ上がっていく。


9メートル、10メートル……。


高い。

いくらなんでも高すぎる。


いくらハルバードの反動を利用したとしても、

生身の人間が跳躍する高度にしては、

あまりにも高すぎる。


フェイティは、魔術はおろか、気術すら使えない。

にもかかわらず、

これほど高く、跳ぶことができるのか――。


と、アルトが唖然としている中、

高さ10数メートルに達したところで、

BBAの上昇軌道はようやく止まった。



「覚悟なさい、これが私の――」



チラチラと小雪が舞い降りる上空、

わずかに耳にBBAの言葉が届いた瞬間、



「秘技、ウルトラダイブッ!!」



まるで鳶が海上で魚狩りをするかのように、

解き放たれた重力の元から、

急激に大地へと、落下を始めた。


ここでようやく事の異変に気付いた魔物が、

仲間を呼ぶべく慌ててその場から立ち去ろうとしたが、



「雷光ッ♪」



フェイティの狙いは、

あまりにも速かった。


まるでどこかの竜騎士のように、

わずか数秒の空の旅を終えて降りてきたフェイティは、

今一度ハルバードを両手でギュッと握り、


刃先を大地、そして標的であるブラッドウルフに向けると、

重力の力そのままに魔物の背中へ、

ハルバードを思いきり突き刺した。


ガアァァン!! という、

まるでコンクリート同士を打ち付けたかのような、

激しい衝撃音と、落下の衝撃で周囲に降り積もっていた新雪が、

フェイティ、そして魔物の周りで乱舞する。



「うわっ!」


「キャッ!!」



その衝撃は、10数メートル離れた地点で、

行方を見守っていたアルトとフェイティにまでおよび、

2人はわずかに足がよろめいてしまう。


さすがに転倒するほどのものではなかったが、

それでも、



(な、な、なに今の……!?)



少年の脳に与えた衝撃は、

物理的なそれでは、到底収まるものではなかった。


豪快でいて、かつ正確無比。

言葉にしてしまえばそれだけかもしれないが、

そんなシンプルな言葉だけでは、

決して表現しつくせない。


まずは、その驚くべき跳躍力。

術の類を使わず、

人があれほど上空へと飛び立つことが、

どうしたら可能なのか。

いくらハルバードの反発力を利用したとはいえ、

10メートル近くの跳躍をするなど、

アルトは今まで一度たりとも見たことがない。


加えて、落下地点の正確さ。

その驚くべき跳躍力から魔物が立つ場所へ、

一寸の狂いもなく、正確に落下する。

まるで縫い針に糸を、

引っかかることなく一発で通すかのように。

フェイティは狙いを命中させた。


その難易度は、想像している以上に高い。


重力から解放された上空で、

生身の人間が落下地点を変更することは至難の業だ。


例えばパラシュートなど、空気に抗う道具があれば、

着地地点を変更することは可能だが、

今のフェイティにおいては、

そのようは道具など、1つも手にしていない。

強いて言うなら武器であるハルバードを手にしているが、

これは着地地点変更に役立つどころか、

その重さからむしろ逆の効果をもたらすこととなる。


しかも、そこには風の強さや雪による抵抗など、

自然という不規則な要素を、

絶え間なく念頭に置いておかなければならない。


要は跳躍する、その瞬間からすべてを計算し、

最高到達点及び到達地、

そして落下地点を導き出していなければ、

今の一連の行動は成立しない。


だが、フェイティはいともあっさり、

それを成功させてみせた。

当然ながら、それは一長一短で出来るような、

簡単なモノではない。


己の質量と武具の質量、

風、雪、重力、跳躍力、鉄の反発力、

挙げればキリがないくらいに、

複雑に絡み合った要因。

それらをすべて合致させ、

そして実現したのが、今の所業。



(…………)



特段、物理が得意ではないアルトだったが。


ヒュウゥゥ……と、

粉塵のように巻き上がる粉雪の奥、

スクッと一つの影が立ち上がる。


ヒーローが死闘から帰還するような、

まるで映画のワンシーンを、

目の当たりにしているかのように。

一つの影は、

徐々に人間の形を象り始める。


その人影を見て、

アルトは改めて思った。


やはり、この人はすごい、と。

元ハンターとして共に戦うプログの、

まごうことなき師匠である、と。


そして魔術、気術など使用しなくても、

人並み外れた力を生み出すことのできる、

外見では決して判断してはいけない、

強い淑女である、と。



「BBAといって、

 バカにしてたら痛い目みるわよぉ?」



ダイヤモンドダストのように舞う細雪の奥、

いつものBBAスマイルを振りまきながら近づくフェイティを見て、

アルトはそう思い知らされた。


次回投稿予定→12/2 15:00頃

来週は私情により休載させていただきます、申し訳ありません。

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