第15話:それぞれの決意、思い
「どうだ?
ローザは大丈夫そうか?」
宿屋の受付前にある、
面会用の椅子に腰かけながら、
2部屋取ったうち、
左の部屋から出てきたレナにプログが訊ねる。
「少しずつではあるけど、
落ち着いてきているわ。
休む時間が必要なのに、変わりはないけどね。
……そっちは?」
「アルトか?
まあ、大丈夫だとは思うが……
レナの1発が相当、堪えているみたいだな。
疲れどうこうより気持ちの問題だな、ありゃ」
もう1つの椅子に腰かけるレナの問いに、
渋い顔をしながら、
プログが答えている。
ここはワームピル大陸の、
南西部にある村、サーティア。
この世界、グロース・ファイスは、
4つの大陸から構成されている。
世界の中心より東から南にかけて位置するワームピル大陸、
同じく西から南にかけて位置するエリフ大陸。
更に、西から北、東まで細長く位置するウォンズ大陸。
この3つがドーナツのように大陸を形成しており、
そのドーナツから外れ、
北東に位置するのが、
ディフィード大陸である。
そのワームピル大陸の、
最も西南に位置するサーティアは、
ワームピル大陸の中で、
最もエリフ大陸に近い村だ。
主に農業を中心とし、作られた農作物を、
ファースターに供給することで成り立っている、
静かな村である。
また、この村は海が近いということもあり、
港が存在する。
ファースターにも港は存在するが、
ワームピル大陸には、この2ヵ所しかない。
そのため、かつてはファースターにとっても、
このサーティアはとても重要な拠点だったと言われている。
レナ達はダート王洞を抜けた後、
プログの提案通り、サーティアを目指した。
道中魔物に襲われることもあったが、
レナとプログが、
2人で全て倒してきたのだった。
アルトとローザも、
一緒に戦うと申し出てきたのだが、
2人が止めた。
それはアルト、ローザへの配慮であると共に、
実際に2人とも、
とてもじゃないが戦える状況では、
なかったためである。
そうこうしているうちに、
サーティアに辿り着き、
まずは宿屋で休憩しよう、
という話になったのである。
「そう……。
ちょっと、やりすぎたかしら……」
やはりアルトのことも心配なのだろう、
ダート王洞で平手打ちをした、
右手を見つめながら、
レナが小さくため息をつく。
「気にすんなって。
アイツも、周りがちょっと見えてなかっただけだ、
あれくらいはしょうがないだろ。
それに、ビンタされたからって、
お前のことを、
悪く思うようなことはないさ」
「そういうものなのかしらね……」
「まあ、男も意外と、
面倒くさい生き物だってことだ。
それよりも、心配なのはローザだ。
変なことを考えてなきゃいいが……」
「そうね。
そうならないためにも、
これからどうするか、早く決めないとね」
ここまで話し、
2人は黙り込んでしまう。
元々、王女であるローザを、
エリフ大陸の王都である、
セカルタに護衛する目的でここまで来たのだが、
そもそもその根底が、
崩れ去ってしまったのである。
2人が途方に暮れるのも無理はない。
「そういえば、
プログは知らなかったの?」
「ん? 何をだ?」
「ローザが王女じゃないってこと」
「え!?」
沈黙を破ったレナの問いかけに、
プログの表情が、一瞬にしてこわばる。
「クライドの話だと、
陛下には子どもはいなかったんでしょ?
牢屋にいた、ってか、
長いことハンターをやっていたんだから、
何か知ってて
「い、いや、
俺も初耳だったな」
「? どうしたの?」
「べ、別に何にも!」
「……なんか怪しいわね」
「本当に何も知らないって!」
「そう。
まあ別にどっちでもいいんだけど。
しっかし、まさかファースターが、
そんなことになっていたなんてね……」
妙な焦りを見せるプログに、
一瞬、違和感を覚えたレナだったが、
別に知ってても知らなくても、
どっちでもいいや、
そう思い、特に追求することはしなかった。
「ま、まあ、
クライドが言っていることすべてが、
本当かどうかもわかんないしな」
「そうなんだけどね。
でもまあ、最悪の事態で、
考えていた方がよさそうね」
2人がそんな会話をしていると。
ガチャ。
今度は右の部屋のドアが開き、
アルトが部屋から出てきた。
その表情は、
サーティアに着く前までの、
まるでお通夜に参列しているかのような、
そんな沈痛な面持ちよりかは、
幾分か良くなっているように見える。
「おう、アルト。
もう大丈夫なのか?」
真っ先にプログが、
明るく声をかける。
「うん……。
2人とも、心配かけちゃって、
本当にごめん。
それに……」
アルトが深々と頭を下げ、
レナの方に視線を向ける。
「レナの言う通り、
言っていいことと悪いことがあるよね、
今考えてみたら、
あの時は自分のことしか考えてなくて、
ホントにひどいこと言ってたと思う」
「オーケーだ、アルト。
それがちゃんとわかっているなら、
問題なしだ」
「そんな、こっちこそ、
引っ叩いちゃってごめんね」
「そんなことないよ、むしろ感謝だよ!
それに、ローザにもちゃんと謝らないと……」
「ローザならわかってくれるわよ、きっとね」
夕暮れに差し掛かる、
サーティアののどかな風景が、
レナ達の明るい会話を優しく見守る。
「さてと、ひとまず、
これからどうするか決めないとね」
アルトに元気が戻ってきたところで、
レナが話を本題に戻す。
「そうだね。
セカルタに行く必要もなくなっちゃったし……」
「かといって、ワームピルに残るのは危険だわ。
どこに誰が隠れているか、
わかったもんじゃないし」
「そう、だね……」
レナとアルトが、
今後について議論を交わしている。
「1つ提案なんだが、
このまま当初の目的通り、
セカルタに向かうってのは、どうだ?」
ここで、プログが不意に、
椅子から立ち上がる。
「セカルタに? なんで?」
「とりあえず、今一番避けたいのは、
ワームピル大陸に留まり続けることだ。
ローザはもちろんだが、
俺たちの身も危なくなる。
エリフ大陸は、もし渡るなら、
ここから目と鼻の先だし、
何よりファースターの連中が、
来ることがほとんどない。
それに、セカルタならなおのこと、
ファースターの連中は、
追ってこないだろうからな。」
レナの疑問に、
窓の外を見つめながら答えるプログ。
「確かにワームピル大陸にいるよりかは、
エリフ大陸の方が、まだ安全かもしれないね」
「でも、普通に考えれば、
追っ手を差し向けてくるでしょ。
向こうには船があるんだし。
今や、あたし達の相手はシャックだけじゃない、
ファースター全体が相手なのよ?
セカルタになんて、
いとも簡単に来れちゃうわよ。
それに、そもそもセカルタのお偉いさんには、
クライドと繋がっているヤツがいるのよ?
それこそ、飛んで火にいる何とやら、
ってやつじゃない」
プログが立ち上がったことにより、
空いた椅子に、アルトが腰かけながら話すが、
すぐにレナが横槍を入れこむ。
確かにプログの言う通り、
エリフ大陸に行った方が、
ワームピル大陸にいるよりは、
シャックに狙われる可能性は下がるだろう。
しかし、だからといって、
100%安全という保証があるわけでもなく、
そもそもクライドが、
レナ達を、このまま黙って、
見過ごしてくれるはずがない。
すぐに追っ手を差し向けてくることは、
十分に考えられることだ。
それに、もしダート王洞でのクライドの話が本当ならば、
ファースター城内全体が、
シャックの手に落ちているということになる。
つまり、レナ達はシャックだけではなく、
ファースター全体を、
敵に回しているといっても過言ではない。
そのため、レナ達を追うためなら、
港を使うこともできるはずだ。
そうすれば、船を使って、
簡単にエリフ大陸に、
乗り込んでくることができる。
そのため、
『ファースターの連中が来ることは、ほとんどない』
と言う、プログが考えている以上に、
エリフ大陸、そしてセカルタは安全ではない、
レナはそう考えていたのだ。
「それに関してだ。
あくまで俺の予測だが、
セカルタにクライドの知り合いがいるって話、
あれは、おそらくデマだ」
「どういうことよ?」
「あんまりデカい声で、
言えた話じゃないんだが……」
そう言いながら、
プログは椅子に座る2人の所へ近づき、
急に小声になる。
「実は、ファースターとセカルタは、
昔からあんまり、
仲がよろしくないんだ。
かたや、広大な土地と穏やかな気候で暮らしている、
ワームピル大陸の王都ファースターのことを、
かたや、第2大陸と呼ばれ、
1日の寒暖の差が激しい、
エリフ大陸の王都セカルタは、
あんまり快く思っていないのさ。
だから、昔から今に至るまで、
この両国に国交が生まれたことは一度もない。
というより、大陸間で国交があるのは、
この世界では、ワームピル大陸とウォンズ大陸だけだ。
エリフ大陸とディフィード大陸は、
ワームピル大陸やウォンズ大陸に頼ることなく、
それぞれ独自の生活を営んでいるのさ」
「へえ、そんなことがあったんだ。
僕、全然知らなかったよ」
今回までファイタルを、
一度も出たことがなかったアルトが、
目を丸くしながら聞いている。
ワームピル大陸は、
穏やかな気候と言われているが、
他の3つの大陸は、
気候の面で何かしら不便な事情を抱えている。
エリフ大陸は、プログの言葉のように、
1日の間で寒暖の差が、激しい大陸だ。
ウォンズ大陸は、4つの大陸の中で、
1番最後に開拓された大陸であり、
1年を通して気温が高く、
場所によって砂漠もあるくらい、
暑い大陸だ。
ウォンズ大陸とは真逆なのがディフィード大陸で、
こちらは1年通して気温が低く、
年中雪を見ることができるくらい、
寒い大陸である。
そういった大陸事情もあり、
ウォンズ大陸の王都、サーチャードは、
ワームピル大陸の王都、
ファースターに援助を求めた。
このことがきっかけとなり、
この2国間は昔から、
密接な関係を築いている。
しかし、エリフ大陸の王都セカルタ、
そしてディフィード大陸の王都キルフォーは、
そういった援助を求めることを良しとせず、
自国の力のみで、国を栄えさせてきたのである。
「だからサーチャードとファースターは、
仲がいいと言われているんだが、
セカルタやキルフォーは、
ファースターの事をあんまり快く思っていないのさ。
……とは言っても、ディフィード大陸に関しては、
王都キルフォーの事はおろか、
とにかく寒い大陸、ってこと以外は、
何の情報もこちらに入ってこない、
謎だらけの大陸、ってのが現状なんだがな。
まあ少なくとも、セカルタはファースターと、
慣れあうつもりはまったくないってことさ」
「なるほどね。
つまり昔から特に交流のないセカルタに、
クライドの知り合いがいるはずがない、と」
「そういうことよ!」
レナの問いに合わせて、
まるでヒソヒソ話を終わらせる合図かのように、
プログが立ち上がり、
レナとアルトの元を離れ、再び窓に向かう。
「そう考えれば、ここにいるより、
セカルタに行った方が、
ローザも安心だし、
少なくともローザに関する情報も、
見つかるかもしれないだろ?」
「でも、100%安全ではないよね、
エリフ大陸に行ったとしても。
セカルタの人達も、
僕たちの敵って可能性もあるし……」
「確かに、その知り合いの件に関しても、
もう少し確定事項の情報が欲しいところだけど……
そんな悠長なことも言ってられなさそうね。
それに……」
下を向くアルトに同調し、
しかし同時に鼓舞するように、
レナも立ち上がる。
「逆に言えば、
うまくセカルタのお偉いさんに、
今の状況を話すことができれば、
ファースターの状況も、
何とかできるかもしれないしね」
「そういうことだ。
どのみち、ここにいるよりかは、
セカルタに行った方が、
状況を変えられるってことだ。
ローザに関しても、アルトに関してもな」
そう言いながら、
プログはアルトの肩に手を置く。
(変えられる……)
プログの言葉を受け、
アルトは心の中で1人、呟く。
『お前は世界を知るべきだ。
かつてお前の母、ヴェールがそうしたように。
そして、その覚悟があるのなら、私を追ってこい。
その先に、必ずお前の答えが見つかるはずだ
誰のものでもない、お前だけの答えが……』
クライドがアルトに向けて、
最後に残した言葉である。
世界を知る。
アルトだけの答え。
この言葉が、一体何を意味するのかはわからないが、
今アルトに必要なこと、
それは、世界を知ること。
そして、クライドを追うこと。
クライドは別の大陸に行くと言っていた。
つまり、今はワームピル大陸にはいない。
エリフ大陸に行けば、
クライドを追うことにもなるし、
何より、世界を知る第一歩となる。
ファイタルから、今に至るまでとはまた違う、
今まで、アルトの知らなかった世界を――。
「……そうだね。
どうなるかわからないけど、
エリフ大陸に行ってみようよ」
「どーもですっと。
これで、とりあえずの方向は決まったわね」
「そうだな、
そしたら後は、ローザが落ち着いてから話を聞
「私なら大丈夫です。
セカルタに行きましょう」
話がまとまったところで、
プログが左の部屋のドアに、
視線を送ろうとしたその時、
キィィィ……という木製ドア特有の音とともに、
ローザが部屋から出てくる。
「ローザ!! もう大丈夫なの?」
いち早くレナがローザの元に駆け寄り、
心配そうに訊ねる。
「ありがとう、レナ。
もう全然平気……って言えばウソになりますけど、
大丈夫ですよ」
「ローザ、その……
ダート王洞の時は……」
「気にしないでください、アルト。
お母様のことですもの、
必死になって当然ですし、
私は全然、気にしていませんよ。
それよりもお願いです、
私もセカルタに、ぜひ連れていって欲しいのです」
心配するレナと、
そしてバツが悪そうにしているアルトに、
にっこりと笑顔を作る。
そして、プログを含めた3人に視線を送りながら、
ローザが決意を口にする。
その目にはダート王洞で、
クライドに立ち向かう時と同じような、
内に秘める強い思いが感じられる。
「私、知りたいんです。
王女じゃないとすれば、私は誰なのか……。
私はどこで生まれ、
お母さんとお父さんは誰なのか……。
たとえそれで、自分が傷つくことになったとしても、
知りたくないことを、知ってしまったとしても……、
それでも、私は知りたいんです、
私が、何者なのかを」
そこには、クライドに打ちのめされ、
魂が抜けてしまった偽りの王女の姿はなく、
打ちのめされても、
それでも生きる意味を探して這い上がってきた、
ローザ・ファースター、いや、
ローザ・フェイミの姿があった。
「……アルト、あたしたちって、
何の依頼をされてたんだっけ?」
そんなローザを優しい目で見つめながら、
レナがアルトに訊ねる。
「え? 何のって……。
ローザをセカルタまで護衛することだけど」
「その依頼って、完了しているっけ?」
急に質問が飛び、
戸惑いを見せるアルトに、
レナがさらに加える。
「……!
そりゃあ、セカルタにはまだ着いていないんだし、
当然、まだ完了してないよ」
途中でレナの意図を理解できたのか、
戸惑いを見せていたアルトの表情が、
徐々に柔らかくなり、
そして笑顔に変わっていく。
「だったら、何としてもローザを、
セカルタまで連れて行かないとね。
そういうことだから、
当然、プログも一緒に来てくれるわよね?」
アルトの返答を待ってました、
とばかりにレナはそう言うと、
プログの方へ向き直る。
「お前ら……まったく、
回りくどい言い方しやがって。
まあ俺は構わないぜ、というより、
元々セカルタに行くことを発案したのは、
俺だしな」
両肩をすくめて両手を広げながら、
プログが笑う。
「皆さん……」
強い決意を胸に秘めていたローザの表情が、
ここでようやくほぐれ、笑顔が戻る。
「大丈夫よ。必ず、
セカルタまで連れて行くわ」
「ありがとう、レナ。
あ、あと、これからは護衛ではなく、
私を仲間として、連れて行って欲しいんです。
私はもう、王女でもなんでもないですし、
みんなと一緒に戦っていきたいんです」
「ローザ……。
うん、わかった。
でもいきなり無理だけはしないでね、
徐々に、で大丈夫だからね」
「はい、わかりました!」
ローザの強い決意に、
無駄な横槍は不要――。
そう考えたレナは、
一緒に戦いたいというローザの願いを、
すぐに了承する。
「改めてよろしくだね、ローザ!」
「とりあえず無理だけはしないようにな」
続けてアルトやプログも、
ローザに声をかける。
レナと同じ思いだったのか、
2人もローザの話に反対することはなかった。
「さてと、ローザも一緒に行くことになったし、
後はどうやってセカルタに渡るか、ね」
「そうだね、船は使えないだろうし、
まさか泳ぐわけにもいかないしね」
「列車……もやめた方がよさそうですね、
兵士が警備をしている気がしますし」
再び椅子に座り、腕組みをするレナと、
部屋から出てきたローザに、
席を譲りながらアルトが話す。
そう、4人でセカルタに行くことになったのはいいが、
肝心の方法が見つかっていないのだ。
当然、船は使えないし、
両大陸を繋ぐ橋も存在しない。
列車は繋がっているが、
今までのことを考えると、
駅に兵士の1人や2人くらい、
警備としていても、
何らおかしくはない。
そんなところにノコノコと顔を出せば、
それこそ、自殺行為である。
と、ここで。
「……方法がないわけじゃないぜ、
あんまりお勧めはできないがな」
窓の近くにいたプログがレナ同様、
腕を組みながら会話に割って入る。
が、その表情は心なしか、
少し曇っている。
「あらそう、どっかに隠し通路でもあるのかしら?」
「残念だったな、隠し通路より、
もっと酷い場所だぜ?
じつは、このサーティアから更に西に行くと、
ワームピル大陸と、
エリフ大陸が1番接近している場所がある。
そこには、かつてお互いの排水を、
海に流していた地下排水路、
バンダン水路があるんだ。
今は、もう使われていないけどな」
曇った表情のまま、プログが説明する。
「ってことは、
その排水路は、お互いの大陸と、
繋がっているのかしら?」
「そういうことだ。作られた当初は、
特に繋がっていたわけではないんだが、
使われなくなって無人になって以来、
誰かがこっそり繋げて、
通れるようにしたらしい」
「じゃあ、そこを通っていけば、
エリフ大陸に渡れるんだね!」
「そういうことだが……何と言っても排水路だからな、
あまりお勧めはできないぞ。
それに、破棄されてからは、
魔物も棲みついているみたいだしな」
セカルタへの道が開け、
喜ぶアルトをよそに、
曇る表情が止まらないプログ。
確かに、そこを使えば、
エリフ大陸に行くことはできるかもしれないが、
何といっても、
破棄された地下の排水路である、
その環境の劣悪さは、
もはや想像することもしたくないくらい、ヤバそうだ。
その上魔物が棲みついているとなると、
プログの表情が曇るのも無理はない。
「でも、それしか方法がないのなら、
行くしかないと思います」
そんな曇るプログの表情とは正反対に、
椅子に座るローザが、
穏やかな表情で静かに話す。
「そうね、実際に行ってみないとわからないけど、
そこしか方法がないのなら、
とりあえず行ってみるしかないわね」
ローザ同様、レナも腕組みをしたまま答える。
「おいおい、お前ら……」
「でも、それしか方法がないんだよね?
だったら、行くしかないよ」
地下排水ということもあり、
1番反対しそうなレナとローザから、
あっさりと“行くしかない宣言”が飛び出し、
驚くプログに、アルトがさらに追い打ちをかける。
「……わかったよ、
とりあえず行ってみよう」
3人の勢いに負けた(?)プログが、
観念しました、とばかりに肩をすくめる。
もとよりそれしか方法はない。
プログも、そのバンダン水路を通るつもりだったため、
それほど反対はしなかった。
(まあ、あの環境に、
どこまで耐えられるかどうか、
わからんが……)
そんなことを心に呟きながら。
「よし、決まりね。
そしたら明日の朝、出発でいいかしら?
さすがに今日は休みましょう」
一通りの話を終えて立ち上がったレナが、
窓を覗きながら話す。
外は西日になり、
徐々に辺りが暗くなってきている。
「そうだな、あの小屋でもそんなに休めてないだろうし、
今日はここで一泊しよう。
明朝出発で大丈夫だろ」
レナと共に、外の状況を確認するプログも、
まずは一晩、しっかり休むことを提案する。
「そうだね。
そしたら、僕は先に休んでいるね、
さすがにちょっと眠くて……」
「おう、休める時に休んどけよ」
よほど眠かったのだろうか、
アルトはそう言い残すと、
部屋に戻っていった。
「ローザもゆっくり休んどいてね、
あたしもすぐに休むからさ」
「はい、ではまた明日、
頑張りましょうね」
レナに促され、ローザも部屋に戻っていく。
2人とも身体的にも、
精神的にも疲れていたのだろう。
そして、再び残った、レナとプログ。
「強いな、ローザも、アルトも」
「そうね、例え血が繋がっていなくても、
あの子は立派な王女よ。
それに、アルトも最初に会った時より、
少しだけ頼もしくなっているわよ」
ローザ、そしてアルトのいる部屋を、
それぞれ見つめながら、
まるで保護者のように、2人が話している。
プログと違い、
レナは出会った当初のアルトを知っている。
最初は頼りない、
気弱な少年のイメージが強かったが、
今までの経験を通して、
少しずつ、でも着実に強くなっている、
レナはそう感じていた。
窓の外の太陽は、更に西に傾き、
徐々に月が顔を出す時間へと、
差しかかっていく。
「あーあ、あたしも成長しないとなー。
んーっと! それじゃあたしも寝るわ、
おやすみ」
「ああ、お前もゆっくり休めよ」
「はいはーい、どーもですっと」
大きく伸びをしながらレナは立ち上がり、
ローザのいる部屋に入っていく。
「成長、か……」
最後に1人残ったプログは、ぽつりと呟く。
(俺に……成長は……許されるのか?)
小さくため息をつき、一呼吸置くと、
プログも、アルトのいる部屋に入っていった。
それぞれが、それぞれの想いを胸にしまい、
サーティアの夜は更けていく。
<レナの、まあこんな感じでしょ>
えーと、作者に言われて、
登場人物を紹介しろって言われたんだけど、
ここでいいの?
てか、違うところで紹介してんのに、
なんでわざわざこんなところで紹介する必要があんの?
……まあいっか、
とりあえず、この話によく出る登場人物を紹介していくわよ。
テキトーな所もあるかもだけど、
紹介するのがあたしなんだし、
まあ許してよね。
<レナ・フアンネ>
え、コレ自分も紹介しないといけないの?
そんなの聞いてないんだけど。
えっと、とりあえずルインに住んでるわ。
年齢? 年頃の女の子に、
ンなモン聞くんじゃないわよ!
(作者:ごめんなさい、17歳です)
ってか、人物紹介って何を説明すれば……
あ、長い剣と短剣の二刀流で戦うわよ。
それと、10歳くらい以前の記憶がないんだけど、
別に困ってないからいいかなって思っているわよ。
それと……
え、もう書くスペースがない? んじゃ、これでいいや。
<アルト・ムライズ>
確かファイタルに住んでいるって言ってたわね、
年齢はあたしと同じよ。
どっちかと言えば静かな性格よねー、
そんなに大きな声を出すことも少ないし。
あと、銃と気術が使えるみたい。
ローザと出会うまでは、
治癒術が使えるのがアルトだけだったから、
色々と助けられたわ。
小さい頃にお母様と生き別れになって、
そのお母様を探す旅の途中で、
あたしは出会ったのよねー。
今となっては、それも懐かしいわね。
<プログ・ブランズ>
元ハンターのよくわかんないおっさん。
年齢は22歳ね。
密入国かなんかで捕まって、
ファースターの牢屋にいたのよね。
戦闘に関しては元ハンターってのもあって、
申し分ないんだけどねぇ……
喋るとボロが出るというか、何というか。
まあ、おかげであたしは退屈しないで済んでるけどね。
ああそう、プログと言えば、
護衛って言葉が嫌いなのよね、
何でかわかんないけど。
まあ、興味ないから別にいいんだけどね。
<ローザ・フェイミ>
ローザは王都ファースターの王女よ。
え? 王女じゃないって?
そんなの、まだわかんないでしょ。
年齢はあたしの1歳年下ね。
王女なだけあって、言葉遣いがすごく丁寧なのよねー、
たまに無邪気なところもあるけど、
それがまたカワイイのよ。
元々は、ローザをセカルタまで護衛するってことで、
一緒に旅をすることになったんだけど、
今では、本当のことを知るために、
セカルタを一緒に目指す、
頼りになる仲間として一緒にいるわ。
<マレク>
ルインで、あたしと一緒に働いている親方よ。
記憶を失って倒れているあたしを見つけてくれて、
それ以来、親方に育ててもらっている、
父さんみたいな感じね。
それに、実は親方は剣術もすごくて、
あたしも親方に剣術を教わったのよ?
最初は興味本位だったけど、
途中から楽しくなって最近では、
毎日稽古をつけてもらっていたわよ。
あー、親方元気かなあ。
<クライド・ファイス>
ワームピル大陸の王都ファースターの騎士総長。
……なんだけど、列車専門の犯罪集団、
シャックのボスという、
2つの顔を持つ、
とにかくムカつくおっさんよ。
でも、騎士総長なだけあって、
剣の腕前は超一流なのよね、
あたしも全く歯が立たなかったし……
でも、今度会った時は、
必ずブッ飛ばしてやるから、
覚悟しなさいよ!
 




