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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
166/219

第162話:ようやく

ついに、言った。


この雰囲気を一変させる、

酔っ払い共が酒池肉林とばかりに、

酒と食い物で乱舞する酒場の空気を、

もしかしたら180°変えるかもしれない、

その言葉を。


暗黒物質の剣をオーダー。


無論、酒場のメニューにそのようなものなどない。

飲み物にも、食べ物にも聞こえない、

他の人が聞けば“何ソレ?”と思われかねない、

明らかに異質な文字が羅列された言葉。


だが、アルトは自信なさげではありながら、

それでも確かに、この酒場の店長である女性、

レビリンへと、その注文を告げた。



「はい? なんていいました?」



だが、そんなメニューありませんけど、とでも言いたいのか、

あくまでも“知らない”ことを演じているのか、

それともただ単純に、本当に聞こえなかったのか。

どの可能性に沿っているにしろ、

レビリンは露骨に怪訝そうな表情を浮かべ、

その場に立ち続けている。


本来の持ち場であるバーカウンターへと戻らず、

店長はこの場に居続けている。

それはアルトのオーダーが、

明らかに通っていないことを意味する。



「あ、あれ?」



再び、思考が止まるアルト。

これで、話が進む。

100%ではないにしろ、

ほぼほぼ確信はしていた。


だが、まるで一晩寝ずにセリフを考え、

意を決して好きな子に告白したら“あっそう”、

くらいしか返答がなかったかのように、

恐ろしいほどの肩透かしを食らった、

そんな気がした。


もしや、間違いだったのか。


だが。



「すみません、聞こえなかったんで、

 もう一度、はっきり(・・・・)と言ってもらっていいですかー?」



レビリンは再びアルト達へオーダーの機会を投げ返した。

やはりどういう考えなのかは不明だが、

少なくともアルトには、



(はっきり、って部分、

妙に強調している……気がする)



そう捉えることができた。


確かに思い返せば、

先ほどオーダーを伝えた時、

まるで目上の人に何かを頼むかのように、

顔色をうかがいながらの細い声だった。


ただでさえ周りは、

フロウを筆頭にしてむさ苦しい野郎連中が、

大声で大騒ぎしているような環境だ、

そんな蚊の鳴くような声じゃ正確に聞き取れません、

と言われても、強くは否定できない。


オーダーを言うならもっとはっきり、

デカい声で。


店のオーナーとして、

絶対にオーダーの聞き間違いはしたくない。

レビリンの言うことは至極真っ当な意見だろう。


もっとも、


(とはいっても、

こんなに人がいる前で、

いきなり大声で暗黒物質の剣くださーい!

なんて、普通言えないよ……)


アルト自身、そう思わずにはいられない。

そして、それは決して性格の問題だけではない、

とアルトはやや自己弁護気味ながらに思う。


酒場のメニューを見たとする。

ビールやウイスキー、チューハイなどの飲み物や、

マメや煮物、ポテトなどの食べ物がずらりと並ぶ中、

いきなり暗黒物質の剣などという、

何かこじらせているような言葉を発しようものなら、

もれなく注目の的、

というより痛々しい視線を一身に浴びることとなるだろう。


元来より、目立つことがそれほど好きではないアルトにとって、

その状況はまさに、地獄絵図である。


事実、隣の前後左右に座っている仲間である2人、

フェイティ、ローザ、

まるで“え、今それをここでいっちゃうの?”、

“組織の名前を言っちゃっていいの?”

とでも言いたげな表情で、

アルトの言動を見守っている。

唯一酔っ払い状態の蒼音だけは、

自分の事で精一杯のようで、

アルトの言動には無関心状態となっているが、

だが、2人の視線、

それだけでもアルトにとっては、

すでに痛い。


お願いですからこっちを見ないでください、

まるで公衆の面前で着替えをしているかのような、

羞恥の感情が背中から脳にかけて巡り巡っていく。


だが、この際そうも言っていられない。


彼らが望むオーダーをする。

(おそらく)この道を進まなければ、

今の状況から好転することはない。


しかも、レビリンに注文の確認を頼まれた以上、

もう一度同じ事を繰り返すしかない。



「あの……暗黒物質の剣を1つ、

 もらえますか?」



頼むからもう勘弁してと、

いじめられっ子が今にも泣きだしそうな、

そんな気持ちでアルトは再び、

店長へその注文(・・・・)を伝えた。



だが、その時アルトはすぐに、

ある(・・)異変に気づいた。


今まで我関せずで、

めいめい酒宴を楽しんでいた、

ならず者たちの数名が、

チラリと、こちらに視線を送ってきたという事を。


まるで空気、

透明人間のような扱いをしてきたものが、

急に人間として認識したかのように。


決して全員ではないが、

でも若干名は間違いなく、

アルトのオーダーに気づいた。


空気は、徐々に変わりつつある。


そして、その空気を察したか、

はたまた、もう勘弁してという、

アルトの悲痛な願いが通じたか、



「暗黒物質の剣ね、了解で~す」



レビリンに、ようやく注文が通った。

まるで友達に話すかのようなノリで、

アルト達にそう返答すると、



「暗黒物質の剣、オーダー入りまーすッ!!」



今度は酒場全体に響くように、

まるでこの場に居る客すべてに、

そのオーダーが通ったことを気づかせるかのように、

声高にレビリンは叫んだ。



「!!」


「!!」



瞬間。


すべてが、変わった。

それまでどんちゃん騒ぎの無礼講状態だった酒場が嘘のように、

まるで突如別空間へと移動したかのように、

あるいは空間全体のありとあらゆる音を遮断したかのように、

沈黙の空間へと様変わりする。


酒を飲む者もいなければ、

会話をする者もいない。


無の境地。

まさに無の境地で、

ただ一点に視線を集中し続ける。


この空間、小さな酒場内に存在するありとあらゆる市民たちが、

ようやく部外者を、認識した。



「あららら?

 BBA達、何かまずいことしたかしら?」


「アルト、これは一体……?」



この酒場に来れば何とかなる。

そう認識していたフェイティとローザは、

あまりの空間変化に戸惑いの色を隠せない。


もしや知らないうちに、

何かしくじってしまったのではないかと、

無知と疑念の間で悩んでいるであろう2人の横目に、



「たぶん、大丈夫だと思うんだ」



右頬をポリポリと掻きながら、

落ち着き払うように言う。


実際、本当にアルトも、

これで次の局面へと進めるという、

少しばかりの手ごたえがあった。


なぜなら今、このシーンを、

以前にも見たことがあるから。


そう、以前にここを訪れ、

レナやアルト達と同卓へ座ったフロウがレビリンに対して、

“暗黒物質の剣”とオーダーした時も、

現在とまったく同じく空間が静寂に包まれた。


まるでフロウの言葉によって、

その場にいたすべての人々が、

裏の姿となるスイッチが入ったかのように、

見事に統率された姿を、あの時に見せてくれた。


そして、今。


まるであの時に戻ったかのように、

彼らは同じ行動を起こした。


裏の顔、反政府組織としての姿を、

少年、そしてレビリンの言葉で呼び起こした。


……と、アルトは思う。


だが、それはあくまで、

一度経験したアルトだから納得できるのであって。



「本当に……大丈夫なのでしょうか……」


「うーん、みんなとーっても怖い顔をしているのよね~、

 これって、BBAの気のせいかしら?」



ここへ来てから、する事為す事、

すべてが初体験となっている2人にとっては、

たぶん大丈夫だと思うなどという、

抽象的かつ不透明な説得論法では、

強面のオッサン達全員がこちらを睨み付けているという、

字面だけで絶望感が味わえそうな境遇で納得できるはずがない。


とはいえ、アルトも自らの仮定が、

100%正しいと言える自信があるわけでもない。


加えて、前回の状況を知る、

唯一の理解者であるはずの蒼音は、

相変らずユラユラと体を揺らしながら、

必死に酒臭さに耐えている状態で、

とてもじゃないが加勢してくれそうにもない。



「えーと……」



さてこの状況をどうやって説明したものかと、

少年が次の言葉に迷っていると。



「やれやれ、ようやく頼んでくれたか、

 もしかしたら忘れちまったんじゃねえかと、

 内心ハラハラしていたぜ」



雰囲気たっぷり、しんがりに登場とばかりに、

暗黒物質の剣のリーダー、

フロウはゆっくりとアルト達へと歩み寄る。



「あ、すいません……」


「なーに、謝ることはない。

 それに少年はちっとも悪くないさ、

 元を辿れば、レビリンがここに来る前までに、

 もう一回君達にちゃんと教えていればよかっただけで、

 ほぼほぼアイツが悪い」



安堵半分、焦り半分といったアルトに対し、

フロウはすかさずフォローを入れる。


遠路はるばる来た客人を前に、

さしずめまずは場を和ませて、

といったところだろう。


とはいえ、



「ちょっと!

 何で私が責められなきゃいけないのよ!」



そこには当然、納得しない者が。


レビリンは瞬間湯沸かし器のごとく、

頭から湯気が今にも噴射されんばかりに、

怒りを露わにしている。


だが、



「うるせぇなあ。

 ホントの事じゃねーか。

 大体、朝の段階でちゃんとその辺をアルト達に伝えていりゃあ、

 こっちだってお前の、

 大根役者っぷりを見なくて済んだってのによ」


「だ、大根役者ですって!?」


「いやどうみても大根だっただろ。

 あんな下手くそな演技じゃ、

 子どものお遊戯会の役ですら、

 ソッコーお断りを喰らうレベルだぞ?」


「あんたねぇ……黙って言わせておけば……!」



火に油どころか、

大量のガソリンをぶちまけるかのような言葉の数々。

今にも近くにある椅子をブン投げそうな勢いのレビリンを見て、

フロウはケラケラ笑い、

そのリーダーの姿を見て、

周りのならず者達……もとい、

暗黒物質の剣のメンバー達も声に出して愉快気に笑う。



「……ってちょっと待った。

 フロウ、あんた今、

 ここに来る前に教えておけば、

 って言ったわよね?」


「ああ、言ったぜ」


「もしかしてフロウ、私とアルト君たちが、

 昨日から一緒にいるってこと、知ってたの?」


「ああ、知ってたぜ。

 今日の朝、街の外を歩いていて、

 お前ン家を通り過ぎた時、

 みんなの声がしたからな。

 おー来てくれたかーってな」


「おー来てくれたかー、じゃないわよ!

 何でそん時、声をかけてくんなかったのよ!

 私の家にアルト君たちがいるのを知ってたんなら

 あんたも入ってみんなに会った方が、

 話が進みやすかったじゃない!」


「いやいやぁ、

 レディが1人で暮らす部屋に、

 野郎がそうズケズケと入れませんて」


「こういう都合の悪いときだけ、

 レディ扱いすんじゃないわよ!!」



彼らの談義は衰えることを知らない。


だが、その一方で。



(うーん……)



昨日、外壁をアテもなく歩いていたところを助けてもらい、

さらには一晩泊めてもらうという、

レビリンに対して多大な恩を感じるアルト達は、

今の状況であっても、

さすがに笑うに笑えない。


大群からポツンと離れてしまった海魚のように、

流れに完全に取り残されているアルトは、



「えーと……」



どう切り出したらいいかと、

再び頭を悩ませていると。

その空気をフロウは察したのか、



「あーわりい。

 ついついいつものクセで、

 長話しちまったな」



言ってゴメンと手を合わせるが、

その言葉とは裏腹に、

リーダーの顔には、

ちっとも悪びれた様子がない。


まるでこれがこの空間の流儀だから、

とでも言うかのように、

罪悪感とは無縁の表情のまま、



「さて、と。

 っつーわけで、

 偶然にも今日の朝、

 話の一部は俺も耳にしてたんだけど、

 途中からしか聞けなかったモンで、

 ちょいとばっかし教えてほしいんだが……」



コトン、と。

右手に握りしめていた空のウイスキー瓶を静かに置くと、

ちょっとした面談よ、とばかりに口を開く。



「アルトと蒼音はお久しぶりだが、

 後ろのレディ2人はお初にお目にかかるな。

 俺が打倒政府を掲げる組織、

 暗黒物質の剣のリーダー、フロウだ、

 よろしくな」


「あら、BBAをレディと言ってくれるなんて、

 口がうまいわね。

 私はフェイティ、よろしくね」


「ローザと申します、

 フロウさん、よろしくお願いいたします」


「フェイティにローザだな。

 キレイどころを2人も連れてくれるなんて、

 少年、なかなかやるじゃぁないか」


「え……いや、あの……」


「ハハハ、まあ気にすんな。

 それはそれとして、

 レナとプログ、だっけか?

 アイツら2人は来ていないのか?」


「あ、はい。

 2人は今、別行動をとっているんで、

 今回は僕たち4人だけなんです」


「別行動ってのは、

 この大陸に来ていない、ってことかい?」


「はい。レナはエリフ大陸に残り、

 プログはワームピル大陸に行ってます」


「そうかい。

 それは残念だな。

 あいつら2人は、

 なかなか腕が立ちそうな気がしたんだか……。

 まあ、でもしょうがないな」


「すみません……」



総帥ドルジーハと、

エリフ大陸の王都セカルタの使者として、

レナとプログは一度面会をしている。

その事実がある以上、

この2人が反乱軍として活動することは、

絶対にできない。


もしレナとプログがフロウ達に手を貸し、

その姿をドルジーハに見られでもしたら、

セカルタと反乱軍が、

両者が何らかの繋がりがあると認識されてしまうことになる。


セカルタの現最高責任者である、

執政代理であるレイは無論、

そんなことは望んでいない。


だから、レナとプログは、

別行動をとった。

この決断は、決して間違っているものではない。


とはいえ、



(でも実際、フロウの言うとおり、

あの2人がいないと、

戦力大幅ダウンだよね……)



例えば自分だけが弱いとか、

決してネガティブになっているわけではない。


ただ、全部で戦力が100のところ、

2人が欠落したことによって80に落ちる、

と言った感じに、戦力は間違いなく下落する。

純粋にそう思い、アルトは肩を落とす。


それだけあの2人の実力は、

目を見張るものがあった。

戦う際の力において、

そして、仲間としての精神的な柱としても。


その2人が、いない。

その事実は彼らを、

そしてアルト自身をも、不安にさせている。



「あーわりい。

 別にあの2人がいないからダメだとか、

 そういうワケで言ったんじゃねえんだ、

 もし気分を悪くさせたならすまねえ」


先ほどまでの笑った表情は消え、

まるでアルトの心情をスキャニングしたかのように、

フロウは神妙な面持ちですかさず言った。


次回投稿予定→10/14 15:00頃

先週は急遽の休載になってしまい、申し訳ありませんでした。。

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