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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
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第161話:少年、迷う

(んー……)


その違和感に気づくのに、

それほど労力は使わなかった。



「お客さん、オーダー、どうしますか?」



先ほどのお伺いから5秒もしないうちに、

店長のレビリンは再び、

アルト達へオーダーを促す。

まるでロボットのように、

先ほどと一言一句変わらぬ、

同じ言葉を同じ相手へと投げた。


本来、飲食店において、

店員が客のもとへと歩み寄る行動原理として、

その大部分のパターンでは、

客から店員を呼び寄せることが多い。

例えば、注文お願いします、とか、

ちょっとすいませーん、などといったものがある。


言葉の選びはあれ、客から店員へと言葉を投げかけ、

店員がその返しとして客の所へ行くという行動が通常であり、

自発的に客の元へと歩み寄る事例は、

それほど多くない。


ましてや、客側からファーストコンタクト、

すなわち最初のオーダーお伺い時に、

“ちょっと待って”という意思表示をされたならばなおのこと、

お客様からの呼びかけがあるまで待つのが、

本来正しい姿のはずである。


アルト達はすでに一度、

レビリンからの催促に対して待って、という意志を、

確実に示している。


そして、その言葉をレビリンは確かに聞き、

承知をした。


決してロボットではない。

そこは間違いなく、人間が承知をしていた。


にも、関わらず。



「どう? 決まった?」



三たび投げかけられた、

早すぎる注文の催促。


本来の飲食店のやり取りにおいては、

ある意味異常な光景。


明らかに、おかしい。


だが、



(……?)



気づきはしたものの、

そこから先が、アルトには分からない。



(うーん……何だろ……?)



明らかにレビリンの行動には、違和感がある。

それは、分かる。

だが、



(何でこんなに、オーダーを聞いてくるんだろ……?)



だが、レビリンがその違和感を、

何を意図して出しているのかが、分からない。


空気を読め、

何だかそう言われている、

そんな気はするのだが、

そもそも何の空気を読み取ればいいかが、

少年の理解力、想像力では不明だった。


正直、アルト達は別に飲み物や食べ物が欲しくて、

ここに来たわけではない。


レビリンの家でパンを食べていて、

それほど空腹でもない。

それは何を隠そう、

今目の前で問いかけているレビリンが一番、

知っているはずである。


もしただ単純にオーダーを聞きに来ているなら、

それこそ、こちらの空気を読んでくれと、

アルトは声を大にして言いたい。


にも関わらず、



「まだ決まりそうにないかな?」



まるで装飾店で絶対に買うまで客を逃すまい、

と意気込む店員かと間違うくらい、

レビリンはグイグイと注文を促してくる。



「あらあら、店員さんにここまで言われちゃったら、

 BBA達も何か買うしかないかしら?」


「でも私、お酒飲めないですよ……?」


「そうねえ、ローザちゃんはまだ未成年だものねぇ……」



フェイティとローザが何やら押しに負けそうな、

不穏な雰囲気を醸しだしているが、

アルトの頭脳は今、

そちらの話題に割くほどの余裕はない。



「困ったなぁ……」



文字通り、少年は困っていた。


こんなところで悩んでいる暇など、

本来はない。


自分と、

自分以外で唯一この地を知っている蒼音、

そして年長者のフェイティ、

そして……ローザ。


4人でこの地、

他の大陸との交流を一切持たない厳冬の地、

ディフィード大陸を訪れた、

最大の理由は、ローザの安全確保。


かつてはワームピル大陸の王都、

ファースターの王女として崇められていた彼女。

だが、ファースター騎士隊の騎士総長にして、

世界で暗躍する列車専門の犯罪集団、

シャックのボスであるクライドから、

実は偽りの王族であったことを告げられ、

唐突に命を狙われる身となってしまった、ローザ。


そのローザを、魔の手から救い出すために、

アルト達はこの大陸へと来た。


そして、元王女の安全を最大限、

確保するために決断したのが、

この場所、王都キルフォーに存在している、

反政府組織との接触だった。


現在別行動をしている、レナとプログ。

王都キルフォーの総帥、つまりナンバー1である人物と、

かつて面会した2人は、

総帥はあまりに使えない、危険な人物だと話していた。


国は、頼りにすることができない。


そこでアルト達が目をつけたのが、

その総帥を、国を倒そうと動く反乱分子の存在だった。


政府と敵対している、

ある種イレギュラーな存在とも言える彼らたちのいるところなら、

あるいは。


無論、反政府組織自体が、

危険な存在であることは分かっている。

事実、少し辺りを見渡せば、

目の前で酒を一気に飲み干すリーダーは相当なクセ者。

それに呆れた様子でため息をつく副リーダーも、

随所に優しさが垣間見えるものの、

それを凌駕する口の悪さがある。

そしてそれらを取り巻く、

明らかに血の気が多い呑兵衛達。


不謹慎とは思いながらも、

今回のような用事がなければ絶対にこんなところ来ないよと、

アルトは顔を引きつらせる。


そんな無法地帯であるところに(元)王女を保護してもらうなど、

通常では有り得ないだろう。


だが、アルト達はそれでも、

ベストではなく、ベターを選んだ。

存在するかもわからない“もっとも安全な場所”よりも

近くで見つけられた“今よりはマシな場所”を、

少年たちは選択した。


彼らは国を倒すことに躍起になっている。

そしてその目標を達するために、

少しでも戦力を必要としている。


ギブ&テイク。


要は、自分たちが戦力として加わる、

その見返りとしてローザの安全を保障してもらう。


それが、アルト達の選んだ、

ローザにとって“今よりはマシな場所”だった。


そして、その交渉をするべく

この酒臭い、劣悪な環境この上ない空間へと、

意気込んで入ってきた。


のだが。



(うーん……)



アルトは今一度、

一度はフル回転させた思考を奮い立たせてみる。



(何で誰も反応してくれないんだろ……?)



店長として働くレビリンはさておいたとしても、

少なくとも一度は面識のあるフロウが、

まるでお前なんて知らねえよ、とでもいうかのごとく、

アルトらをスルーするのもおかしいし、

それにそのフロウの周りをとりまく、

おそらく反政府組織のメンバーであろう、

ならず者達も、

突如として現れた新参者に対して、

一切の興味を示さない。


まるで思春期の子どもがイジメの一環として、

いじめられっ子を集団で無視するかのように、

見事に行動が統一されていて、

それがかえってアルトにとっては、

更なる違和感を覚えている。



(こっちから……話しかけていいのかな?)



アルトは一人、悩んだ。

もう、この酒場に来てから10分近くが経過している。



「何を頼むか、決まった?」



相変らずレビリンの、

オーダーに対するプレッシャーは感じたままだし、

とはいえ話はいっこうに始まる気配がないし、

でもこのまま無駄に時間を過ごせば、

酔っぱらいちゃん……もとい、

蒼音の体調が危なくなってくる。



「お客様~」



急ぎたい、でも、急がせてくれない。

今一度奮い立たせていたアルトの思考は、

急速にその速さを失っていた。



「飲み物とかの~」



待てど暮らせど。

いっこうに進まない。

さらに考えても、浮かばない。



(どうしたら話せるんだろう、

暗黒物質の剣につい



「オーダー(・・・・)はどうしますか?」



アルトの反復的な思考とレビリンの機械的な言葉が重なった、

その瞬間。



(………?)



まるで背後から何者に声をいきなりかけられたかのように、

アルトの体はビクッと身震いを起こす。



(……あれ?)



そして続けざまに、

今までアルトを包んでいた、

不透明な違和感のモヤに、

一筋の光が差し込む。


つい先ほどまで、

掴もうと思っても掴めなかった、

レビリン、フロウ、

そしてこの酒場に覚えていた違和感。


アルトはその意識のズレを今、

戻しつつあった。



(そういえば、あの時……)



再び息を吹き返したアルトが思い起こしたのは、

先日、初めてレナやプログ達とこの場を訪れた、あの時。


キルフォー市街地でフロウに絡まれ、

レナ、プログ、蒼音、そしてアルトの4人は、

この酒場へと半ば強引に連れられてきた。


今と同じように机と座り、



『まったく……それで!

 オーダーは何に致しましょうか!!』


レビリンのご機嫌はやや違えど、

今と同じようにレビリンは、オーダーを確認してきた。


そして、その場にいたフロウは、確か、


(暗黒物質の剣、もらおうか、

って言ってたような?)



そんな気がする。

いや、気がする、レベルのうろ覚えの域ではない。


(ううん、間違いなく、

フロウは暗黒物質の剣、ってオーダーしていた……)



特段記憶力が優れているわけでもないが、

なぜかそこだけは、アルトは妙に自信が持てた。


きっと、それはその後の出来事が、

アルトにとって記憶の一部分に留めておく、

稀有で価値のあるものだったからだろう。


あの時、何せそれまで泥酔状態だったフロウと、

仲間内で祭りのごとくどんちゃん騒ぎをしていた、

ならず者達が突如としてその動きを止め、

即座に反政府組織の顔へと、変化を遂げたのだから。


動からの、静。

表からの、裏。

対極に位置する存在への、瞬間的変貌。


その印象度は、

本人が思っている以上に強い。

その変化の前、フロウが口にした言葉、

暗黒物質の剣というオーダー。



(もしかして……?)



飲食物のオーダーにしては、

あまりにも不自然で、

あまりにも不可解で、

あまりにも本質に迫る、その注文。



(あの時と、フロウと同じことをすれば……)



じわじわ、と。

まるで白紙を下から火で炙ったら、

徐々にメッセージが浮き出てくるかのように。



(もしかして、またあの時みたいになるのかも?)



少年の心に生まれた、

ここで打つべき手の仮定が、

徐々に確信へと、姿を変えつつあった。


(いや、たぶんこれしかないよ。

あの時だってフロウの言葉から雰囲気が変わった。

きっと、今回だって……!)



その最中、



「オーダー、まだ要りませんか?」



もう何度目の言葉だろうか、

店長の口から発せられた催促の声。


どうして、今まで気づけなかったのか。



「……まだ決まりそうにないですか、

 そしたらまた後で来ますので、

 必ずオーダーしてね」



彼女は、レビリンはずっと、きっと、

アルトに対して信号を送り続けていたのだろう。

オーダーという言葉に隠した、

次のステップへと進むためのスイッチを。


決して、お店の切り盛りに忙殺されていたワケではなかった。

アルト達を、放置していたわけではなかった。

レビリンは常に、アルトに信号を送り続けていた。


それに、アルトが気づくことができなかっただけ。



「あ、あの!」



アルトは、レビリンを呼び止めた。


100%の確証があるわけではない。

もしかしたら、違うのかもしれない。

でも、試す価値は、十分にある。


自分達の事情を知るレビリンなら、

仲間として迎え入れてほしいという、

明確な目的を知る副リーダーになら、

今、自分がやろうとしていることを試してみても、

リスクは、ほぼない。


仮に間違っていても、

すでにアルト達の想いを受け止めているレビリンなら、

特に騒ぎ立てることも、きっとしないだろう。

もし間違っていたなら、また別の方法を探せばいい。


アルトに、迷いという2文字は、

もうすでに消え去っていた。



「はーい、どうしました?」



客からの呼び止めに、

まるで条件反射のように素早く踵を返して、

アルト達の机へと戻ってきたレビリンに対し、



「あの、オーダーをお願いしたいんですけど……」


「はーい、オーダーね。

 何にします?」



ふだんと変わらない、

注文を行う際と同じ流れで、アルトは言う。



「あらら?

 もう注文をお願いしちゃうの?

 BBA達、まだ何を頼むか決めてないんだけれどぉ」



何やら横の方で自称BBAの淑女がどこまで本気か、

焦った表情でウンウン頭を悩ませているが、

アルトは一切、気にしない。


いや、どちらかと言えば、

フェイティの動作自体が思考の範囲に入っていない、

という方が正しい。


仲間たちの方に意識を置くことは一切せず、

注文を書き留めるべく、

ペンとメモを取り出したレビリンに向かって、

アルトは、



「暗黒物質の剣……をひとつもらえ、ますか……?」



先ほどまでの確固たる決意とはまるで正反対の、

自信なさげに、呟くように、

少年の望むオーダーを、店長へと告げた。


次回投稿予定→9/30 15:00頃

来週は私情により休載させていただきます、すみません……。

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