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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
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第149話:劣悪の地、再び

今日のディフィード大陸は、

一日中吹雪という予報だった。



氷点をゆうに下回る気温の中、

まるで小さい砂がピシピシと吹きつけるような、

ディフィード大陸の地。



「うぅ……こ、これは……」



元来の美白とは違う、

どちらかといえば蒼白に近い表情で、

ローザがお腹からの、

小さいうめき声が発すれば、



「想像以上に厳しいわね……。

 BBA、このまま冬眠しちゃうかもぉ……」



外気に触れる表面積を減らしたいからか、

フェイティは思わず、

その場で小さくうずくまってしまう。


約1日半の船旅を終えて、

港町カイトの北方、およそ10kmのところに上陸した、

アルト、ローザ、フェイティ、蒼音の4人。


初の上陸となった2人は、

あまりに猛烈強烈な出迎えに、

完璧に面食らった状態になっている。


もっとも、


「いやぁ……やっぱり寒いね……」


「そうですね、

 一度経験したからといって、

 簡単に慣れるものじゃないですね……」



同じく降り立ったアルトと蒼音の顔には、

寒さに震えながらも、まだ若干の余裕がある。


それもそのはず、

今日は吹雪いているとはいえ、

平均よりは高い日だった。


事実、前回上陸した際は、

まるで晴天など、

ここにはないのではないかと思わせる程だった黒雲が、

今日はわずかに澱みが薄くなっている。


だが、それにしても、である。



「こ、ここからどれくらい歩くんですか……?」



奮える体と声を懸命に抑えつけるように、

ローザはアルトへ問いかける。



「うーん、どうだろう……。

 前にカイトから直接キルフォーに行った時で、

 大体3時間くらいかかったから、

 そこよりちょっと来たから歩くから、

 5~6時間くらいはかかっちゃうかも」


「6時間!?

 BBA、そんなに歩き続けていたら永久凍結しちゃうよぉ~」


「でも多分、それくらいはかかると思います……。

 それにカイトからキルフォーまでなら、

 私たちも何となく道は分かりますけれど、

 ここからだと、ちゃんとした歩道が、

 あるかどうかもちょっと……」



げんなりするフェイティにトドメとばかりに、

蒼音は悲しげにつぶやく。



「うへぇ……。

 BBAの体には、堪えるわぁ……」



あまりに長い道程に心が折れたのか、

いつもの飄々とした言葉遣いにも、

徐々にキレ(?)がなくなっていく。


だが、いつまでもこの場で、

ウダウダしている余裕などない。


現在、午前11時。

カイトからキルフォーまでの距離なら、

おおよそ3時間程度歩き続ければ着くため、

3時前までには王都へと入ることができた。


だがここからだと、

それよりも多くの時間を、

費やすことになるのは間違いない。


つまり時間によっては、

夕方よりも遅くの時間を、

移動に割かなければいけない可能性が出てくる。


日中の最高気温でさえ、

お世辞にも過ごしやすい気温ではないこの大陸で、

夕方、あるいは夜に移動を試みるのは、

崖から飛び降りるのと同程度に自殺行為である。



「行こう。

 とにかくまずはキルフォーに行って、

 フロウ達に接触しないと」



アルトはとにかく、前を向いた。


現状を憂いても、誰も助けてはくれない。

むしろ、周りは敵だらけ。

魔物も、天災も、そしてこの地の住人でさえ、

今のアルト達にとっては敵対する者だ。


ならば自分たちで、

道を切り開いていくしかない。


さもなければ4人を待つのは、

凍死のみである。


それだけではない。


今、この地に降り立った4人のうち、

この大陸の事を知り得ているのは、

アルトと蒼音の2人だけ。


加えて蒼音は、

過去の経験から自分の意志を持つことのできない、

言い方を悪くすれば、いわば指示待ち人間である。


2人は初上陸、

1人は率先して動くことができない。


となれば。



(僕が動かないと……。

ローザとフェイティは初見の地だし、

蒼音ちゃんを先に行かせるのは、

あまりに酷すぎる)



少年も、分かっていた。

唯一の男性である、ということ以外に、

自らが先陣を切らなければいけない理由を。


2回目の上陸でわずかに慣れがあるとはいえ、

地吹雪と空を狂ったように舞う雪風の狂宴は、

何度経験しても耐性がつくようなものではない。


わずか10数メートル先の視界すら確保できない、

そんな中でも。



(これが、自分が選んだ道……。

どんなことがあっても進み切ってみせる……ッ!)



ザッザッザッ。


お世辞にも軽快とは言えない足取りながらも、

アルトは一路、王都キルフォーへと足を踏みだした。



「そうですね、ここで待っていても

 凍えてしまうだけですから……」



続いて蒼音が、

トレードマークの紅いポニーテールを、

強風にはためかせながら一歩を踏み出す。


自分の意志こそ持てないというだけで、

決して行動力がないというわけではない。


意思決定者であるアルトの意見に従い、

すぐさま後を追う。



「あ! 申し訳ないんだけど、

 蒼音ちゃんは一番後ろを歩いてもらっていい?」


「え? はい、いいですけれど……」


「ごめんね。

 一度ここに来たことがある僕と蒼音ちゃんで、

 初めて歩くローザとフェイティを挟んでいった方が、

 はぐれる可能性が低くなると思ってさ」



両手を顔の前で合わせゴメン、

とばかりにアルトは言う。


ディフィード大陸経験者のアルトと蒼音が、

未経験者のローザとフェイティを囲うことで、

真ん中2人がはぐれる危険を察知しやすくする、

要はそういう事らしい。



「なるほど。 了解です!」



ピシッ! と、

まるで婦警さんのように、

蒼音は敬礼のポーズを決めると、



「……ということなので、

 ローザとフェイティは先に歩いてください。

 私は後ろを歩きますので」


「蒼音……すみません」


「ゴメンねぇ、BBAがお初の体験ばっかりに……」


「いえいえ、お気になさらず」



どうぞ、とばかりに蒼音が道を譲り、

ややバツが悪そうにしながら歩くローザとフェイティを、

アルトのすぐ後ろにつかせた。


アルト、ローザ、フェイティ、蒼音。

かくして隊形が決まった4人は、

急ぎディフィード大陸の王都、

総帥ドルジーハの治めるキルフォーへと、

誰にも見つかることなく、気づかれることなく、

そして支えられることなく進み始める。





「そこだッ、いけッ!!」



吹きつける吹雪に顔をしかめながも、

アルトは右手に持つ白銀銃のトリガーを引く。


パァン、という軽い爆発音と共に放たれた弾丸は、

少年の数メートル先、

鋭利な牙を剥きだしに突進してきた白毛の狼、

ピュアウォーの顔面へと直撃する。

バウン……という、吐くように漏れたうめき声と共に、

ピュアウォーがその場で事切れれば、



「ホイッ! っと。

 ローザちゃん、あとはお願いねッ」



刃先が3つに分かれるジャベリンを右手に軽々と持ち、

気の抜ける、間延びした声を出して、

フェイティが別のピュアウォーの背中部分を、

素早く突き刺した瞬間、



「了解です!

 ……いけッ、エナジーアローッ!!」



後方から聞こえた、

ローザの覇気のこもった叫び声に続いて、

元王女の小さな両手に宿っていた、

2つの光が少女の頭上で合わさり、

1つの大きな矢とその姿を変え、

フェイティの槍にとって動きを封じられた、

魔物の胴体を一瞬にして貫く。


魔物は自らの身に何が起きたのか、

その事実を知ることなく、この世から去った。


そして、その背後では。



「石動流十神術その壱、烈火!!」



蒼音が詠唱のために自らの周囲を乱舞させた、

2つのヨーヨーを手元に手繰り寄せて叫ぶ。

轟! という音と共に放たれた炎塊は、

背後から近づいてきていた、

もう一体のピュアウォー全身を包み込む。

全身を数百度の炎に襲われた魔物は、

悲鳴や断末魔を発する時間すら与えられず、

一瞬にして絶命した。



「えー、すごーい!

 蒼音ちゃん、カッコいい~♪」



つい先ほどまで周りを囲んでいた、

魔物がすべていなくなったことを確認し、

フェイティは思わず、

歓喜と羨望に満ちた表情で言う。



「いえ、そんな、それほどでも……」


「そんなことないです!

 蒼音さん、すごすぎです!

 ヨーヨーを動かしながら詠唱できるなんて……!」



少しだけ頬を赤らめ謙遜する蒼音の横で、

ローザもBBA同様、目を輝かせている。


七星の里出身である蒼音は、

両手に持つヨーヨーを駆使した、

魔術でも気術、そのどちらにも属さない、

謎の術である“神術”の使い手だ。


石動家に古から代々伝わる伝道術のようだが、

その詳しいルーツは明らかにされていないし、

使用者である蒼音自身も正確には分かっていない。


蒼音の用いる神術が、

魔術や気術と決定的に違う点は、

攻守一体となっている事である。


魔術と気術はそれぞれ詠唱や精神集中をする際、

自然の力、あるいは自らの気、

一点に意識をすべて集中させることが必要になる。

そのため、術を発動させる前の行動時は、

基本的には無防備となってしまう。


だが一方で、蒼音の使用する神術は、

それらの類とは明らかに、一線を画している。


神術を発動させる際に、

蒼音はまず、目を閉じる。

これだけだと魔術気術同様、

無防備な姿を晒すこととなるのだが、

ここから蒼音は、両手に持つヨーヨーを、

自らの周囲へと放つ。


まるで自らの中心に綺麗な球体を描くように、

それでいて不規則な動きで、

ヨーヨーは蒼音の周囲を舞う。

その中で蒼音は、詠唱を始めるのだ。


魔物は何とか詠唱を阻止するべく、

蒼音へと近づこうとするのだが、

彼女を護る2つの騎士(ヨーヨー)が、それを許さない。


そうしているうちに詠唱を完了させた蒼音は、

それまで自らを守護してきたヨーヨー達を手元に戻し、

そして、術を放つ。


自らの力で自らを守りながら、その中で攻撃する。

魔術や気術では有り得ない世界。

だが事実として、蒼音はそれを、

神術と呼ばれる未知の力によって、可能としている。



「ありがとう、蒼音ちゃん。

 ホント、いつ見てもすごいよね」



アルトは以前に、

蒼音と行動を共にしていた際に、

その戦いぶりを目の当たりにしている。


そのため、改めて見たところで、

それほどの衝撃は受けない。


だが、ローザとフェイティは、

戦いどころか、行動すら共にしたことがなかった。

故に、蒼音の神術を見た時の、その衝撃は。

おそらくそれはかつて、レナが七星の里で初めて、

蒼音の戦いを見た時同様、

鈍器のようなものでいきなり、

後頭部を思いきり殴打されるような、

そんな感覚を受けたことだろう。



「ホント、蒼音ちゃんはすごいわねぇ。

 BBA、寒くて体が動かなくてお役に立てず……」


「私も、こうも足場が悪いと、

 気術くらいしか使えず……ごめんなさい……」


「そ、そんなことないです!

 トライさんだって、

 あんな重そうな槍を使って戦うなんて、

 私には絶対真似できないですし、凄いですよ!

 それにローちゃんだって、

 気術で傷を癒してくれたり、

 役に立ってないだなんて、そんなことないよ!」



まるで誰かに叱られたかのように、

並んでしょんぼりとするフェイティとローザに対し、

蒼音はアワアワした様子でフォローを入れている。


ちなみに、

他の人とは違う妙に独特な、

呼称をつけることで有名(?)な蒼音。

フェイティのことは、

フェイティ・チェストライという名前からトライさん、

ローザのことは、ローちゃんと、

どうやらそれぞれ呼ぶことにしたらしい。


ちなみにレナのことはレナ・フアンネからアンネちゃん、

プログはプログ・ブランズのブラさんと、

それぞれ誰も呼んでいない、

独創的なあだ名をつけている。



「…………」



だが、若干一名だけは、

どうにも解せない。



「あ、ムライズ君、

 後ろはすべて、魔物は退治しました!」


「え、あ、うん。

 ……それじゃあ先を急ごうか」



まるで歯に何か挟まっているかのように、

妙に歯切れの悪い返事をして、

アルトは再び、歩き出した。



(なんで僕だけ、普通に呼ばれるんだろ……)



もはや聞こうにもタイミングを逸し、

“ムライズ君”という、

他の親しみやすいあだ名とはおおよそかけ離れた、

じつに他人らしい名前で呼ばれることに、

不満というより落胆が残ったまま、

ムライズ君はとにかく、前へと進むことに、

全集中を注ぐことにした。


次回投稿予定→6/17 15:00頃

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