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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
151/219

第147話:各々の仕掛け、探り合い

「もしもーし、俺っスー。

 ……てかこの時間、もう起きてるんかい。

 一体どういうサイクルで生活してんのさ?」



驚き、というよりどちらかと言えば呆れ気味に、

リョウベラーは通信機の相手に向けて言う。

プログとスカルドの前から姿を消し、

兵士を撤退させている最中での出来事である。



「まあ、連絡した俺が言うのも何だけど、

 もう少し体調に優しい、

 日々の過ごしかたをした方がいいッスよ。

 今は若いからどうにでもなってるけど、

 歳とったら一気に老け込む原因になるよ?」



まるで人生の先輩、

何十年も時を送ってきたかのように、

ティーンエージャーのお喋り青年は肩をすくめている。



「……なに、余計なお世話だって?

 バカ言っちゃいけないさ、

 いちおーこれでも、

 俺はねーちゃんの体調と容姿を気遣ってだなぁ……」



ちなみに通信の相手は、

同じ7隊長の一人、4番隊隊長のナウベル。

年上、しかも女性である。


年下の、しかも10代の青年から、

やれ容姿がどうだの、

やれ老け込むだの言われようものなら、

大抵の女性であれば発狂モノである。


だが、そこは社会の裏を、

月影のように生きるナウベルである。



「あーはいはい、余計な話よりも報告ね。

 まったくつれないなぁ……」



軽くうなだれ、

急にトーンの下がったリョウベラーの様子から察するに、

どうやら静かに、

非常に短い言葉で諌められたのだろう。


バタバタと、

足早に駅を去っていく多くの兵士たちを背に、

リョウベラーは仕切り直しとばかりにふう、

と一つ息をつくと、



「とりあえずプログと、

 そのお仲間さんとは接触成功したよ。

 ……けど、逃がしといたッス」



スピイィィ……スピィィィ。

長時間の活動でお疲れだったのか、

立ったまま眠る相棒、

オウギワシのロックを肩に乗せて、

つい先ほど起きた現実を、

見たまま、聞いたまま、

行動したまま伝えた。



「……。

 いや、別にそれほど、

 こちらがピンチとかでもなかったんだけど、

 色々思うところがあったもんでさ。

 ……いやいや適当とかじゃないッスよ、

 ちゃんと考えあっての行動ッスから」



どうやら敵を目の前にして、

あえて逃がしたことを、

ナウベルに突っ込まれたのだろう。

動じることなくリョウベラーはすぐさま、

否定の言葉を口にする。



「ねーちゃんは知らないかもしれないけど、

 プログのお仲間……スカルドってやつ?

 アイツが思いのほかキレッキレの少年君でさ。

 とんでもない強心臓で食って掛かってくんのよ。

 まあ、完全無視して数で押し切ってもよかったんだけど、

 無駄に被害は出したくねえし。

 それに始発まであと少し、て時に、

 駅ど真ん中でドンパチ始めるのも、

 いかがなものか、でしょ?

 それに……」



一呼吸、ここから先は別話題とばかりに、

そこまで言ってリョウベラーは少しだけ、

間をあけたのち、



「とりあえずは泳がせとくのがいいかと思ってさ」



もう間もなく、部下達がすべて、

駅から引き揚げようとしている中、

近くにあったベンチに腰掛けて、

やや表情を強張らせるリョウベラーは、

さらに続ける。



「ここからどういう動きをするかはわかんねーけど、

 どこかのタイミングで仲間……レナと愉快な仲間たちだっけ?

 そいつらと合流するっしょ。

 アイツらの目的地や王女サマの行方を探るなら、

 ここでむやみやたらにとっ捕まえるよりも、

 仲間と合流してから動いても、

 それほど遠回りじゃないと思ってさ」



しっかりとした口調で。

決して自分の考えに澱みを持つわけでも、

疑念を持つわけでもない。

自分が考え、そして行動したことは、

決して間違っていない。

確固たる自負を持ちながら、

リョウベラーは事の詳細を、

ナウベルへと報告した。


辺りにいた部下達は、すべて撤退。

駅から7番隊隊長を除く、

すべての兵士が、姿を消した。


残っているのは、リョウベラーただ一人。

プログ達に別れを告げてから、

4分弱が経過していた。



「……うぃーっす。

 ……ハイハイ、分かってるって。

 つか、これでナウベルのねーちゃんから40点とか喰らっても、

 俺は納得しなかったっての」



肯定の意が続く口ぶりと、

若干表情が緩んだ様子から、

どうやらナウベルからは、

特にお咎めを受けなかったのだろう。


リョウベラーは腰掛けていたベンチから、

ゆっくりと立ち上がり、おもむろに歩き出した。



プログ達と5分という約束を交わした、

その約束を守るため。

相手を騙し、

陥れるという卑怯な手を使うことなど、

決してせずに。

まずは一度仕切り直し、とばかりに。


リョウベラーは、ファースター駅構外へと、

ゆっくりと歩き出した。



「まあ……とか言っときながら、

 スカルド少年君の存在が、結構予想外だったんだけどね。

 アイツいなくてプログだけだったら、

 サッサと捕まえても良かったンスけどね、

 ま、全体的に80点てトコロかな」



始発前、まるで廃墟の真ん中にいるような、

物音ひとつ聞こえる沈黙の中、

通信機を片手に会話を続けながら、

リョウベラーは去っていく。



「……は?

 ……え、ナウベルってスカルドのこと、知ってたの?

 ……セカルタの天才少年?

 いやいやいやいや、それ先に言えし!

 何でその情報、先に俺に教えてくれないンスか!!

 一番大事な情報じゃねぇか!

 ……何言ってんだよ、先入観とかどうでもいいじゃん!

 その情報知ってたら、俺だってもうちょっと方法考えたわ!」



去り際、リョウベラーの目論見を狂わせた、

あの天才少年のことをナウベルが知っていた事実を知り、

声のボルテージを一気に引き上げ、

リョウベラーはファースター駅から姿を消す。



「っつーか、何で俺だけこの大陸で、

 単独で動かなきゃいけないのさ!?

 一番広い大陸なのに俺一人だけとか、

 どんな罰ゲームだよ!

 無理ゲーにも程があるわ!!

 鬼畜か! 鬼畜ッスか!!

 0点! 慈悲なし文句なしの0点だわッ!!」



飼い主の大声にピクッ、

と体を震わせて目を覚ましたロック。

だが、そんな状況はどこ吹く風、

ここぞとばかりにぶちまける、

リョウベラーの体中に溜まった不満。



「大体、人使い荒すぎっしょ!

 俺だって少しは休みたいわ!

 これで何連勤だと思ってるのさ!

 このまま働いてたら、

 労働何ちゃら法に引っかかるがな!

 間違いなくブラック職場確定だわ!!

 ……あ! オイ勝手に切るなしッ!!」



姿を消してなお、

青年の声はしばらくの間、

ファースター駅に響いていた。





「え……?」



その言葉を聞いてプログは、

身体のありとあらゆる動作が停止した。



「ファースターの王女が行方不明になっている件、

 お前、何か知らないのか?」



スカルドはもう一度、

先ほどと同じ意の質問を、

停止した元ハンターへと投げかける。



「さっき、あのお喋り野郎が、

 ご丁寧にベラベラ、ソコソコの情報を垂れ流しただろ。

 騎士総長が首脳会議に参加していたり、

 今はファースターを留守にしているとかな。

 その中に、ファースターの王女が、

 行方不明になっているという話があった。

 お前やレナは、確かワームピル大陸から来たんだろう?

 そしたら何か、その事について知っているんじゃないのか?」



止まったプログに、

さらに追い打ちをかけるように、

天才少年は畳み掛ける。


プログは、何も答えない。

答えることが、できない。

あまりに唐突な問いに、

何一つ、答えを用意していなかった。


その答えとは、

決して、実はローザが王女でしたという

事実に基づいた真実をそのまま、

口に出すことではない。



「あー、んー……どうだろう……」



なぜなら、スカルドはファースターを、

心の底から、骨の髄から憎んでいるから。


もしローザが、

王女であると少年が知ってしまったら。


復讐心に命をささげる彼にとって、

それは殺人に加担したことに等しくなるだろう。


真実は、告げられない。

だが、かといって、

このまま黙っていれば、

相手は勘のいい天才少年様だ、

すぐに疑われかねない。


とりあえず適当な相槌を打ち、

プログは答えを探した。


ローザが王女であることを隠しつつ、

少年が納得するような言葉を。



(どうすっかな……)



まるでみぞおちに、

軽く拳を叩き込まれたかのように、

わずかに後ずさりをしつつ、

プログは可能な限りの思考を回転させる。


そして、彼が導き出した言葉は。



「俺は特に、何も聞いてねーけどなぁ」



演技だとばれぬよう、

決して白々しくなりすぎぬよう、

プログはつとめて冷静に絞り出した。



「本当だろうな?」


「いや、マジで」


「何か隠してたりはしないだろうな?」


「アホ言え、ここで俺が隠し事をしても、

 何の得にもなんねーだろ。

 それに確かに俺はファースターにいたけど、

 ずっと城の牢屋にいたんだぜ?

 囚人においそれと、情報垂らすバカがいると思うか?」


「お前の得た情報など、俺もアテにはしてねぇ。

 レナやアルト、

 それに……ローザとか云う女からは、何か聞いていないのか?」

 何も聞いていないのか?」


「レナやアルトと……ローザか。

 いや、特に何も聞いてなかったな」



少年の口から飛び出したローザという単語に、

身体の反応を懸命に抑え込み、

プログは続ける。



「つか、そもそも論として、

 レナとアルトとは結構行動を共にしてるけど、

 ローザとは俺自身もそれほど、

 行動を共にはしてねぇし、

 あんまり話す機会もなかったんだわ。

 ほら、魔術専門学校の時も別行動だっただろ?

 レナとアルトは、

 どれほどローザと話をしているかは分かんねぇけど、

 少なくとも俺はあんまり関わりがねぇから、

 その辺はサッパリだよ」



とにかく、シラを切り続ける。

俺は、何も見てない、聞いてない。

それが、プログの出した答えだった。



「そうか」



スカルドはわずかに、

考え込むしぐさを見せたが、



「まあいい。

 今度会った時に、

 レナやアルト、それにローザに直接、

 聞けばいいだけの話だしな」



吐き出すように、天才少年は言った。



(ふう……)



一方の元ハンターは、

心の中だけで一つ、大きく息をつく。

自分で勝手に肩に背負った荷がスルリと、

まるで布を振り払ったかのごとく落ちた、

そんな気がした。


それは、これ以上の広がりが起きない、

この話題の終焉を意味するものだった。


難を、逃れた。

だが、このまま静かにしていれば、

またいつ、少年がこの話題を持ち出すか、

分かったものではない。



「さて、と!

 そろそろ5分経ったんじゃねぇか?」



タイミング良く天から降り注ぐ、

まるでお釈迦様からの蜘蛛の糸のように、

ちょうど頃合いの良い話題を、

プログは持ち出した。

話題の上書きによって、

古い話題の記憶を塗りつぶすように、

青年は言った。



「そうだな、

 そろそろ動いても、

 問題ないだろう」


「よっしゃ、そしたらサッサと、

 こんなところからオサラバしようぜ。

 情報集めもしたいし、

 いつまでもここにいたら、

 また捕まっちまうかもしれねぇからな」



プログはすかさず、改札へ向けて動いた。

次の行動を、スカルドに促すために。

王女に関わる話題を完全に上書きするのと、

今回、巨大なリスクを負ってまで最優先目的に据えていた、

情報収集を行うために。


とにかく、出来る限り早く、動きたい。



「行こうぜ。

 とにかく、情報収集だ」


「ああ、そうだな」



ここからは、

とにかくファースター市民へ聞き込みを行う。

リョウベラーが駅を去って5分、

プログとスカルドは足早に、

ファースター駅を後にした。





だが。



(間違いない。

コイツ、何か隠しているな)



市街地へ向かう道中、

スカルドは確信していた。


話は、決してあの場で、

終わっていたわけではなかった。



(あの時の話題だけ、

明らかに口数が増えていたし、

早く話を切り上げようとしていた。

ヒトの心理上、それは何か秘密があり、

それを必死に隠そうとする裏返しの行動)



少年は、年長者の一挙手一投足を、

まるで精密機械のように冷静に分析する。



(それに俺の質問直後の、 あの相槌。

あれは答えにくい問いに対し、

間に困ったヤツがそれとなく発するモノだった。

さしずめ、何か重大な事実を隠すために、

辻褄を合わせる口実を考えた、ってとこだろう)



少年は、そのほとんどを、見抜いていた。

元ハンターが苦し紛れに考え、

そしてそれでも、何とか押し通せたと安堵していた、

その思考の中身を、スカルドはほぼ見透かしていた。


確定では、ない。

あくまでも、プログの話した内容、

そしてしぐさをもとに構築した、

仮定でしかない。


だが、それでもスカルドには、

自信があった。



(間違いない。

アイツは王女に関して何か知っている)



それは少年にとって、悲願の第一歩。


父を殺され、母を間接的に死へ追いやった、

ファースター政府。

その関係者どころか、

大元に通ずる王女という肩書。


人生を復讐という、

決して本人が望んでいなかった、

しかしそれでも必然と自ら作り出してきた道を進む、

少年にとって、王女という存在は、

人生での最大の目的を果たす、

あまりにも大きすぎる第一歩だった。

今まではあまりに相手が強大過ぎて、

手も足も、思考も出なかった、復讐相手。


だが、ここへ来てようやく掴んだ、

達成への手かがり。


みすみす手放すことなど、するはずがない。

できるはずが、なかった。



(考えろ……。

なぜアイツは、俺に王女の情報を隠そうとした?

直接関係ないであろう、あの男がなぜ、

ウソをつく必要があった?)



まるで列車が駅から発車して、

徐々にスピードをあげていくように、

スカルドの思考回路が加速していく。



(きっと、ウソをつくデメリット以上の、

大きなデメリットがあったからに違いない。

それほど重大な事実を、アイツは持っている。

だが、それは何だ?

隠れている場所か? 生死の情報か?

それとも、それ以外の何かか?

……クソ、どうにかもう少し、情報を得られないものか。

変に疑われる恐れもある以上、プログからはもう、

情報は聞き出せないし、他の情報源をあたるしかないな)



思考回路の加速は、留まることを知らない。



(ここから戻って合流したら、

レナやアルトに聞いてみるか。

それとBBAとかいう女にもだな。

……あぁ、あとローザとかいった女――ん?)



そこまでいってプツン、と。

一瞬、スカルドの思考が完全に途切れた。



(待てよ……そういえば、

プログの奴、ローザの話の時、

口数がさらに多くなっていたな。

やたらと関係ない理由も付け加えていたし、

そのわりにローザという人物だけ、

詳細な情報を何も語ろうとしていなかった……。

もしかしてローザとかいう女が、

王女の行方不明が関係しているのか?)



天才少年の、圧倒的な思考能力。

プログの手によって固く閉じられた、

真実への扉。



(となれば、

ローザが王女の情報を何か持っている可能性は高いか。

だが、なぜだ?

なぜその女は、政府どころか、

王族に関する情報を持っている?

普通なら、最重要機密事項で、

そこら辺の一般人が簡単に、

知り得る情報ではないはずだが……)



たとえ直接的なカギがないとしても無理くり、

頭脳という魔法の(マジック・ハンド)で、

その扉を、強引にこじ開けようとしていた。



(確定は当然できねぇし、

もう少し情報を集める必要はあるが、

もし今までの仮定がすべて成立するならば、

今のところ可能性としてあり得るのは……)



プログを始め、

レナやアルト、

フェイティ達によって封印してきた、

絶対に動かぬよう施した、

固く、重い扉。



(ローザが貴族出身か、

もしくは王族に関わる仕事に従事しているか、

またはローザが潜入官のような、

機密事項に精通している仕事をしているか。

はたまた……)



その扉が。



(ローザ自体が、その王女か)



ズズッ……と。

わずかに、それでも、

確かに開けられようとしていた。


次回投稿予定→6/3 15:00頃

次話からはアルト・ローザ・フェイティ・蒼音篇となります。

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