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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
150/219

第146話:なぞなぞ、もしくはクイズ

「うーん……っていやいや」



プログは一瞬だけ、

その問いに対する解を考察しようと試みたが、

すぐにその行動を取りやめると、



「何でわざわざ回りくどい言い方するんだよ?

 普通に教えてくれればいいじゃねぇか」



どちらかと言えばやや呆れ気味に苦笑する。


自分と一緒に、

このファースター駅にいたスカルドが起こしたという、

はるか遠くから聞こえた爆発。


物理的な距離を鑑みるに、

発動させるのにはほぼ不可能に近いであろう場所で、

いかにして天才少年は、

爆発を巻き起こせたのか。

それさえ分かればいいのだ。


別になぞなぞを解きたいわけではない。

と、いうよりもどちらかといえば、

そんなものはやりたくない。


もし不正解でもしようものなら、

天才少年様からもれなく、

過剰なまでの罵詈雑言を浴びせられることが確定している。


もし正解をしたとしても、

スカルドから返ってくる言葉はせいぜい、

応えられて当然だ、くらいだろう。

決して誉められることはない。


つまりこの勝負、

どちらに転んだとしても、

結果は負け戦でしかない。


それに、そもそもの大前提として。



(つか、普通に教えてくれたらいいだろうに。

なんでわざわざクイズ形式にしたがるかね……)



なぜに真実の前にして、

ワンクッションをおくのか。

プログはどうにも、それが理解できない。


だが、



「フン、少しは頭を使ったらどうだ」



天才少年様から返ってきた言葉はやはり、

プログの理解からはおおよそ、

かけ離れるものだった。


どうやら、絶対にこのやり取りを、

挟まなければいけないらしい。


やれやれ超メンドくせえ、

という言葉を力の限り上から抑え込み、



「うーん、ふだんどうやって魔術を、かぁ」



仕方なくも、

答えについて考えてみることにした。



(アイツがふだん、

魔術を使うときにする事といったら……)



脳内思考の中で、

プログはスカルドが、

魔術を使用する際の動作を思い返してみる。


だが。



(とはいっても、

魔術の詠唱くらいしか……してなくねぇか?)



プログの考える時間は、

一朝一夕ばりに、

あっさりと終わりを告げる。


大いなる自然の力。

そのほんの一部を借りて、

無の空間から爆発的な破壊力を生み出す、

それが魔術。


その一方で、人間の体内に流れる、

気の力をコントロールし、

その気の流れを体外に放出することで、

生物への干渉を行うのを、気術という。


魔術と、気術。

この世界、グロース・ファイスには、

古くからこの2種類の術が存在すると言われている。


もっとも、プログ達の仲間である、

七星の里出身である石動蒼音は、

そのいずれにも属さない神術と呼ばれる、

歴史に名を連ねていない術の使い手であるのだが――。


この神術という謎多き存在は除外として、

魔術と気術を使用するためには、

それぞれ必要な手順がある。


それが、

魔術で言えば詠唱、

気術で言えば神経集中である。


よほど強大な術士でなければ、

この詠唱と神経集中を抜きにして、

術を使用することはできない。


例えて言うなら、

準備運動もなしに、

短距離走で静止状態から一気に、

トップスピードで走りだすようなものだ。



(スカルドレベルになれば、

弱い威力の魔術なら詠唱なしでもイケるかもしんねえが、

あれほどデカい爆発音の魔術なら、

いくらアイツでも詠唱なしで撃てるモンじゃねえだろ)



なお、魔術においては、

威力と詠唱の文言は比例の関係にある。

より強力な、破壊的な魔術を繰り出そうとすれば、

より長い、文字数の多い詠唱を、

術者は唱える必要が出てくる。


プログはこの大陸に来てから常に、

スカルドの傍にいた。

だが、そのいずれの時においても、

隣にいる天才少年が、

魔術の詠唱を唱える姿を目撃していない。


スカルドは、

セカルタ王立魔術専門学校の首席である、

大陸屈指の魔術士だ。

世界でも有数の力の持ち主となれば、

さほど威力のない魔術を、

詠唱の文言なしで発動させることは、

それほど難しい事ではないかもしれない。


だが、それとあの爆発音では、話が別だ。


軽く1km以上は離れていたであろう、

あの爆心地。

にもかかわらず、プログの耳に突き抜けた、

岩石をえぐり取るような破壊音。


とてもじゃないが、

詠唱なしで繰り出せるような代物ではない。

それほど魔術に精通していないプログであっても、

それくらいは容易に理解できる。


ともすれば。



(どういうことだろうか……)



プログはいよいよ、

本格的に迷宮へと入り込んでしまっている。



プログの持つ知識で、

魔術発動に対する必要最低限の行動といえば、

それくらいしか思いつかない。


他に知っていることとしたら、

魔術と気術の同時会得は、

肉体への負担に耐え切れず不可能とか、

ただ術を繰り出すだけでなく、

何かの物体、媒体を介して発動した術の方が、

威力が飛躍的に向上するとか、

そういった予備知識程度しか



(…………ん?)



と、プログは一瞬、

まるで木の枝に服の端がとられるかのように、

今、自身が考えていたことについて、

何かに引っかかった。



(ちょっと待てよ……)



つい先ほど、己が脳内を巡らせていた言葉を今一度、

丁寧に反芻してみる。


魔術と気術の同時会得は、

肉体への負担に耐え切れず不可能――。

また、術を繰り出すだけでなく、

何かを介して発動した術は、

威力が飛躍的に向上する――。



(んー……)



どの部分が、引っかかったのか。

まだ、特定はできていない。

プログは思い描いた文章を、

一文という、

さらに詳細に分節したもので思い返してみる。


魔術と気術の同時取得。

肉体への負担。

習得不可能。

術を繰り出すだけではない。

何かを介して発動した術。

威力が飛



(! 待てよ……)



木の枝程度の引っ掛かりだったものが、

今度は誰かに肩を掴まれたかのような、

確かな手応え。


引っ掛かりが強まった、この一文。


“何かを介して発動した術”。



(そういえば……)



次にプログが思考内で映し出した回想風景は、

王立魔術専門学校の、最上階。


レナやフェイティ、

そしてスカルドと共に、

一部の専門学校生が行方不明となっている、

事件の真相を暴くために夜の学校へと潜入し、

結果、その事件の真犯人だった学長、

レアングスと壮絶な魔術戦を繰り広げた、あの光景だ。


レナの操る爆炎も含め、

数多くの魔術が飛び交ったあの場面で、

今、プログが切り取ったのは。



(アイツ、レアングスを倒す時、

確かガムを媒体として魔術を使ってたよな)



媒体魔術。


何もない空間に自然の力を生み出す魔術。

その魔術を使う際、

何かしらの媒体を通すことによって、

爆発的な威力を生み出すことができる。


スカルドがレアングスとの戦いに、

終止符を打ったあの大魔術、

究極の第一質料(プリマ・マテリア)


その際、スカルドが媒体魔術として使用したのが、

少年のもはや習慣と化している、

まるで体の一部かのように噛みつづけているガムだった。


ガム、そして媒体魔術。

この2つの用語により、

それまで点と点だった事象が今。



(それにアイツ、

列車整備場からトンネルに突入する時、

確かガムを吐き出していたはず……)



プログの脳内で、弱々しくはあるものの、

一つの線になろうとしていた。


あの時、今からおよそ3時間前。

列車車庫からこの場所、

ファースター駅へと続くトンネルに入る、

まさにその時。


ペッ。


スカルドは間違いなく、

それまで黙って噛みつづけていたガムを、

用無しとばかりに乱暴に吐き捨てていた。


その当時プログは、それらの行為について。



『オイオイ、不用意にガムを捨てんなよな。

 これがきっかけで、

 俺達の足取りがバレたら、どうすんだよ?』



少年の行為を、足取りを掴まれる、

きっかけとなることを恐れることしか、

考えていなかった。


そして、対するスカルドの返答も。



『フン、ガムくらい誰だって噛んで、

 そこらへんに捨てるだろうが。

 それにあの程度の証拠で俺らを見つけられるなら、

 俺達はとっくに捕まっているぞ』



素直率直な、プログの言葉に回答するものだった。


一見、何の違和感も覚えない、

ごく普通の会話。

だが。



(もしかして、あのガムを、

媒介魔術に使った……のか?)



心に生まれる、

たった一つの疑念が、

ありきたりの対話に、

違和感というモヤをかける。


思い返してみれば、

そもそもおかしいものだった。


天才少年と称され、

共に行動する中で、

不用意な行動は慎め、と。


出過ぎた行動をとろうものなら、

例えばあの列車の中、

シャックに襲われている女性を助けようとした際、

勝手にしろ、もう俺と関わるな、と。

いとも容易く仲間を切ることのできる、

あの冷静冷酷なスカルドが、

ただいたずらにガムを道端に吐き捨てるなど、

果たしてあり得るだろうか?


その答えは、99%以上の確率でNO。

プログははっきりと断言できる。


あれほど自分に対し口酸っぱく、

耳にタコができるくらい聞かされていた注意事項を、

自らがあっさりと破棄するはずがない。

きっとその行動は、

何かしらの意味のある動作に違いない。


以上より、プログが導き出した仮定は。



「まさかお前、あの車庫


「車庫を脱出する時に俺はガムを吐き出した。

 それが媒介魔術となり、

 あのお喋り野郎と話していた時に発動した。

 ただそれだけの事だ」



まるでタイミングを計っていたかのように、

プログの言葉にすっぽり覆いかぶさるように、

スカルドは、事の全貌を悪びれることなく打ち明けた。



プチッ、と。

頭の中で、何かが切れる音がした。



「てめぇ言うつもりがあったんならサッサと言えや!

 何でいちいち俺が考える時間があるんだよ!!」



もし違う回答ならさらに馬鹿にされるかもしれない、

そんな徒労やリスクを負いながらも、

しょうがねえなぁと半ば呆れ気味に仕方なく、

少年に促され、

嫌々ながらも脳内を循環させ、

まるで先生と生徒のように答えを発表しようとした、

まさに直前での、この手のひら返しである。


先を急ぎたい、

とにかく情報収集をしなければ、

という思いが思考の9割以上を占めいていた、

今のプログにとってその行為は、

火に油を注ぐものだった。


だが、



「お前の回答が遅いから答えを言ったまでだ」



まるで烈火の中で存在する、

永遠に溶けぬ樹氷のように、

スカルドは冷たくあしらう。


だから何だ、とばかりに。

悪いのは自分ではなくお前だ、

と言わんばかりに、スカルドは意に介さない。


だが、その姿によってますます、

プログの頭の沸騰度が増していることに、

スカルドはおそらく気づいていない。



「なら制限時間とか言えし!

 せっかく考えた俺がバカみたいじゃねェかよ!」


「クイズじゃあるまいし、

 わざわざそんな無意味なものを設けるわけがないだろ」


「十分クイズだよ!

 問題を出してそれを答えさせる、これがクイズ!

 ドゥーユーアンダスタン!?」


「Do you understandだ。

 相変わらず発音が悪


「だあぁぁもう! だから論点はそこじゃねぇ!

 同じボケをすんじゃねえよ、天丼好きかテメェは!!」



ああ言えばこう言う、

こう言えばああ言う、

1を言えば2が返ってくる、

ホントにこのクソガキは――。

ファースター駅構内に響く、

プログの心底からの怒りの叫び。


一切の同情を集めることの出来ない、

ただ虚空を彷徨う叫びの様子が、何とも物悲しい。


その理由はきっと、、



「大体、お前の回答を待ってて、

 5分以上経過してみろ。

 今でこそ不自由なく言動が可能だが、

 俺達は追われている身だぞ?

 サッサとここから脱出しないと、

 お前の言う情報収集だってできなくなるだろうが」



最終的にこの少年が、

至極全うな正論を、

まるでどこぞの誰かが持つ印籠のように、

プログの目の前に突き付けてくるからだろう。


確かに、間違ってはいない。

少年の言うように、

リョウベラーがこの場から去ってから、

まもなく5分を迎えようとしている中で。


優先されるべきは、

プログに与える回答時間、

ではなく、脱出のための時間。



「…………」



分かっている。

プログだって、

そのくらいは痛いくらいに分かっている。


だからこそ。



(解せぬ)



思考を強制終了させる、

この便利な一言で片づけてしまう自分の、

何と切ない事か。


だが、悠長なことを考えている余裕は、もうない。


約束の5分が近づいている以上、

2人が取るべき行動は、

可及的速やかに行うべきものだ。


まあもう、なんでもいいやと、

半ば放り出し気味にため息をつき、



「そしたら、そろそろ脱出にむけて準備しますか――」



無駄に疲れた肉体に鞭をうち、

仕切り直しとばかりにプログは、

そう切り出した、時を同じくして。



「そういえば、お前に一つ、

 聞きたいことがある」



今度はスカルドが、

プログを呼び止める。

そして、やや面倒そうに振り返った、

プログに対し、

天才少年は一つだけ、問いを投げかけた。


「ファースターの王女が行方不明になっている件、

 お前、何か知っているんじゃないか?」


次回投稿予定→5/27 15:00頃


なお、次話でプログ&スカルド篇は最後になります。

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