第13話:クライドがもたらす、黒い影
ファースター王国直属騎士隊騎士総長。
それがクライド・ファイスの、
正式な肩書きだ。
騎士隊は7つの隊に分かれており、
騎士総長というのは、
その7つの隊の長、隊長を束ねる、
いわば騎士隊の最高位である。
そして騎士総長の座には、
隊長の中でも文武ともに、
最も優れている者が選ばれるという、
代々の習わしがある。
クライドは騎士隊一番隊隊長を経て、
今の騎士総長に就任している。
つまり、今のファースター王国直属騎士隊の中で、
最も強い騎士ということになる。
「くッ……!」
振り下ろされるクライドの細身の剣を、
長剣と短剣を頭上で、
クロスさせて受け止めるレナ。
両腕に最大限の力を注ぎ、
必死にクライドの攻撃を受け止めているが、
その表情は、まるで激痛に必死に耐えるかのように、
苦しそうに歪んでいる。
特に傷を負っているわけではない。
今まで戦ってきた敵と、
パワーがまったく違うのだ。
さすがに騎士総長とあり、
人並み外れた力を有している。
親方に毎日稽古をつけてもらっていた程度の、
レナの力だけでは、到底及ぶはずもない。
頭上で耐えてきたレナの剣が、
ジリジリと押し込まれていき、
レナのすぐ目の前にまで迫ってくる。
「フフッ、どうした?
さっきまでの勢いは、
どこに行った?」
「さあね、もしかしたら、
もうセカルタに、
行っているんじゃないかしらねッ……!」
「まだそんな口を叩く余裕があるか」
「文武両道が、
あたしのモットーなものでねッ……!」
口ではそう言うものの、
レナはクライドのパワーの前に、
防戦一方になってしまっている。
「くそッ、これでも……ッ!」
戦闘前の言葉通り、
クライドは本気で、
自分たちを殺しにかかっている――。
今にも飛び出してしまいそうな自分の心臓を、
握り拳で2回ほどドンドンと叩き、
アルトが銃口をクライドに定め、
引き金を引く。
……が、一瞬早く、
クライドがレナに対峙したまま、
右手を広げるとアルトへ、
というより銃口へ素早く向ける。
「フレイムボールッ!」
クライドがそう叫ぶと、
ちょうど手のひら程度の大きさに燃え上がる、
紅蓮の炎が姿を現す。
そして、アルトが引き金を引いた瞬間と同時に、
炎がクライドの手元を離れ、
銃弾に向かって飛んでいく。
ボゥンッ!という小さな爆発音が鳴り、
銃弾と炎はその威力を相殺……
せず、クライドの放った炎のみ、
速度を全く落とすことなく、
銃弾を放った主、
アルトに襲い掛かってくる!
「うわぁッ!!
そ、そんなッ!
あ、あんな短時間でま、魔術を…ッ!」
慌てて炎を避け、思わず尻餅をつき、
塞がらない口を、
アルトが必死に動かしている。
銃弾の勢いが炎に負けたこともあるが、
何よりアルトが愕然としたのは、
その魔術の詠唱の速さである。
この世界には魔術と気術が存在するが、
どちらの術も意識を集中しないと、
扱えるものではなく、
常人ならば扱いやすい術でも発動まで、
数秒はかかるものだ。
それをクライドは、
ほぼ一瞬で炎を放ったのである。
しかもレナを相手にしながら。
肉体的にも精神的にも、
このクライドという男、
一体どれほどの“力”を有しているのだろうか。
「チッ、パワーでダメならッ……!」
そんなアルトを庇うように、
プログがクライドとアルトの間に割り込み、
素早くクライドの懐へ潜りこん
「そんな見え見えの攻撃が、
俺に効くと思うか?……フンッ!」
「キャッ!」
まるで子供と遊ぶかのように、
クライドが余裕の表情を浮かべ、
レナを襲っていた剣に、
さらに力を入れる。
と、クライドはここで、
上から下に向けていた剣の力の向きを急に変え、
正面から後方へ押し込むように剣を振り下ろす。
真上からの圧力に全ての力を集中していたレナは、
思わぬ方向から力を受けてしまい、
無抵抗のまま、後方に尻餅をつき転んでしまう。
そして、クライドはそのままの勢いで、
今度は右方から斬りかかってきた、
プログの短剣を受け止める。
両者の顏の前で、
細身の剣と短剣が、
カチカチと音を震わす。
「なんだ、凄腕ハンターの実力も、
所詮はそんなもんか?」
「わりいが“元”ハンターなんだよ。
今はただの密入国+脱獄者なモンでね。
ま、今だけハンターに戻って、
魔物を退治してやるつもりだがな」
「クックック、果たして、
本当にそれだけなのかな?」
「……ッ!
てめえ……!」
プログが何かを嫌うように、
交錯していた短剣をいっきに振り下ろし、
クライドを弾き飛ばして距離を取る。
何か引っかかる部分があったのか、
はたまた間合いを嫌ったのだろうか。
「伏せて、プログ!!
……双炎ッ!!」
「ッ!!」
後ろからレナの声が飛び、
プログの耳に届く。
プログが素早く身を低くすると、
後ろから二つの炎の塊が、
クライドを目がけて飛んでいく。
レナは、先ほどプログが、
クライドと対峙している時間で態勢を整え、
後方で意識を集中していたのだ。
一方、プログも後方を確認したわけではなかったが、
少し前の苦い経験から、
おそらく炎が飛んでくるだろうと予測し、
反射的に身を低くしたのである。
「くだらん、そんなモノッ……!」
しかし、そんな不意打ちにも、
一切動じることはないクライドは、
レナ同様、剣に意識を集中させると、
2つの炎が襲い掛かってくるタイミングで、
目の前で×を描くように炎を斬る。
すると、これも魔術の一種なのか、
約700℃を帯びた2つの炎は、
クライドの目の前で、
ともに真っ二つに割れ、
クライドの横をむなしく通過していく。
目標を失った炎は、
そのまま急速に威力を失い、
音もなくクライドの後方でその灯を消した。
「チッ、いよいよバケモンかよ、
テメェは!!」
舌打ちしながらも、
レナの放った二つの炎によって、
クライドの死角に入り込んだプログが、
今が好機、とばかりに、
低い姿勢を保ちながら、
クライドに再度、襲い掛かる。
「もう一度だけ言う、くだらんッ!!」
だが、死角に入ったからと言って、
気配まで死角に消せるわけではない。
気配だけでプログの攻撃を察知したクライドは、
炎を斬った態勢のまま、
後方にステップを踏み、
クライドの鎧を着けていない、
腕の部分を狙ったプログの攻撃を、
ひらりとかわす。
と、そのバックステップを踏むと同時に、
手に持つ剣でプログの腕に狙いを定めて、
ヒュッと、風を斬る音と共に薙ぎ払う!
「……クッ、やべッ!」
プログの苦痛に歪む声と、
カランカラン……という、
乾いた音が洞窟内に響き、
プログが右腕の上腕二頭筋を左手で強く掴み、
片膝をついて崩れる。
クライドの攻撃を、
何とか体を捻って避けようとしたプログだったが、
完全には避けきれず、クライドの鋭く、
そして怪しく光る細い刃が、
プログの右腕を斬り払ったのだ。
幸いにも傷は浅かったが、
傷口からは鮮血が溢れ、
また、その痛みと衝撃で、
持っていた短剣が、
右手から滑り落ちてしまったのだ。
「プログッ!」
「チッ、ヤバッ!」
慌ててアルトとレナが駆け寄ろうとするが、
目の前で傷を負い、苦しんでいる小動物を、
生きるために本気で殺しにかかる獰猛な肉食動物が、
みすみす見逃してくれるはずがない。
「これで、チェックメイトだッ!」
手元から、
必死にもう1つの短剣を取り出そうとしているプログに、
クライドが迫る!
先ほど付着した、
プログの血をほんの少しだけ残す細身の長剣が、
プログの胸元目がけて突き
「エナジーアローッ!!」
クライドの前方上空から、
光の矢がクライドを突き刺さんと、
風を斬りながら襲い掛かる。
クライドは冷静に、
その光の矢の着地地点を予測し、
バックステップを踏む。
が、その光の矢の登場により、
プログに最後のとどめを刺すことは阻まれた。
「!?」
プログへの攻撃を何とか妨害しようと、
クライドに向かって突進していたレナが、
思わず後ろを振り返る。
そこには、先ほどアルトによって、
奥の道に避難させられていた、
ローザの姿があった。
エナジーアローを放った直後ということもあり、
両腕を目一杯広げ、
ただ一点、クライドをじっと見つめるローザ。
睨むとか鋭くといった目ではない。
怒っているような表情でもない。
だが、何かこう、
瞳の奥に宿る強い思い、
そんなものが感じ取れるような、
そんな目をしている。
「フッ、みずから、
のこのこと出てきてくれるとはな」
「何をやってるの、ローザッ!
ダメよ、早く隠れてッ!」
ローザを守るために戦い、
また、そのためにアルトに頼んで、
ローザを安全な場所に避難させていたのに、
当の本人が自ら、
戦場に戻ってきてしまったのである、
レナが驚き、そして叫ぶのも無理はない。
急いで治癒術をかけているアルトと、
その治癒術を受けているプログも同様に、
驚きの表情を隠せない。
「いえ、私も戦います」
しかし、ローザはその場を動かない。
静かに、ただ一点、
クライドを見つめたままだ。
「クライド……まだウソと言ってほしいです。
出来ることなら、
あなたがシャックのリーダーだったなんて、
今も信じたくはない。
でも、それでもあなたが本当に、
本当にシャックのリーダーというのであれば……。
あなたの本性を見抜けなかった責任は、
私たち、王族にあります。
だから、私も戦います。
王女である私の命を狙っているのであれば、なおのこと。
私自身、けじめをつけるためにも……、
ここで退くわけにはいきません!」
そこには、
さっきまで事実を受け入れられず、力が抜けて、
立つことすらできなかったローザの姿はなく、
王女として強い意志を胸に秘め、
自らの意志でクライドという、
大きすぎる存在に対峙しようとする、
ローザの姿があった。
そう、まるでファースターを守る、
最後の砦のように。
「……」
無言のままクライドは剣を構え、
臨戦態勢に入る。
それは、言いたいことはそれだけか、
という意思の表れか、それとも――。
どのみち、もう一度、
ローザを説得して隠れさせる、
という時間をレナ達にくれないのは、確かだ。
「……絶対、無茶だけはしないでよ」
クライドが構えに入っているため、
レナはクライドから、
視線を外すことができない。
ローザを見ることなく静かにそう言うと、
レナもクライド同様、
腰を落として構えに入る。
「……ここからは、本気で行くッ!」
次の瞬間、クライドは何かの堰を切ったかのように、
治療の終わったプログ、
そしてアルトの方へ斬りかかっていく。
2人は慌てて左右に分かれ、
クライドの攻撃を避ける。
しかし、クライドは止まることなく、
今度は向きを左に変え、再び動き出す。
その先には……。
「う、うわぁぁぁぁ!」
アルトはクライドの攻撃を必死に避けながら、
必死に銃を構え、引き金を引こうとするが、
ファースター最強の騎士であるクライドが、
その隙を与えてくれるはずがない。
クライドの標的にされたのは、アルトだった。
レナやプログも、
何とか攻撃を分散させようと近づくのだが、
いずれもクライドの右手から繰り出される魔術によって、
思うように近づくことができない。
さらに後方から、ローザが気術でクライドを狙うも、
間一髪のところで、
すべてクライドに避けられてしまう。
まるで360°全方位に行き渡る目でも付いているのか、
と思ってしまいそうなくらい、
クライドの動きには無駄がない。
そうこうしているうちにも、
アルトへの攻撃は、
いよいよ激しさを増していく。
(こ、このままじゃ殺される!
な、何とかしないと!)
避けることで精一杯なアルト。
クライドの持つ細剣は、
容赦なくアルトを狙う。
アルトに狙いを定めるクライドの目は、
もはや人を見る目ではない。
慈悲など与えることのない、
殺すべき、憎むべき魔物を見るかのような、
冷たくて感情のこもらない目である。
「うわぁぁぁぁッ!」
声にならない声を発しながら、
ここでアルトは右手で拳を作り、
クライドをめがけて懸命に腕を伸ばす。
そこには戦法も何もない。
何とか、何とかこちらからも攻撃しなくては、
そう焦ったアルトから咄嗟に出た、
ガムシャラな攻撃だ。
……が、
クライドはその攻撃を細剣で軽く受け止め、
拳を押し返そうとする。
だが、アルトも右腕に今あるすべての力を込め、
それを許さない。
「ぼ、僕だって、ま、負けられないんだッ!
母さんを、か、母さんを見つけ出すまでは、
ぜ、絶対に死にたくないッ!」
迫る死への恐怖からか、
アルトの声は震え、
しっかりと言葉を発することができない。
それでも自らを鼓舞するように言い聞かせ、
更に右腕に力を入れようと、
必死に足に踏ん張りを利かせようする。
……が。
「……? お前……」
「うわあッ!」
先に力が無くなったのはクライドの方だった。
いや、あえて力を抜いたと言ってもいい。
クライドはアルトの言葉を聞いた途端、
剣を引き、急に距離を取り始めたのだ。
今あるすべての力が宿っていたアルトの右腕は、
エネルギーのやり場を失い、
アルトは前のめりに、思いきり転んでしまう。
だが、それでもクライドは、
アルトに攻撃する様子もない。
顎に手をあて、上空を見上げながら、
何かを考えているようだ。
まったく予想していなかったクライドの行動に、
レナやプログ、ローザも思わず、
攻撃するのを止める。
「銃……気術……」
独り言をつぶやき、しばらくすると、
クライドは今度はアルトに視線を送る。
それは先ほどまでの冷たい目ではなく、
まるで珍しい動物を観察するかのように、
ジロジロとアルトを見ている。
ようやく立ちあがることができたアルトも、
その様子に困惑の表情を浮かべる。
「お前……母親の名は?」
剣をしまいながら、
不意にクライドがアルトに訊ねる。
つい先ほどまで、
凄まじい殺気を放っていたのとは、
まるで別の人間かのように、
その雰囲気は落ち着き払っている。
「な、なんだよ急に」
「いいから言ってみろ」
「だ、誰がお前なんかに!」
まさか母親の名前を聞かれるとは想像もしておらず、
状況がよく呑み込めていないアルト。
思考がまったく動かず、
クライドに反発を繰り返す。
「ヴェール・マリム。
……いや、今はヴェール・ムライズか」
「!!」
「え?」
だが、次にクライドの言葉が発せられた瞬間、
アルトの思考は一気に動き出す。
目が徐々に大きく開いていき、
口元が微かに震えだす。
クライドが怖いわけでも、
死を恐れるわけでもない。
なぜ、ここでその言葉が――。
マリムというのは、
アルトの亡き父、グリム・ムライズと、
ヴェールが結婚する前の姓だ。
つまりヴェール・マリムというのは、
アルトの母の、結婚する前の本名である。
ヴェールは有名なガンマンだったと、
アルトは小さい頃から、
よく聞かされていた。
だから名前はもちろん、
マリムという姓を知っている者がいても、
特におかしくはない。
だが、そういうことではない。
アルトはクライドの前で母親の話はもちろん、
ヴェールという名前を出したことすらない。
なのになぜ、アルトを見ただけで、
そして先ほどの母親を探しているという言葉だけで、
ヴェールの名前が出てきたのか?
偶然だけでは片づけられない。
今まで点だった母に関する情報が、
一本の細い、今にも切れそうではあるが、
それでも間違いなく細い線が、
生み出されようとしていた。
「お、お前!
母さんを知っているのか!?」
「その様子だと、どうやらヴェールの息子らしいな。
ふふふ、まったく世界ってのは、
本当に因果なものだな」
その細い線を、
何とか掴もうと身を乗り出すアルトに、
クライドは果て無く続く、
洞窟の上空を見上げながら笑う。
天井の見えない洞窟の上空は、
何かを映しだすわけでもなく、
ただ闇が広がっている。
「母さんの居場所を知っているのか!?」
「もし知っていると言ったら?」
「そしたら答えてもらうまでだ!
答えろ! 母さんはどこにいるんだよ!?」
「答えろと言われて、そう簡単に答えるとでもお
「質問しているのは僕だ!
お前の質問は聞いてない! 答えろよ!」
まるで先ほどまでクライドが放っていた、
凄まじい殺気が乗り移ったかのように、
アルトがクライドを攻めたてる。
反論はおろか、もはや無駄な口すら、
叩かせようともしない。
そこには、いつもの小心者で、
なかなか自分の意見を表に出せない、
アルトはいなかった。
(自分の大切なものについては決して譲ろうとせず、
自分の意志を曲げない……、
フッ、やはり親子とは似るものだな。
もっとも、ヴェールだけに限った事じゃないがな)
アルトのあまりの豹変ぶりに、
少々面食らったクライドだったが、
心の中でそう呟きながら、
再び笑みを浮かべる。
「黙ってないで、何とか言えよ!」
「フッ、探しているんなら、
自分で見つけることだな」
依然として立ち向かってくるアルトにそう言うと、
クライドはクルッと体の向きを変え、
入口へ戻る方向へ歩き出した。
「待てよ、逃げる気かよッ!」
「お前ら、命拾いしたな。
今回はこれくらいで勘弁しておいてやる。
面白いことがわかったしな」
「どういう風の吹き回しかしら?
あたし達を逃がしてくれるってこと?」
アルトを無視して帰ろうとするクライドを、
てっきりこの場でケリをつけられる、
そう思い込んでいたレナが、
やや戸惑いながらも引き止める。
「そういうことにしておこう。
それに……」
そう言いながら、
クライドはレナ達の方へ再び振り返る。
その表情は――。
「お前ら、本当に俺に勝てると思っているのか?」
「……ッ!?」
その瞬間、レナに背筋が凍りつくような、
激しい悪寒が走る。
クライドがレナ達の戦意を喪失させるには、
それだけで十分だった。
今までいくつもの戦闘を繰り広げてきた、
レナやプログにはわかってしまうのだ、
今のままクライドと戦っても勝てないと。
いや勝てないではない、殺されると。
2人は、黙ってクライドが去ろうとするのを、
見つめるしかなかった。
そう、レナとプログは。
「待てよッ、こっちの話は終わってないぞ!」
「クライド……セカルタに着いたら必ずあなたを、
あなたを裁いてみせます!!」
そんな2人とは対照的に、
恐怖心がないのか、
はたまた母のことで、
頭のことがいっぱいなのか、
相変わらず叫び続けているアルトと、
王族としての誇りからか、
健気にもクライドに宣戦布告をするローザ。
「……そうだ、もう一つ、
面白いことを教えてやろう」
と、ここで出口に向かおうとしていた、
クライドの足が止まる。
そしてゆっくりと後ろに向き直り、
ある人物へ視線を向ける。
その視線の先には――。
「な、なんですか……?」
急に視線を向けられたローザは、
少し後ずさりしながらも、
クライドの気に押されないよう、
懸命に立ち向かっている。
だが、クライドは何も言葉を発しない。
まるで今の時間をかみしめるかのように。
僅かな時間、洞窟内を沈黙が支配する。
「今まで黙っていたのですが、
ローザ王女……じつは、あなたは……」
沈黙していたクライドの口がゆっくりと開く。
時間が、この時だけ時間が、
まるでゆっくり時を刻んでいるかのように、
クライドの言葉がゆっくりと洞窟内に響き渡る。
「……ッ! クライド、テメエまさかッ!!」
何かに気付いたのか、
プログがクライドの言葉に対して反応を見せるが、
時の刻みは止まらない。
「本当は、
王女でも、なんでもないんですよ。」
4人の時が、
ローザの時間が、そして止まった。
レイアウト、変更しました。
今まで読みにくくて、すみませんでした。




