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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
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第135話:揺れるはざまで

「あ、ちょっとコラ!

 勝手に切るんじゃないわよ!

 まだ話が全然……あーもー!

 ったく何なんなのよアイツは!!」



怒りに任せて通信機をブチッと切り、

ナナズキはそう吐き捨てた。



「ナウベルに怒られてばっかとか、

 全然関係ない話じゃん!

 ホンッとアイツは、

 一言も二言も余計な事を……!」



なお怒りが収まらない、

ナナズキのその沸騰ぶりは、

さしずめ早く火を止めてくれといわんばかりのヤカンである。



ワームピル大陸の王都、

ファースターが誇る武のエリート部隊、

ファースター騎士隊。

7部隊に分けられるその騎士隊のうち、

4番隊の隊長を務めているのが彼女、

薄い蒼色の髪を、

均等に結ぶツインテールが特徴のナナズキである。


先日トーテンの町で、

本来ならば敵であるレナ達と共闘し、

人々を死の世界へといざなう恐怖の魔術列車、

ギルティートレインからの脱出に成功したナナズキ。


それから彼女は常にエリフ大陸に、

その身を置いていた。

事実、今も彼女は、

王都であるセカルタと、

フェイティ、プログの故郷でもあるエリフ大陸最東端の町、

アックスを結ぶ小路の最中にいる。


理由は一つ、

お尋ね者として逃げているであろう、

レナ達の行方を掴むためだ。


トーテンの町で共闘したとなれば、

その時に捕まえてしまえばいい。

大多数、いや、100人に聞けばおそらく、

99人がそう答えるような状況に、

彼女はかつていた。


だが、ナナズキの選択は違った。

彼女はあえて、残り1人の道を選んだ。

ナナズキは、共に困難に立ち向かい、

ギリギリのところで現世へと、

踏みとどまれることとなった恩人でもあるレナ達を、

貸し借りを作りたくないという理由で見逃したのだ。


まるで足の止まった鹿を目の前にして、

みすみすそれを見逃すライオンのように。


通常の人間界では、

いや、生物界では有り得ないであろう光景。


だが、ナナズキという、

義理という名の下に自らの行動を決定する少女においては、

その生物界の摂理は通用しない。


たとえ自分に不利益なことになったとしても、

恩義や道理を貫き通す。

それがファースター騎士隊4番隊隊長、

ナナズキという人物なのである。


ただ、義理人情に理解が深く、

部下からの信頼も厚いナナズキの、

唯一とも言える弱点。


それは、自分が気になったことがあると、

その事柄に集中してしまい、

極稀に周りが見えなくなることである。


事実、ついさっきの通信についてもそうだ。

ナナズキは先ほど連絡を取ろうと試みたのは、

7番隊隊長であるリョウベラー。

そう、今まさにワームピル大陸で、

王都ファースターへ向かう、

プログとスカルドを追っている真っ最中の男である。


その彼に対し、

ナナズキは強引に連絡を取ろうとした。

そして、それを強制的に切断されたことで、

ナナズキはひどく憤った。


これこそが、

彼女の短所の最たる例である。


1つの事を追求しようと、

つい周囲への配慮が、

欠けてしまうことがあるのだ。


だが、人の上に立つ立場に置いてある種致命的でもある、

ナナズキのその短所は、

ある一つの長所によって、

おおかた消し去ることができる。



「でもリョウベラー、

 列車の中とか言ってたわね……。

 さすがにタイミング悪かったかしらね」



それは、超短期間で、

すぐに平常な状態に、

思考を戻すことができることである。


人という生物である以上、

誰にでも喜怒哀楽、

感情の起伏というものがある。


そして、その起伏は緩やかなものもあれば、

激しいものもある。


突然、笑いだす人もいれば、

怒り狂う人もいる。


人として存在している以上、

それはあって然るべきものだ。


ただ、感情が沸き立っている状態は、

往々にして正常な思考を働かせられない傾向がある。


例えば何か嬉しいことがあって大喜びしている時に、

自分に不都合なことを知らされたとしても、

その喜びという感情の陰にその不都合が隠れ、

ある程度のことならば許してしまうという事がある。


ある大掛かりな実験が成功したその瞬間に、

実験の過程で不手際があったことが報告されても、

その喜びで、多少の事は許してしまうように。


また、事象に対して怒りに震えている時に、

自分にとって有益な情報を得たとしても、

怒りという爆発的な感情に打ち消され、

その人の耳に、その提案は決して届かない。


肉親を殺された時に、

通学する学校から主席という名誉を受け取ったとしても、

一切喜びという表情は浮かばないのと同義だ。


冷静な判断、脳の回転にとって、

感情はその円滑な動きを阻害する因子。


とはいえ、それは人にもれなく与えられた、

失うことのできない永久的な能力。


では、どうすればいいか。


答えは容易だ。

人にとって避けることのできない感情、

その起伏のスパンを、可能な限り短くすればいい。


喜びを爆発させても、

怒りを沸き立たせても、

哀しみに襲われても、

楽しさに心躍っても。


その後すぐに、

その感情を消すことに、

注力すればいい。


いわゆる、気持ちの切り替えである。


言葉にしてみれば、

一見簡単そうに見えることだが、

これがなかなか難しい。


例えば自分が大切にしていたものを捨てられたり、

いきなり大金が転がり込んだり、

理由なく暴力に襲われたり。


事象の質によっては、

常人ではそう易々と、

感情を短いスパンで留めることができないことも多い。



だがナナズキは、

この感情起伏の“圧縮”が、

抜群に優れている。



「あとで謝っとこうかしら。

 今度会った時に、妙にギスギスしてたら、

 それはそれでメンドくさいし」



たとえどんなに喜び、怒り、哀しみ、楽しんでも、

それを一切、引きずらない。



「もうちょいしたら、もう一回連絡取ろうっと。

 さて、と……どうしたものかしらね」



先ほど怒りの沸点に到達してから、

わずか1、2分後。

すでにナナズキの感情は±0、

まるで波風絶たない大洋のような、

平静の状態へと戻っていた。


そして、再び冷静という元鞘に収まったナナズキの、

思考能力は最大限、フル活用することが可能となる。


(さすがにこれ以上、

ナウベルに噛みつくとイグノみたいにクビにされそうだし、

かといって、レナ(あいつら)の話も、100%信用できないし。

はあ、どこから情報を得ようかしら……)


ナナズキは、

その最大出力を可能にしている思考を回転させ、

目下自分が今、一番追っている“目的物”へ、

アプローチするためのプロセスを模索している。


その目的物とはズバリ、

己の上司とも言うべき人物、

ファースター騎士隊騎士総長クライドと、

列車専門の犯罪組織シャックとの関係性である。


トーテンの町でレナ達と、

ギルティートレインに閉じ込められた時のことである。

その時ナナズキは、

レナの口から、ある言葉を耳にした。


『どうせこの事件を引き起こしているのは、

 あんたのお仲間のシャックなんでしょ?』


あんたのお仲間のシャック。

その言葉が、まったく理解できなかった。


この女子は、一体何を言っているの?

デタラメにもほどがあるんだけれど。


誇り高き騎士隊の隊長を任せられている身として、

そのような感想しか、

頭に中には思い浮かばなかった。

私を動揺させるのに、

もう少しマシなウソは思いつかなかったのか。

そうとさえ、思えた。


だが。


ナナズキが今まで歩んできた現実と、

相手が描いた空想は決して交わらなそうで、

だが、あまりにも近くの軌道を通り過ぎていた。


妄想を語るには、あまりにも強すぎる口調。

すべてを断定するかのような言葉。

まるでレナ達を始めとした、

本来敵であるべき者達があえてとも言うべきか、

自分に向けて放った、その言葉。


その言葉の中に彼女、

ナナズキはわずかな疑念を抱いた。

もし彼女達、レナ達諸々がのたまっている戯言が、

実は真実を映し出す紛れもない、

まるでガラスのような透明感に溢れたものだったとしたら。


彼女の中に生まれた、わずかな綻び。

だが、わずかな疑念という名の綻びは、

時に大きな喪失した穴へと、

その姿を変化させる場合がある。


任務を遂行すると同等に、

義理堅く、

正義感を最優先に重んじる性格が災いしたか、

ナナズキには、

まさにそのケースが当てはまってしまった。


まさか。


そして、そのナナズキに生まれた僅かな綻びを、

まるで強引にこじ開けるように降りかかる、

ナウベルのすべてを隠そうとする態度。

そして、敵であるフェイティにわざわざ面会してまで得た、確かな言葉。


『今、ファースターはシャックの根城になっているって、

 あなたの上司さんが話していたみたいなの』


間違いなく、自称BBAは、そう言って、さらに続けた。


『本当と思うか嘘と思うかは、

 ナナズキちゃんに任せるわ。

 でも、モタモタしていたら、

 みんなが命を落としてしまうあの状況下で、

 レナちゃんが混乱を招きかねない不必要な嘘をつく意味は、

 一体どこにあるかしら?』



あの状況下とは、紛れもない、

生きるか死ぬかの瀬戸際にいたあの恐怖列車、

ギルティートレインである。


何の収穫もない、不毛な争いをしていれば、

自らの命すら危うい状況になりかねない、

あまりに恐怖すぎる状況下で、

果たしてレナ(アイツ)が、ある種不必要なウソを、

つく必要が果たしてあるのか。


YESかNOかで答えるならば、

間違いなくNOだ。


たとするならば。


レナの言葉、フェイティの証言、

そして違和感を覚えた、ナウベルの態度。



『生憎だけど、私は知らないわ』


『私も次の任務があるから。

 あなたも余計なことは考えずに、

 レナ達とシャックを探しなさい。

 それが、騎士総長様からの任務でしょう?』


『あなたがこれ以上、

 言動に迷いを持つようならば――』



騎士総長とシャックについて、 

頑なに何も知らないと突き放し続け、

さらにこれ以上の詮索を拒む。


まるでその話が表に出されるのを隠すように。

その話題から視線を、外させるように。


彼女が、ナウベルが語った言葉とは違う、

物事の本質を背後に隠した言動。


ナウベルは明らかに、何か真実を隠している、

少なくともナナズキの視点からは、

ナウベルの態度、言葉はそう映った。


これらの手がかりを、

あくまでも普遍的な、

客観的な立場で俯瞰してみれば、

自ずと見えてくる仮説は――。



(……いや、そんなハズはない!

騎士総長様が……クライド様が、

シャックと繋がっていたなんて、

そんなことがあり得るはずがない!)



俄かによぎったその仮説を、

ナナズキは懸命に振り払った。


絶対に認められない。

その仮説だけは、

たとえこの世界の天と地が反転したとしても、

肯定するわけにはいかなかった。


彼女に、ナナズキにとっては文字通り、

命の恩人である騎士総長クライドが、

今、自分がレナ達のほかに追いかけ続けている、

列車集団シャックの関係者だったなどと、

そんなこと、信じるわけにはいかなかった。


かつてナナズキが幼い頃、

記憶喪失かつ瀕死の状態で見ず知らずの荒野に倒れていた時。

真っ先に自分を見つけ、

助け、そしてここまで育ててくれたクライドを。


まるで父親のように、

時に優しく、時に厳しく。

そして、武術のすべてを叩き込んでくれた、

尊び、敬うべき人物である、騎士総長を。


疑うことなど、

許されていいはずがなかった。


(……)


信じたい。

でも、信じようとしても弱冠16歳、

平均的な体型よりもやや小さい、

小柄の彼女の体のどこかに、

まるで小石のように残り続ける、

黒いしこりのような塊。



(…………――――ッ)



かつて何も疑うことのなかった、

あの一途に任務を追いかけ、

そして成し遂げるために走っていた時を、

今一度、取り戻すために。


それには、この黒い塊を、

わずかな大きさながら、

でも確かに必ず存在するその障壁を、

完全に除去したい。


ナナズキは、懸命に方法を模索した。


騎士総長クライドに最も近いところで、

任務を行うことが多い、5番隊隊長ナウベル。

やたらと喋りがうるさいが、

何かと情報を掴んでいそうな7番隊隊長、リョウベラー。


そして、フェイティ。

レナ達と行動を共にし、

プログが先生と慕う、あのお茶目なBBA。


己の知識のためなら、

仲間だけでなく、敵にすら教えを乞いた、ナナズキ。


だが、いずれの方法で得た情報も、

ナナズキのしこりを、

取り払うようなものではなく、

むしろ疑念をさらに深めさせる、

望んだ結果とは真逆な結論の方向へと、

思考を加速させるものとなっていた。


同じ人物に、2度聞くわけにはいかない。

同一人物へのこれ以上の踏込みは、

かえってその者達に、

あらぬ疑いをかけられる可能性を含んでいる。


(もうこれ以上、

聞き込みを広げるわけにはいかない。

下手に動いたら、今度は私が疑われてしまう……)



ナナズキも、それは分かっていた。

チャンスはもう、それほど多くは残されていない。


ナナズキは、さらに思考を巡らせた。

限られたなかで、自らが得たい、

最大限の情報を聞く。


ナナズキが導き出した、その答えは――。



「……よし。

 こうなったら――」



ゴクリと。

自然と高まる鼓動、緊張という意識を、

体内に閉じ込めるように、

ナナズキは口の中に残っていた水分をすべて飲み込む。


意を決したかのように、

ナナズキは一人、

大きくうなずくと、

これから向かおうとしていた、

アックス方面と反対、

王都セカルタの方へと体の向きを入れ替え、

大きく、力強く、一歩を踏み出した。


次回投稿予定→2/25 15:00頃

次週は作者の都合により、休載いたします。

ご迷惑をおかけしてすみません。

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