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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
124/219

第120話:少年心

「ファイタル……ファースターからもっとも遠い、

 奥地にある田舎の村か、まあいいだろう」



お前の判断で任せるという公約通りに、

いともあっさり、

スカルドはその行先を認めた。


歓迎することもなく、

ただ、だからといって嫌悪感を示すこともなく、

ただ無の表情で、スカルドは静かに、

年上のプログの意見に賛同した。


それ以下の言葉も、それ以上の言葉もない。



「こりゃまた随分とあっさりだな」


「言ったはずだ、

 俺は他の大陸についてはさほど詳しくないと」



ぬかに釘状態なプログが発した言葉も、

スカルドは意に介さない。



(さほど詳しくないって、

ファイタルの位置まで充分知ってるじゃねえか)



心の中だけでツッコむ、

結局このパターンかよとプログはつくづく思いながらも、

とにかく話を先に進めることにした。



「まあいいや。

 とりあえず、ファイタルを目指すことは確定として、だ」


「? 何だ、その含みを持たせた言い方は」



勘が鋭いというか、

ちょっとした変化に気づく切れ者というか、

スカルドはすぐさま、プログの言葉尻に反応した。



「んや、ファイタルを目指すのに、

 ファースターから遠回りする以外でもう一つ、

 目的があるんだわ」


「何だ? どうでもいいことだったら却下するぞ」


「まあ、その、なんだ、

 お前さんにとっちゃ、

 どうでもいい話かもしれないんだが……」


「じゃあ却下だ」


「待て待て、話は最後まで聞けって!」



必要最低限の話終了、

とばかりにその場を離れようとした少年を、

プログは必死につなぎとめた。



「ンだよ、余計なことに、

 時間を食ってる余裕なんざねえだろうが」


「いやそりゃそうなんだけどよ……」



先ほどまでの無の表情とは真反対の、

明らかに面倒で顔全体が曇ったスカルドに対して、

プログは言う。



「実は、ファイタルって村は、

 アルトの出身地なんだよ」


「アルト……? ああ、あのひ弱そうな男の事か」


「そうそう……って返事すんのも失礼な話か。

 まあそれは置いといて、

 アイツん家は両親がいなくて、

 ばあちゃんしかいないらしいんだわ。

 だから一応、孫は元気にやってるってことだけでも、

 報告しといてやろうかな、と思った、もんで……さ」



最後はまるで報告ベタな新入社員のように、

スカルドの顔色を窺うように恐る恐る、声を絞り出す。


そう、プログがファイタルを目指す理由は、

迂回できるというものよりもむしろ、

こちらの方が大きいものだった。


ワームピル大陸の奥地に存在する村、

ファイタル出身のアルト。


銃と気術による肉弾戦を得意とする、

この青年は幼い頃に生き別れた、

自らの母親を探すためにこの村を旅立った。


そのアルトは今、

遥か遠く、ディフィード大陸を目指して、

船旅を続けている真っ最中だ。


元々別の目的で向かっている上に、

その先に、青年の追い求める、

母親という存在、

もしくは情報手がかりがあるかは分からない。

もしかしたら、ローザの居場所を確保するという、

絶対第一位の目的に、

アルトの想いは潰されてしまうかもしれない。


事実、この前レナ、プログ、

そして蒼音を含めた4人で、

ディフィード大陸へ降り立った際は、

アルトが情報を集める時間などなかった。


今回も、そうなる可能性はある、

というより高い。


限られた行動範囲の中での自由、

例えて言うなら鳥かごの中での自由など、

たかが知れている。



とはいえ、たとえ狭き自由だったとしても、

アルトにとっては、

うまくいけば新たな情報、

手がかりを得るのに絶好の機会になる。


あくまでプログの予想ではあるが、

あの青年はディフィード大陸へ再び赴くことに、

100%苦にしてはいないだろう。


それによって、新たな道が拓けるなら。


おそらくアルトは、

どこまでも遠くへ行くことができるに違いない。



だが、その一方で。


アルトが遠方へ足を運ぶことに比例して、

故郷であるファイタルへ戻る時も遠くなる。


自分のため、そして故郷で残る唯一の親族

祖母のためにアルトは母を探し続けているが、

探す時間が長ければ長いほど、

ファイタルに残る親族の心配は深くなる。


あいにくアルトは今回、

故郷に戻ることができなかった。


プログが今まで見てきた彼の様子を鑑みるに、

おそらく伝書鳩の類を、

祖母の元へ飛ばしているとも思えない。


つまり、アルトの祖母は、

自らがかかえる心配の中でもダントツに深い、

孫の無事を、確認することができていない。


だから。

生まれた時から孤児だったプログは、考えていた。


もし近くを通るのであれば、

自分が立ち寄り、アルトの無事を伝えてあげようと。


前だけを見て、明るい未来を掴み取るため、

ただ前だけを必死に見続ける少年の姿を、

故郷で待つ、ばあちゃんに教えてあげようと。


それは、セカルタ港を離れた時から、

プログは心の中で決めていたこと。


それは、たとえスカルドからどれほどの罵り、

皮肉、他否定的な言葉を並べられたとしても、

どこまでも食い下がる、

まるで獲物にかみついて決して話さない蛇のように、

絶対に成さねばならないこと。


それは、3つの部隊へと分かれる提案をした張本人、

プログの自分なりのせめてもの償いだった。



「…………」



だが、そのプログの思考を読み取っているのかいないのか、

顔色を窺った先の少年の表情は、

先ほどと変わらず険しいままで、

まったくリアクションを示さない。

まるで地蔵のように、静止を続けている。



(ま、すんなり行くはずはないわな)



もとよりプログも、

少年の反応は予想していた。


年齢にそぐわない、

まるでお偉い政治家レベルに堅物の、

スカルドの事である。


本来の目的とほとんど関係のない、今回の提案。


一つ返事でそう易々と了承するはずが



「……まあいいだろう」



あった。



「え?」


「元々その村を経由して行くつもりだったんだろ?

 別にそれくらい構わねえよ」



呆気にとられるプログの横で、

相変わらず何を考えているかわからない、

能面のような無表情は崩さないながらも、

スカルドは間違いなく、了承の意を示した。



「お、おおそうか」


「なんだ、その濡れ煎餅みたいな湿った顔は」


「いや、お前さんが珍しいと思ってよ」


「……何の話だ」


「いや、こういう話、

 スカルドは興味なさそうだなと思ってな」


「……ふん。

 俺とて、あの軟弱男がどうなろうが、

 別に知ったこっちゃねえよ」



言って、スカルドはプログから離れ、

船内へと戻るべく、歩き出す。


やっぱり、どこか噛みあわない。

やれやれ、やっぱり他人に興味なしか、

とプログは視線を少年から外し、肩をすくめた、


のだが。



「ただ――」



まさに船内へと姿を消そうとしたスカルドは、

そう言葉を切り出すと、



「生きてる身内がいるのなら、

 あの男の無事くらい知らせてあげた方が、

 その身内はさぞかし嬉しいだろうよ」


「!」



言って、船内へスカルドが消えたのと、

プログの全身に一つの筋が通ったのは、

ほぼ同時だった。

プログは慌ててスカルドの消えた船内への下り階段へと、

目を向けたが、すでに12歳の少年の姿はない。



「アイツ……」



その一言だけで、

プログの思考は一つの結論に、

達することができた。


確かに、彼は若干12歳にして無口で無愛想で、

必要以上のことを喋らない、他人に関心のない男だ。


自らの感情、思考を腹の奥底にしまいこみ、

決して表に出すことがない、冷酷な少年である。


だが、それが彼のすべてでは、ない。

決して、

他人にまったく情が移らないわけではない。


人の繋がり、

その中でも特に身内に関わることであれば、

少年は人並みの心を秘めている。


自分、そしておそらくは、

彼の身内以外の人に対しては絶対に見せない、

まるで人をも凍らせるような冷たい瞳の中に、

その心は確かに、宿っている。


身内がいてくれることの、大切さ。

ふだんから両親兄弟、祖父祖母、

そして親戚の中で暮らす者には、

その有難みは自然と薄れてしまう環境。


だが、ファースターの陰謀により、

幼くして両親を失ったスカルドという少年には、

その環境の大切さ、有難さ、

そしてその環境を失った時の辛さを、

痛いほどわかっているのだろう。


もっとも人間らしくない、

冷酷な性格からわずかに垣間見えた、

もっとも人間らしい、

温かな言葉。


その経験をしているからこそ、

きっとスカルドは、

ファイタルでアルトの祖母に面会することを、

すぐにOKしたのだろう。


生まれた時から孤児だったプログも、

何となくだが、

その感情は理解できた。



気が付けば太陽が、

すべてのものに等しく陽光を浴びられるよう、

一日でもっとも高い位置に来ている。


内側からというよりも外側から包み込むような、

太陽の温かさ。



「ったく……。

 アイツも素直じゃねえな」



そう呟いたプログの表情は、

確実に緩んでいる。


年下にタメ口を使われ、

さらには年上を差し置いて、

サッサと立ち去られてしまった。

だが、不思議にそれでも、

プログの口元は緩む。


何かいいことがあって嬉しさを隠しきれない、

まるで子どものような表情をしている。


エリフ大陸の王都を出発してから、

はや3~4時間が経過したが、

最初の95%の時間帯、

プログが躍起になってキャッチボールを行おうとした時間より、

時間にしてわずか数分ではあったものの、

たった今の5%の時間の方が、

あのひねくれ少年のことが分かった気がする。


そう思えただけで、プログの表情は自然と、

明るくなっていた。


確かに、こちらが話しかけても、

ほとんど口をきかないかもしれない。


だが、それでも決して、

我儘に行動を起こすことは、絶対にない。


彼の、スカルドの思う範囲内ではあるものの、

他人を想ってのことなら、

そちらを優先して自己の欲求を後回しにすることができる。

あの少年は、

プログやほかの仲間たちが思っているよりも、

人間らしい思考を、

しっかりと懐に持っているのかもしれない。


もしそうならば。

元ハンターの自分と、

王立魔術専門学校首席の少年、

一見するとまったく交わりそうにない、

その2つのステータスが、あるいは――。



「さて、と。

 操縦士にファイタルに向かうことを伝えたら、

 俺も少しだけ、休むかな」



んんんーーッと、

プログは力いっぱいに体を伸ばす。

清々しい朝を迎えたかのような、

心地のいい背の伸縮だ。


その理由は決して、

すべてに等しく、

平等に静寂をもたらしてくれる、

母なる大海だけでは、ない。


今後の見通しが、

何となく立った気がする。

行き先という物理的なものも、

そしてスカルドとのやり取りという精神的なものも。


これから襲うであろう無限の疲労、負担。

それをプログは、スカルドと2人で、

すべて乗り越えなければならない。


目的のファイタル付近までは、

まだまだ数時間以上、時間を要する。

今、彼らがやるべきことは、

来るべき有事に備えるため、

少しでも体を休めることだ。


プログは軽い足取りそのままに、

自らも体力を温存するべく、

船舶内へと姿を消した。





ガチャッ。


口やかましい元ハンターより一足早く、

自室へ戻ったスカルドは、

すぐさまカギをかけた。



「…………」



王立魔術専門学校で研究室を持っていた時から、

少年は常にそうしてきた。


こうしておけば、誰かが勝手に、

自分の部屋に入ってくることはない。

カギさえかけておけば、

そこは自分だけの空間になる。



「…………」



誰にも邪魔をされることなく、

研究に没頭することができる。

そして、外部と世界を遮断することにより、

自分が、自分でいられることができる。



「…………」



少年は学校指定の黒い法衣の内側から、

一枚の写真を取り出した。


そこには、少年が唯一、

この世界で尊敬する父親と、

少年が唯一、

この世界で自然な笑顔でいることのできた母親、

そして二人に囲まれ、

眩しいばかりの笑顔を見せる、幼き少年の姿。



「…………」



まだ魔術の“ま”の字も知らない、

天才少年と称される前の事だ。



「…………」



二人の前でなら、

彼は笑顔でいることができた。

あの頃は、心の底から、

笑うことができていた。

当時はまだ、幸せという感情を、

心に持つことができていた。



あの日が。

少年から笑顔と幸せを奪い去った、

父親が行方不明となったあの日が、来るまでは。

そして、父と母が亡くなるのを目の前にしてしまった、あの瞬間から。



「父上……母上……」



少年は、心に火を宿した。


必ず、仇をとると。

父と母の命を奪った、

政府共に、必ず復讐を果たしてみせると。

その時から、少年は少年の心を殺した。



「必ず……二人の仇、とってみせます」



ポツリと。

さらなる心の鬼火を焼き焦がしながら、

スカルドは静かに強く、天に誓った。


次回投稿予定→10/28 15:00頃

来週および再来週はまるそーだの私情により、休載させていただきます。

本当に申し訳ありません。

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