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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
123/219

第119話:静と動

「……」


「…………」



海は基本的に、静かである。



「……」


「…………」



荒れ狂う凶器の一面を、

ごくごく稀に見せることはあるが、

それを除いては、まるで菩薩のように、

平和で、微笑ましい静寂を、

乗船客へ提供してくれる。



「……」


「…………」



そこに、差別はない。

この世界、グロースファイスの大部分を構成する大海原は、

大陸という足枷を外し、

その身を水上へと投じたものすべてに平等に、

母なる大洋を望ませてくれる。

人々は、その静寂に心奪われ、

どこまでも果てなく続くその水平線を、

きっと清らかな心で見続けることとなるだろう。

海は、人の心を洗う。



「……」



ある、1人の男を除いては。



「…………はぁ」



ここ最近の1時間で、

もう何度目だろうか。

プログは真っ青な海原を見つめながら、

大きなため息をついた。


別に、船旅に疲れたというわけではない。

ただ、かといってこの永遠に続くと勘違いしそうな水平線に、

辟易したわけでもない。



それでも、プログのため息は止まらない。

その理由は。



(ったく、自分で選んだとはいえ、

何であんな仏頂面な無口少年と、

2人になっちまったんだか……)



まさに、この一点である。


プログはチラリと、

視線を右へ送ってみる。


直線距離にして5メートル30センチ(目測)ほど先に、

その少年はいた。



「…………」



プログと同じく、海へと目を向け、

相も変わらず口元をモゴモゴさせている。


ちなみに、今食べているガムの味は豚骨味。

これは2時間ほど前に、

プログが質問して確認済みだ。



(つーか、ガムで豚骨味って何だよ?

アイツなりのボケなのか??)



今すぐにでも、

そのツッコミをアイツにかましてやりたい、

幾度となくそう思ったのだが、

結果はこの通り、である。



(全然、会話が続かねえ……)



まるで初デートに出かけて、

1時間後くらいに男が陥る状況に、

プログは悩まされていた。


レナと別れたのち、

プログとスカルドの2人は早速、

セカルタの執政代理であるレイが用意してくれた、

乗客船へと乗り込み、港を出発した。


具体的な行き先は、決めていない。


とりあえずワームピル大陸をめがけて進み、

近くなったら動向を確認しつつ、

上陸できそうな場所があれば、そこから――。


そんな感じで、取り急ぎ旅立った。


セカルタ港からワームピル大陸までは、

概算で1日程度。


無論、船乗りは何人かいるが、

それでも基本的には、

プログとスカルドは2人で約1日間、

船上生活をすることになっている。

放っておいても勝手にしゃべり出すプログと、

必要以上のことも話したがらないスカルド。


まるで光と影のような、この2人。



『そういえば、お前と2人って初めてだよな』


『それがどうした』


『あーいや、珍しいなと思ってよ』


『…………』


『あ、そういやギルティートレイン、

 最後は大丈夫だったのか?』


『大丈夫じゃなければ、

 俺はここにいねえだろうが』


『ま、まあそうなんだけどよ』


『…………』


『そ、そういや学校はあの後どうなっているんだ?』


『休校のままだ』


『そ、そうか……復旧の目処は


『立ってねえ。

 立ってたら、ふらついたりなんかしねえよ』


『そ、そうかい』


『…………』


『そ、そういやお前、

 いつもガム噛んでいるよな』


『…………』


『ちなみに、今噛んでいるの


『豚骨だ。

 何か文句あんのか?』


『い、いや、とくには……』


『…………』


『…………』



プログ、ここでついに会話を諦めた。

そして、現在に至る。

以上。


最後の会話が、そのガムに関する会話、

というより、一方的な質疑応答。


プログの心は、

まるでどこぞの細長いお菓子のように、

恐ろしいほど簡単にポキッと折れた。


会話はキャッチボールであると、

形容されることがしばしばある。


片方が話題というボールを相手に投げ、

それを相手がキャッチ、つまり理解する。

そしてそのボールを再び、

最初に投げた人に答えとして投げ返す。

そして受け取った人はさらにボールを、という感じに、

互いが相手を理解し、正確に返すことが必要とされる、

それが会話というものだ。


決して早すぎても、遅すぎてもいけない。

2人のテンポを崩すことなく、やり取りを続けることが、

会話というキャッチボールを成立させるうえで、

大事なこととなる。


ところが、スカルドとプログの場合。


『そういえば、お前と2人って初めてだよな』


『それがどうした』


『あーいや、珍しいなと思ってよ』


『…………』



プログがボールを投げたとしても、

そもそもスカルドが、

そのボールをキャッチしようとする意思がない。


スカルドは、プログのボールを吸収するだけで、

再びプログの手元に戻るような返球、つまり反応を示さない。

投げたボールが帰ってこないのであれば、

プログはそのボールを自分で取りに行くか、

はたまた新しいボール、

すなわち違う話題を用意するしかない。



だが、せっかく新調したボールを、

プログが気を取り直して壁、

もとい天才少年に投げたとしても、

やはりそのボールも、プログの元へは戻らない。


いや、正確に言えば、

ごくたまに、

スカルドからボールが返ってくることはあった。



『あ、そういやギルティートレイン、

 最後は大丈夫だったのか?』


『大丈夫じゃなければ、

 俺はここにいねえだろうが』



だが、そのボールはあまりにも豪速球すぎて、

プログには到底キャッチのできないボールであって、

結果、どちらにしてもボールを失うプログは、

新たなボールを用意しなければいけなくなる。


それの延々繰り返し。

時には壁、また時には鉄砲。


セカルタが生んだ天才少年は。

あまりにも無愛想で、

それでいて変幻自在だった。



「はぁ……」



なんつー貧乏クジを引いてしまったかと、

プログは嘆く。


いや、確かに自業自得なのはわかっている。


ローザの護衛から逃れるために、

ディフィード大陸へ渡るという選択肢を早々に諦め、

自らの意志で、この選択をした。

更に言えば、

7人を3つのグループに分けると言いだしたのが、

当のプログとなれば、

なおさら言い訳などきかない。


この状況を作り出したのは他でもない、

自分自身。


それはわかっている。


だが、それでも。


(くそう、こんなんがあと何時間も続くのかよ……)


青年は、そうボヤかずにはいられない。


楽しく会話をしながら明るく旅を、

なんて気持ちはもちろんない。


どこぞの団体旅行ではあるまいし、

ましてやこれから、

敵の総本山である大陸に向かっているのだから、

そんなお気楽ムードでいられるはずではない。


だが、だったとしても、だ。


緊張感を保つことと、

最低限のコミュニケーションをも断って沈黙を推すことは、

まったく違う。


これからプログとスカルドの2人は、

シャックの根城と化している王都、ファースターに赴き、

現状把握と情報収集を行わなければならない。


現状把握と情報収集。

だが、見る聞くの単純作業と、

決して侮ってはいけない。


まず第一に、プログはこの大陸においては、

王女誘拐の犯罪者となっている。

おそらく、ファースターにはWANTEDという顔写真入りの紙が、

ありとあらゆる市民の目に入るよう、

至る所に貼り巡らされていることだろう。

よって、偽りに満ちながらも華やかな、

ファースターの表社会を生きることを、

プログは絶対的に禁じられる立場となっている。


第二に、自分たちに差し向けられている、

追っ手がどの程度王都で待ち構えているのかが、

まったくわからないということ。


プログは今まで、

少なくとも4人の7隊長を目撃している。


2番隊隊長で、無数の針を武器としている切れ者、シキール、

3番隊隊長で、なんか阿呆な言動をしている残念者、イグノ、

5番隊隊長で、ツインテールで杖使いのやかまし娘、ナナズキ、

そして6番隊隊長で、シキールと共に行動する巨漢者、アーツ。


どの隊長もそれぞれ、

類まれな特徴を持つ者達だ。


彼ら4人ならば、

どこかに紛れ込んでいたとしても、

プログはすぐに存在を確認することができるだろう。


その存在自体がどれほど恐ろしいものであっても、

可視化できるものであれば、

その恐怖度は、半減まではいかずとも、

かなり落ちる。


確かに、4人の個々の戦闘能力は高い。

実際、八雲森林でプログ達が苦戦した、

あの奇妙な魔物、

虎ゴリラをいとも簡単にねじ伏せたシキールとアーツ、

そしてこの時空列とは異なる空間に引き込まれ、

かなりの苦戦を強いられたイグノ、

そして一緒に戦ったからこそ分かる、

ナナズキの力。

どれを切り取っても、

元ハンターとして名を馳せた、

プログと同等、いや、

もしかしたらそれ以上の能力を有するかもしれない、

彼らの能力は、凡人の尺度では測りきれないものがある。


だが、そうだとしても、だ。

プログは幸いにも過去に、

彼らの実力を見ることができている。


未経験と、経験済み。

その間には、

決して越えられない壁がある。


いかに強力な能力を保持する者であっても、

事前にその威力を把握していれば、

恐怖の度数は、既定値からあがることはない。


問題なのは、他の3人。

すなわち、1番隊隊長、4番隊隊長、

そして7番隊隊長。


その中で4番隊隊長のナウベルだけ、

プログは名前を聞いたことがある。


騎士総長であるクライドの、

側近中の側近。

表舞台に顔を出すことは滅多になく、

常に裏の社会を生きる、

影のような存在。


だが、百聞は一見にしかず、

という言葉があるように、

いくらナウベルの噂を万人から聞いたところで、

実際にその眼で確認しなければ、

ナウベルという人物の器を、

図り知ることはできない。


そして、他の2人。

彼らか彼女らか、

とにかく残りの2人に関しては、

姿かたちどころか、どういう人物像なのか、

噂すら聞いたことがない。


これから敵地に赴くプログ達にとっては、

むしろナウベルを含めたこちらの3人の方が、

よっぽど恐怖で脅威となる。


それが仮に、

シキールやナナズキらよりも、

力が劣っていたとしても、だ。


争いごと、ゲーム、対決。

これらに関して、

初見の相手が格上の相手を負かすことは、

意外とある。


油断と困惑。


その理由は主にこの2つに集約されるが、

そのうち油断に関しては、

本人が気持ちを引き締めれば、

ある程度防ぐことができるファクターだ。


だが、もう一つの、困惑。


こればっかりは、

初見の相手に対してどうしても防ぎようがない。


未だ姿を見せぬ、7隊長の残り3人。

プログはむしろ、そちらの方を恐れていた。


果たして、どのような性格の持ち主で、

どのくらいの実力を備えているのか。


好戦的か、平和的か。

若者か、玄人か。

そして、ずば抜けて強いのか、ただの強者か。


考えは尽きることがない。



「ナウベルってヤツは元々、

 裏社会の暗躍者だからいいとして、

 問題は残りの2人だな……」



1番隊隊長と、7番隊隊長。


姿どころか、まだ名前すら知らない、

この2人。

今は一体、どこにいるのか。

これから向かう、

ファースターで、

自分とスカルドを待ち伏せしているのか。


はたまた、違う大陸で別任務にあたっているのか。

セカルタで別れた別の部隊、

レナやアルト達を追っているのだろうか。


いや、そもそも、

自分たちの行動は、

どこまで相手方に知られているのだろうか。

荒れ模様などまったく見せない、

静寂の海とは対照的に、

心配事は波状攻撃の如く、

プログの頭へ容赦なく襲い掛かってくる。


それもこれも、

プログはとにかく、話をしたかった。


おおよそ近いようで遠く見える、

若干12歳の天才少年と、

これから警戒するべき相手、

事柄について、共通見解を持っておきたく、

また互いが気づかない穴の部分を補完しておきたく、

年下の意見や考えを、包み隠さず確認しておきたかった。


1+1は2であるが、

これはあくまでも数字上での法則だ。

これに人間という不確定要素が加われば、

1+1は決して2とは限らない。


1と1に選ばれた者達の化学反応によって、

2であるはずの数字が、

3にも4にもなる場合がある。


プログは期待をしていた。

1+1が、単純な2にならないことを。

これから降りかかるであろう危険因子を、

2という答えでは決して乗り越えられない危険を、

2人で乗り越えるべく、

今のうちに2以上の数字になることを目指していた。


だが、結果は見てのと



「オイ」


「ぬおぁッ!!」



いつの間にか直線距離、

35センチ(目測)に近づいていたスカルドの姿に、

プログは後ろから、

不意に声をかけられたような反応を示してしまう。


自分の世界に迷い込みすぎたせいで、

この無愛想少年が近づいてきていたのに、

皆目気づかなかったようだ。



「ったく、急に話しかけてくんじゃねえよ!

 めちゃくちゃビビったじゃねーか!」


「俺はその前に2回ほどオイ、と声をかけたぞ」


「え、そうなのか?」


「それをお前がシカトしていただけだ」



どうやら、

今回は全面的にプログが悪いらしい。



「そうか、そりゃ悪かったわ。

 ちょいと色々と考え事をしていたもんでさ」


「フン。

 今はいくらゴチャゴチャしていても構わんが

 向こうについても、

 そんなことをしていたら置いていくぞ」


「はあ、すいません……」



誰のせいでこんな悩むことになってんだよと、

ガムの件に続いて心底ツッコミを入れたかったが、

そこは大人の対応でプログは苦笑いを浮かべて謝った。


ここで下手に口答えをして、

この少年の怒りを買おうものなら、

ただでさえ微妙な距離感を、

さらに広げてしまうことになる。



「まあいい。それよりもだ」



幸い、スカルドがそれ以上、

その話題について触れることはなかった。

その代わりに、



「これからどこへ行くつもりだ?」


「ん? 行き先ってことか?」


「厳密に言えば、直近の行き先だ。

 いきなりファースターに行くわけじゃないだろ」



いつのまにかガムを捨てただろうか、

口元をモゴモゴさせることなく、

スカルドは言う。


セカルタを出る際、

プログはファースターへ直接船で乗り込まず、

別の場所、目立たぬ所へ船を停め、

迂回する形で王都へ入ることを決定した。


だが、肝心の船を停める場所、

すなわち直近での目的地は、

まだ確定させていなかったのだ。



「あぁ、そういや言ってなかったな、わりいわりい」



プログは再び、スカルドへ詫びを入れる。

だが、その姿は先ほどの我慢しながらの謝罪と違い、

友達と約束時間に少し遅刻した、くらいの軽い謝り方だ。



「……その様子だと、

 すでに行先は決まっているみたいだな」



構うことなく、

スカルドは静かに続ける。



「俺はそれほどワームピル大陸については詳しくない。

 だから、そこはお前の判断で任せる。

 それで、場所はどこだ?」


「うお、随分と素直だな。

 お前のことだから、また何か色々と口を出


「ンなことはどうでもいい。

 場所はどこだ」



あっさりと、

少年は年上の言葉を遮った。

無駄な会話はいらない、

口には出さずとも、スカルドの背後からは、

そのような雰囲気がプンプンと伝わってくる。


いつもの相棒(?)であるレナなら、

一応最後まで喋らせてくれると想定されるのだが、

残念ながらこの少年の場合、

そこまで待ってくれることはないらしい。


やれやれこりゃ遣りづらくなりそうだぜ、

すでに疲れの色がちらつき始めるプログは、

そう心でため息をついたが、



「まあ、冗談はともかく、だ」



やはりこれ以上機嫌が悪くなられても困る。

プログは仕切り直しとそう話を切り出し、

スカルドへ、この旅の最初の目的地を、

エリフ大陸出身のスカルドへと提案した。



「とりあえず、

 ファイタルの近くに行ってみるのはどうだ?」


次回投稿予定→10/8 15:00頃


※ 作者の私情により、来週は休載します。ご迷惑をおかけしてすみません。

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