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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第1章 ワームピル大陸編
12/219

第10話:ただ今絶賛迷ってます。

「……んで、

 結果がコレなわけね」



目の前にそびえ立つ行き止まりの壁を、

ペタペタ触りながらレナが呟き、

無駄足の疲れを大きなため息に乗せながら、

ふと後ろを振り返る。


冷たいその視線の先には大型コウモリの魔物、

キラーバット数匹と、

戦闘を繰り広げているプログの姿。

その数、ざっと数えて5~6匹。



「っておいおい!

 さすがに手伝えっつーの!」



頭上から攻撃してくるキラーバットに手こずるプログが、

短剣で敵を振り払いながら叫んでいる。

無論、レナ達の方に振り向く余裕など、

まったくない。


先ほどの約束通り、

プログ1人で魔物と戦っているのだが、

さすがに一度に5~6匹、

襲われることは想定していなかったうえ、

すぐ後ろが行き止まりになっているため、

逃げることもできない。



「ったくもう、しょうがないわね~」



ここで時間を食うのもそれはそれで面倒、

そう感じたレナは長剣を構え、

意識を集中させる。

いつものように炎が剣を包む。


と今回は、ここで短剣も同様に、

剣先を下に向ける。

すると長剣同様、

短剣も鮮やかな炎を纏い、

レナの両隣で、2つの炎が勢いを増していく。



「くらえッ、双炎!」



そう叫びながらレナは、

長剣を思いきり振り上げ、

続けて短剣を振り上げる。


レナから放たれた2つの炎は、

戦っているプログのすぐ両脇をビュンッ、とすり抜け、

キラーバットを目がけて飛んでいく。

2つの炎は、

それぞれ違うキラーバットに直撃する。

そしてその瞬間、四方八方に弾け飛び、

周りにいた他のキラーバットを、

一気に巻き込んでいく。


弾け飛んで火の粉になったとはいえ、

約700℃の炎である。

直撃した2匹のキラーバットは、

その場で跡形もなく消え去り、

直撃を免れたキラーバットも、

弾け飛んだ無数の火の粉を喰らうと、

無抵抗に地上へ落下し、

そのままピクリとも動かなくなった。



「はいはい、それじゃあさっさと戻りますかね、

 時間もないし」



レナは両剣をしまいお掃除完了、

とばかりに両手を手をパンパンと叩くと、

呆気にとられ、

開いた口が塞がらないプログの横をスタスタと通り抜け、

ローザを連れて、来た道を戻っていく。



「ちょ……、お前は俺を殺す気か!?」



何の前触れもなく、

また『避けて!』といった警告もなく、

いきなり自分の両隣を、

約700℃の炎が通り抜けて行ったのである、

しばらく固まってしまっていたプログが、

こう言うのも無理はない。



「魔物が片付いたんだから、結果オーライでしょ」


「ンなわけあるか! 死ぬかと思ったわ!」


「大丈夫よ、ちゃんと狙ってるから」


「待て、狙ってたのかよ!?

 てか魔術使えるんだったら最初に言えし!」


今までレナが炎を操れることを知らず、

怒るプログの反応を冷静に切り返すレナ、

そしてその切り返しに更にツッコむプログ。

ケンカというよりも、

どこか漫才に近いやりとりをしている。


レナは2本の剣と組み合わせて、

魔術の“炎”だけ、なぜか扱うことができる。

レナは今まで魔術の勉強なんてしていないし、

誰かに教わったわけでもないのだが、

“炎”のみ、使うことができるのである。



「ま、まあまあプログ、落ち着いて……」



1人取り残されていたアルトが、

毎度毎度のことのように、プログを宥めている。



「アルトは知ってたのか?

 しっかし、よくあんなのと2人で戦ってたな……」



戦闘とはまた別の疲労を抱えながら、

プログがアルトに力なく話すと、

レナとローザの後を追うように歩き出した。



「ハハ……。でもさっきのはわざとだと思うよ、

 僕といた時は、あんなことやってなかったしね」


「そりゃまあ、そうだろうけどよ。

 あんなのばっかりじゃ、

 命がいくつあっても足りやしねーぜ、

 まったく……」


「でもすごい心強いし、

 僕は助けられてばっかだったよ」


(そう、ホント助けられてばっかだよ…。

それに比べて僕は……)



心の中で呟くと、

アルトは言葉に詰まってしまう。


プログに任せると決めていたとはいえ、

先ほどの戦闘もレナの手によって片付けられ、

アルトが出る幕は一切なかった。

小屋での一件といい、今回のことも含め、

アルトの中で思うことがあるのだろう。



「……? アルト?」


「あ、ああごめんごめん。

 とりあえず、先を急がないとね!」



急に会話が途切れたことに、

疑問を感じたプログの問いかけで、

ふと我に戻ったアルトは慌ててそう言うと、

歩くスピードを速め、

レナ達に追いつこうと早足で歩いていく。



「なんだ、ありゃ……」



そんなアルトをやれやれ、

といった表情で見つめながも、

プログは3人を追いかけるべく、

その歩みを速めていった。





「さてと、あとは真ん中か左のどっちかね」



再び先ほどの分岐点まで戻ってきたレナが、

腕組みをしながら話す。



「さすがにもう間違えたくはないね」



あのあとしばらくして、

なんとか気持ちを落ち着かせたアルトが、

プログの方をチラ見しながら、同じく腕組みをする。



「そうで


「おーっと、ローザまでやらなくていいぜ。

 さすがに俺、凹んじゃうよ?

 さーて、どっちに行こうかねー?」



年下3人からのプレッシャーを感じながら、

じつにわざとらしく、プログが元気な声を出す。



「よし、もう1回チャンスをあげるわ。

 プログ、どっちだと思う?」



レナがプログの方を振り向きながら言う。

チャンスというよりピンチのような気もするけど、

と思ったアルトだったが、

自分に飛び火するのを考え、黙っていた。


どちらの道も数メートル先は暗闇が広がっており、

この場からはどっちが正しいか、判断できない。



「おいおい、これでまた、

 ペナルティとかは勘弁してくれよ?

 ……よし、左に行こう」



先ほどの魔物との戦闘、

そしてレナのお仕置き(?)が効いているのか、

しっかりと釘を刺しながら、

プログが左の道を指さす。



「左ね。そうね、

 この道が合ってたら、

 無しってことにしてあげるわよ」



そう言いながら、

レナは左の道へ歩いていく。



「そうかい、ありがとよ……って待て、

 それじゃ外したら結局、

 ダメってことじゃねーか!」 



冴えない一人ボケツッコみをしながら、

プログがレナの後を追う。

プログがレナに合わせているというのもあるが、

こうなってくると、

もはやどちらが年上なのか、甚だ疑問である。



「……あの2人って、

 いつもあんな感じだったんですか?」


「いや、どうだろう……。

 僕もよくわかんないけど。

 ってか、護衛なのに、

 ローザ置いていっちゃダメでしょ、ゴメンね」


「大丈夫ですよ。

 というより、

 アルトを信用しているからじゃないですか?」


「そ、そうなのかな……」



残されたローザとアルトの珍しい組み合わせは、

そう話しつつ、2人の後を追っていく。





「さてと、あとは真ん中ね」



三たび先ほどの分岐点まで戻ってきたレナが、

腕組みをしながら話す。



「さすがにもう、間違えようがないね」



アルトがプログの方をチラ見しながら、

同じく腕組みをする。



「そうで


「おーっと、ローザまでやらなくていいぜ。

 さすがに俺、もう凹んでるよー? んー?」



年下3人からのさらなるプレッシャーを感じながら、

プログが元気に、

しかし若干うわずらせながら声を出す。



あれから4人はプログの提案通り、

左の道を進んだのだが、

そこで待っていたのは右の道同様、

冷たくそびえ立つ、行き止まりの壁。


魔物こそいなかったものの、

来た道を戻る4人のその様子は、

とてもじゃないが、

人様に見せられるような雰囲気ではなかった。



「さーてと、そしたら真ん中に行こうかねー?」



冷たい視線を一身に浴び続けるプログが、

誰にも視線を合わせることなく、

わざとらしく真ん中を指さす。



「……あ、あれ?」



今までの流れなら、

レナが切れ味鋭いボヤキで心の傷をえぐってくるか、

もしくはプログの言葉を完全無視して歩き出す、

の2択だったのだが、

後ろからそのような反応がなく、

不安になったプログが、

ゆっくり後ろを振り返る。



「レナ、何をしているんですか?」



プログが振り返ると、

どこから取り出したのか、

折り紙の大きさくらいの紙とペンを手にし、

何かを書いているレナ。

その様子をローザが覗き込んでいる。



「とりあえずこの洞窟の道を、ね。

 この感じだとたぶん、

 少なくともあろ1回くらいは、

 分かれ道がありそうだし、

 あたし達がどこにいるのかが、

 わかるようにしておかないとね。

 それにもしかしたら帰ってくる時に、

 またここを通るかもしれないし、

 その時にも役立つでしょ?」



ペンを走らせながら、レナが答える。


確かに、今回のような分かれ道が、

今後ないとは限らない。

その途中で道に迷ったら、

とんでもないことになってしまう、

レナはそう考え、

道を書き残しておくことにしたのだ。



「僕が書こうか?」


「大丈夫よ、あたしが書くから。

 どーもですっと」


「そ、そうだな!

 そうしておけば安心だもんな!

 いやー、さすがレナ、ハッハッハ!」



気を利かせるアルトとは正反対に、

わざとらしいという言葉が、

これ程似合うことがあるだろうか、という声で、

プログは言い残すと、

真ん中の道を一足先にスタスタ歩いていく。

レナが書き終わった後、

自分にどんな仕打ちが来るか怖かったため、

先に逃げたのだ。



「あ、ちょっと!

 レナ、ありがとうね」


地図を描くのを遠慮され、

ちょっと残念そうな顔をしながらアルトはそう言うと、

ローザを連れて、先に行くプログを追う。



「これでよし……と。

 まったく、ロクなことがないわね」



地図を書き終え、

プログに逃げられたことにより、

心の傷をえぐれなかったレナはそう呟くと、

3人を追いかけるべく、

真ん中の道を突き進んでいった。





淡いピンク色に光りながら、

明るく照らされる洞窟内一本道を歩く4人。

ただし、洞窟内を歩いているからと言って、

レナとローザのお喋りが、

止まることはない。



「そうなんですね。

 それでレナはいつくらいから、

 記憶がないんですか?」


「んー、10歳の時かな?

 気が付いたらベッドに寝てて、

 そこに親方がいて……って状態よ」


「そうですか。

 そしたらご両親は……」


「全ッ然わかんない。

 まあでも親方と暮らしているの楽しいし、

 別にいいんだけどね」


「強いんですね、レナは」


「んー、強いとはまた違うような。

 まあでもおかげで剣の扱いはうまくなったかもね、

 それくらいしかやることなかったし」


「そう、さっきの魔術も凄かったですよ!」


「あーあれね、

 なんで炎だけ使えるのか、

 あたしもわかんないんだけどね~」



今までも何度か見た光景だ。

同世代同士、仲良く会話を楽しんでいる。

となると、後ろの2人は……



「なあ、レナってどうすれば機嫌って直るんだ?」


「そんなの僕だって知らないよ」


「じゃあちょっと一緒に考えてくれよ、

 さっきので絶対怒ってるよ、アレ」


「アレはプログの自業自得じゃないのさ」


「あんなの運ゲーじゃねーか!

 ……褒め殺しはダメか?」


「何で僕が考えないといけないのさ……。

 でもそれレナの場合だと、

 逆効果になると思うよ」


「マジか。

 じゃあ俺1人で魔物を倒しまくるとか」


「それは今までもやってたから、

 別に意味ないんじゃない?」


「うーん、そうか……」



まるで上司の機嫌を取る平社員同士のような、

おっさんの会話である。


実際、今回の件で、

レナはそれほど怒ってはいないはずなのだが、

プログにとってはそれ以前にも、

色々とやらかしている事例がいくつもあるため、

さすがに何かしないと、

まずいと判断したのだろう。


ただ、アルトからしてみれば、

プログほどレナに対し、

何かをやらかしたことなどないため、

対処法など知るよしもない。



「ってか、別にレナは、

 それほど怒ってないと思うけど……」


「いや、こういう些細な事でも、

 しっかり芽は摘んでおかないとだぜ?」


「別に大丈夫だと思うけどなあ……」


「フッ、甘いなアルト君。

 そういうところはちゃんと気を遣ってあげないと、

 女の子に嫌われるぜ?」


「いや、すでに色々と、

 やらかしちゃってるプログに言われても、

 まったく説得力ないんだけど」


「ぬあっ!しまった



「ちょっと、さっきから聞こえてるんだけど」



さっきまで先を歩いていたはずのレナとローザが、

いつの間にか、こちらに向き直っている。

腕組みをしながら、

目の前でため息をついているレナの視線が、

冷たいというより呆れに近い視線であることが、

プログにとっては唯一の救いか。



「わお、これは失礼しました。

 んで、腕組みをしていらっしゃるということは……?」



肩をすくめながらレナの奥に視線を向けると、

そこにはいらっしゃいませ、とばかりに、

2つに分かれた道が。



「……。プロ


「やめーい!

 やめだッ!!

 俺はもう、選ばんぞ!

 アルト、頼んだ!」



もう勘弁、とばかりに、

レナの言葉に即座に反応したプログは、

そう叫んでレナの言葉を打ち消すと、

そそくさとレナの視線から消えていく。



「え、ちょっ!?」


「あらら。

 まあいいわ、アルトどっちだと思う?

 あ、別に間違っていても全然いいから」



プログで遊び尽くした(?)レナが、

今度はアルトに訊ねる。


間違っていても全然いい、

とは言っているものの、

先ほどのプログの惨状を見ているため、

アルトは妙に緊張して焦り出す。

両手にはいつの間に湧いてきたか、

冷や汗が滲んでいる。

もはやどっちがいいとかそういう問題ではない。

その瞬間、アルトの思考は完全に停止した。



「え、えーと、ひ、ヒギがい、

 いいんじゃないかなあ?」



極度の緊張からか、

思わず声が裏返りとんでもない高音が飛び出し、

しかも左と右が混じった、

意味不明な単語を発していた。



「……ッ、アハハ! 何それ!

 ぎこちなさすぎ!

 別に、何もしないから大丈夫よ!」


「フフッ、アルトったら!」



声が裏返り、完全にテンパっているアルトの様子が、

よほど面白かったのか、

レナだけでなく、

ローザまでクスクスと笑い始める。



「そ、そんなに笑わなくても……ヒギ……」


「ごめんごめん、つい……。

 じゃあ、とりあえず右にいこっか」


「これでまた行き止まりだったら、

 すごいですね」


「や、やめてよローザ、

 縁起でもないことを……」


「まあさすがに3回目だし、大丈夫じゃない?

 でもさっきのアルト……ヒギ……ププッ」



アルトのおかげ(?)で緊張がほぐれ、

穏やかな笑顔で会話をしつつ、

レナ、アルト、ローザが右の道を進む。


そんな3人の後ろに1人、取り残された男。



「……歳、とったかな、俺も」



レナとローザに加え、

おっさん仲間だったはずのアルトも取られ、

まったく会話に追いついていけない、

22歳のおっさんはそう呟くと、

1人遅れてトボトボと、

元気なく後を追いかけていった。





「……っと。

 またキラーバットか」



そんなプログは3人にすぐに追いついたのだが、

そこにはまるで、

「ここから先は行かせん!」と言いたげのように、

道の真ん中をぐるぐる飛び回る、

キラーバットが1匹。



「まあ、1匹だし、こんなの楽勝で


「待ってください」



長剣を抜きながら斬りかかろうと歩き出したレナを、

ローザが声で制する。



「え?」



後ろを振り向いたレナが、

思わず足を止める。

そこには両腕を左右に広げ、

手を目一杯開きながら下を向き、

なにやら呟いているローザの姿が。



「え、それって……」



その様子を見て何かに気付いたアルトだったが、

その瞬間、ローザの両手が、

透き通るような白い光を纏い始める。

最初は消えそうだったその光は徐々に大きくなり、

ローザの手首付近まで達し、明るさを増していく。

強く、そして暖かい白い光が洞窟内を明るく照らし出す。



「エナジーアローッ!」



顔を上げてキラーバットをキッと睨み、

女の子らしい、

やや高い声でローザがそう叫ぶ。

すると2つの光はローザの手から離れ、

弧を描くように頭上に素早く動き、

ちょうどローザの小さな顔くらいの一つの光に合わさる。


と、その瞬間、

その光はまるで矢のように細長く変形しながら、

キラーバットの胴体を一気に貫く。

あまりの速さに、

その光の矢を避けることができなかったキラーバットは、

なにが起こったかも理解できないまま、

地面へと叩きつけられた。



「す、すげえ……」



レナ同様、ローザの声で足を止めていたプログの口から、

思わずそんな言葉が漏れる。



「ふう。

 よかったです、うまくいって」



たった今光の矢を操った自分の手を見つめながら、

ローザがいたずらっぽく笑う。

この様子だと、どうやら魔物に使ったのは、

今回が初めてのようだ。



「い、今のってもしかし


「すごいよローザ!

 今の何、何!?」



質問しようとしたアルトの前を横切り、

レナが目を輝かせながら飛んでくる。



「今のは気術の一種なんですよ。

 自らの気を外部にエネルギーとして外部に放出し、

 相手に衝撃を与えるんです」



目の前にいた魔物が消え、

再び歩き出したローザが笑顔でそう説明する。


この世界には自然の力を借りる魔術と、

自らの体内の「気」を使う気術が存在する。


一般的に気術は治癒術のほか、

一時的な能力の向上(頭脳や腕力等)といった、

生物の内部への干渉の術式がほとんどなのだが、

一部例外として自らの「気」を外部に放出し、

そのエネルギーによって、

魔術のように外部に直接的な影響を、

与えることができるものがある。

ローザはその術式を使用して、

キラーバットに攻撃した、ということである。



「……」



……ということについて質問したかったアルトだったが、

レナとローザのやり取りを聞いて黙ってしまった。

そんなアルトの右肩にぽん、

と手を乗っけてくるプログ。


特にプログは何も言わなかったが、

表情がすべてを語っていた。

ドンマイ、と。



「へえ、すごいね!

 でも、体は大丈夫なの? 疲れたりしない?」


「もちろん、自分の体内の気を使うので、

 連続して使ったら少し疲れますけど……。

 何百回も使うことはまずないので大丈夫ですよ、

 それよりも、何とか皆さんのお役に、

 少しでも立ちたくて」



ローザは自分のために戦ってくれている3人のために、

治癒術以外に何か役に立てないか、

とずっと考えていたのだ。

そして格闘術ではなく、攻撃系気術を使えば、

敵に近づく必要がない上に危険も少なく、

かつ3人の戦いの役に立てると思いつき、

今回初めて自分の意志で、

魔物と対峙したのだった。



「そ、そんな! 

 全然気にしないでいいのに!」


「大丈夫ですよ、レナ。

 1回だけ使っておきたかっただけなので……。

 でも、もし後ろから見てて危ないと感じたら、

 後方支援させてください、お願いします」



そう言うとローザは軽く頭を下げる。

今までずっと考えてきた重みがあるのだろうか、

その姿は今朝の公園で同じく頭を下げていた、

騎士総長クライドの姿を彷彿とさせ、

決意がいかに固いか、というものを感じさせた。



「……わかったわ。

 でも極力、そんな状況にはしないよう、

 気を付けるから、最小限で頼むわね」



護衛をしている身である以上、

ローザに負担を、

できるだけかけたくないと考えていたレナだったが、

ローザの決意の強さを感じ取ったか、

頭を上げさせてから観念しました、

といったといった表情で話す。



「僕からもよろしくね」


「あんだけの気術が援護してくれるなんて、

 心強いぜ」


「ありがとう、レナ、アルト、それにプログも。

 私も頑張ります」



みんなから暖かい言葉をもらい、

何かが吹っ切れたような満開の笑顔で、

ローザが軽くお辞儀をする。

そして新たな心強い力を手に入れた4人は、

再び奥へと歩き出した。





「しっかし、こうも見事に全部外していくってのも、

 逆にすごいわね」



ローザの満開の笑顔から程なくして、

三たび行き止まりの壁に遭遇し、

壁をペタペタ触りながらレナが呟く。



「あーあ、結局こんなオチだったか。

 ま、こんなモンだよな」



続いてプログがペタペタ壁を触る。

特に仕掛けがあるわけでもない、

今まで通りの完全な行き止まりである。



「……」


「アルト、元気出してください」



ただ1人、テンション激落ちしているアルトを、

ローザが必死に慰めている。


先ほど倒したキラーバットが、

いかにも道を邪魔するかのように飛んでいたため、

もしかしたら正解の道引き当てたかな!?

と、密かに期待していたアルトだったが、

フタを開けてみたらコレである。

先ほど気術の話を遮られたのと重なったダブルパンチで、

精神になかなかのダメージを負ってしまったようだ。



「まあしょうがないわね、アルト。

 戻って左に行きましょう」


「まあドンマイだな、アルト」


「ずびばぜんでじだ……」


「ま、まあまあ」



凹むアルトを慰めながら、

4人は今来た道を戻り始めた。


と、ここで。



「……? アレ?」



ペンを片手にレナが、

自分の体をペタペタ触りながら、

何かを探している。



「どうかしたか?」


「おかしいわね……。

 さっき書いた地図、

 どっかに落としたかしら?」



頭を搔きながらレナがぽつりと呟く。

どうやら迷わない用に、

と書いていた地図がいつの間にか、

どこかにいってしまったようだ。



「オイオイ何やってんだよ……戻ってみるか?」



そう言いながらプログが辺りを見渡す。

少なくとも周辺にはそのような紙は見当たらない。

というより、王族のみが使う施設だけあり、

隅々までしっかり管理が届いている。

よって、紙はおろか、ゴミ一つ見当たらない。



「まあいいわ、もう一回書けばいいし。

 とりあえず先を急ぎましょう」



再びどこから取り出したか、

レナは新しい紙を取り出し、

ペンを使って地図を書きながら先頭を歩く。


……が、地図を書いている分、

レナの足取りは他の3人に比べて重い。

4人の先頭を切って歩いていたはずが、

元の分岐点に辿り着いた時には、

いつの間にか1番後ろを歩いていた。


……にもかかわらず、まだ書き終わらない。



「おーい、レナー!

 大丈夫ー?」



左の道を進み、

少し距離ができてしまったことを気にしたアルトが、

後方のレナに声をかける。



「ごめーん、もうちょっ……あ、ミスった!」



もうちょっとで終わるー、

と答えたかったレナだったが、

間違えて地図を書いてしまったらしく、

最後まで言い終えることができなかった。



「……。 

 あーもう! あと少しだったのに!

 もーこんにゃろッ!」



よほど詳細な地図を書いていたのか、

それとも書くのが難しかったのか、

あと少しで終わるのを間違えたのが、

よほど悔しかったらしい。

少しの沈黙の後、

そう叫びながらレナは、

その紙をぐちゃぐちゃに丸めて、

近くの壁にストレス解消がてら投げつけ、

三たび新しい紙を取り出しながら、

3人の背中を急いで追いかけていった。



「あーもう、大体、

 プログが道を間違えるから……」


「って俺かよ!?

 俺関係ねーだろ!」


「ご、ごめん、

 僕が声をかけたから……」


「んだぁーもうッ!!

 結構大変なのよ、アレ!」


「レ、レナ、

 ちょっと落ち着きましょう!」


「ハッ、あたしとしたことが……!」



そんなしょうもないやりとりをしながら、

4人の迷路解きは、まだまだ続いていく。

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