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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第4章:個別部隊編
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第113話:さらに悩む

……とはいえ、

話がうまく、進むはずもなく。



「はぁ……」



レナは再び、

深いため息の中にいた。


時刻は、夕方の18時に達しようとしている。

無論、すでに空の主役は太陽から、

今日は僅かに満ち欠けを表現している月球へと、

その座を譲っている。



「結局、今日の収穫はゼロ。

 これじゃあ、ただの鉄道マニアじゃないの」



今日、自らの行動を頭で反芻しては、

レナはやけくそ気味に鼻で笑う。



(何か起きてほしい、ってのが、

めちゃくちゃ不謹慎なのはわかっているんだけど……。

そのために残った以上、こう何も起こらないと、

さすがにねぇ……)



そして次に押し寄せてくるのは、

シャックが現れるという、

世間的に不幸なことが起きてほしいと願う、

自分に対しての嫌気と、自戒。


社会的に、何も起きないということが、

どれほど素晴らしく、

それでいて平和な事かは、分かっている。


だが、それでは自分が、

この大陸に残った意味がない。

極端を言ってしまえば、

他6人の仲間たちの中で自分が一番、

存在価値が無いことに等しくなる。


シャックに関する情報は欲しい。

でも、エリフ大陸に住む多くの人々、

いや、もしかしたらレナを除くすべての人々が、

シャックが出現するのを望んでいない。


出てきてほしくないけれど、

可能であるならば、見つけたい。


決して交わることのない2つの願望が、

レナの思考を更に苦しい螺旋(スパイラル)へと、

突き落としていく。



「う~さむッ!!

 何度来ても、

 ここの寒さは堪えるわね…ッ!」



加えて、

泣き面に蜂とばかりに、

エリフ大陸の夜がレナへ猛威を振るう。


風が吹いているわけではない。

自然と襲い掛かってくる、

まるで皮膚に貼りつくような痛みを覚えながら、

レナはできる限り体を震わせる。


エリフ大陸は、昼と夜の寒暖が、

天と地の差がある場所だ。


そして今、レナが足を踏み入れたトーテンという町は、

その中で最も、

気温の高低差が激しい街として有名である。



「う~~~~。

 さむいさむいさむい~~~」



まるで芋虫のように、

体を小さくうねうねさせながら、

少女は熱を起こそうと頑張っている。



「早く宿屋に行かないと……。

 こんな寒さじゃ、

 人間アイスが出来上がっちゃうって」



苦手に襲われているせいか、

発する言動にも、いつものキレがない。


寒さがこの上なく苦手なレナにとって、

このトーテンという町の夜は、

文字通り地獄と言っても、

決して過言ではない。


できることなら、

エリフ大陸に存在する4つの街で一番、

来るのを避けたかった街でもある。



だが、それでもレナが、

あえてこの場所を今回、

宿泊する場所としたのは。



「見た感じ……。

 レイの言っていた通り、

 あれから変なことは、

 起こっていないみたいね」



右へ左へ、

なるべく体を動かさずに視線を四方八方へ送り、

レナはポツリと呟いた。


そう、この行動こそレナがこの町を、

今日の宿泊の地に選んだ理由だった。


かつてレイからの依頼で、

この町に起きていた、

謎の行方不明事件を解明するため、

レナは一度、この地に来たことがある。


ある一定の周期において、

宿屋で一夜を過ごした旅人が、

次の日の朝に忽然と姿を消す、数奇な事件。


レナ、アルト、プログ、フェイティ、

そしてスカルドが初めて、

この街に足を踏み入れた理由は、

その事件の謎を解明するためだった。


その結果。


大量の行方不明者の原因を、

スカルドの父が生み出した、

死者を冥府へ送るための大魔術を、

何物かが改悪した禁忌魔術、

ギルティートレインであると突き止めた5人。


そして、その5人と途中で知り合った、

今日では敵となっているナナズキを含めた6人で、

歪められた迷宮を死力で突破し、

その列車の動力部分を破壊することにより、

見事に禁忌魔術を打ち破ることに成功したのだった。


だが、これでめでたしめでたし、

とはいかない。


後日のスカルド曰く、

この手の魔術は、

一度破ってしまえば、

再び完成させるのに数十年はかかるらしいが、

完全にこの魔術を根絶するには、

どこかしらにいるであろう、

魔術の詠唱者の生きの根を止めなければならない。


無論、レナ達はそれらしき人物を、

倒すどころか、見かけた記憶もない。


もっとも、酒場にいたプログとフェイティは、

本人たちが気づかないうちに、

その詠唱者を目撃していたのだが。



そのこともあってか、

レナはあの後、

この町がどのようになっているか、

どうしても確かめたかった。


果たして、あれから行方不明者は、

出てきていないのか。


いや、もっと端的にいえば、

あれから何か、事件は起きていないか。


執政代理であるレイにも了承を得て、

レナはあえて、初日に宿泊する場を、

この寒暖差がエリフ大陸最高を誇る、

この辺境の地に選んだのだった。



そして今、改めて周りに目を配ってみる。


夕方から夜に差し掛かる時間もあってか、

人々が町中を行きかう姿は、

驚くほど足が速い。


目にできる人を観察しようとしても、

自分たちの温かい世界であるマイホームへ、

とにかく足を急ぐ者だらけで、

とても声をかけられるような雰囲気を出していない。

まるで帰巣本能でもあるかのように、

一直線に町民は我が家へと帰っていく。



誰一人として、行くあてもない旅人、

レナに声をかける者はいない。


だが、



(相変わらず活気はないけれど……。

でもまあ、前は人がほとんどいなかったし、

どうやら特に騒動は起きていないようね)



構ってくれなくても、

レナとしては、

別にそれでよかった。

あれから町に、

平穏平和が戻っているならば。



先日、レナ達がこの場を訪れたのは、

偶然にも今回とほぼ同じ時刻。


気温が急転直下のごとく落ち行くこの時間、

誰もが家路を急ぐ光景は、

それほど珍しいことではない。


だが、前回は違った。


あの時はほとんど、

町中で住民を見つけることができなかった。


まるで、死者の街。


その後プログとフェイティが酒場でようやく、

ならず者たちが群れを成している風景を目撃したのだが、

その異質な空間を除いては、

まさに町全体が死んでいるような、

そんな錯覚すら起こさせる、

腐敗した町となっていた。



そして、事件が解決した後、

初めて訪れた、この現在。


外を出歩いている町民を、

レナは頻繁に見つけることができた。


レナは、それだけで一安心することができた。


確信は持てないが、

この町はきっと大丈夫。

この時間に、多くの人が何の警戒心もなく、

外を歩けているのなら。


言葉では何とも言い表せない、

でも確かに生活感を覚えたレナは、

自然とそう思えることができた。



「さて、残るは――」



レナがこの町の平穏無事を確認するために、

2つの方法を考えていた。

1つは、町を外から注視し、

果たして行きかう人々が存在するのかどうか。


その1つは、

完璧に達成することができた。



残るは――。



「さて、宿屋に行こうかしら」



レナは残りの方法を実践するべく、

前回文字通り悪夢を見た、

最悪の巣窟と化していた宿屋へ、

行き先を定めた。


そう、肝心の宿屋はどうなっているのか。


魔術を打ち破ったあの時から、

宿泊者の状況はいかがなものなのか。


いつ何時、誰が宿を利用しても、

心の底から体を休めることができる場である、

本来あるべき姿に戻っているのだろうか。



それを確認する手段はただ一つ、

宿屋に一泊し、

無事に翌日を迎えることだけだ。



(さて、どう出るかしらね)



気が付けば鼓動のリズムが、

ゆるやかな坂道のごとく、

徐々に上がっている。


怖さは正直、ある。


あの事件は解決したはず、

脳ではそう分かっていても、

いざ再び事件現場へとなれば、

話は別次元だ。


万が一あの魔術が、

一度は破られたはずである、

あの恐ろしい狂気が、

再び目の前に現れたら。


あの時は大量6人を擁して、

何とかぎりぎり、

辛うじて打ち破ることに成功した。


だが、今は一人、孤独の身。


6人だからこそ、破壊に成功したのであり、

一人では、絶対に無理だ。


前進に寒さとはまた違う、

ピリピリとした感覚が、

まるで虫が皮膚の上を動くかのように、

何ともむず痒く伝う。


おそらく大丈夫。

だが、それでも万が一があれば――。


取り返しは、つかない。

もしあの地獄の有罪列車に乗ってしまえば、

それで終わり。


だが、それでもレナの思考の中に、

他の選択肢はなかった。


ゴクリ、と。

すべてを飲み込むように、

レナは一つ、大きく喉を動かすと、



(ほかのみんなも頑張ってるんだし、

この程度のくらい、あたしもやらないとッ)



己の行動に、

他の仲間たちを重ねることで、

奥底に根付く気持ちを奮い立たせると、



「よし、いきますかッ!!」



気合い入れ直し、とばかりに、

両手で軽く顔をパンパン、

と叩き、レナはいざ決戦地跡である、

トーテンの宿屋へと向かいは



ドンッ!



「ッと!!」



動き出した瞬間、

右肩広範囲に、軽い衝撃を受けたレナ。

咄嗟に振り返ると、すぐ近くに黒い人影。


察するに、この人物と肩がぶつかったらしい。



「あ、すいませ――」



いきなり動いた自分が悪かったかも、

レナは即座に謝罪の言葉を告げようとした。



のだが。



「あ、あんたは!」



そのぶつかった(であろう)人物の正体を確認すると、

レナは思わず声を張り上げた。


悪いと思い謝罪しようとしたにも関わらず、

その思いをどこかに吹き飛ばす程の、

その人物。



「ああ、お前でやンスか……」



その人物は、

相変わらずの独特な口調で、

静かに口を開く。



レナと肩がぶつかった相手は、

ファースターが誇る騎士隊を統率する7隊長のうちの一人、

3番隊隊長のイグノだった。


今までの彼にしては珍しい、

部下を一人も連れていない単独行動で、

レナの前に現れたのだが、

その姿は間違うことなき、

本人の姿だった。



「ッンとに、

 あんたもしつこいわねぇッ!

 ここまで追いかけてくるなんて!!」



レナのイライラ度が、

右肩上がりに上昇していく。

さあこれから伸るか反るか、

ある意味命をかける場へ赴こうとした矢先に、

何とも面倒な相手に遭遇したのだ。


シャックに関する情報収集、

という任務を果たすという意味では、

それなりに意味の大きい、

希少価値の出会いであるはずなのだが、

今のイラついたレナでは、

まだまだそこまで考えが及んでいない。


行くところ行くところに出現する、

ストーカーまがいの面倒な輩。


その存在に全身全霊全神経、

レナは苛立ちを覚えていた。



「まだ何か用があんの?

 見た通り、あたしは今一人!

 ローザ王女の居場所なんて、

 これっぽっちも――」



知らないんだから、

そう言葉を続けようとしたレナの言葉を、



「ああ、そんな構えなくても、

 もういいでやンスよ」



イグノは先ほどに続き、

一般男性の声量とは思えぬ、

か細い声で遮った。



「……は?」



あまりの弱々しさに、

レナは最初、しっかりと言葉を、

聞き取り理解をすることができなかった。


あるいは自分の聞き間違いかと、

一瞬だけ、自分の聴覚に疑問を抱いた。


だが、ファースター騎士隊3番隊隊長は再び、



「別にお前を追ってきたわけじゃないから、

 そこまで構えなくてもいいでやンスよ」



引き続きの蚊の鳴くような言葉で、

レナに告げる。

だが、それを聞いてもなお、

レナは言葉の咀嚼ができなかった。


今まで散々、自分たちの後を追い、

成功失敗はともかく、幾度となく、

行く道の障害となってきたはずの男が、

ここにきて何故に、

そのような言葉を口にするのか。



「……どういうことよ?」



レナはここで初めて、

イグノと正面から相まみえた。


言葉の先入観が入ったからかもしれないが、

そういえば今まで、

見ていてこちらがイラつくほどに、

妙な自信感を醸し出していたあのアヒル口の男は、

心なしか今日は暗く淀んでいる気がする。



「今の俺には、

 もうお前らを追いかける、

 理由がなくなったんでやンスよ――」



頭に巻くトレードマークのバンダナを、

虚しく風になびかせるイグノ。


この世の終わりのような表情で、

ファースターの誇り高き3番隊隊長は切り出すと、

続けて、



「俺、騎士隊をクビになったでやンス」



元3番隊隊長は、

ぎこちない精一杯の強がりの笑顔で、

レナにそう告げた。


次回投稿予定→8/20 15:00頃

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