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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第3章 ディフィード大陸編
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第100話:今、できること

「クライドが……」


「一日前倒しで来るだと?」



突如レイより聞かされた、

想定外も想定外な事実に、

アルトとプログの表情が急激に強張る。

そして、それはレナも同じだ。



「どういうことか、

 聞かせてもらえるかしら?」



自分たちの報告事は何処へやら、

レイが次に発する言葉に、

全思考を研ぎ澄ましている。


レナとアルト、

そしてプログの3人が、

セカルタを出発してから一週間後に、

ワームピル大陸王都であるファースターの騎士隊隊長、

クライドはエリフ大陸の王都、

セカルタへと来る予定となっていたハズだった。

当然、レナ達はその情報をもとに、

動きを思案し、行動を起こしている。

それがたった今、レイの言葉によって、

いとも簡単に覆されたのだ。


レイのこの後の説明次第では、

最悪の事態を想定しなければならない。


次第に加速していく鼓動を懸命に抑え、

レナは次の言葉を待った。



『昨日、俺宛に伝書鳩が来た。

 封書にはこう書かれていた。

 都合により、私だけ1日早くお伺いできそうですので、

 事前にレイ執政代理にご挨拶させていただきたい、とな』



慌てる様子もなく、

まるで無機質に時を刻む時計のように、

レイは坦々と話していく。



『なお宿泊する施設は不要、とも書かれていた。

 彼が何処へ宿泊するつもりなのかは不明だが、

 いずれにせよ、彼が一日早くここへ来ることは確定している』


「最悪のパターンね。

 こっちも予定より、

 行程が少し遅れてるってのに」



軽い舌打ちを何度もして、

吐き捨てるように、レナは言う。


ディフィード大陸へ赴き交渉を行う、今回の旅。

当初は4日、長くても5日を予定していた。

エリフ大陸からディフィード大陸へ行くのに1日半。

ディフィード大陸で過ごす日にちが、1~2日。

そして帰りの船旅で、再び1日半。


わずか1週間というリミットの中で、

それでも少しの余裕を見て、

行程を決定したつもりだった。


だが、行きの船上で襲撃を受けた魔物、

シップイーターの影響で、

すでに予定よりも1日遅れた経過となっている。


すでに3日半が経過しているこの時点で、

セカルタに戻るのに5日間かかるのは確定。

クライドが1日早く来てしまうのであれば、

レナ達に残された猶予は、たったの1日しかない。


そして当然、

今まさにセカルタへと帰っているこの道中でも、

何が起こるかはわからない。

行き同様、魔物に襲われ、

足止めを喰らう可能性だって十分にある。


仮に帰りの道中でトラブルが起こり、

1日半を予定している船の行程が、

大幅に遅れてしまったとしたら。


クライド到着まで余裕を見ていたどころか、

レナ達が戻ってくる前に、

クライドがセカルタへと、

たどり着いてしまう可能性がでてくる。


そうなってしまえば、ローザはもちろん、

彼女を匿っているレイの身も、

危険に晒されることになる。


事態は、思っている以上に深刻だった。



「ヤベえな、帰りでハプニングが起きたら、

 完全にアウトじゃねーか」


「ど、どうしよう……」


『とはいえ、焦りは禁物だ。

 このようなことを話しておきながら言うのもおかしな話だが、

 レナさん達はクライド騎士総長のことは考えず、

 こちらに無事に戻ることに集中してくれ』


「そうね。どちらにせよ、

 今あたし達ができるのは、

 可及的速やかに、

 そして安全にセカルタに戻ることだけなんだし」



執政代理の言葉にレナは大きく、

そして自分自身に知らしめるかのようにうなずいた。


確かに、セカルタのことは気になる。

だが、かといってレナ達が、

クライドの足を止めることはできない。


4人に今できることは、

とにかく先を急ぐことだ。


自分の意志で他人の足を止めることはできないが、

自分の足を速めることは出来る。


タイムリミットは、

止まることなく近づいてくる。

落ち込んでいる時間など、

どの神様を頼っても与えてくれなどしない。


だとすれば、落ち込んでいる余裕などない。


今はとにかく、

先を見据えて動かなければいけない。


できるだけ安全に、かつ迅速に、

自分達がセカルタへと戻る、

そのためにできることは――。



「レイ、教えてくれてどーもでしたっと。

 こっちもとにかく急いでそっちに戻るわ」


『ああ。だが無茶だけはしないでくれ。

 まずは安全第一、いいな』


「りょーかいッ」



最後は威勢よく答え、

レナは執政代理との通信を遮断した。



気がつけば突き刺すような、

あのディフィード大陸での寒さは和らぎ、

気温がグングン上昇していた。



「プログ、これからあたしと半日交代で、

 夜通し見張りをするわよ、いい?」


「ん? ああ、別にいいぜ」



レナの思いを読み取ったか、

年長者は1つ返事で、

申し出を引き受けた。


航海に関しての知識がないレナ達には、

船がどのように操作すれば早く動くのかは、

分かるはずがない。

だが、船を早く進めるために、

間接的に役に立つ方法は、

行きの時に起こった経験で心得ている。


すなわち、海に潜む危険な魔物から、

船を守るということ。


それこそが、レナが考え、思い立ち、

そしてプログへと伝えた、

今、自分達にできること、だった。



「ならレナ、お前が先に見張りをしてくれ、

 俺は夜担当で構わねえからよ」



まるで一を聞いて十を知るを体現するかのように、

プログは続けてレナへと提案する。


生活サイクルが逆転し、

負担がかかる夜の部を自分が引き受け、

一方で生活サイクルに準じ、

船乗りの活動人数も多い昼の部を、

年下の少女であるレナに任せる、

といったところだろうか。



「そうね、そうしてもらえると助かるわ、

 どーもですっと」



レナはすんなり、その提案を受け入れた。

正直自分はどちらでもよかったのだが、

プログの珍しい粋な計らいに、

斜に構えることなく乗っかることにしたのだ。



「あ! ぼ、僕も!

 僕も見張りを手伝うよ!」



と、すかさずアルトも声をあげた。

まるで誰かに呼ばれたかのように、

肘を天高くピンッ! と伸ばす。

自らの存在を強調するかのように、

表情は引き締まり、

2人をまっすぐに見つめている。



「おう、そりゃ助かるぜ。

 そしたらアルトは……」



レナと同じ昼の部で、

と続けようとしたプログだったが、



「あ、あの……!」



プログの言葉は蒼音の、

やや顔を赤らめて言い放った声に阻まれた。



「ん? 蒼音ちゃん、どうした?」


「あ、あの……私も……その……」



話す蒼音の肌の色が、

みるみるうちに紅潮していく。



「み、皆さんと……」



前にキルフォーの宿屋にて、

アルトへ必死に訴えた提案の時とまったく同じように、

次第に声のトーンが低く、

声量も小さくなっていく。



(あ! そっか!)



何かを察したアルトは、



「蒼音ちゃん、どうしたの?

 何か言いたいこと、ある?」



妙に演技かかった声で、

蒼音へと語りかけた。



「!」



明らかなテンパりを見せていた蒼音は、

思わぬ援軍に思わず体をビクッと震わせるが、



(ほら、言いたいこと、

言っちゃおうよ、ね?)



アルトはレナとプログへ聞こえないよう、

蒼音の耳元でそう囁いた。


端から見れば、これほど怪しい絵も珍しいくらい、

怪しいやり取りにみえるのだが。


だが、それでも蒼音は、



(あ、ありがとうございます!)


年下のアルトへ対して丁寧に謝意を伝えると、



「あの! わ、私も見回りを、

 い、一緒にさせてもらえませんか!」



話す、というよりはやや叫ぶような口調で、

蒼音はレナとプログへとお願いをした。


レナとプログはそのお願いに、

というよりも蒼音の、

叫びにも似た声量に一瞬、

キョトンとした表情を見せたが、

すぐにその表情は柔らかくなり、



「もちろんよ。

 こっちもそう言ってくれて助かるわ」


「こーゆーのは何人いてくれても心強いからな、

 サンキューな、蒼音ちゃん」



言って、レナとプログは笑った。


蒼音が自信なさげに声を発した辺りから、

レナももしかしたら一緒に見回りしたいとかかしら、

などとおおよその見当はつけていた。

とはいえ、誰かの意見に流されたわけでもなく、

アルトの助けがあったとはいえ、

蒼音の口から直接、

その言葉を聞くことができた。

そのことが、

まるで自分のことのように嬉しかった。



「あ、ありがとうございます!」



一方の蒼音は嬉々としながら、

自らの赤髪ポニーテールがバサッ!

と空気を切るほどの勢いで、思いきり頭を下げている。


一般の人々からすれば、

たかがお願いを一つ聞いてくれただけで、

となるのが当たり前だろう。

だが、自分の意志を持たず、

これまで生きてきた蒼音にとっては、

その事が人の数倍、

いや、数十倍嬉しいものなのだ。



「んじゃ蒼音ちゃんには、

 レナと一緒に昼間を担当してもらおうか。

 アルト、夜はいけるか?」


「あ、うん。

 大丈夫だよ」


「悪いわね、アルト。

 しんどい時間をお願いしちゃって。

 その代わり、今から夜まで、

 仮眠を取ってもらって構わないから」


「全然、気にしないでよ。

 状況が状況だしね。

 四の五の言ってられる状態でもないもんね」


「ブラさん、ムライズ君、

 くれぐれも気を付けてくださいね」


「おう!

 蒼音ちゃんに励まされたのなら、

 こりゃすこぶる頑張らねえとな!」


「あんた……。

 あたしの前でそれ言うって、

 完全にケンカ売ってるでしょ」


「イエ、ソンナコトハアリマセンナー」


「……とりあえず後で泣かす」



かくして、

4人の動きは決まった。


意思決定が済んだのならば、

次にすべきことは、行動に移すことである。


プログは夜の見張りに向けて仮眠を取るべく、



「そしたら、22時くらいになったら交代でいいか?」



言いながら、

船の内部へとスタスタと歩き出す。



「いいわよ。

 もし起きてこなかったら、

 ボコボコにしてでも起こしてあげるから、

 安心しなさい」


「……よしアルト、後は任せた」


「って僕!?

 任せたって何を!?」



何を任したのか、

そして何を任されたのかわからないまま、

プログは、しばしのオフモードへと移行していった。



「ったく、ホント適当なんだから……」



無論、ボコボコにするつもりなど毛頭ないレナは、

皮肉交じりに呟きながらも、



「とりあえず、アルトもしばらく仮眠していて。

 時間になったら、あたし達が起こしに行くから、ね?」



未だプログの言葉に、

?マークを羅列させているアルトへ視線を向けた。



「え、あ、う、うん。

 でも、ちゃんと僕、

起きてくるから大丈夫だよ。

それじゃ、また後でね!」



そう言って去って行ったアルトの表情は、

わずかに引きつっていた気がする。



もしかして、プログに言ったこと、

本気にしちゃったかしらと、

レナは少々自戒の念に駆られたが、



(まあいっか)



そんなことをするつもりもないし、

そもそもアルトの性格なら、

きっちり予定の時間に起きてくるだろう、

そう踏んでいたレナが、

自責の念に囚われていた時間は、

それほど長くはなかった。



「さて、と」



蒼音と2人きりになったレナは、

改めて遥か彼方まで続く水平線に目を向ける。


本日の海は、穏やかな海だ。

波もそれほど高くなく、

このまま何も起こらなければ、

航海は順調に進むだろう。

あくまでも、何も起こらなければ、

という条件ではあるが。


そして、その条件を可能な限り、

満たし続けられるようにする為に、

レナと蒼音は今、この場に立っている。



「そしたら蒼音は、

 船の後ろ側を見張っててくれる?

 あたしは船の前方を見ておくから。

 あとたぶん、近くに船乗りの人が誰かしらいるだろから、

 見張りの事情を説明してもらってもイイかしら?」


「わかりました、船員さんを見つけて、

 お話ししておきますね」


「どーもですっと。

 何か見つけたら、すぐに呼んでね。

 あたしもすぐに声をかけるから」


「はい。アンネちゃん、

 くれぐれも無理はしないでくださいね」


「蒼音もねッ!」



かくして、2人はセカルタ船の前方と後方に分かれ、

航海の平穏無事を手助けするべく、

この広い大海原の見張りを始めた。





人間を構成する感覚的要素の一つに、

体内時計、というものがある。

人体の様々な生体のリズムを調整、

管理しているのが、この体内時計だ。

人間はふだん生活している中で、

心身ともに昼は活動、

夜は休息というリズムを刻んでおり、

夜には眠気が自然に起きるようになっている。

このリズムは朝、光を浴びることでリセットされ、

そこからまた、新たなリズムを生み出していく。

これが、体内時計の大枠である。


ところが、この体内時計に逆行、

つまり夜を活動として朝を休息、

という真逆のスタイルに強引に変えようとするならば、

体内時計が混乱をきたすことが、往々にしてある。



「ん……んん……」



時は21時半。


アルトは夢と現実の狭間で、

葛藤を繰り広げていた。


そろそろ起きなければいけない時間なのは、

頭はわかっている。

22時で見張りが交代する。

22時00分01秒から、

しっかりとした頭で見張りをスタートさせるためには、

今すぐ起きる必要がある。


だが、一方で体のほうは、

夜になれば休息という、

正確なリズムを刻む体内時計に阻害され、

起き上がるのを困難にしていた。


とはいえ、

22時から見張りの交代をすると約束した以上、

アルトは必ず、起きなければならない。


信頼関係にかかわるということもあるが、

それ以外にも1つだけ、理由がある。


もし時間に間に合わず、

寝過ごしたとなったら。


それはつまり、

昼にレナがプログに対して発していた、

ボコボコにされる権利を、

獲得することを意味する。


レナの口ぶり、態度からして、

ものすごく低確率での発動ではあるだろうが、

それでもゼロと言い切れないのが、

レナの怖いところだ。



「んん……そろそろ……起きないと、か」



まるでカメのような、

ノソノソした動きで、

アルトはベッドからゆっくり、

体を起こす。


睡眠時間は、およそ6時間。

人間が必要とする睡眠時間からすれば、

十分な時間を、確保できている。


だが、昼は活動、夜は休息という、

アルトの寸分狂いない体内時計の影響により、

6時間寝続けたにも関わらず、

アルトの体は、

まるで誰かが上空から空気を圧しているかのように、

重く感じていた。


今は、休息の時間です――。


体内時計による当然の主張が、

少年の体を不調へと追いやっていた。


だがそれでも、

アルトは動かなければいけない。



「ふあぁ……。

 よし、ひとまず外の風に当たろっかな」



眠気を象徴する生理現象、

あくびをしながらも、

アルトは体内時計の主張を押しのけると、

見張りの時間を終えようとしている、

レナと蒼音が待つ甲板へ向かうべく、

自らの部屋を後にした。


次回投稿予定→5/7 15:00頃

ついに100話を迎えることができました。

読んでくださっている方々、本当にありがとうございます、

まだまだこれからもがんばります!

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