表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第3章 ディフィード大陸編
101/219

第97話:寝坊した人たち

「おーいレナー、起きてるー?」



アルトらしき声と共に、

ドンドンという、

やや強めのノック音が、

女性陣の部屋に響き渡る。



「あと30分くらいで出発するぞー!

 はよ起きて来いー!!」



続いて、先ほどよりやや乱暴なドアを叩く音と、

プログと思しき声が、

中の宿泊者2人に対して呼びかける。



「ZZZ……」


「スー……スー……」



しかし、気持ち悪い虫や爬虫類を遥かに超える、

朝への苦手意識を持つレナと、

昨夜酔いに酔った蒼音は、

まったく起きる素振りがない。


すでにチェックアウトを終え、

出発の準備万端、といった男2人に一切構うことなく、

夢の世界を泳ぎ続けている。



「ダメだこりゃ……。

 2人とも爆睡しちゃってるね」



「ったく……。

 こんなことなら、

 もう1時間前くらいから、

 起こしにくりゃよかったぜ……」



扉の向こう側では、

男たちが後悔の弁を並べているが、

当然レナと蒼音の耳に、

その言葉は届かない。



「とりあえず、ロビーの方にいるからねー!

 ちゃんと起きてくるんだよー!!」



このタイミングで起こすのを諦めたのか、

アルトの言葉を最後に、

カツカツカツ……と、

何とも寂しげな足音を残し、

部屋の前から男たちは消えていった。



「ん~……。

 1時間、あと1時間だけ……」



夢9割、現実1割といった様子で、

何やらレナがムニャムニャしていたが、

残念ながら、

30分後くらいの覚醒を期待した男たちの耳に、

その言葉が届くことはなかった。





しばらくして。



「よっし、そしたら早いとこ、

 フロウ達の所に行っちゃいま


「待て待て待て待て待て待て待てッ!」



チェックアウトを済ませ、

さあ出発と、

勇んで宿屋を出ようとしたレナを、

やや怒りを含んだ大量の待てwithプログが呼び止める。



「ん? どうしたの?」


「どうしたもクソもあるか!

 今何時だよ!?」


「んー、9時40分ね」


「お前、昨日何時に集合って言った?」


「えーと、確か9時半だったかしら。

 10分遅刻ね、ゴメンゴメ


「8時だよ、は・ち・じ!!

 最後部屋から出る時に、

 お前が言ったんだろうが!

 どぅーゆーあんだすたん!?」


「それを言うならCan you understand? ね」


「論点そこじゃねえ!

 ただでさえ今日は忙しいのに、

 しょっぱなから予定より遅れてどうすんだよ!」



まるで湯沸かし器のように、

プログが頭から湯気を出すのも無理はない。


レナと蒼音は寝坊に寝坊を重ね、

結局1時間半強という、

大遅刻をかましてしまったのだ。


最初はいつもの寝起きの悪さだろ程度しか、

思っていなかったプログとアルトも、

さすがに1時間経過しても姿を見せないことに、

やや焦りと恐怖を感じていたところで、

ただの寝坊という申告である。


本気で心配し始めた男衆の心中を察すれば、

何とも抑えようのない感情が、

心の底から沸き立って当然である。


実際、いつもなら騒ぐプログを、

宥める役であろうアルトでさえ、

今のプログを特に止めることなく、

喜怒哀楽、どの感情にも当てはまらない、

何とも言えない表情をしている。


さすがにヤバいかな、と感じたのか、



「悪かったわ。

 次からは気を付けるわ」



レナはすんなり頭を下げておいた。


遅刻をしたのは事実であり、

いくら疲労があったとはいえ、

それはアルト、そしてプログも同じだからだ。


それに何よりも、



「すみません、

 私もまったく時間に気付かずに……。

 それに昨日は本当にご迷惑をおかけして……。

 申し訳ありませんでした」



自分のすぐ隣で、

まるで上司に謝罪する部下のように、

何度も頭を下げる蒼音の姿を見て、

変なことを言う自分が、

少々痛く感じてしまったのだ。



「……ま、先を急ぐ時じゃなければ別にいいけど、

 今日ばっかしは色々と動く日だからな、

 次からはちゃんと起きてきてくれよな」



蒼音のあまりの必死さにやや心を痛めたか、

はたまたレナが意外に、

あっさり謝罪したことに面食らったか、

プログはそれ以上何も言わず、



「とりあえず、フロウの所へ行こう。

 遅れた分、道中は早足で頼むぜ」



前を見据えて宿屋の扉を開けた。

どうやらこれ以上のお咎めはないらしい。



「蒼音ちゃん、大丈夫?

 頭痛とかはしない?」


「はい、大丈夫です。

 心配をおかけして、すみませんでした」


「アルトにも謝んないとね、

 起きるのが遅れちゃってゴメン」


「ううん、大丈夫だよ。

 レナも疲れていただろうしね。

 ……でも、次からはもうちょっとだけ、

 早く起きてほしいかも」


「……申し訳ない限りです」



バツが悪そうに、

レナは頭をポリポリ搔きながら、

そそくさと宿屋の外へと退散していく。





外は、昨日よりも一段と冷えていた。

前日は皮膚に刺すような痛みをもたらすような、

厳しい寒さだったが、

今日はその痛みが、さらに増すほど、

気温が下がっている。


レナ達は足早に、

人の往来がない錆びれた市街地を進んでいく。

そしておおよそ10数分後には、

14時間ほど前まで滞在していた、

あの酒場の前に到着した。


扉の向こうからは、

相変わらず野郎達の、

野太い騒ぎ声が漏れ出しているが、

レナは構うことなく、

コンコン、と軽く2回扉をノックした。


程なくして、

キイィィ、という軋む扉の開く音に続き、



「……はい、何でしょう」



まるで警戒、という文字が顔に書いてあるかのような、

若き女マスター、レビリンの低い声。


……が、扉の隙間から姿を現し、

レナ達と分かるなり、



「っと、あなた達でしたか。

 失礼しました。

 フロウですよね?

 すぐ呼んできますので、

 少しだけ、待っててもらっていいですか?」



まるで別人のように、

礼儀正しい挨拶を、

優しい口調で済ませると、

再び扉を、静かに閉める。



「……なんか、すごい変わり様だね」


「まあ、しょうがねえだろ。

 本当にここが隠れ家のようなものだったら、

 来客が何者なのかを分かる前までは、

 警戒しまくりだろうからな」



アルトとプログが、

そんな会話をしていると。



「こらフロウ!

 お客さんよ!!

 昨日の方々が来て下さったわよ!

 ほら、さっさと起きてよ!!

 あーもう! 

 なんだってこんなに、寝起きが悪いのよッ!

 起・き・な・さ・いってば!!」



扉の向こうで、

まるで起きるのを渋る子を叱る母のような、

レビリンのものすごい怒号が響く。

どうやらフロウは、

つい今まで、お眠りになられていたらしい。


そのやり取りを、

扉の外で待ちながら耳にした4人。



「……」


「だ、そうですが、レナさん?」


「あーもう!

 そうですあたしが悪うございました!!」



絶対言われるだろうな、

と予感していたレナだったが、

見事にその通り、

プログがニヤニヤ顔となれば、

やり場のない感情がこみあげてくる。


自分が100%悪いことは分かっている。

弁解の余地がない事も、承知している。


だが、プログのツッコミという、

レナが予期し、恐れていたことが、

こうも見事に飛んでくると、

如何ともし難い負の念が溜まっていく。



「だってしょうがないじゃない!

 あたしだって昨日は疲れてたんだし!」



なぜか追い詰められたような感覚になったレナは、

まるで子どもの開き直りか、

と素人でもツッコみたくなるような、

何とも情けない言い訳を、苦し紛れに発していると。



「しょうがねえだろ~。

 俺だって昨日は疲れたんだぜ?」


「しょうがなくない!

 皆さんを待たせていいワケないでしょ!!」



扉の向こうから、

たった数秒前に、

どこぞの子ども(17歳・女)が発した、

残念な言葉と寸分狂いないフロウの声が。



そのやり取りを、

扉の外で待ちながら耳にした4人。



「……」


「だ、そうですが、レナさん?」


「……」



再び向けられた、

プログからのニヤニヤ顔。

そしてその隣で、

何とも気まずそうに苦笑いを浮かべるアルト。


もう、レナは何も言わないことにした。


なぜだろうか、

今は何を言っても、

すべてがうまくいかない気がする、

そう思わずにはいられなかった。


もっとも、寝坊という事実から鑑みるに、

レナがどんな言い訳、弁解をしたところで、

オール負け戦は確定なのだが。



「おう、よく来たな。

 ちょっとばっかし遅れてわりい。

 んで、昨日の返答、どうだい?」



レナがメンタルブレイクをしているうちに、

扉が開き、フロウが姿を見せた。

寝起き数分なのが明らかで、

目は眠気の影響か二重になり、

また、急造のヘアスタイルには、

若干ながら寝グセが残っている。



「……。

 プログ、よろしく」


「って俺かよ!?」


「あたしたぶん、今日は何を言ってもダメな日だわ」


「何だそりゃ!?

 意味不明すぎるぞ!」



だが、レナはプログの声に反応することなく、

まるで猫を見つけたネズミかのように、

素早くプログの背後へと身を隠してしまった。


どうやら、

先ほどのメンタルブレイクがかなり堪えたらしい。


そんなアホな、

とプログはそれこそツッコミを入れたかったのだが、

レナへのツッコミとフロウへの回答、

どちらが優先かと言われれば、

明らかに後者の方だった。



「……ったく、しゃーねぇな。

 えーと、昨日は色々、

 話を聞かせてくれてサンキューな」

 


プログはやれやれと肩をすくめながら、

目の前のフロウへと声をかけた。


……のだが。



「……」



声をかけたはずのフロウから、

特に何の返しもない。

プログの方、というより、

プログの後ろにひっそりと隠れたレナの方を、

まるで珍しい生き物を見るかのように凝視している。



「ん? どうかしたか?」


「……!

 あーわりい、ちょっとボーっとしてたわ。

 昨日の件だよな、気にしなくていいさ。

 こちらも好きで話しただけだからな」


「んで、昨日言っていた、

 仲間っつー件だけど……」



少し疑問に思いながらも、

とりあえず結論を伝えるのが先と、

プログは分かりやすくひと呼吸をおくと、



「仲間の件は一旦保留、

 元の大陸に戻ったら、

 ひとまずディフィード大陸の現状は出来る限り伝える、

 ってことでいいか?」



それが、4人の出した結論だった。


レナ(+蒼音)の寝坊により、

意見を集約する時間を十分には取れなかったが、

それでもこの酒場へ赴く道中で、

4人は身の振り方について議論をしていたのだ。


そしてその結果、

この目の前にいるフロウとレビリン、

そして暗黒物質の剣を、

完全に信用するには時期尚早、

だが少なくとも民が疲弊している、

ディフィード大陸の状況は、

報告事項としておさえておくべき、

という結論に至ったのだった。


フロウはプログの言葉を、

表情変えることなく坦々と聞いていたが、



「要はもう少し考えさせてくれ、ってことか」


「わりい、平たく言えばそうなるな」


「構わねえよ。

 俺がアンタらの立場でも、

 いきなりこんなん言われたところで、

 絶対に信用なんてしないだろうからな」



昨晩のアルコールが抜けきらない息で、

フロウはやや自嘲気味に笑うと、



「唐突な誘いで悪かったな。

 ま、もし気が向いたらここに顔出してくれや。

 お前らなら、いつでも歓迎してやるぜ。

 あ、あと他大陸ではガンガン話してくれて構わねえが、

 この大陸内では俺らの存在、

 もちろん黙っといてくれよな」


「もちろん、そうさせてもらうぜ。

 っつか、今俺らがこの情報を垂れ流しても、

 よからぬ噂を立てた愚か者!

 ってな感じで捕まりそうだしよ」


「ハハッ、違いねえ」



フロウは再び、小さく笑う。

あたかも、

その返答を予期していたかのように、

言葉が口からスラスラと彼は話した。


要検討というフェーズまで行けるのが想定内だったのか。

はたまたダメもとでレナ達を捕まえ、

思わぬ返答が来て満足したのか。

もしくは、裏で何か考えがあってのものなのか。


プログ、そしてその裏に隠れるレナには、

その真意は分からない。


だが、少なくとも保留という、

暗黒物質の剣側には身勝手とも取られかねない、

曖昧な答えを告げたことに、

腹を立てるような印象ではなかった。


最終結論まではいかなかったが、

ひとまず事態は一旦、収束した。



「わりいな。

 もうちょっと詳しく話せりゃよかったんだが、

 俺らも先を急がないといけないもんでよ」



本来レナの役割だった締めの言葉を、

プログは口にした。


そう、事態が収束したならば、

4人が次にとるべき行動、

いや、取らなければいけない行動はただ一つ、

速やかに自分たちの場所、

すなわちエリフ大陸に戻ることである。


総帥ドルジーハとの交渉が決裂した今、

この大陸に留まる必要性は皆無だ。



「こっちこそ、

 時間をもらっちまって悪かったな。

 お前ら、なかなか面白いヤツらだったよ」


「一応、誉め言葉として受け取っとくぜ」


「ここに戻って来てくれることを、

 俺は楽しみにしているさ」


「そうかい。

 ま、あんまり期待はしないでくれよ」


「ハハッ、了解了解っと」


「んじゃな。

 お前らの生活が良くなることを祈ってるぜ」



最後にそう告げ、

軽く手をあげるとプログは先陣を切って、

フロウの元を後にした。

可能な限り早く、エリフ大陸へ戻るため、

足早に立ち去って行く。



「フロウさん、色々とありがとうございました」


「もし機会があれば……。

 それでは、これで失礼致します」


「ああ、こちらこそ、ありがとう。

 帰路も気を付けてな」



続いて蒼音とアルトも、

フロウに対して多くを語ることなく、

プログの後を追う。

下手に言葉を装飾して、

4人の総意にそぐわない事を恐れたためだ。

必要最低限の礼儀を済ませ、

酒場に背を向けて歩いていく。


ただ1人、最後に残された格好となったレナ。

寝起きでいまだ回転が鈍い思考と戦いながら、



「んじゃ、そういうことで」



アルト達同様、差し障りのない言葉で、

その場を立ち去ろうとしたのだが。



「……」


「……?」



今までの3人は、

去り際に一言添えてくれていた、

フロウから特に何の返答、

リアクションもないことに違和感を覚え、

レナは何の気もなく、ふと後ろを振り返る。



「ん? ああ、わりい。

 とにかく気を付けて帰ってくれ」


「? どーもですっと。

 それじゃあね」



明らかにとってつけた様な、

悪く言えば適当な返事に、

レナは一瞬疑問符が頭を巡ったが、

特に気にすることもなく、

出会うのが最後かどうかも分からない、

暗黒物質の剣のリーダー、

フロウに別れを告げた。


かくしてレナ達は急ぎ、

エリフ大陸への帰路へとつくこととなる。





「レナ、とか言ってたか……」



一方、4人と別れ、

再び野郎達で騒がしい酒場へと戻ったフロウ。



「どうすんの?

 とりあえず、でいい?」



そんなフロウに対し、

レビリンはいつものように、

最初の一杯を用意するべく、声をかけた。



だが、



「いや、温かいお茶でいいわ」


「え?」



最初の一杯は度数の高いウイスキー、

と決まっているフロウの口から飛び出した言葉に、

レビリンは思わず目をパチパチさせている。


だが、フロウは構うことなく、

ノンアルコールドリンクをオーダーしただけで、

再び自分の世界へととじこもる。



「うーん……」



寝起きで正常に働かない思考を必死に回し、

フロウは自らの記憶内を旅する。


昨日、初対面時では気にも留めていなかった。

自らの理想、目標について語っていた時も、

自分のことで熱くなっていて、

一切考えてもいなかった。


だが今日、

プログと名乗っている男の後ろに、

そそくさと隠れた時、

フロウの中で、何かが引っかかった。


その光景を目にした瞬間、

脳内の過去記憶が、

なぜか刺激された気がしたのだ。



「レナ、レナ……」



それがなぜなのかを思い出すべく、

青年の中で引っかかった、

あの金髪少女の名を頼りに、脳を動かす。


だが、少なくとも今の彼には、

レナと言う名前と容姿と、

脳内記憶を結びつけることはできない。


不思議がるレビリンより差し出された、

約40℃に温まった、やや渋めのお茶をすすり、

フロウはポツリと、呟いた。



「どこかで会ったことが、

 ある気がするんだけどな……」


次回投稿予定→4/16 15:00頃

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ