どんな仕事だよ……?
……さん、斉藤さん、相当の肩こりだね。さっき腕を上げて肩を回していたけど、私の席まで聞こえてきたよ。肩の関節が鳴る音。ねっ、斉藤さんってば。
呼ばれたような気がした。ディスプレイから目を離し、椅子を回して右を向くと部長が立っていた。手にはマグカップを持っている。コーヒーの匂いが漂う。同時に、ヤニくさい臭いがずっとあたりに漂っていたことに気づいた。部長は喫煙ルームから出てきたばかりらしい。
「すごいね。骨が折れたんじゃないかと心配したよ」
「あ、どうもすみません。うるさかったですか」
心配したと言いつつ、実のところは気にくわないから静かにしろと言いたいんだろう。
「いやいや、そんなことはないけどね」
「そうですか」
そう言いながら肩を回す。クポッと鳴る。
「ははは。今度はかわいい音がしたね」
「すみません」
かわいいと言いつつ、バカにしているんだろう。ゴキッとは鳴らなかったから笑っていやがるんだな。
「いやいや」
部長は笑いながら席へ戻っていた。
すかさず、机上のミニ扇風機をつける。空気が流れはじめる。それでもコーヒーアロマとたばこと、そして部長の口臭の混合ガスはなかなか消えてくれない。ねっとりとしている。椅子に深く寄りかかり天井を見あげる。この白い天井に大きな換気扇をつけてほしい。そしてすべてを吸い上げていってほしいと想像しながら。
そうだ、ふと思いだして昼休みに散歩のついでに買ってきたミカンを取りだす。皮をむく。むいた皮を一枚、指先でしごく。鼻をすすりながら鼻の下に指を擦らせて果物の香りを鎧としてまとう。
そのまま、すうっと鼻から息を吸いこむ。少し気分が落ち着いた。またディスプレイに視線を戻し、意識を深く潜らせていく。
……
「ボキッ」
大きな音がしたような気がしてディスプレイから目を離すと、周りの同僚たちがこっちを見ていた。
「えっ? なに」
そういったとき、肩の激痛に気づいた。
おそるおそる右肩を見ると、肩の形がおかしい。ぼんやりとかすんだ視界の先の、床のカーペットの上になにかが落ちている。混乱した頭で、目の焦点を床の上のものに合わせていくと、そこには人の腕らしきものが見えた。そしてそれは、まるで生きているようにグネグネとうごめいているのだった。
……さん。斉藤さん。できた?
部長の声に目をあげる。
「あ、はい」
「どれどれ」
そういって部長はディスプレイを覗きこむ。
「なかなかおもしろいね。うごめく腕か。それいただき」
「あざーす」