序章 ―六月十二日―
「金髪ツインテールは最高だと思うんだ」
俺の机に身を乗り出し、真剣な声色で言ってきたのは、澤村とかいうらしいクラスメートらしい。
「誰だお前。警察呼ぶぞ」
「俺は澤村だ。忘れたか?」
冗談だよそれぐらい理解しろよ。なんつーか異様に苛つくぞそれ。
「で?その・・・・・・えっと、何。黒髪ポニーテールだったっけ?」
「金髪ツインテールだ。黒髪ポニーテールはお前の趣味だろ」
「うるせぇ。で、それが何?」
純和風清楚系が好みの俺としては、金髪ツインはいただけないんだが。
「おぅそれそれ、金髪ツイン。―――実はさ。最近買ったエロゲのヒロインの娘が金髪ツインでさぁ。しかも巨乳なわけよ」
エロゲて・・・・・・。こいつ真正の馬鹿だろ。
今俺達が存在している空間にはリア充っぽい奴らやビッチっぽい奴らやら―――は別にどうでもいいが―――とにかくクラスメートがいる。わんさかいる。ちなみに今日は六月十二日。現在時刻は午後一時。昼休みの真っ最中。食事時にする話題じゃないよね?
「お前なぁ・・・・・・。もうちっとは周りを気にしてくれ。な?」
俺の諭すような優しい言葉を聞いてもコイツは―――
「何を言う。エロゲラバーの俺にかかれば他人の奇異の目線などオーラで掻き消せる!」
ラバーってのは英単語のloverだよな。無理矢理和訳すると『エロゲ愛好家』になるからね。なにそれくだらない。
「で?黒髪ポニテの貧乳美少女がなんだって?」
「俺とほぼ真逆のこと言ってるなお前・・・・・・」
違う。お前が俺と真逆のことを言ってるんだ。というか趣味が真逆なんだよ。ラップしてるのは美少女のとこだけだ。
「そう思うんなら何故俺のところにわざわざ話に来るんだ?脳漿炸裂ボーイになりたいのか」
「そこまでお前に非難される謂れはねぇぞ」
どうやら気分を害してしまったようだ。ちょっち言いすぎたか・・・・・・。
「お前が俺の机の前に陣取り、公衆の面前で成人向けビジュアルノベルへの愛を叫んだ事実を、よもや忘れたわけではあるまいな?」
言いすぎたとしても悪いのはこいつだ。そういう場合は矛を収めないのが大切なことだと思うよ、うん。
キーンコーンカーンコーン
ちょうどキリの悪いところで昼休み終了五分前を告げるチャイムが鳴りやがった。日頃の行いが悪いからだろうか。あぁ、神様。自覚はあるので執行猶予つきでお願いします。
「おら。そろそろ自分の席に戻りな」
「ん?あぁ。じゃ、後でな」
軽く手を振って自席に戻る澤村を見送り、俺は五限目の英語の準備に取り掛かった。で、結局あいつは何が言いたかったの?
気がついたら、放課後だった。
「・・・・・・・・・・・・え?」
嘘だろオイ。まさか昼休み終了から今までずぅっと寝てたのかよ。つーか誰も起こしてくれねーのかよ。
携帯で現在時刻を確認。
PM17:38
うっそ〜ん。四時間近くも寝てたってこと!?
驚愕と自己嫌悪に身を委ねること数秒。あかね色に染まる坂ではなくて空が目に入り、現在時刻を思い出した。やばい、やばい、なんかやばい。
慌てて帰り支度を済ませ、教室を飛び出した。
「げっ・・・・・・」
校門を出て携帯を開くと、母親からの帰宅催促メールが四通も溜まっていた。こりゃぁ、帰ったら怒られるだろうなぁ・・・・・・。帰らなかったらもっと怒られるだろうけど。
母の愛情のこもったメールをロクに読まずに全て既読にし、携帯をポケットに突っ込んでチャリのペダルを思いっきり踏み切った。