背景の組織
逮捕したウクライナの女は口を割らなかった。俺は取り調べを仲間に任せて所持品を調べている部下のいる机に向かった。
「どうだ? 何か分かったか?」
部下はパソコンに向かいながら首を振った。「逮捕されたときを想定して行動してますね。スマホすら持ってません」
「持ってないなんてことがあるか?」
「考えられないですね。どこかに隠したんでしょう」
俺も同意見だ。だが見つかっていない。
俺は机から女のいる取調室の方を見て、また部下のパソコンに目を戻した。身分証は持っている。財布も持っている。だが中身は現金のみだ。そして押収した経口中絶薬。ここポーランドでは違法ではないが簡単に処方されるようなものではない。ウクライナの女が密輸犯なのは間違いなく、起訴して有罪にするだけの証拠はある。だがそこまでだ。裏のネットワークがまるで掴めない。
証言させるだけの証拠も取引材料もない。逮捕したウクライナ女は取り調べ中も覚悟ガンギマリの目でこちらを睨んでいた。説得は時間の無駄だろう。こそこそしているくせに自分が悪いことをしているとは思っていない。
「薬のルートは何か分かったか?」パッケージがフランス語なので遠くフランスから運ばれたものであることは分かっている。
部下は判明したことは淡々と説明した。しかし何も分かっていないということと、組織がおそらく大規模で広域なものであることという自明なことを論理的に説明しただけだった。
中絶したがるのはウクライナ人だけではない。地元ポーランド人にもいる。だがウクライナは元々中絶が合法だったので、うちの国の方が間違っていると思っている。
こんなところでその手の人権の議論をするつもりはない。俺は刑事だ。法を犯した者を捕まえるのが仕事だ。
「ドイツじゃなくわざわざフランスなんだな」俺は言った。
「ご存知とは思いますが、フランスの方が入手は簡単です」部下は言った。「ただ、さっきも言った通り直接は運ばれていません。おそらくドイツでも何度か中継されています。国内でも」
「国内の中継所が分かればな……」俺は顎に手をあてた。俺の目当ては国内のネットワークだ。こんな末端ではない。
そもそもで言うと人権の議論をする気はないといったがそこまで法の番人をやる気もない。こそこそ入手してこっそり当事者が使うだけなら俺も大目に見るつもりだ。ただこういうのは非合法な犯罪組織が背景にいて、グレーな金が真っ黒になることも多い。活動家どころか人身売買や児童売買が——妊娠中絶と組み合わせるのは簡単だ——繋がってしまうと見たくもない死体を見ることになる。
いまのところ車も女の持ち物で仕事は運送業。手詰まりだ。




