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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
9/12

008 八つ首の連携戦術

爆音が森を揺らした。

火球が霧を裂き、岩肌に炸裂。焦げた土の匂いが一気に立ち上る。


「っぶねぇ……!」


シュウユは滑るように転移し、爆心地から横へ退避。

〈短距離転移〉の滑走感覚がまだ足に残る。


着地と同時に、二本目の首が突撃してくる。

硬質な鱗に覆われた“鋼鱗蛇”。

回避よりも、制御を選ぶ。


「クラッチ!」


魔式〈ファントムクラッチ〉を展開。

左手から走る魔力の鎖が鋼鱗蛇の首を捕え、強引に引き寄せる。

そのまま別の頭に激突させ、反動で両者を弾き返す。


だが、次。

三本目――口元に紫の粘液を溜めた蛇が、静かに狙いを定めていた。


「毒か……!」


跳躍。

魔式〈空中歩行〉を使い、地面を離れて宙に浮く。

直後、地面に毒液が落ち、蒸気が一気に立ち昇った。


(属性ばらけすぎ……!)


火、鋼、毒――それぞれ異なる動き、異なる意図。

しかもそれらが、単発ではなく“連携して”襲ってくる。


(ランダムじゃねぇ。こいつら……連携してる。明確な分担がある)


目の前の巨大な敵は、八本の首がそれぞれ役割を持ち、戦闘パターンを構築していた。

単純なレイドボスではない。“戦術型の複合体”だった。


「マジで言ってんのかよ、これで擬似か?」


だけど、笑みが漏れる。


「いいね……遊び方が凝ってる」


火蛇が遠距離で牽制し、鋼鱗蛇が突撃でプレッシャーを与え、

毒蛇が狙撃のタイミングを探す。

残り五本も、きっと他のパターンを持っている。


(読み合いか……いいじゃねぇか)


シュウユは呼吸を整えた。


強さじゃない。

瞬間火力でも、ステータスでもない。


「“読む力”で上回る」


自分の位置を霧で隠す。

あえて動かず、相手の反応パターンを観察する。

火球のタイミング、突撃の角度、毒液の落下点――すべてが情報になる。


「八つの首。八つのロジック。

 なら……どこかに“綻び”がある」


シュウユは、小石を拾い、横に放った。


空中を弧を描いて落ちる――と同時に火蛇が反応し、火球を撃つ。


(やっぱり“熱”と“音”で反応してるな)


次に、自分が跳んだ軌道と似た岩を転がす。

毒蛇が首を伸ばした。こちらも視覚じゃなく、動きの“パターン”で動いている。


「これ、誘導できるな……!」


少しずつ、敵の仕組みが“読めてきた”。


最強にはなれない。

だけど、こうして“理解する力”があれば――勝てる。


「よし……そろそろ、仕掛けてやるか」


彼は霧の中に、一歩、踏み込んだ。


「――読み切った」


霧の中で、シュウユは静かに呟いた。


火球が飛んできた。

それに合わせて、〈短距離転移〉。


横に“滑るような”動きで回避しつつ、着地と同時に地面へ小石を落とす。

その石がわずかな音を立てると、毒蛇が反応。首を振り向ける。


(視覚よりもパターン認識と反応速度のルーチンか)


火は声や熱に反応し、毒は軌道と位置、鋼は接近圧力に反応してくる。


「いいね、そういう情報。全部、使える」


彼は手の中で何かを握ったまま、次の行動へ移る。


「――1枚目、設置」


魔式〈短距離転移〉を“意図的に中断”し、転移座標だけを残す。

その場に、薄い魔力の痕跡がふわりと漂う。


「2枚目、設置」


反対側の岩陰へ転移。そこでもう一度、座標を置く。

空間に5点の“痕跡”が浮かぶ。魔式連携の準備。


(あいつらが気づいてないうちに、“動線”を作る)


この世界の魔式は、条件さえ揃えば即興連携が可能。

その起点を、彼はフィールド上に静かに配置していく。


「テンプレ構成じゃ無理でも、面白く組めば突破口は作れる」


霧の向こうで、八つの首がうねる。

鋼鱗が突進し、火蛇が咆哮し、毒蛇が飛びかかってくる。


彼はすべてを“読む”。


跳び、滑り、潜り、引き寄せ、ずらす。

〈疾翔〉で間合いを制し、〈ファントムクラッチ〉で向きを狂わせる。


そして、5つ目の座標を空中に残した瞬間――


「OK。そろった」


魔式連携起動。


〈五連転移魔式・星陣〉

彼を中心に、五点を結ぶ魔力の網が発動する。


「――開始!」


風を裂くように身体が“消えなかった”。


「……っ、あ?」


魔式が遅れた。

発動はしたが、数フレーム遅れて筋肉に伝達。

タイミングがズレて、姿勢が崩れる。


(くそ、TECのせいか……!)


この世界では、TECが低いと“魔式の発動制御が荒れる”。

いままではなんとかなっていたが、連携魔式の中で初めて“事故”が顔を出した。


間一髪、〈ファントムクラッチ〉で鋼鱗を引き寄せ、盾にして命を繋ぐ。


「……ハハ、上等。ミスも含めて“俺のスタイル”だろ」


再度魔式を発動する。


1、2、3、4、5――点を滑るように高速転移しながら、すべての頭部に一撃ずつを浴びせていく。


斬撃ではない。

魔力の爆発、毒への封じ、硬質鱗への内部衝撃。

すべてが、“読み”によって成立した遊撃攻撃。


「どうだ、これが“俺のやり方”だ!」


最後の一撃で、毒蛇の首が爆発的に跳ね上がり、谷の壁へ激突。

残りの首たちが混乱し、制御のバランスを崩す。


(今だ)


シュウユは地面に降り立ち、深く息をつく。


強くなったわけじゃない。

最適解にたどり着いたわけでもない。


だが――“面白い選択肢”を選び続けて、ここまで来た。


「俺は最強じゃない。でも……これが、最高の一手だったってことだろ」


そして、谷の奥へ向けて、剣を構え直す。


霧の中、まだ一つ――最も硬く、最も賢い“核の頭”が、彼をじっと見ていた。



お読み頂き誠にありがとうございます。

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