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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
8/39

007 裏道は、たいてい正解より面白い

「……あれが町か、シェルファ」


森の隙間から建物の屋根がのぞく。人の気配。規則正しい物音。

ようやくたどり着いた拠点を前に、シュウユは一歩も動かなかった。


代わりに、町とは逆の方向――

深く、濃く、霧の滲む森の奥へと目を向ける。


(こっちの空気……変だ)


草の匂いが希薄になり、風が止まっている。

木々の葉も揺れず、ただ霧だけがじっと地面にまとわりついていた。


「……行ってみるか。面白そうだし」


言い訳にもならない独り言をつぶやいて、足を踏み出す。

岩混じりの地面を下り、森の底へ。


しばらく進むと、空気が明らかに重くなる。

耳鳴りのような感覚。肌の上を流れる、微かな緊張。

直感が告げる。ここは“戦場”になる場所だ。


やがて視界が開け、谷に出た。


濃霧の中、静かに蠢く巨大な影。


「……おいおい」


それは谷をまたぐように身体を横たえ、眠っていた。

鱗に覆われた長い胴体。八本の太い首が、それぞれ違う方向を向いて揺れている。


画面に浮かぶ、赤い表示。


《擬似小八岐大蛇》


ただのモンスターではない。

この場所を守る“門番”のような存在。


「このサイズで“擬似小”って……本物どんだけ化け物なんだよ」


脅威のスケールに息を呑みながらも、シュウユの顔には笑みが浮かんでいた。


(あのまま町に行けば、安全に物語は進んでた。でも……それじゃ面白くない)


攻略の効率や正解ルートなんて知らない。

知らなくていい。

自分が“遊びたい”と思った方向に進む。それが彼のスタイルだ。


崖の上、太い枝に腰掛ける。

霧の谷と、その奥に眠る巨大な敵をじっと見下ろした。


「八つの首……属性違いで連携型か。大味に見えて、たぶん一番いやなタイプだな」


軽く手を振り、風の流れを確かめる。

霧の動き、鱗の配置、首の長さ――

一つひとつを頭の中でマッピングしていく。


〈短距離転移〉

〈熱源消失〉

〈ファントムクラッチ〉


自分の持つ魔式をどう活かすか。

力押しは通じない。ならば、知恵で遊ぶ。


「最強なんて目指してねぇ。

 でも――この遊び方なら、誰にも負ける気がしない」


彼はゆっくりと立ち上がり、足を鳴らした。


霧がざわめく。

気配が変わる。


戦いは、まだ始まってもいない。


けれど、彼の中ではすでに“最高”の時間が始まりつつあった。


枝を蹴り、空を裂くようにシュウユが落ちていく。


風を切りながら、魔式〈身体強化〉を展開。

筋力と反応速度を瞬間的に引き上げ、着地の衝撃をいなす。


谷底に足がついた瞬間、続けざまに魔式〈熱源消失〉を起動。


「……よし、これでこっちの位置は見えない」


自身の体温を霧に溶かす。

熱感知型の敵に対して、気配を“消す”最初の布石。


視界の奥――八本の首のうち、一本が微かに動いた。

だが、それだけ。反応は鈍い。


(完全には起きてない……なら、一撃分は稼げる)


しゃがみ込むようにして接近。


鱗の間を視線でなぞりながら、最も狙いやすそうな首元へ。


「おはよう。起きるにはいい時間だろ?」


囁くように言いながら、剣を振るう。


ガギッ!


感触は硬い石。斬撃は弾かれ、肩に衝撃が返ってくる。


「くっそ……やっぱ、装甲かてぇな」


すぐに〈疾翔〉を起動。

背後へ跳ねるように回避し、距離を取る。


(斬っても通らないなら、ひと工夫いれるしかない)


霧の中、頭を低くしながら〈ファントムクラッチ〉を展開。

半透明の魔力が、近くの頭部を絡め取る。


「来い」


ぐいっと引き寄せ、別の首と激突させる。


ゴッ、と鈍い音が鳴り、二本の首が軽く絡まる。


この一撃が、眠っていた残りの首たちに“刺激”を与えた。


霧の奥で、順に持ち上がる巨大な影。

火球を蓄える頭、鋼の鱗を軋ませる頭、長く伸びて毒液を垂らす頭。


「八本全部、違うタイプか……!」


攻撃は来る。嵐のように。


最初に火球が放たれる。

瞬時に転移魔式で横に滑るように抜け、地面が爆ぜる炎をギリギリで避ける。


すぐさま突っ込んできた鋼の頭を、クラッチで絡め取り、方向を逸らす。


(こいつら……“連携してる”。模造品のくせに、連携精度がバカ高い)


視界のすべてが脅威。

一手間違えば即死。それでも――彼は笑っていた。


「いいね……“最強”じゃなくても、この遊びはできるんだよ」


剣を握る手が震えている。

でもそれは、恐怖じゃない。興奮。熱狂。


「さあ、“最高の戦い”を始めようか!」

お読み頂き誠にありがとうございます。

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