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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
39/39

038 雷と風、その先へ

大変申し訳ありません、課題が忙しく週2投稿が最大でできる本数です。

全力を尽くして早急に新しい話を書くので是非ともお待ちください!


——空が、吠えていた。


《疾風杯》本戦ステージ1、《アークゲイル・インパクト》。

20名の予選通過者を迎え撃つ舞台は、天空に浮かぶ断崖の連なり。

乱層雲の上、雷の稲妻を従えながら、刻一刻と風圧がその姿を変える“生きた空”。


その中央、スタートプラットフォーム。

地面はない。足元には、どこまでも続く蒼穹と落下死の底。


「これは……」


創零が思わず見上げた。


コース全体がひとつの魔導機構として設計されており、

ギミック《スカイジェットライン》が、数秒ごとにルート上を吹き抜ける。


それは突風ではない。

チャリオットごとプレイヤーを吹き飛ばす魔導流圧。


「……シュウユ。大丈夫?」


「大丈夫だ」


チャリオットが、最前列左端に位置づけられている。

そのすぐ隣には、ザルガ・グリントの《ヴァン・ブロウ》。

赤と黒。雷と風。

そして——その背後。

他の18名の通過者たちも、各々のマシンに乗り込み、準備を整えていた。


魔剣を搭載した重装型。

飛行用骨格を露出させたスケルトン機。


「……混戦になる。ルート取りを間違えたら、それだけで脱落する」


創零が、シュウユの横で告げる。


「わかってる。だから最初で“位置”を取る」


その時、空中モニターに全体アナウンスが走った。


【本戦ステージ1:アークゲイル・インパクト】


・20名同時出走

・3ラップ制

・ラップ通過順位によりポイント加算(1位:10pt/2位:9pt/…10位:1pt)

・最終合計ポイント上位10名がステージ2進出

・中途脱落=即敗退


ギミック情報:


①《スカイジェットライン》

:一定周期で高空から吹き下ろす超加速風。ルート選択ミス=転落死。


②《インパルス・フロア》

:特定床に魔導爆風。踏んだ瞬間に高スピード、ただしブレーキ不能時間あり。


③《ルーレット・パス》

:周回ごとにルート分岐がランダムに入れ替わる。記憶に頼れない。



20。

19。

18……。


プラットフォームに、魔導浮遊陣の圧が走る。

各マシンが機体をわずかに浮かせ、出走準備に入る。


創零の指先が震える。


「……最初のジェットライン、タイミングがギリギリ。

 通常ルートの初期起動より、先に風が来る。巻き込まれたら吹き飛ぶよ」


「なら、“風に突っ込む”」


「……やっぱりそう言うと思った」


カウント——


5。

4。

3。

2。


風が、咆哮する。


1。


——スタート。


轟音とともに、20台のチャリオットが空へと解き放たれる。

出遅れた者、最初から“避けに行った”者、無策で吹き飛ばされた者——その中で、


雷脚が——飛ぶ。


風の壁を正面から突破。

風圧で浮き上がるどころか、それを“蹴り足場にする”ようにして、跳ねる。


「重心反転、成功。——次、風流右旋。タイミング合わせて」


「任せろ」


創零が叫び、シュウユが舵を切る。


風が軌道を捻る。

コースが揺れる。


そして——チャリオットは、その風の中を突き抜けていた。


「スカイジェットライン、最初の波を超えた!

 ……って、何台かもう消えたぞ!!」


「8位まで、接戦! トップは、赤い……あれ、《ヴァン・ブロウ》か!?

 いや、その横に——雷の……チャリオットが並んでる!!!」


最初の激流を超えた空に、赤と黒、二つの閃光が並び立つ。


風と雷が、今まさに、空を裂いていた。


高空の中空を、二筋の光が並走していた。


一つは赤き爆風、《風王》の名を冠するチャリオット《ヴァン・ブロウ》。

もう一つは雷と魔獣の骨を編んだ異形。


「……並んでる。あのザルガと並んでるよ!」


観客席の声が震える。

レース開始から十数秒、すでに少数が脱落・大幅後退する中、

トップを走るのは予選1位と2位——だがその差は、まさに“紙一重”。


「次、《インパルス・フロア》、来るよ!」


創零の声と同時に、ルート上に魔導陣が展開される。


第二ギミック——《インパルス・フロア》。

その床に触れた瞬間、強制的に加速が発動する。

同時に“ブレーキ不能時間”に突入。

制御に失敗すれば、即、コース外へと吹き飛ばされる危険なギミックだ。


「どうする、避ける?」


「いや、踏む」


「了解。制御フォロー入れる——3、2、1、今ッ!」


魔導床を踏み抜く。

瞬間、雷光のような直進加速。


だが、ブレーキが効かない。

進路上には跳躍ギャップがある。


「間に合わない——いや、まだいける!」


シュウユが舵を跳ね上げ、機体後部をわずかに傾ける。

創零が即座にバランス制御を補正し、機体はギリギリで跳躍エリアに突入。


「うおおおおっ!?」


「機体ごと……!!」


対する《ヴァン・ブロウ》は加速床を避け、正確にインコースを抜ける。

風を味方につけるかのように、滑らかな曲線を描いて旋回。


「……くっ、差が詰まった……けど、まだ並走してる!」


「シュウユ、そろそろ《ルーレット・パス》が来る!」


三つ目のギミックが作動する。


《ルーレット・パス》。

ルートが分岐し、左右・上下の選択肢が“ランダム”で変化する。

コースの記憶は通用しない。選ばれるルート次第で、運命すら変わる。


「分岐……右上に変化した!」


「押し上げる!」


進路が突然、右上空の高層ラインへと変化する。

だがそこは、通常の推進では届かない位置——


「行けるの!?」


「跳ねるぞ!」


前の加速を“殺さず”に、角度だけを変える。

創零が跳躍補助を全解放。

シュウユが重心ごと“斜めに捻じる”ことで、チャリオットが上空に弾けた。


「マジかよ……無理矢理ルートに“届かせた”ぞ!?」


一方、他のチャリオットたちは——


「うわっ、ルート消えた!?」


「俺のとこ、下に変わった!? おいおい、さっきと全然違うじゃん!!」


「選べるって言ってたじゃねえか! 違う! 選ばされてる!!」


混乱、衝突、落下、スピン。


あちこちでチャリオットが姿勢を崩し、コース外に弾かれていく。


「第1ラップ終了時点! 現在の通過順位——!」

1位:ザルガ・グリント

2位:シュウユ

3位:ミルナ・セロス

4位:アール・セイグリフ

5位:レイヴン=M=ホーク

6位:カレン・フィーネス

7位:ディーノ・マクラッジ

8位:ギルドーラ・バルメス

9位:ロキ・ツヴァイネ

10位:フェリス・ノアール


「いや、あの走り……“引き出してない”だけだ。まだ何かある」


ザルガが、コックピット越しに呟く。


「来るなら、来い。“本気”でな」


その頃、観覧席の最上段——だが、登録されていない位置。

風圧の届かぬ特等席に、一人の人物が腰を下ろしていた。


銀のフード。その顔ははっきりとは見えない。

手にした端末には、レース映像ではなく、コースデータの構造解析が映し出されていた。


「……ふむ。変わっていないな。構成ブロック、浮遊バランス、魔導供給率……全部、当時のままか」


その口調は穏やかだが、どこかズレていた。

まるで“プレイヤー”の言葉ではない。


彼の目は、地形のどこかではなく——“このステージが使われること自体”に注目していた。


「初めて参加するけどさ。……このコース、“壊れてない”んだよね。

 よかった」


誰に語るでもない独白。


彼は目の前のレースを一瞥しただけで、ふたたび視線を落とす。

手元には、古びた金属片のような何かが握られていた。


それは端末でも、武器でもない。

けれど——ときおり、淡い魔光を宿して脈動している。


「……やっぱり、起動しないか。まあ、いいけど」


ぽつりとこぼす。


彼の目は、遠くの空の一点を捉えていた。

スタジアムの真上、誰も視界に入れていない“空の裂け目”。


表示も、ガイドもない。

ただの装飾、ただの空白——そう“思わされている”だけの領域。


「見えてないんじゃなくて、“見させられてない”。

 ……いつもそうだな、ここは」


彼の声には苛立ちも誇りもなかった。

ただ、確認するように言う。まるで旧友に語りかけるように。


「使えるなら使う。使えないなら、探すだけだ。

 ——それだけのこと」


フードの影で、彼はごくわずかに微笑んだ。


そして静かに、手のひらの金属片を空に向けて翳す。

風が微かにうねった。誰にも届かない場所で、小さな波が生まれた。


まだ誰も気づいていない。


だが、確かにそこには存在する。


「残ってるなら、誰かが“使いきって”やらないと、もったいないからね」


レースの外側。

ルールの外側。

——世界の隙間。


彼が見ているのは、勝敗じゃない。


“まだ誰も手をつけていないもの”だけだ。

お読み頂き誠にありがとうございます。

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