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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
38/39

037 本戦の幕開けへ

「《疾風杯》、予選ラウンド第二ブロック——


 空中ルート《空骸回廊〈セレス・レリクス〉》でのタイムトライアル、まもなく開始ですッ!」


天高く敷かれた空骸回廊に、新たなチャリオットが並ぶ。


コースは先ほどと同じだが、ギミック配置はランダムで変更される。


「このブロックにはあのザルガ・グリントがいます。走りに期待ですね!」


その名が読み上げられた瞬間、観客席の熱が一段階跳ね上がる。


ザルガの愛機ヴァン・ブロウが、赤黒の風切り音と共にスタート台へと進む。

外見は流線型のシンプルなフォルムだが、ボディの内圧がまるで獣のように脈打っていた。


「お手並み拝見、だな」


シュウユは静かに見つめていた。

創零も、その目にわずかな興味を宿していた。


スタートの合図。

次の瞬間——


風が割れた。


《ヴァン・ブロウ》が、見えない加速でスタートを切る。

床を砕くような圧で、加速区間を一気に突破。


初手の浮遊ギミックを、すべて“跳ばずに走る”という暴挙。

風を斬るのではなく、空間ごと押し倒して走っているような挙動だった。


「なにあれ!?」


「っていうか……跳ねずに滑走って、どんなトリック使って……」


直前でハンドルを一度“切り損ねた”ように見せかけ、

マシン全体をスピンさせながら後輪だけを足場に当て、逆方向に跳躍。


そこからのスライド着地。


「うわ……まじか、今の……ッ!」


「芸術点フルマークだろ、あれ!!」


そして、誰も予想しなかった角度から最終ストレートへ突入。

タイムは0:50.07。


「ブロックB、トップ記録更新! ザルガ・グリント、予選暫定1位です!!」


空気が一瞬、ピンと張り詰める。

それを破るように、ザルガがスロープを戻りながら、シュウユへと目線を向ける。


言葉はない。ただ、にやりと笑った。


シュウユも、小さく口の端を上げる。


「……面白いじゃねえか」


予選ブロック3、4、5……

続々と出走していくチャリオットたちが、空骸回廊に刻まれていく。


「通過者、これで20名が確定……!」


運営NPCが通過リストを展開する。

名前と順位は画面上に表示された。


【予選上位順位】

1位:ザルガ・グリント(0:50.07)

2位:シュウユ(0:51.84)

3位:アール・セイグリフ(0:54.19)

4位:レイヴン=M=ホーク(0:54.56)

5位:ミルナ・セロス(0:54.71)

20位:ラコル・ナイツ(0:57.42)




「トップの風王爆走連に続いて……2位、やっぱあの獣みたいなマシンか」


「ほぼ差がないな。1秒ちょっとだぞ?」


「むしろ“余力ありそう感”あったのが怖い」


 観客席の声が、ざわめきから熱を帯びていく。


「なあ、あの2位のやつさ、なんか普通に走ってただけじゃなかった?」


「アレ、“ミスがゼロ”だったよ。えぐいから」


 一方、予選通過者の控室エリア。


 シュウユと創零は、テーブルに資料を広げながら最終確認をしていた。


「次は……ギミック追加型の多段構成。乱戦もある、らしい」


「障害物競走、ってことか」


 それを背中越しに聞いた誰かが、小さく笑った。


「やっと本番ってわけだ」


 声の主は、ザルガだった。

 グラス片手に、隣のテーブルに腰を下ろす。


「別に目立つつもりはなかったんだけどな」


「目立ったやつが速けりゃ、それでいいんだよ」


 モニターに次の予告が浮かび上がる。


【本戦ステージ1:アークゲイル・インパクト】


ギミック①《スカイジェットライン》

 :高空域からの連続強制加速風流。方向ミス=コースアウトの危険あり。


ギミック②《インパルス・フロア》

 :魔導式床ブースト。踏んだ瞬間に爆発的加速+制御難化。


ギミック③《ルーレット・パス》

 :分岐路でルート選択が毎周ランダムで変化。ギャンブル性高め。


レース形式:20名同時走行/3ラップ制/順位ポイント方式

 ※上位10名がステージ2へ進出


「……風の中で速いだけじゃ、終われないな」


 シュウユがつぶやいた。


「だな。ここからが、“レース”だ」


お読み頂き誠にありがとうございます。

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