037 本戦の幕開けへ
「《疾風杯》、予選ラウンド第二ブロック——
空中ルート《空骸回廊〈セレス・レリクス〉》でのタイムトライアル、まもなく開始ですッ!」
天高く敷かれた空骸回廊に、新たなチャリオットが並ぶ。
コースは先ほどと同じだが、ギミック配置はランダムで変更される。
「このブロックにはあのザルガ・グリントがいます。走りに期待ですね!」
その名が読み上げられた瞬間、観客席の熱が一段階跳ね上がる。
ザルガの愛機が、赤黒の風切り音と共にスタート台へと進む。
外見は流線型のシンプルなフォルムだが、ボディの内圧がまるで獣のように脈打っていた。
「お手並み拝見、だな」
シュウユは静かに見つめていた。
創零も、その目にわずかな興味を宿していた。
スタートの合図。
次の瞬間——
風が割れた。
《ヴァン・ブロウ》が、見えない加速でスタートを切る。
床を砕くような圧で、加速区間を一気に突破。
初手の浮遊ギミックを、すべて“跳ばずに走る”という暴挙。
風を斬るのではなく、空間ごと押し倒して走っているような挙動だった。
「なにあれ!?」
「っていうか……跳ねずに滑走って、どんなトリック使って……」
直前でハンドルを一度“切り損ねた”ように見せかけ、
マシン全体をスピンさせながら後輪だけを足場に当て、逆方向に跳躍。
そこからのスライド着地。
「うわ……まじか、今の……ッ!」
「芸術点フルマークだろ、あれ!!」
そして、誰も予想しなかった角度から最終ストレートへ突入。
タイムは0:50.07。
「ブロックB、トップ記録更新! ザルガ・グリント、予選暫定1位です!!」
空気が一瞬、ピンと張り詰める。
それを破るように、ザルガがスロープを戻りながら、シュウユへと目線を向ける。
言葉はない。ただ、にやりと笑った。
シュウユも、小さく口の端を上げる。
「……面白いじゃねえか」
予選ブロック3、4、5……
続々と出走していくチャリオットたちが、空骸回廊に刻まれていく。
「通過者、これで20名が確定……!」
運営NPCが通過リストを展開する。
名前と順位は画面上に表示された。
【予選上位順位】
1位:ザルガ・グリント(0:50.07)
2位:シュウユ(0:51.84)
3位:アール・セイグリフ(0:54.19)
4位:レイヴン=M=ホーク(0:54.56)
5位:ミルナ・セロス(0:54.71)
…
20位:ラコル・ナイツ(0:57.42)
「トップの風王爆走連に続いて……2位、やっぱあの獣みたいなマシンか」
「ほぼ差がないな。1秒ちょっとだぞ?」
「むしろ“余力ありそう感”あったのが怖い」
観客席の声が、ざわめきから熱を帯びていく。
「なあ、あの2位のやつさ、なんか普通に走ってただけじゃなかった?」
「アレ、“ミスがゼロ”だったよ。えぐいから」
一方、予選通過者の控室エリア。
シュウユと創零は、テーブルに資料を広げながら最終確認をしていた。
「次は……ギミック追加型の多段構成。乱戦もある、らしい」
「障害物競走、ってことか」
それを背中越しに聞いた誰かが、小さく笑った。
「やっと本番ってわけだ」
声の主は、ザルガだった。
グラス片手に、隣のテーブルに腰を下ろす。
「別に目立つつもりはなかったんだけどな」
「目立ったやつが速けりゃ、それでいいんだよ」
モニターに次の予告が浮かび上がる。
【本戦ステージ1:アークゲイル・インパクト】
ギミック①《スカイジェットライン》
:高空域からの連続強制加速風流。方向ミス=コースアウトの危険あり。
ギミック②《インパルス・フロア》
:魔導式床ブースト。踏んだ瞬間に爆発的加速+制御難化。
ギミック③《ルーレット・パス》
:分岐路でルート選択が毎周ランダムで変化。ギャンブル性高め。
レース形式:20名同時走行/3ラップ制/順位ポイント方式
※上位10名がステージ2へ進出
「……風の中で速いだけじゃ、終われないな」
シュウユがつぶやいた。
「だな。ここからが、“レース”だ」
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