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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
36/39

035 疾風杯:前哨の轟雷

すみません、寝てて投稿し忘れていました。

特設された広場一帯には、既に数百人を超えるプレイヤーが集まりつつあった。

観戦エリア、整備区画、走行待機ライン、屋台や出店までが連動する一大フェスのような賑わい。

空には巨大スクリーンが設置され、各チャリオットの走行映像や速度データが映し出されている。


だが、その熱狂の只中——プレイヤーたちの視線は、ある一点に集中していた。


《スパナ工房》、フィールドの隅に設けられた小さな整備ガレージ。

その屋外リフトの上には、一台のチャリオットが、まるで静かな獣のように待機していた。


「……見ろよ、アレ」


「うわ……後輪の構造、あれ雷獣の背骨フレームじゃないか?」


「ちょ、ちょっと待て、前部展開部……あれって印核型の循環路!?」


「いやいや、印核なんて安定すらしてねぇ理論だぞ……生身で扱う奴、初めて見たわ」


プレイヤーたちが息を呑むのも無理はない。

そのマシンは、既存の量産型チャリオットとは全く異質だった。


黒鉄の外装に編み込まれた雷晶のライン。

フロントは生物的でありながら、鋭利な装甲によって強引に抑え込まれている。

背面には四肢のような可動パーツが複雑に折り重なり、時折、パルスのような脈動を放つ。


まるで——封じられた異形の召喚獣。


「いやもうマシンじゃねぇだろ……あれ、“兵装”だよ」


誰からともなく湧き上がる、畏怖混じりのどよめき。


そこへ、風を裂いて現れたのは、赤黒の魔導バイクに跨る男。


バイクのエンジン音が止んだとき、周囲のざわつきも自然と静まった。


男は、赤黒のバイカージャケットに身を包み、その背には風と雷を象った爆炎のエンブレム。

《風王爆走連》。爆音系ギルドの頂点に君臨する、伝説的な存在。


ザルガ・グリント——《疾風杯》のコースレコード保持者にして、生粋の“走り屋”だった。


「……何だよ、アレは」


男は、咥え煙管をくゆらせながら、マシンをじっと見つめた。


「雷獣と軍用兵器でも混ぜたのか? ……いや、ちげぇな。もっと性質が悪い」


低く、だが通る声で呟くと、周囲の空気が一気に張り詰めた。


「初参加か。……悪いことは言わねぇ。

 そんなモンで出たら、ぶっ壊れるぞ。お前らが、な」


挑発でも侮辱でもない。

淡々と、ただ“真実”としての警告だった。


「……あれ、ザルガじゃね?」


「マジで本人……!?」


「このコース、非公式の頃からデータ採って走ってたって噂……」


「運営より先に最短ルート見つけた奴だぞ……」


「そもそも《疾風杯》って名前、ザルガの案だったって説もある」


プレイヤーたちが騒然とする中、シュウユは無言のままマシンに背を向け、パネルを確認していた。


その横では、創零が装甲の下に手を差し込み、コアユニットに直接魔力供給ラインを接続していた。


「供給ライン、全系統安定。変形展開部、ロック。……跳躍ギミック、隠蔽処理済み」


「変形ギミックは最後まで隠す。でなきゃ意味がない」


「わかってる。あとは、君の“感覚”だけだよ」


そう——このチャリオットは、まだ一度も“全開”で走ったことがない。

この試走が、初の実走テストであり、同時に《疾風杯》の戦端を開く“咆哮”になる。


やがて、運営NPCのアナウンスが響く。


「エントリーNo.17、走行準備完了。リフト、降ろします!」


油圧音が響く中、巨大なマシンがゆっくりと地面へと降ろされていく。


——そのとき。


シュウユがハンドルを握り、コア接続を確立させた瞬間。

機体の中心部から雷晶が一閃、光とともに内部構造が起動する。


「雷脈、通電完了。全関節、可動圏内」


「いくぞ、創零」


「うん。“本気”の始まりだ」


地を蹴った瞬間、爆雷のような轟音とともにマシンが駆け出した。


重そうな外見とは裏腹に、滑空するような加速。

圧倒的なトルクと低重心設計が、地面に食い込むような走行を生み出していた。


「……な、なんだあれ……!」


「速い……ってか、コーナーで減速してねぇぞ!?」


「無理矢理曲げてる……重心移動とブレーキ制御が……生き物みてぇだ!」


叫びと歓声、驚嘆と沈黙が交錯する。

それは単なる“試走”ではなかった。


すでにその時点で——規格外の異物が、この大会に現れたという“警告”だった。


重低音と雷鳴の余韻が、試走エリアの空気にまだ残っていた。


走行終了のアナウンスが鳴り響き、雷紋を灯したチャリオットが再びリフトへと戻る。

その機体には、走行中に削れた魔晶片が微かにこびりついていた。

ボディ表面には焼けたような痕跡、フロント側の装甲には細かいひび。

"本気を出した"証だった。


「……ふう。副ブレーキ、利きすぎてた。感圧値、次は1.2落とす」


コクピットを降りたシュウユが、淡々とチェック項目を口にする。


創零もリフトの下からパネルを覗き込み、整備ログを確認していた。


「了解。エネルギー配分、跳躍機構に偏ってる。次の本戦前にリチューニングする」


「あと、魔導転写回路。中域で少し干渉してたな……音響系、殺しておいて正解だった」


二人は無駄な言葉を交わさない。

必要な調整だけを、手際よく、的確に。


彼らにとってこれは“勝ち負け”以前の問題だった。

このマシンを、どうすれば“自分たちらしく”走らせられるか——ただ、それだけだ。


そのやり取りを、観客席から見ていたプレイヤーたちは、言葉を失っていた。


「な、なんだあれ……いまの」


「“試走”だよな? 本戦じゃなくて……」


「制御、完璧すぎる。たぶんあれ、足回りが完全に個別駆動だ」


「通常の魔導制御じゃ、あんなギリギリで曲がれない」


「つーか、あの加速……雷式エンジンでも、あそこまで出せるのかよ……」


次第に、プレイヤーたちの囁きは驚きから畏敬へと変わっていく。


あの機体は、“普通”じゃない。

そして、それを操る彼らもまた——“普通”じゃない。


そこへ、再び風を割くようにして現れたのはザルガだった。

一度は立ち去ったはずの彼が、いつの間にか再び広場に戻っていた。


だがその目には、先ほどまでの薄笑いはなかった。


「見せてもらったぜ……実力ってやつをよ」


煙管をふかしながら、ザルガはマシンに歩み寄ってくる。

彼の一歩ごとに、周囲の空気がピリついた。


「ちょっと“走った”だけで、あんだけ焦げ臭ぇってことはよ……

 抑えきれてねぇな、“本性”」


「……ああ。お前の言うとおりだ」


シュウユは機体から顔を上げ、ザルガをまっすぐ見た。


「まだ全部は“見せてない”」


その言葉に、広場の温度が一気に下がる。


沈黙の中、ザルガがニッと笑った。


「そうかい。だったら——」


一瞬で間合いを詰め、彼はシュウユの胸元に魔導タッチパネルを突きつけた。

画面には、光る文字。


《フリーラン対戦申請:ザルガ・グリント》


広場が沸騰した。


「う、うわっ……ザルガが、直接!?」


「なにそれヤバいって! 予選前に潰す気かよ!」


「ていうか、こっちまだ初参加だぞ!?」


だが、シュウユは目を逸らさなかった。


「……悪いが、今は調整中だ。

 本戦で会おう。“本気”でな」


「ふっ、いい目だ。ま、俺も……まだ“本気”出してねぇけどな」


煙管を指先で払うと、ザルガは踵を返した。


「覚えとけ、《風王爆走連》ってのはな、

 “規格内で最速”なんじゃねぇ。“規格外を制す”ためにある」


その背に、ざわめきが広がる。


だが、それを上回る形で、シュウユの言葉が刺さった。


一瞬、ザルガが足を止め、肩が揺れた。


「期待してるぜ、“新人”」


彼が去った後も、広場の緊張は解けなかった。

誰もが心に刻んだのだ——この大会に、何かが“起ころうとしている”ことを。


未だ走っていないマシン。

未だ見せていない変形機構。

未だ開かれていない全開領域。


“疾風杯”は、まだ幕が上がったばかりだった。

お読み頂き誠にありがとうございます。

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