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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
31/39

030 欠けた世界の、その先で

すみません、予定より遅れてしまいました

爆音が塔内に轟いた。


「っち、硬ぇな……!」


「……制御コードなしで、動いてる。自律稼働?」


創零が端末を見ながら呻く。表示されたコードは、現行のNeoEdenの基準に合わない構造で書かれていた。


シュウユは〈短距離転移〉で飛び回りながら敵の挙動を観察する。

通常のAIではありえないほど“予測不能”な動き。だが、どこか“パターン”を探っているようにも見える。


(適応型……? いや、まるで“戦いを記録しながら進化している”みてぇな……)


敵の腕部から飛来する光条を回避しつつ、〈ファントムクラッチ〉を使って崩れかけた支柱を引き倒し、遮蔽を作る。


「創零、何かわかったか!?」


「まだ……だけど、ログファイルの断片がいくつか見つかった」


塔の中枢に埋め込まれていた古い中継端末――そこから、ほんの数行の記録が再生された。


《記録:観測対象・超越個体003「グラズ=ハウト」》

《記録:意志の階層干渉テスト・失敗》


「……“グラズ=ハウト”って、名前?」


創零が目を見開く。

それは、現在確認されている“八大超越者”のうち、第三位とされる存在の名だった。


「ここ……八大超越者のテスト施設だった可能性がある」


「ってことは、こいつ……その試作機とかかよ!」


警告音。人型兵器背部ユニットが展開し、複数の無人戦闘ドローンが展開される。

シュウユは一歩後退し、瞬時に行動を切り替える。


「面白ぇじゃねぇか……!」


回避の最中に、あらかじめ設置しておいた〈転位陣〉が起動する。

空間の一点に固定された魔力座標が、敵の脚部を一瞬浮かせた。


「創零、今だ!」


「――了解!」

だがそれと同時に、敵の動作が急激に変化する。


敵機の背部コアが朱に脈動し、瞬時に全身へ神経網のような光が走った。

――パターン解析、完了。

次の瞬間、ドローン群が塔内の死角を計算しつくした航路で襲いかかってきた。


「うおっ、動きが一段階上がった!」


 〈短距離転移〉で頭上へ抜けるも、位置を割り出され、レーザーが軌道をなぞる。シュウユはぎりぎりで壁面を蹴り、転位陣二つを連結――虚空に踏み出すように反転し、敵の銃口を外させた。


しかし本体は逃さない。肘のユニットが分裂し、鎖状ビームが迂回してくる。

「創零、抑えが利かねぇ! 何か手は――」

「コアにたぶん、そこを上書きできれば制御奪取が――」

「要は殴り込みってわけだな!」


シュウユは残った転位陣を敵脚部へ強制転写。転送先を、崩落しかけた床下の空洞に設定する。

――グシャリ。

脚がめり込み、一瞬バランスを失った本体へ〈ファントムクラッチ〉を射出。仮想の腕がコア外装を鷲づかみにし、装甲と外殻のあいだに“隙間”を作る。


「今だ、創零!」


 創零の掌から放たれた光子束が、シェルをこじ開けるようにコアへ流れ込む。


「よし……あと3%!」

 だが敵も黙ってはいない。背部ラックが開き、未使用の高出力砲を強制展開――砲身がコアを守る盾のように回転し始めた。


「間に合わねぇ!」

 シュウユは転位陣ごと飛び込み、本体との距離をゼロに詰める。振り下ろす拳――ではなく、彼は拳をわざと外して砲身を殴りつけた。

 砲身が折れ、エネルギーが逆流。コア脇の避雷針のような機構が過負荷で破裂し、制御ラインが露出する。


 ――96%、98%……

「ラスト一押し……!」

 創零が叫ぶと同時に、塔全体を揺るがす轟音。シュウユが破壊した砲身が暴発し、敵自身の装甲を内部から焦がした。


 無人兵器の赤い眼光がふっと消え、全関節が惰性でカチリと音を立てたあと静止する。


「……終わった、のか?」

 息を整えるシュウユの耳に、再び端末の自動再生音。


 塔内はまだ不気味な静寂を保っている。だが壁面に浮かぶ幾何学紋様は、まるで“次の扉”の位置を示すかのように淡く発光し始めた。


足元が音を立てて割れた。

塔の中央、の床の一部が沈み、そこから螺旋状の階段がせり上がってくる。


シュウユと創零は視線を交わし、無言で階段を降り始めた。

降りるごとに気圧が変わっていくような、異様な違和感。まるで“別の世界”に入っていく感覚。


やがて辿り着いたのは、塔の根幹部。

そこにはかつて使われていたログ記録用の端末が無数に浮かび、電脳的な光を放っていた。


《アーカイブ再起動完了》

《検索ワード:超越者/世界統合構想》

《一致データ:構造補助フレーム“G-08”の活動記録》


「……G-08って、八大超越者?」


「当時のシステム記録が残ってる……けど断片的だ。ほとんどが暗号化されてる」


創零が手を伸ばし、端末の光に触れると、内部ログの一部が浮かび上がる。


《仮想領域群“E・D-N”に対する人格拡張構想、検討中止》

《G-08の提唱による“多層世界”モデルに関する危険性報告》

《一部AIが自律判断により構造分離を開始》

《緊急封鎖プロトコル:Re:World-Zeroを実行》


「E・D-N……多分“NeoEden”のこと」


創零が言う。


「この塔、もともとは“この世界”の拡張試験区だったんだ。でも構造が独立しすぎて、主系統から切り離された」


シュウユの背後で、また微かに空間が軋んだ。


塔の壁がじわじわと変形していく。まるで引き寄せられているような……


《警告:既知空間の境界が不安定です》

《観測AIの補助干渉を推奨します》


「創零、行けるか?」


「わからない。でもやってみる」


創零が中央に進み、再起動端末の前に立つ。


《観測者プロトコル再承認中》

《入力待機:新たな構造フレームを選択してください》


その時、塔の奥からもう一つの光が点った。


淡く、だが強烈に脳裏に焼きつくような“仮想世界の断片”。


美しすぎる風景、完璧に整った会話、バランスが完璧なモンスター群。


「……これは、“理想すぎた世界”……?」


創零が言う。


それは“もうひとつのNeoEden”、実装される前に捨てられた試作型の幻影――

完全無欠すぎて、遊びの余地も、逸脱も、想像の幅も存在しなかった“完璧の檻”。


彼は選択した。


“再接続ではなく、観測者の更新”。


端末が静かに光を放ち、塔の歪みが収束し始めた。


空間の境界が安定し、塔全体の光が徐々に静まっていく。


塔の最下層――

そこに、うっすらと刻まれていた八つの円形の紋章が、微かに輝いていた。


その中央、消えかけた数字と共に――《08》の記録が浮かんでいた。

お読み頂き誠にありがとうございます

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