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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
29/30

028 記録されざる塔

すみません、諸事情により遅れてしまいました。

「探索のしがいはありそうだな」


シュウユはログを開き、現在地と周辺の情報を確認する。


現在位置:リーヴェル北区《風切りの坂》

南西斜面:港湾倉庫群

北門外:狩猟地帯《スレイン荒原》

中央区:旧市街・未整理エリア


「港か荒原か……それとも、旧市街か」


創零が、街の中央部――《旧市街》と呼ばれるエリアの方向を指す。


その指先には、周囲の整備された街並みとはまるで違う、崩れかけた石造りの塔や、苔むした街路が広がっていた。


だが、そこにはなぜかプレイヤーの姿がない。NPCもまた、その方向を避けるように活動している。


(……変だな。開発中ってことか? でも、オブジェクトの質感は異様に細かい)


すると、目の前を通り過ぎたNPCがぽつりと呟く。


「“まだ起こしてはならぬもの”が眠っているのさ……」


と、そのとき。


――ズッ……


空気が、微かに歪んだ。


創零が目を閉じて、眉をひそめる。


「……下。地下に、何かある」


「下……って、まさか街の地下か?」


「うん。でも、普通のマップじゃない。もっと、深い層。」


その言葉の意味を噛みしめるように、シュウユは視線を上げた。


目の前に広がる〈リーヴェル〉――そこは単なる街ではない。何かが“隠されている”。


「よし、決まりだな。まずは旧市街から当たる」


「……うん。気をつけて。たぶん、ここは“普通の街”じゃないよ」


二人は歩き出す。


その背後で、ギルド掲示板の横に立つプレイヤーたちが、ひそひそと噂を交わしていた。


「なあ、聞いたか? 旧市街の奥に謎の塔があるって……」


「え、でもあそこってマップ閉鎖されてなかったっけ?」


「いや、昨日の夜から急に侵入できるようになったらしい。」


その噂話に、シュウユはかすかに口角を上げた。


「やっぱ、俺たちの嗅覚は間違っちゃいねぇな」


そして、そのまま彼と創零は、静かに旧市街の入口へと足を踏み入れていくのだった。


旧市街の入口は、まるで“世界の切れ目”のようだった。


外の街並みが生活感に満ちていたのに対し、ここは時間が止まっていた。石畳はひび割れ、蔓草が建物の壁を這い、空気にはわずかに粉塵のような粒子が浮かんでいる。


「……静かだな」


「うん。でも、完全な無人ってわけじゃない。感知範囲の外に、“何か”いる」


創零の言葉に、シュウユは注意を高めた。旧市街の中心に向かって進むほど、空間の構造が奇妙に歪んでいく。通常のマップ設計とは違い、角度や視線の動きが微妙にずれて感じられるのだ。


「ログで見たことある。これは“圧縮マップ”。未実装か、実験中だった空間を仮置きした時に使う手法」


「……ってことは、やっぱり“ここはまだ公式じゃない”ってわけか」


旧市街の奥、路地の突き当たりにぽつんと佇む建物があった。


塔のような形。


〈UNKNOWN:塔(β)〉

〈アクセス制限:解除済み〉


「βって……テスト時の残骸か?」


塔の扉には、誰かがこじ開けたような痕跡があった。


「先客がいるかもしれない。気をつけて」


シュウユは頷き、手を軽く振ると、創零が静かに後ろへ回る。


扉を押し開けると、中は暗闇――ではなく、“異様な静けさ”だった。


魔法灯のような光源が、無人のまま淡く空間を照らしている。中央にはターミナル状の端末が一台。だが、どれも稼働はしていない。


「これ……動いてないってより、“使われてない”って感じだな」


「残されただけ、みたいな」


そのとき。


――カチッ


創零が端末の横に手を触れると、突然、薄い光が浮かんだ。


〈ログ:起動確認〉

〈システムログ:Fragment_OverNine〉


「“OverNine”? ……九を越える、って意味か」


創零の表情が硬くなる。


「これ……“あの存在”のログだ」


「“あの存在”?」


「元・九大超越者の一人。僕らが〈眠らざる庭園〉で遭遇したやつ」


シュウユは息を呑んだ。


つまりこの塔は、あの異質な少年と関係する場所――そして、創零にも関わる何かが残されている可能性がある。


「ログ、見れるか?」


「……少し待って。暗号化されてる。構造が、すごく古い」


創零が解析を進める間、シュウユは塔の奥を探索する。


壁の一角に、明らかに“情報隠蔽”された空間があった。見た目は石壁だが、超感覚で見ると、そこに“空洞”がある。


「隠し部屋か……?」


わずかに手をかざすと、反応が返る。仮想の振動、薄い衝撃。


「……創零。終わったら、こっちも頼む」


「うん。あと少し――」


そのとき、塔の外から微かな“足音”が響いた。


一歩、また一歩。確実にこちらへと近づいてくる。


「誰か来る」


「外、閉めろ。ログだけ取って、脱出準備」


創零は素早くログを外部保存に切り替え、脱出を準備。


その背後で、扉が――


「開いたな」


無感情な声が響いた。


現れたのは、フードをかぶった別の人物。あの少年とは違う。どこか“硬質”で、プログラムのように正確な動き。


「未許可のログアクセスを確認。該当者を排除します」


「チッ……こういうの、やっぱ出てくるか」


シュウユが剣を構え、創零は一歩引いて補助態勢に入る。


「逃げ道は?」


「もう転送準備は済んだ。けど、あれ――ただの警備じゃない。たぶん、“人型兵器”」


「そうこなくちゃ面白くねぇ」


シュウユは低く構え、笑みを浮かべた。


塔の内部、かつて誰にも知られず放置されていた“亡霊”が、その牙を剥こうとしていた。

お読み頂き誠にありがとうございます。

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