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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
28/32

027 旅立ち、境界の街へ

──視界が、反転する。


色と音が一瞬だけ崩壊し、静寂の中に浮かぶ光が、ゆっくりと再構築されていく。


そして次の瞬間――世界が“切り替わった”。


「……ここが、“リム=アルス”……か」


シュウユはゆっくりと目を開ける。


見渡せば、そこはこれまでのどのエリアとも違う光景だった。乾いた草原、霞んだ遠景、そして空に浮かぶ不自然なリング。


隣で、創零が静かに膝をついて地面に触れていた。


「すげーなここ」


二人は草原を進み始める。


その先には、古びた石橋があり、さらに向こうには《緩衝地帯・リーヴェル方面》と呼ばれる未探索のエリアが広がっていた。


「正式ルートは後回し。俺は俺の道を行く」


森を抜けると、風の匂いがまた変わった。


花の香り、乾いた大地、そしてどこか懐かしい牧歌的な旋律がBGMとして流れ出す。


「……お?」


足元に、小さなイベントマーカーが浮かぶ。


〈野良クエスト発生:迷い羊の帰還〉


「やらねぇけどな」


簡易イベントはスルー。彼は、他の誰とも違うルートを歩いている。


予定調和に乗る気はない。ただ、自分の“面白さ”を信じている。


そのとき――風が変わった。


(……なんだ?)


風の中に、視線の気配が混じる。


〈超感覚〉が、一瞬だけ反応した。


「草の中か……?」


低い茂みの奥。そこにあったのは、動かない影。


不自然な沈黙。そして――


その瞳だけが、じっとこちらを見つめている。


じっと動かない。モンスターのAI挙動ではない。不自然な静けさ。


そして、そこにいたのは――


フードを深くかぶった人物。


その目だけが、じっとこちらを観察していた。


「……プレイヤー、か?」


問いかけは返らない。ただ、その人物は静かに、視線を逸らさずこちらを見ていた。


――誰だ?


そして、何のために?


疑問を残したまま、シュウユは〈境界の街〉の門へと歩を進める。


「……なるほど。リーヴェルってのは、こんな感じか」


石畳の広場に立ち、シュウユは街の全景を見渡した。


〈境界の街リーヴェル〉――


公式にはまだ「準開発都市」とされているこの街は、メインストーリーでの登場予定地ではない。だが既に生活感は強く、プレイヤーとNPCの活動が自然に融合していた。


鍛冶屋の金槌音。露店の客引き。酒場の笑い声。


(ああ、なんか懐かしい……。こういう“ごちゃごちゃした街”の空気、嫌いじゃねぇな)


だが、足を止める暇はない。目的もルートも、まだ曖昧なままだ。


「さて、問題は……どこから探索するか」


ログを確認する。


現在位置:リーヴェル北区《風切りの坂》


南西斜面・港湾倉庫群/北門外・狩猟地帯




そんな中、ふと視界の片隅に“見覚えのある”フード姿が映った。


「……また、お前か」


振り向くと、すでにその人物は石畳の角を曲がり、細道の向こうへと消えていた。


(なんなんだ、あいつ)


プレイヤーか? NPCか? あるいは……


シュウユは軽く舌打ちし、後を追う。


坂を下り、街路を曲がり、古いレンガ作りの建物の裏へと回る。


そこに――そのフード姿の人物が、立っていた。


「なあ。そろそろ、話してくれてもよくねぇか?」


問うと、その人物はゆっくりとフードを外した。


現れたのは、柔らかく波打つ白銀の髪と、左右で色の異なる瞳。


――美しくも、どこか不安定な印象のある、少年だった。


「君が……“あのエリア”から来た人?」


「……〈眠らざる庭園〉のことか?」


少年は頷いた。


「やっぱり。あそこから来た者は、空気が違う。特に君みたいな、“型に嵌まらない”奴は、ね」


「お前……プレイヤーじゃないな?」


その問いに、少年はふっと笑う。


「さあ、どうだろうね。僕はただ、ある“仮想存在”を探している。君の連れている少年――創零。彼に、とても興味があるんだ」


「……!」


名を呼ばれた瞬間、シュウユの空気が変わる。


「何のつもりだ。創零に何かする気か?」


「違うよ。ただ……彼は“選ばれなかったもう一つの線”に関係している存在。元・九大超越者だった、あるAIがね。君と彼を見ていると、何かが動き始めた気がするんだ」



「君たちはこれから、もっと“大きな地図”の上に立つことになるよ。今はまだ、ほんの“前奏曲”にすぎない」


少年は再びフードをかぶる。


「また会おう、シュウユ。次は、君自身が“選ぶ”番だ」


そう言い残し、彼は風のように消えた。


(あいつ……何か知ってる)


しかも、創零に関係する“何か”を――


「大きな地図、ね。いいぜ。面白くなってきたじゃねぇか」


そう呟いたシュウユは、広がる街の全体図を見渡し、ゆっくりと歩き出した。


すでに〈眠らざる庭園〉は過去になり、新たな舞台が幕を開ける。

お読み頂き誠にありがとうございます。

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