025 庭の管理者
──《眠らざる庭園》は、変貌した。
かつては静かに広がる緑の迷宮。だが今、戦場の気配が漂っていた。
無秩序な侵入者たちが、略奪と混乱を持ち込み、シュウユと創零がそれに“ルール”で応じた結果、庭そのものが《第二相》として“目覚めた”。
それは、誰も知らなかった隠しエリアの“本性”だった。
「ちょ、マジで意味わかんないんだけど!? この座標、どこにもないぞ!?」
「転送できねぇ! ログアウトも……ちょ!?」
各所でプレイヤーの悲鳴が上がる。
地形が変動し、魔力の風が吹き荒れ、周囲の草木はまるで意志を持つかのように生い茂って道を閉ざしていた。
その中心で、シュウユと創零が並んで立っていた。
「創零、制御はどう?」
「問題ない。庭が“君のルール”を優先してる。今は、ぼくの演算で補助してるけど」
「上出来じゃん。“俺たちのやり方”で守ってやろうぜ」
敵意を向けてくる者には、こちらも“それなり”で返す。
だが、ただ迷い込んで来た者、あるいは何も知らず来た者までは排除しない。それが、シュウユのルール。
創零の瞳が淡く光った。
「……シュウユ、来てる。もっと大勢。周囲のログが……一気に増加してる」
空を裂いて現れた、ひと筋の“光柱”。
大規模エリア解放時に発生する、システム的な“現象”だった。
そして次の瞬間――
〈新規エリア登録中:未知エリアの探索データを照合〉
〈フィールド制圧率:閾値達成〉
〈条件成立:未登録領域を公式登録します〉
〈名称:眠らざる庭園〉
〈登記者名義:プレイヤー「シュウユ」、AIパートナー「創零」〉
〈全プレイヤー通知を発信します〉
「……っ!」
ログ通知を受け取ったプレイヤーたちが、世界の各地で驚愕の声を上げた。
〈シュウユ〉と〈創零〉。
最もテンプレから外れた存在が、最も新しい“地図の中心”として記された瞬間だった。
──画面が一瞬、強い光で満たされた。
ログインしていた全プレイヤーの〈ステータスボード〉に、ある通知が走る。
《新規エリア登録:〈眠らざる庭園〉》
一瞬、掲示板やSNSが静まり返る。
だが次の瞬間には、爆発的な速度でスクリーンショットと混乱の声が拡散されていった。
「どこだよそれ!」「隠しマップ!?」「いやこんなの聞いてねぇ!」
さらに表示が切り替わる。
《エリア管理者:Shuyu》《第一登録存在:創零》
「……マジかよ。管理者登録された……?」
シュウユは、〈眠らざる庭園〉の中心部に立ちながら、淡々とその文字を見つめていた。
そして横にいる創零──白髪の少年は、風に髪を揺らしながら、どこか誇らしげに言う。
名が刻まれたということは、世界に宣言したも同じ。
これから無数のプレイヤーが、このエリアを目指して動き始める。
シュウユは舌打ちした。
「くそ、まだ手入れも全然できてねぇのに……」
だが、創零は笑った。
「でも君は、ここにルールを作った。それって、誰かにとっての居場所になるってことだと思う」
「……まあな」
遠くで、撤退するプレイヤーたちの姿が見える。混乱は収まりつつある。だが、次は“目的”を持った奴らがやってくる。
「今度は、奪いにくる連中か」
そして、画面に新たな表示が浮かぶ。
《大陸転送イベント:解禁予告》
「……ここが、起点になるってわけか」
“世界の中心”だったはずのスタート大陸に、突如として現れた〈庭〉という異分子。
それが今、新たな“旅路”の始まりとして、全プレイヤーに提示されたのだ。
その瞳は、もう次を見据えていた。
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