024 侵入者現る
《なんか、森の奥にヤバい光立ってたぞ》《 隠しダンジョン?》《噂あったとこだよな?》
誰かが噂を聞きつければ、次に動くのは――いつだって“狩り”を求めるプレイヤーたちだった。
「おい、ログに反応出たの、ここで合ってるか?」
「合ってる合ってる。間違いねぇ」
その日、〈眠らざる庭園〉の境界に、十人近いプレイヤーが現れた。
パーティを組んだ狩猟ギルド所属のプレイヤーたち。
火力重視のソロビルドを極めた者。
イベント報酬を目当てに動く“ワンチャン勢”。
「見ろよ、この景観。敵の数、少ねぇし、リソース山ほどあるじゃん」
「運営の隠しエリアだって噂はマジか。ここ、ギルドの拠点にできたらデカすぎるな」
彼らは、全員が“戦利品”の匂いに釣られていた。
一人が、熟した果実の木に手を伸ばす。
その瞬間――
ギンッ、と空気が震えた。
果実に指が触れる直前で、雷光のような衝撃が走り、手を引っ込める。
「……っ、な、なんだ!?」
「誰だ、お前ら?」
その声に振り返った先――
シュウユが立っていた。
いつもの布装束、片手剣と杖、無骨な初心者装備。
だがその佇まいは、まるでこの庭を統べる“番人”のようだった。
「この場所は、探索用のエリアじゃない」
静かな声。それでも、その場の空気を一変させる力があった。
「誰に許可取って、ここに入った?」
プレイヤーたちは顔を見合わせる。
「は? 許可? ここ、フリーフィールドじゃねぇのか?」
挑発的に口を開いた一人が、剣を抜く。
「じゃあ、どうする? テメェが管理者ってんなら……守ってみろよ、その“庭”とやらをよ」
その言葉に、シュウユの背後で創零の瞳が光る。
静かに地に足をつける少年の足元から、幾何学的な魔式陣が広がっていく。
〈庭の主〉としての力が、いま動き出す。
(ここからは――“遊び方”を変える)
「……なら、ルールを示す」
シュウユは一歩、前に出る。
「この庭では、俺がルールだ。暴れたいなら……まず、俺を倒してからにしろ」
瞬間――
風がうねり、視界が歪む。
魔式〈五連転移〉の構え。
魔力が空間を裂き、戦いの幕が上がろうとしていた。
「……もう、静かにはしてくれないんだな」
揺れる草花、散った羽虫の亡骸。〈眠らざる庭園〉のあちこちに、無遠慮な足跡と攻撃の痕が残っていた。
高レベルプレイヤーたちは、レアドロップや謎のモンスターを求めて、庭園内を探索し、狩り、略奪し、地形ごと破壊しながら進んでいた。
「くそ、あの辺、創零が手入れしてた場所なのに……」
木陰に立つシュウユの拳が、わずかに震えていた。
視線の先では、3人パーティのプレイヤーが〈庭の白獣〉を狩り、報酬を競い合っている。
創零がすぐ隣に立っていた。少年の姿をしたAIは、淡々とその光景を見つめていたが――ふと、小さく首を振った。
「創零。お前、できるか? “この庭の力”を使うの」
少年は小さく頷いた。
「でも……シュウユが命じてくれなきゃ、きっと暴走になる」
「命じるよ。俺がルールだ」
その瞬間、〈眠らざる庭園〉の空気が変わった。
空がわずかにきらめき、風の流れが逆転する。大地が呼応し、草木が密やかに蠢いた。
シュウユは前に出た。騒がしいプレイヤーたちの前に、ひとりで立ち塞がる。
「よう、お客さん。悪いけど、ここは“お前らが攻略する場所”じゃない」
「なんだてめぇ、ソロか? じゃまだからどけよ」
「いいや、ここは俺の“庭”だ」
次の瞬間、魔式〈五連転移陣〉を展開。シュウユが一陣の風のように消えると同時に、3人のプレイヤーは視界を奪われた。
「ッ!? どこ行った!」
視線の外から飛来した魔式剣が、ひとりの足を切り払い、もうひとりの武器を弾いた。
「なに……?」
「転移……? いや違う、あれは――庭そのものが座標になってる!?」
〈眠らざる庭園〉に侵入している者たちには、今や“ステージそのものが敵”になっていた。
「創零!」
「うん!」
創零の瞳が淡く輝いた。空中に浮かび上がる魔式構造体。庭の各地点に“結界式”が展開され、プレイヤーたちの動きを封じ込めるように枠が変形していく。
『シュウユの“在り方”に基づき、領域を再構築――〈眠らざる庭園・第二相〉、解放します』
瞬間、風が反転し、草木がうねり、空間そのものがねじれた。
「っ……マップの座標がズレた!?」
「退け……退けぇぇっ!!」
だが、すでに遅い。
――これが、侵入者を迎え撃つ“庭の主”のやり方だった。
お読み頂き誠にありがとうございます。




