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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
24/39

023 眠らぬ庭、目覚めの客人たち

〈眠らざる庭園〉に、静かに新たな“波紋”が広がりつつあった。


最初に現れたのは、全身を濃紺の装備で包んだプレイヤーだった。彼は虚空を見上げ、しばらく呆然としていたが、すぐにフレンドリストを開いて狼狽し始めた。


「嘘だろ……パーティごと転送されたんじゃなかったのか……? おい、誰か応答してくれ! ログイン位置がバグってるぞ、これ!」


次に現れたのは、軽装の弓使いの少女。地面に腰を落とし、目の前の花畑をまじまじと見つめていた。


「……え、なにこれ。めっちゃ綺麗。え、ここ……マジでどこ?」


同時多発的に、庭園の各所に数名のプレイヤーが“発生”していた。


だが、彼らのどのコンパスにも、地名表示は存在しない。


SNSや攻略掲示板には、ちらほらと異常ログの投稿が上がり始めていた。


「転送バグ? いや、でもここマジでちゃんと造られてるんだが……」


「一人で飛ばされたんだけど、マジでどこ? ギルドでPT組んでたんだぞ?」


――観測する者はいた。


高台の影に、ひとつの人影と、青白い光を放つ少年の姿があった。


「けっこう来たな。なんでか知らんけど……」


シュウユは腕を組んで庭園を見下ろしていた。



一方でシュウユは、彼ら“迷い込んできた側”の挙動を無視できずにいた。

一人はバグを疑い、木を斬って動作を確認し、別の者は花にスキルを使って反応を試す。中には空へ向かって魔法を撃ち込み、エリアの“反応”を測ろうとする者もいた。


シュウユの眼差しが、少しだけ鋭くなる。


「ここは、攻略されるための場所じゃない」


あらためて、そう確信した。


最強装備も、テンプレも、効率も捨てて――遊びたいように遊ぶために作った場所。


それを、“攻略対象”として荒らされるのは、耐えられなかった。


だが、来てしまった者たちに罪があるわけでもない。

エラーか、イベントか、意図的な誘導か――理由はともかく、ここに迷い込んできたのだ。


「……なら、ルールは俺が作る」


静かに、言葉を噛みしめるように呟いた。


遊び方を決めるのは、俺だ。

ここでの“進み方”も、“迎え方”も、“守り方”も。


この世界のどこにもない、新しい在り方を、ここで試してやる。


「なあ、ちょっと来てみろよ。あっちの森、モンスターいるっぽい!」


「マジ? ワンチャン限定ドロップとかあるんじゃね?」


「ここ、ログに残らねぇんだけど……運営の隠しマップか何かか?」


シュウユと創零の視界の先――〈眠らざる庭園〉の草地で、3人のプレイヤーが騒いでいた。

そのうちの一人が勝手に花壇の端を踏み荒らし、周囲の視線が集まる。


(あの草、創零が毎朝手入れしてたやつ……)


ぴくり、とシュウユのこめかみが跳ねた。


「やめとけ、って言っても無駄か」


プレイヤーの一人が草地にエリア魔法を展開しようと構える。


その瞬間だった。


「――それ以上、進むな」


地を滑るようにして現れたシュウユの声が、空気を張りつめさせた。

背後には創零。彼女の足元に、細く光る魔式線が淡く浮かび上がる。


「誰だ、お前……?」


魔法使いのプレイヤーが警戒の色を見せる。


「ここは攻略エリアじゃない。通りすがりなら、そのまま帰れ。そうじゃないなら……」


シュウユの目が鋭くなる。


「“この庭のルール”に従ってもらう」


プレイヤーたちの間にざわつきが走る。


「何言ってんだコイツ、エリアボスか何かの演出か?」


「いや、プレイヤー……だよな、でも……ガチで何者だ?」


そのとき、もう一人のプレイヤーが草陰から姿を現す。少女型の獣人キャラだった。


「……あの、ここ、攻撃していい場所じゃない気がします」


「は?」


「だって、景色とか、細かすぎる。誰かが手入れしてる感じがする。花も、果樹も、道も……」


彼女は首をかしげながらも、なぜか確信めいた声でそう言った。


「ここって、誰かの“家”なんじゃないですか?」


一瞬、風が止まる。


そして次の瞬間、草地にいた攻撃魔法使いが肩をすくめた。


「……マジでか。悪い、知らんで撃とうとしてた」


プレイヤーたちは視線を交わし、少しずつその場から退いていく。


シュウユは無言でそれを見送った。


騒ぎが落ち着いた後、創零がぽつりと呟く。


「この場所は、心を向ける者にとって、静かな場所であってほしいです」


「そうだな。……だから俺が、守る」


シュウユは自分の中に芽生えた想いを、初めて“言葉”にした。


戦って勝つことよりも、

攻略されるよりも、

何より――


この場所を“守りたい”と思った。


そして彼はふと空を見上げる。


今、庭園の中央に、ごく微かに淡い光柱が立ち始めていた。


(これって、もしかして……)


その光は、地図にも表示されないはずのこの場所を、世界に“知らせる”かのように、ゆっくりと空へ昇っていく。


シュウユは目を細めた。


「……嵐が来るな」


創零もまた、その光を見つめながら、静かに頷いた。

お読み頂き誠にありがとうございます。

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