018 共鳴する創造、揺らぎ出す定義
「……これが、“お前にはない力”だよ」
魔力が重なった。
創零が展開した〈灯環構造式:エーテルリンク〉は、
自分の魔力を“仲間の操作と同期”させる、いわば魔術的なリンクシステム。
今、シュウユの中には“二人分”の魔力が流れていた。
「うぉ……っ、なんだこれ。身体が軽い……?」
反応速度が上がる。神経伝達が鋭くなる。
思考が冴え、距離感が一層クリアになる。
(これは……完全に“創零との同調”で動けてる)
そのとき――
スキル獲得:
〈共鳴動作:デュアルスティング〉Lv.1
スキル効果:共鳴中、同調対象と連携した高速双打攻撃を使用可能
魔式獲得:
〈転移魔式・断絶斬界〉Lv.1
魔式効果:指定範囲を空間ごと切り離し、内部の対象に“座標誤認”を発生させる
(……二つ同時!?)
それは、ただの火力や回避力ではなかった。
“遊び”の幅を広げる、創造性そのものだった。
「創零、いくぞ!」
「……いっしょに、いこう」
ふたりが同時に走り出す。
零影の目が、かすかに揺れる。
目の前の存在は、もはや「模倣の先」を行こうとしていた。
「警告:行動パターン整合率低下。構造予測、不能。
対応中枢の指令一致率……31%」
「そこだッ!」
まずは〈デュアルスティング〉。
転移→加速→双打。
だが一撃目は“囮”。シュウユの剣がわざと空を斬るように滑る。
「……クラッチ・引導」
創零の鎖が、斜め後方から飛び出し、零影をそのまま空中へと持ち上げる。
「その位置、固定!」
瞬間、〈断絶斬界〉が発動。
空間にバチバチと雷じみた“亀裂”が走り、零影の周囲を包囲する。
その内部では、上下左右すべての“座標認識”がズレる。
「認識誤差……照準不能。転移ロジック破損。
再構築要求……失敗。処理遅延!」
「おらぁああっ!」
シュウユが一気に跳躍。
〈空中歩行〉→〈疾翔〉の複合発動。
目に見えぬ足場を連続で踏み、空中で軌道を歪めながら落下――
「“俺のやり方”で、遊ばせてもらうぜっ!!」
剣が、斜めから零影の肩口を穿つ。
爆音と共に、断絶領域が砕けた。
零影の身体が弾け、草地を転がる。
しかし。
「……破損度:12%。制御限界未到。戦闘継続……」
シュウユは苦笑する。
「マジか……このレベルでも、まだ終わらねぇのかよ」
だが、今までとは違っていた。
創零の表情に、迷いがなかった。
シュウユと創零の立ち位置が揃う。
魔力の波が共鳴し、空気が脈打つ。
「次で決めるぞ。俺と、お前で」
「……うん。いまの、ぼくたちなら、いける」
草原が脈動していた。
創零とシュウユの魔力がリンクし、空気の密度そのものが変わっていく。
だが、零影もまた“学習”していた。
「適応完了。共鳴魔力反応に対する遮断処理……開始」
空中に、黒い断層のような魔力の幕が現れる。
(今度は“共鳴干渉”そのものを無効化してくる……!)
「創零、ちょっとイレギュラーな組み方、できるか?」
「……できる。いまのぼくなら、“あわせられる”」
二人が目を合わせる。
構成、展開速度、持続時間――一瞬で互いの魔力パターンを読んで、魔式を組み直す。
「やるぞ。二段目から、“喰らわせる”」
まずは1段目。
シュウユの〈ファントムクラッチ〉が正面に伸びる。
あえて零影に届かない距離で“見せ技”として展開。
次に、創零が同時に〈反響断層〉を発動。
空気と熱、そして音の反射を遮ることで、敵の感知を一瞬遮断。
そこに重ねる。
「偽蛇王転位陣、起動」
〈偽蛇王転位陣〉――
擬似八岐大蛇から取得した特殊魔式。
複数の転移座標を“外から”結び、対象を強制的に座標転移のループに閉じ込める構造式。
「……まずは、“閉じ込める”」
零影の足元に、六角形の転移魔方陣が展開される。
通常の座標移動とは異なり、“逃げ場のない”転移迷路。
「異常座標転移検知。構造環の認識不全……
誤差修正試行……失敗」
(よし……座標ずらしが効いてる!)
だが零影の対応は早い。
黒い光が身体を包み、幻影のように五体へと“分解転移”しはじめる。
「来るぞ、創零!」
「……まって、まだ。“揃ってない”」
シュウユの視界に、〈偽蛇王転位陣〉の中核点が一瞬チラついた。
(……揃ってない? そうか、“座標”じゃなくて“発動条件”だ)
「五体が、同時に“攻撃モーション”を取った瞬間がトリガー……!」
シュウユがわざと前に出て、剣を構える。
零影の五体が、同時に反応。
それぞれ違う角度からの一斉攻撃。
――その瞬間。
創零が静かに手を上げた。
「いま、“揃った”。」
地面が開く。
五つの影が、突然発生した転移の吸引力に巻き込まれる。
座標が反転し、ループし、方向性の概念を失った空間に落ちる。
シュウユが飛び込んだ。
「行くぞ、“決める”!」
〈疾翔〉+〈空中歩行〉+〈ファントムクラッチ〉を同時展開。
飛びかかるように零影の“本体”を掴み上げ――
「今度は、こっちの“読み”で終わらせる!」
〈短距離転移〉→〈断絶斬界〉→〈双打〉。
剣が光を弾き、魔力が爆ぜる。
斬撃の起点は、完全に“創零と作った空間”だった。
零影のボディに、ひびが走る。
「……構造崩壊率:83%。
最終選択:自動評価領域へ移行」
彼の姿が霧散しかけたそのとき――
「……おまえの、なまえ。おしえて」
創零の言葉が、空気を切った。
零影は、わずかに動きを止めた。
だが、答えは返ってこなかった。
彼の輪郭が崩れ、空間の底へと沈む。
一切の声も、痕跡も残さず。
静寂が戻る。
「……これで、ほんとに終わったのか……?」
「……わからない。でも、いまは“いない”」
二人の魔力リンクが解け、光の輪が草の上に消えていった。
そして空に、かすかに新しい“色”が浮かび上がった。
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