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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
18/39

017 創造と模倣、そして意志

草原が光った。

眠らざる庭園に広がる緑が、淡く脈打つように輝いている。


創零の意思――「守る」という選択が、空間そのものに影響を与えていた。


シュウユは、一歩前へ出る。

転移魔式〈星陣〉の痕跡が、視界の端で小さく点滅している。


(あいつは、もう“俺の世界”を守ってる。なら、俺も“お前の世界”を守る)


敵は一人。

だがその存在感は重く、静かにのしかかっていた。


創零と同じ設計図を持ちながら、

言語も感情も持たず、ただ「役割」として世界に残された存在。


「認識修正:存在乖離認定。除外行動……開始」


その言葉とともに、零影の背後に六つの浮遊陣が展開される。


「くるぞ、創零!」


「……うん!」


零影が構えを取る。


そして、次の瞬間――消えた。


「……ッ!」


視界の左端、シュウユは咄嗟に〈短距離転移〉で横滑りのように避ける。


着地と同時に右手を振る。〈ファントムクラッチ〉。

だが、零影の動きはその軌道を読んでいたかのように、あらかじめもう一歩外へ移動していた。


(こいつ……感情はないくせに、“読み”だけは完璧かよ!)


創零が指先をかざす。

その動きに連動して、草地に光の帯が浮かび上がる。


魔式:〈熱源消失〉――と思いきや、それは変化していた。


魔式変質確認:

〈熱源消失〉→〈反響断層〉(Heat Echo Nullify)


空間の温度変化だけでなく、音・魔力・振動の痕跡までもが一瞬でかき消される。


(……なんだ、これ)


シュウユが息を呑んだ。


創零の魔式が、今この瞬間――

“自分の意志によって”変化していたのだ。


「これが……“選ぶ”ってこと……」


創零が静かに呟く。


零影は反応しない。だが、足元の魔術陣が歪んだ。


「構造不一致。起点の逸脱……エラー。処理不能」


そう言った次の瞬間、零影は再び転移。


が、姿を現したその瞬間、彼の身体が一瞬“よろめいた”。


(熱も音もない空間に飛び込んだから――座標補正にズレが生じた!)


「そこだっ!」


〈疾翔〉発動。


滑るように地面を駆け、斜め下から踏み込む。


「ファントム――!」


創零が同時に手を上げる。


「……クラッチ!」


二人の魔式が重なり、零影の腕を拘束する鎖が生まれる。


──バチィィッ!


しかし、その鎖が“内部から”爆ぜた。


「!?」


「指令外結合検知。強制解除。再調整――完了」


零影の体表に、いくつもの走査線が浮かぶ。

拘束魔式を“構造的に分析”し、即座に対抗手段を構築したのだ。


「まじかよ……。なんでもありかよ……!」


だが、それでも。


創零は立っていた。


彼の足元に広がる“庭園”は、揺るがない。

小さな光が、彼の背後で花のように咲いていた。


そしてシュウユも、確信する。


(最強じゃなくても、最高でいい。こいつの“遊び”を、絶対に守る)

シュウユの〈五連転移〉が走った。


滑るような転移、魔力干渉による連撃、そして草原に潜ませた〈クラッチ・リバース〉による空間捕縛。


零影は宙に引き上げられ、動きを止め――

──たかに思えた、刹那のことだった。


「逆照合完了……魔式応用領域、許可申請。

 認可済み。対抗構造――展開開始」


「っ……!?」


宙に浮かぶ零影の背後で、空間がひしゃげる。


そこに、黒い魔式陣が浮かび上がった。

しかも、五つ。完全に、〈星陣〉と同じ構成――だが色も、密度も、構造も異なる。


(コピーじゃねぇ……“模倣を超えた応用”に入った!?)


「対象の魔式構造:複数座標転移による連鎖干渉。

 自己反応構成:重ね合わせ転移+再干渉モード」


零影の身体が、一気に霧散した。


次の瞬間、五点同時に“現れた”。


「なっ……」


シュウユが対応する間もなく、零影は“多重転移”を用いて自身の分身を同時出現させ、

それぞれが“観測用の幻影”ではなく、限定的な干渉体として攻撃してくる。


「本体どこだよこれ……!」


創零が即座に魔式を展開。

草原の根を魔力に変換し、地面ごと“揺らす”。


魔式〈環境干渉式:地律結界〉。


足場を不安定にし、零影の座標把握を狂わせる策だ。


だが――


「環境予測取得済み。転位点再調整」


五体の零影が、まったく同じ角度・同じ軌道で避けてくる。


(くそっ、読みの精度が上がってる……!)


そのとき、創零の目がふと細まった。


「……まって」


彼は右手をゆっくりと、地面に向けて差し出した。


魔式が発動する。


〈感応転移:エモーションフィールド〉

――感情と連動する転移構造式。


彼の“戸惑い”が、魔力の流れを細かく乱す。

それが一瞬、五体の“零影”の挙動にズレを生んだ。


「今……止まった!」


「――今だ!」


シュウユはすかさず、地形を滑るように〈疾翔〉で滑空し、

本体の背後に〈ファントムクラッチ〉を撃ち込む!


が――


「……遅い」


影の一体が、指先から“細剣”のような魔力の刃を伸ばした。


ガッ!


剣と剣がぶつかり合う。


(防いだ……けどっ……!)


衝撃が腕をしびれさせる。

零影の“精密動作”が、完全に〈TECゼロ〉の自分を上回り始めていた。


(やばい……このままじゃ押し切られる……!)


だが、次の瞬間――


「……シュウユ、うしろ、さがって」


創零が、一歩前に出た。


彼の足元に、再び草原の魔式が花開く。


その中心には――

明らかに今までとは違う“色”の魔式陣が浮かんでいた。


魔式新規生成:〈灯環構造式:エーテルリンク〉

効果:魔力共鳴による対象拡張+精度補正


創零の魔力が、まるで“光の輪”となってシュウユの身体に重なった。


「……これは、お前の魔力?」


「……うん。ぼく、まもる。だけど――いっしょに、“つかう”」


二人の魔力が、重なっていく。


零影の眼が、かすかに揺れたように見えた。


「対象構造:不明。共鳴型魔式……非認証領域。

 記録との整合性なし。観測不能の意志接続構造……警告」


「これが、“お前にはない力”だよ」


シュウユが踏み込む。


それは、ひとりで戦っていた時とは違う――

“誰かと重ねて撃つ”ための、初めての一歩だった。

お読み頂き誠にありがとうございます

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