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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
11/12

010 開発室に響く、驚愕の通知

その日、株式会社ネオレルム 第七開発室は、混乱に包まれた。


エナドリ缶が机に積まれ、モニターには仮想世界のコードとログ。

黙々と作業を続けるスタッフたちの中に、異音が割り込んだ。


ピコン、ピコン、ピコン!


「ん? 誰だ、テスト鯖触ったやつ……って、メインサーバーかこれ?」


中央モニターが自動展開し、赤文字で警告が表示された。


【緊急通知:隠しエリアNo.042 開放ログ確認】

【討伐対象:擬似小八岐大蛇デミミニヤマタノオロチ

【想定突破レベル:Lv50~60】

【実行者Lv:17】


「……は?」


最初に声を上げたのは、世界観設計班の竹内だった。

隣でカップラーメンにお湯を入れかけていた3D班の宮坂が固まる。


「えっ、ちょっ……ちょっと待て、なに? 誤検知? バグ?」


「ない! ログある! 移動履歴、戦闘ログ、取得スキル、魔式連携まで全部通ってる!」


「うそやろ!? あれ、復帰組の高レベル想定ボスだろ!?

 なんで初期地点からそのままソロで倒してんの!?」


「あの大蛇、首が8本あって個別AI入れて、リアルタイム連携の学習パターン仕込んで……ガチで作り込んだやつだぞ!? てか、デバッグ用の“高負荷テスト用”じゃん!」


バタバタとスタッフが立ち上がり、各自のモニターに向かう。


「確認……こいつ、“転移魔式使い”? なんでそんなマニアックな変則ジョブ選んでんだよ!」


「しかもステ振り、耐久1、技量1!? 紙装甲!?」


「これ、普通だったら噛まれて終了だぞ!? どうなってんの!?」


「おいおいおい……このビルド、真面目に“死にたい構成”じゃねぇか?」


「ありえない……このジョブ、開発スタッフがロマンで入れただけのやつなのに……!」


「しかも、“空中歩行→クラッチ→地形利用”のコンボ、これテスト段階でも成功率20%切ってたやつだろ!?」


山岸ディレクターが額を押さえ、椅子に沈み込む。


「……ぐわぁ……どうしてこんなことに……」


誰かがそっと言った。


「そもそもあのエリア、封印したままでしばらく放置するつもりだったんですよね?」


「NPCの台詞も、まだ仮テキストだぞ。“このへんに何かあります”って言うやつ」


「背景グラフィック、6割スケッチで終わってます……。探索されたらバレます」


「マップ下層、まだ地形めり込みバグ修正してないぞ……!」


開発室に、徐々に悲鳴と乾いた笑いが交じる。


「ってかこれ、下手するとSNSで拡散されるぞ!?“謎のエリアをLv17で開けた神プレイ”とか言って動画付きで!」


「やばい、やばい、運営対応どうする!? “想定内です”とか無理あるだろ!」


だがその中で、一人、AI開発主任の柳瀬は画面を見つめながらぽつりと呟いた。


「でも……なんか、ちょっと嬉しいな」


「は?」


「俺たち、“テンプレに縛られない遊び方”ができるゲームを目指してたんだろ?

 このプレイヤー、まさにそれをやってのけたんじゃないか?」


会議室が、一瞬静まる。


「……最強じゃない。最短でもない。でも、“面白さで突破した”ってのは、確かだな」


ディレクターの山岸が、息を吐きながら立ち上がった。


「……運営、臨時会議。15分後に招集だ。対応方針と、プレイヤー行動の影響シミュレーションを急げ」


「了解!」




「一言でまとめよう。“とんでもない奴が、来ちまった”」


「確認。隠しエリアNo.042、アクセスフラグ有効化。

 しかも、第一層まで踏破済み……!」


オペレーターの報告に、会議室がどよめく。

次々と表示されるデータログ。魔式、転移点の構築履歴、スキル――

どれをとっても、普通じゃなかった。


「この行動記録……ルートが全部想定外なんだけど!?」


「というかさ、ステータスの構成からしておかしいだろ。

 耐久1、技量1って、“何があっても即死”構成なのに、

 それでLv50推奨のボス倒して隠し扉開けてんだぞ?」


「いやマジで、こいつVR空間の“遊び方”を根本から間違ってるって……!」


「違うよ。正しい“遊び方”が、そもそも決まってないのがNeoEdenでしょ」


静かに言い放ったのは、AI設計主任・柳瀬だった。

彼は腕を組んだまま、複数のログを同時に再生していた。


「テンプレビルドでも、効率でもない。

 このプレイヤー、“手探り”で、自分の感覚を頼りに攻略してる。

 しかも、純粋に楽しんでる」


「でも……バランスが壊れる可能性があるだろ?

 このエリア、他のプレイヤーに見つかったら……」


「いや、待て……」と、ディレクターの山岸が口を挟む。


「俺たち、“最短で最強になれる”ゲームを作ったつもりはない。

 この世界は、“気づいた人だけが行ける道”を用意した。

 その一人目が現れた。それだけだ」


会議室が静まり返る。


「シュウユ。……名前、覚えておこう」


山岸がそう締めくくる。


一方そのころ――


「おお……こっち、めっちゃ雰囲気変わったな」


岩の門の奥、誰も知らない“隠しエリア”。

名もなき洞窟群を抜け、広がる異形の地形。色が深く、音が静かで、空気の密度が違う。


「たぶん“何か”いるな、これ。空気がビリビリしてる」


ログも、攻略情報もない。地図も開けない。

でも、それがたまらなく――面白い。


「やっぱ、こっち来て正解だったな。テンプレ通りじゃ、見えねぇ景色がある」


一人、未知を踏破する少年。


その歩みは静かだが、

ゲームの外側では、とんでもない波紋を広げていた。



お読み頂き誠にありがとうございます。

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