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最強未満、最高以上。  作者: りょ
テンプレを壊す遊び方
10/12

009 欺きの連携、最後の思考

静かな霧の中、ただ一つ――首が動いていた。


七つの首が崩れ落ち、谷にはかすかな硫黄の匂いが漂っている。

その中心で、残された“核”の首だけが静かに持ち上がった。


「……やっぱ、いたよな。こいつが“本体”か」


他の首とは異なる。太く、滑らかで、異様に“目つきが鋭い”。

シュウユをまっすぐ見据えている。


(こいつ……今までの俺の動き、全部記録してやがる)


霧に紛れても無意味。

転移も、疾翔も、クラッチも、既に“手の内”を読まれている。


「いいね……こういう相手。こっちも遊び甲斐があるってもんだ」


剣を構えたまま、じり、と踏み出す。

核の首はほとんど動かない。見えていないはずなのに、完璧に追ってくる。


(目じゃない。予測と魔力の流れで動いてる)


火球や毒液ではなく、ひとつの首で“すべて”を制する完全制御型。

ボスのコアAI。それも、ほぼ完成に近いレベル。


(強さじゃ勝てない。パターンの上を行くしかない)


シュウユはあえて、〈転移〉を封印。

〈ファントムクラッチ〉も使わない。

代わりに、静かに歩く。手探りで間合いを詰めていく。


すると、核の首がかすかに反応。警戒の波動が変わった。


(こいつ……俺が“どう動くか”を読んでるんじゃなくて、

 “どう動くか予測されないか”すら読んでるのかよ)


だが、それでも笑みがこぼれた。


「だったら、俺自身が“予測できない動き”すりゃいいって話だろ」


剣を左手に、杖を右手に持ち替える。

今まで一度も使ったことのない構え。

自身の戦闘ログにも存在しない、“完全な即興”。


跳ぶ。


右へ飛ぶように見せかけて、重心を逆側へ傾ける。

一瞬、着地の座標がぶれる――そこへ、転移。


魔式〈短距離転移〉の入力すら“ずらす”。

座標登録後に、発動タイミングを意図的に遅らせたことで、AIの予測を一瞬だけ外した。


「今!」


剣を滑らせ、鱗の隙間をなぞる。


ザシュッ――!


血ではない。だが、魔力が小さく噴き出す。

敵の硬質な外殻に、ようやく“届いた”感触。


「一撃、通った……!」


核の首が大きく仰け反る。反射行動。

次の瞬間、反撃の一撃――鋭い噛みつきが飛んでくる。


転移! 避ける!

咄嗟のクラッチ! 無理やり首を押し戻す!


ギギッ!


間に合った。ギリギリで逸らし、頭上をかすめるようにして巨大な顎が通り過ぎた。


霧の中、息が荒くなる。


「やば……でも、最高だな。

 こういう、“自分でも読めない一手”が通ったときが、一番楽しいんだよ」


自分の全行動を学習した相手に、“自分ですら予測しない動き”を当てる。


それが、彼の“最高の勝ち筋”だった。


剣を握る指先に、感触が残っていた。

硬質な鱗の下、確かに手応えがあった。

あれが“効いた”という証拠だ。


「OK……届く。だったら、もう一度“届かせる”だけだ」


相手は記憶する。予測する。

あらゆる選択肢を読んでくる。


だが、読みようのない行動もある。


「……だったら、振り回してやろうじゃん。“俺”ってやつをさ」


突進。


核の首がすぐに反応する。

斜めから噛みつきにくる、予測済みのカウンター。


だが、今回は突っ込む“フリ”だった。


直前でブレーキ。

わざと足を滑らせて、後方転移。

あえて姿勢を崩した状態から、クラッチを地面に向けて放つ。


岩を掴み、逆回転で跳ね上がる。


「もらった!」


空中で〈疾翔〉発動。さらに加速して首の根元へ。

力任せの一撃ではなく、軌道を捻じ曲げた一閃。


ザシュッ!


鋭く滑った剣が、鱗の継ぎ目を割る。


核の首が、明確に仰け反った。


そして――咆哮。

断末魔ではない。

“反応不能”の証明だった。


「――やった、か……?」


霧の中、巨体がゆっくりと崩れ落ちていく。

その重みで地面が揺れ、落ちた鱗が岩を砕く音が響く。


数秒の静寂。


やがて、画面に表示が浮かぶ。


《討伐完了:擬似小八岐大蛇(核)》

《報酬:「偽八岐大蛇の核」取得》

《特殊魔式「偽八岐大蛇転位陣」解放条件:討伐 達成》


「っしゃあああ!!」


拳を突き上げる。心からの歓声。

レベルでも報酬でもない。

この瞬間が、“最高”だった。


戦いは、勝つためにあるんじゃない。

“面白がるためにある”。


それが、彼の信条だった。


数分後。


霧がわずかに晴れ、奥の岩壁に、微かに発光する模様が浮かび上がる。


岩に埋もれるようにして存在していた――巨大な門。


《識別コード:高難度領域・封鎖解除》

《条件:擬似小八岐大蛇 核の討伐》

《想定推奨レベル:Lv50以上》

《現在の解除者レベル:Lv17》


シュウユは呆れたように笑った。


「おいおい、Lv50以上推奨って……。

 このレベルが倒すできた俺がヤバいなのか、それとも運営の手違いか……」


岩が震える。封印がほどける音と共に、門がゆっくりと開き始める。


その先にあるのは――誰も足を踏み入れたことのない、完全未踏の“隠しエリア”。


「ま、いっか。俺は“勝てるからやった”わけじゃない。

 面白そうだったから、やっただけだしな」


霧の向こうから、新たな風が吹いた。

冷たく、鋭く、どこか誘うような風。


「さて、次はどんな“遊び”が待ってるかな」


笑いながら、彼はその扉の向こうへと足を踏み出した。



お読み頂き誠にありがとうございます。

シュウユ君は約束を忘れてしまっています。

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